CHANGE syndrome

ハイブリッジ万生

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見えない危機

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放送が切り替わったあとの研究室は騒然としていた、青年を何人ものガードマンが取り押さえていた。

その様子を放送のスタッフが遠巻きに見ていた。もちろん、放送はもう終わっているので、全国に流れてはいないが、録画のテープは念の為まわっていた。

青年は博士に言った。
「この後はどうするんですか?博士?いったん話し合いませんか?2人だけで」

他の者達からみたら、とても通りそうにない、要求におもえたが、青年は自信ありげに博士を見据えた。

博士はぎょっとした表情を浮かべたが回答は意外なものだった。

「そ、そうだな...一旦ふたりだけで話したい...ほかの者は出て行ってくれないか?」

今度は周りの全員がぎょっとした。

「え?いいんですか?」

1人のガードマンがたまりかねて聞いた。

青年はさらに付け加えた
「みんなを出て行かせるより、その部屋、百樹先生の書斎で話をさせてもらいたいですね、セキュリティが高そうなんで...。」

青年は研究所の一室を指さして要求した。

「そ、そうだな、それがいい...。」

博士はほとんど言いなりのような相槌をうった。

「ほ、ほら...その青年を離してあげなさい、私が責任を持つから。」

青年を取り押さえていたガードマン達は渋々といった感じで青年から離れたが、なにかあれば、またすぐに取り押さえられるくらいの距離を取っていた。

「少し話をするだけだ...ほら、もっと離れて。」
博士は言った。

「いや、もしかしたらいきなり逃げだすかもしれないから、その時は僕を取り押さえて下さい。」
青年が言った。

不思議なやりとりのあと、ふたりは百樹の書斎に消えて行った。

青年は書斎に入る前に一言付け加えた。

「そうだ、撮影のスタッフさん、念のために録画は消して置いてくださいね、セキュリティの為に...。」

撮影スタッフのリーダーはムッとして言った
「なんでお前の言う事を聞かなきゃいけないんだ?」

博士は言った
「とりあえず、そうしてやってくれ」

リーダーはヤレヤレというように、肩をすくめて口をへの字に曲げ軽く頷いた。

渋々だが了解のサインである。














「どういうつもりなんですか?」

部屋に入るなり博士は言った。

「どうもこうもない、君は現状を甘く見すぎている。」

青年は応えた。

「現状?」

「そう現状だ・・・もしも君の行動でこの事が全国的に認知されたらどうなると思うんだ?」

「この事って...知ってたんですか?」

「あぁ、知っていた...というよりある女の子に教えてもらった。」

「女の子?」

「あ、あぁ、いや今はそんな事は重要ではない。この事、つまり人と人とが入れ替われるなんてことが全国的に知れ渡ったらどうなると思うか聞いてるんだ。」

青年はまくし立てた。

「どうなるかって...どうなるんです?」

「世の中の信頼が全て失われる、その結果は歴史的な株の大暴落とパニックだ」

「はぁ?株?ですか?」

博士はきょとんとした顔で言った。

「おかしいかね?株だよ、いや、言い換えると経済、国、保安、すべての信用がなくなる、我が国のような資源のない国が信用を失うことは、それは、もう、滅びの道しか残されてないだろう。」

青年は言葉を継いだ

「君の気持ちもわかる...真実を知らしめたいんだろ?しかし...その安易な正義の代償は大きすぎるんだよ。」

博士はしばらく思案したあとに、やっと口を開いた。

「では、どうすれば?」

「まず最初にだな......お互いの体を元に戻さないか?このままじゃ君も嫌だろ?」

博士は頷くと青年のうなじのあたりに手刀を打ち込んだ。

「ぐっ」
戻った博士は言った
「君のチェンジの仕方は首に悪いね。」
戻った青年は言った

「え?他の方法もあるんですか?」

「ああ、私の知る限りチェンジの仕方は個人差が大きい、人によっては軽く触れるだけで変われる症例もある」

「症例?」

「あぁ、そうだ、一応表向きは病気という事にしているからな」

「病気ですか?」

「外因性意識変換症候群...まぁ、言いづらかったらチェンジシンドロームとでも...。」

「病気ではないですよね?」

「わかっている...あくまで表向きの学名だ、それっぽい名前ならなんでもいい、あと君の名前を聞いてなかったね。」

「如月です、一応ここの研究員生ですよ。」

「それで見覚えがあったのか...とにかく、こうなった以上君にも協力してもらいたい、事態の収拾に」

「......わかりました、僕が納得できる範囲で協力させてもらいます。」

「よろしく頼む。」

博士はひとまず安堵した。



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