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青年の供述
しおりを挟む「ん...バカ?バカというのは、その...頭が悪いという意味のバカかね?」
博士が念を押すように青年に尋ねた
しまった言葉を間違えたか...。
如月青年は前に妹の事を友人に説明する際に、中児病とか、オタクという言葉を用いて説明しようとしたのだが...。
中児病という言葉を友人が知らなかったので、その言葉を生み出したラジオパーソナリティから説明しなくちゃならなくなった。
結果として相当、説明に骨が折れた事があるのだ。
そして、色々な手間を省くために、最も簡略化した表現が「バカ」なのである。
我ながら当たらずと言えども遠からずな表現だと自負してるのだが...さすがに博士のまえで、妹をバカと言い切るのは不味かったかもしれない。
博士は聞いた。
「ということは、妹さんが絡んでいるんだね?」
「ま、まぁそうです。」
「わたしが君に聞きたいのはそこでもあるんだよ。」
「え?」
「君がチェンジをどうやってできるようになったのか、教えてもらいたい」
「は、はぁ...どうしてといわれても」
「そういえば、下の名前を聞いてなかったね」
「優です、やさしいの優」
「では優君...できるだけ詳しく聴かせてくれないか」
「わ、わかりました」
優は咳払いして話し始めた...。
如月優は出来るだけ詳しくその夜の出来事を回想した。
なんだこれは...。
空一面には禍々しい紫の光が敷き詰められていた。
日課の天体観測をしようとベランダに出ていた優はあまりにも恐ろしい光景に釘付けになっていた...。
その呪縛を解いたのは妹の声である。
「なにしてるの?」
「え?なにって...。」
「あぁ空を見てるのねー、怖いよね...私も帰り道びびったよー」
「そ...そうか、お前でもビビる事があるんだな...。」
「なにそれ?か弱い妹にいうセリフかしら?」
「か弱かったのか?悪い...それは知らなかった」
「知らなかった?じゃあもっとすごい事教えてあげよっか?本当はねこの空...私の能力なんだ...。」
「能力?ってなんの?」
「自分でもよくわからないんだけど...ここは閉鎖空間なの!」
なんか、そんな設定のアニメを見た事あるな...。
「じゃあこの、不気味な空はお前の仕業なんだな?」
「うん!」
元気よく妹が答える
返事は良いんだが...。
「ふむ...そうか...なら早く消してくれないかな?みんな気味悪がってるはずだから。」
「いや、それはできないの...。」
「なぜ?」
「1度発動したら、自分の力でも制御不可のやつだから!」
「・・・そうなんだ...。」
「で、でも!兄貴はわたしが守ってあげる!この命に替えても!」
「・・・・・・それは、ありがたい...是非そうしてくれ。」
とりあえず、いつもの事なので、僕は適度なノリで妹の言葉に受け答えしていた。
「本当よ!信じてないの?」
「・・・信じてるさ、守ってくれるんだろ?」
そう言って僕は妹に背中をむけてまた空を見上げた。
その時妹は叫んだ
「スキあり!」
その瞬間、優の首筋に衝撃が走った。
妹が手刀を首に喰らわして来たにちがいない。
なんだか、好きなアニメの好きなキャラがよく手刀を使うらしくて、何度かされた事がある僕は即座に状況を把握した。
ただ、不測の事態が起こっていた。
「なにすんだよ!」
あれ?なんで、こんな甲高い声に?
「あ、あれれ...入れ替わった?」
妹が呑気な声で言った。
「う、うわあああ!」
「すごい!これは!アレじゃん!」
こころなしか声が弾んでる妹
「おい!大丈夫か!」
「うん!」
元気よく返事をする妹
だめだ!大丈夫じゃない!なんでよりによって妹なんだ!まずいことになった!
僕がしきりにパニックを起こしてると妹は悠然といった。
「いいじゃん別に、兄貴も嫌いじゃないでしょ?」
は?なにが?
いや、こいつは特別なんだ、普通の事を言っても通じる相手じゃない...なにか、元に戻りたくなる事を言わないと...。
「おい、このままだと、おまえの大好きな女の子のコスプレもできなくなるぞ」
「うん...でも!そのかわり、大好きな男の子キャラのコスプレを出来ちゃうわ!」
え?いまなんと?
僕の身体でコスプレするって言ったのか?
「おい......いい加減ふざけるなよ?」
僕はその時どんな顔をしていたのか自分ではわからないが...。
多分言う事を聞きたくなる顔だったんだとおもう。
「ま...まぁ、そんなに怒らないで...目が座ってるよー?冗談!冗談だから!」
「・・・そうか、冗談か...それならよかった。」
「そうそう、だから、怖い顔しないしなーい」
「じゃあこれから戻る方法を考えるんだな?」
「え?いますぐ?」
「あたりまえだろ!」
だいたいなんでコイツはこうも、平然としてられるんだ?
あれか?いっつもおかしげな妄想ばかりしてるから、ちょっとやそっとの事じゃ驚かないってか?イメージトレーニングの成果か?
そんなことを考えてると妹が言った
「本当の本当に...すぐじゃなきゃダメ?」
僕は爆発しそうになるのを抑えて言った。
「いい加減にしろ弥生」
「とまぁ、そんな感じでしたので、妹を説得するのは骨が折れたんですが...なんとか話をつけて元に戻る方法を考えたんです。」
如月優はフゥと溜め息をついて、百樹博士を見た。ちょうど信号が赤になって止まったからだ。
「それで?妹の弥生さんと色々模索しているうちに手刀で入れ替わる事に気がついたと...。」
「はい、そうです。」
「その後、妹さんは普通に学校に行ったのかね?」
「はい、でも、妹も例の放送を聞いたはずですので、病院に居るかもしれませんが...。」
それを聞いた博士はノートパソコンに何やら打ち込んでたが
「うーん、残念ながら、今届いてる患者のリストの中には如月弥生さんの名前はないようだが...。」と顔を上げて告げた。
「え?」
後ろからクラクションを鳴らされて、信号が青に変わってる事に気がついた優は車を発進させる。
「ほんとですか...弥生のやつ……どこほっつきあるいてんだ」
口調はあらいが妹を心配してるのが読み取れた。
「もし、向こうについて、それでも見当たらなかったら妹さんに連絡を取ってみよう」
「はい...…そうします」
青年は素直にそう答えた。
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