CHANGE syndrome

ハイブリッジ万生

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ニアミス

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話は10分ほど前に遡る

「百樹博士!こちらです!えーと、そちらの方は?」
やっと病院についた百樹と優はもういちどチェンジして元に戻ると、病院の受付の看護師に促されて、先を急いでいた。

もういちど戻る時も百樹がぎこちない手付きの手刀を繰り出したのだが、あっさりチェンジできたので、優は釈然としなかった。

天之雫とは、結局連絡が、取れなかったが、向こうが気づいてくれるのを祈るしかなかった。

「あ、彼は助手の如月君だ、気にしなくていい」
百樹は案内役の看護師に説明した。

そこに、前から背の高いガスマスクをした男が走ってきた。

「ちょっと君!」
百樹は呼び止めた。

「え?な...なんでしょう?」

「なんで、そんなものをしてるんだね?」

「いえ、これは...。」
声が小さいのとマスクが邪魔して何を言ってるのかわからない。

男が口ごもっていると、みかねた案内役の看護師の女性が代わりに説明した。

「奥の特殊病棟に集められている患者さんの危険度がSSクラスだと聞いてますので、それの措置として、当病院のマニュアルに即して全員装着しております。」

「そんなマニュアルがあったのか!」

百樹は初耳だった。

看護師は更に男に小言を言った。
「あなた、新人のインターンか知れないけど...こんなところまでそれをしてこなくていいのよ、途中の廊下で殺菌されてるんだから。」

「は...はい、すみません」

ガスマスクの男はマスクを外しながら謝った。

「あら、山里先生じゃないですか、ごめんなさいインターンだなんて。」

「いえ、いいんです、急いでるんでこれで...。」

男は頭をかきながら、いそいそと一般病棟の方に向かった。

「全員ってどの範囲ですか?患者も?」

優が看護師に聞いた。

「いえ、患者さん以外全員です。」

百樹は嫌な予感が当たった、という顔をして優をみると

「急ごう」

とだけ言った。

優はなにか違和感を感じて先程の背の高い男を目で追うと、男はエレベーターの前で何度もボタンを押していた。

優が自分を見てる事に気づくと、ボタンを押す手を止めて笑顔を作った。

「どうかしたのか?」

百樹が優に言った。

「・・・いえ、特には、すみません、急ぎましょう。」

と言ったが、背の高い男の笑顔が気になっていた。

(...ぎこちないよな。)

心の中でそう思った。






博士と優が特殊病棟に入るとなかは異様な雰囲気に包まれていた。

中央付近に集められた患者と、それを取り囲むようにガスマスクをした警護の男達と白衣の男女が取り囲んでいた。

2人の少年(と言っても高校生くらいだが)が、横たわっているところには女性の患者が心配そうに顔を覗いていた。

警護のリーダーと思われる男が百樹に気が付いて駆け寄ってきた。

「お疲れ様です、お待ちしておりました。自分はこちらの警護の指揮をとらせて頂いております特別警護班班長の海野一(うみのはじめ)であります。」

そう言うと海野は敬礼した。

「ご苦労さま。とりあえず全員ガスマスクを取ってくれ、それは必要ないし、この状況ではマイナスにしかならない。」

百樹は早速そう指示をだした。

「はっ、了解しました!」

「それと、そこの横になっている2人は麻酔で眠っているのかね?」

「すみません、自分の責任であります!」

海野は緊張すると語尾が軍隊口調になる癖があった。

「いや、それは良いんだが、手当をしてないようだね、至急手当をしてくれ、ここは病院だろ?」

今度は白衣の男がこたえた。

「すみません、混乱してしまって...すぐに処置します。」

そういうと、近くにいた、医師と看護師はガスマスクを取ると救護にあたった。

とりあえず、百樹の支持で緊迫した雰囲気が立ち込めていた病室内は緩和したようだった。

「あんたが責任者かい?ひどい待遇だね?」

車椅子に乗っている男が言った。

「いかにも、私が責任者です、ご不便をかけますが何分全て異例な事なので御容赦いただきたい、どれくらい異例な事かは...あなた方のほうがよくわかっていらっしゃるでしょう?」

