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問診
しおりを挟む「だから......あの夜は友達と一緒に帰宅してる途中に紫色の空を見たことは見たわ」
「ふむ......それで?」
山村みすずは、個室に移動してガスマスクをつけた白衣の医師、、、らしき人から問診と称して色々聞かれていた。
しかし、問診というより、これは事情聴取に近いなと、みすずは思い始めていた。
「それで、その友人が......空がおかしいっていうから思わず見上げたんだけど...。てゆか、なんでその夜の天気の事をそんなに聞くんですか?」
「いや、一応.......全員に聞いてるんだよ。マニュアルがあってね、関係ないかもしれないけど一応ね...」
「はぁ...」
「それでその友人のお名前は?」
「友人は関係ないでしょ!」
みすずは怒った口調で言ったが...。
「い.......一応、念の為だよ。その友人も困ってるかも知れないだろ?」
そういわれると確かにそうかもしれない、あまりの事に気が動転してるかも、、、。
「だから、もしどこの誰かわかったら、助けたいんだよ」
「弥生です」
「やよいちゃん?」
「そうです」
「で、その弥生ちゃんと一緒にずっと空を見てたの?」
「いえ、しばらく見てたら急に帰るって言い出したんで、すぐに別れました」
「なるほど、そのあとは先ほど話した通りかな?」
「そうです、お母さんと、その.......入れ替わったんです」
「ふむふむ、それは.......どんなかんじ?夢の中とかと似てる感じかな?」
「いや、なんでそうなるの?さっきも言った通り本当なんだってば!」
なかば諦めが入っていたが、どうしても、みすずは言わずにいられなかった。
このわからず屋にも脳天にバチーンと食らわそうかしら?
みすずがそんな事を考えてると何やら外が騒がしくなってきているらしく、目の前の医師はしきりに外の様子を気にしてる様だった。
「ちょっと待っててね」
そういうと医師は外の様子を伺う為に部屋のドアを少し開けた
「だからそいつは犯人なんだって!」
だれかが大声で叫んでいた。
山崎了は通された大広間で叫んでいた。
結局あれから被害者の女性と被疑者の男性とを引連れて、警報の通りに最寄りの大病院に向かうことにしたのだ。
ところが、来てみると物々しい警備と同時に軟禁状態に置かれてしまっている現場をみて、思わず苦言を呈していた。
「ですから私は警官で!こちらの女性が被害者で!こちらの男性がまぁ、怪我はしてるんですけど、被疑者なんですよ!」
病院と言うこともあり、車椅子をつかわせて貰っている石川良二は肩をすくめて苦笑いしながら口を挟む。
「.......だそうです」
ガスマスクをした白衣の男が要領を得ないという顔をしながら
「はぁ、そういわれましても...どんな職業の方でも一律同じ扱いをするように言われてますので.......」
と山崎を宥めた。
「.......だそうですよお巡りさん」
石川が口を挟む。
「あなたは黙ってて!」
観月光の突然の大声に周りの人間は一瞬肩を揺らして目を丸くする。
石川は口をへの字にまげて肩をすくめた。
どうも山崎が考えていた事態とはかなり違っているようだ。
お手柄、、、いやいやそれどころか、これでは逆に犯人のような扱いだ。
「ところで...どんな罪状なんです?」
医師のひとりが尋ねた。
「え、えーと、それは...」
そうだ、罪状と言っても今までに起こったことのないケースだ、刑事告訴は無理だろう・・・
なんて言えばいいんだろう?
「それと、そちらの被疑者ですけど、銃創のような怪我をされてると手当てをした医師から聞いておりますが.......」
不味い・・・なんていおうか?
山崎は心情的に観月に同情的であったのでなんとか誤魔化せないだろうかと頭をめぐらせた。
「私がやりました」
「え?」
山崎の心配を他所にあっさりと観月が喋ってしまった。
「いや、あの.......正当防衛でしたよ」
思わず山崎は庇ってしまった。
確かに、過剰防衛というか、殺人未遂と言えなくもないが、なんというか、、、気持ちはわかるので彼女を犯人にしたくはなかった。
「いえ、その男に天誅をくわえようとして撃ちました」
またもや断言する観月。
頼むから黙っててくれー
山崎は心の中で叫んだが、無駄であった。
観月は続けた。
「その男のやった事が今の法律で裁けないから、代わりに私が裁いたのよ、なにか間違ってるかしら?」
「間違っちゃいないが.......ここでは無理みたいだぜ」
石川が言った。
「え?」
と山崎。
石川は続けた
「ここではどうやら、警官もホームレスも被疑者も被害者も関係ないらしいって話だよ」
「どういうことだ?」
「つまり、感染者と感染してない人、という線引きがあるだけで、感染者のなかに、どんな職業の人がいても関係ないって話、みんな患者という意味で平等に隔離されてるのさ」
隔離という言葉に周りの人々が騒然となった。
今まで漠然とした不安でしかなかったが、具体的な言葉にされてしまうと、途端にそれは現実味を帯びてくる。
「ほんとうか?隔離されてるのか?」
「ちょっと、まさか家に帰れないの?冗談じゃないわ」
皆が一斉に不満を口にし始める。
「待ってください...これは、みなさんの為なんです...みなさんの安全の為に...」
ガスマスクの一人が群衆の混乱を宥めようとする。
「なにが、安全の為だ!それが本当なら我々にもその、ガスマスクを配るはずじゃないか!」
いままで、だまって大人しくしていた、おばさんも不満と猜疑の目を周りのガスマスクをした連中に向けていた。
「そうよ!いつまでこのままで居なきゃだめなのよ!」
隣のおじさんも不満の声を...。
「あの人達.......」
まだ入れ替わっているんだ...。
様子を伺っていた山村みすずはそう確信した。
考えてみれば、そういう人が居てもおかしくないことに今更気がついた。
だんだんと集められた人々の不満の声は大きくなっていく。
隔離された集団はなにかのキッカケが原因で暴徒化しやすい...。
みすずは何かの本にそう書いてあったのを思い出した。
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