百樹は全員を見回すと言った。

「とにかく、できる限りのことはしますが、協力もお願いします。」

百樹は頭を下げた。

「あの...いつ返して貰えるんでしょうか?」

近くにいた女性が聞いた。

「今のところ...検討中です、といいますか、今の状態で帰っても困るのではないですか?」

またざわめきが起こった。

「えーそれ以外のご要望は、できる限り聞きますので、こちらの助手の如月君に言ってください。」

如月青年はギョッとした顔になって百樹をみた。

博士はウィンクすると海野のところに向かった。

優は初めて博士が今まで顔を歪めてたのはウィンクなのかもしれないと気がついた。











百樹は海野から今までの経緯を聞いて、だんだんと表情を曇らせた。

「つまり、その一人目にタックルをされた職員の身元は確認できてない訳だね?」

百樹は重要なポイントを聞いた。

「そ、そのとおりであります!」

今度はここまで案内してくれた看護師の女性に聞いた。
「すみません、職員の方の出入りはどうやって確認してますか?」

「出入りですか?いえ、とくには...ほら、皆さん胸に身分証をつけてますので、それに、緊急の時など出入りをチェックしてたら間に合いませんわ。」

たしかに、言われてみればそうかもしれない、と百樹は思った。

「ではこの場で誰か居なくなった職員を探す手立てはありませんか?」

「そうですね、先ほどすれ違った先生みたいに、何か理由があれば、行き来は自由だとおもいますので...実際に誰か居なくなってもわかりませんわね。」

看護師は銀縁のメガネの端をクッとあげるとそう応えた。

「先ほど...あ、そうだ優くん!」

患者から色々な要求を承っていた優がやってきた。

「えーと、まず飲料水、珈琲、紅茶、あと女性は甘い物が欲しいとの事です、それと出来ればシャワールームなどが欲しいとの事で・・・」

「わかった、シャワールーム以外は早速手配しよう、それより先ほどこちらに来る途中ですれ違った男覚えてるかい?」

「え?ええ...。」

「なにか不審に思った様子だったけども。」

「えぇまぁ...でも大したことじゃないんですよ。」

「なんだね?なんでも良いから言ってみてくれ。」

「いや、笑顔がね...ぎこちないなって...。」

「笑顔が?」

「そう、それと...なにか焦っているみたいでしたねエレベーターのボタンを何回も押してまるで...。」

「まるで?」

「まるで子供みたいだな...て。」

「それだ!」

「え?どれです?」

百樹は脱走した犯人の目星が付いたが、どうすれば包囲できるか考えがまとまらなかった、下手をすれば事態は収拾がつかなくなる。

百樹はしばらく思案していたが、意を決すると看護師と警護班班長に言った。

「すみませんが、もうしばらくここを見張っていてもらえますか?私と助手で居なくなった職員を探します。」

「え?山里先生にお会いになりたいんでしたら、全館放送をおかけしましょうか?」

「いえ、結構!それだけはしないでください!」

そんなことをしたら、違う人間にチェンジして下さいと言っている様なものだ。










百樹はフゥーとため息をつくと、患者の方に向き直ってパンパンと2回柏手のように手を打って皆の注目を集めた。

「えー、皆さんがたの先ほどの要望は手配しました、ただシャワールームは少しだけ待って頂きたい、その代わりと言ってはなんですが...皆さんには超一流ホテルのスイートルームを御用意しています。」

そこかしこから「おぉ...」というどよめきが起きた

「更にご宿泊中の給与の保証、お務めになっていた会社への代わりの人員の派遣なども全て行いますので.......ここはひとつ、突然のバカンスだと思って、しばらくのんびりとして頂きたい」

そこまでいうと百樹はニッと笑った。

「そ、そういうことなら」

「まぁ、仕方ないか」

口々に不承不承であるが承諾する様な声が漏れ聞こえた。

「あ...あの!」

若い女の子が手をあげた。

「どうしたのかね?」

百樹は元気のよい女の子にたずねた。

「私は学生なんですけど、どう保証してくれるんですか?」

「そうだね、優秀な家庭教師をつけるよ」

「え?!やだ!やぶへび!」

ドッとまわりから笑い声が溢れた。

百樹も笑ったが真面目な顔にもどって言った。

「そういうわけで、私と助手はまた少し席を外しますが、安心してここで待っていてください」

百樹が優に目配せすると優は頷いた。

すると警察官の格好をした男が近寄ってきて百樹に質問した。

「あの...もしかして探しに行くんですか?」

「え?」

「いや、ですから、先ほど白衣の男と入れ替わった高校生を探しに行くんでしょ?」

「なんでわかるんだね?君は誰だね?」

「本官は山崎了巡査であります、いや、それより、もし探しに行くのでしたら連れていった方が良い人が居ますよ。」

「たしかに私たちは、その高校生を探しにいくつもりだが...むやみに人を増やして相手に警戒されたくもない...気持ちは有難いが、遠慮させてもらうよ。」

「いや、僕じゃなくて見える人が居るんですよ。」

「見えるって何が?」

「あの...入れ替わる瞬間が。」

「え?ほんとかね?」

「本当です...先ほどお話をしてた女の子と、その母親です。」

「それが本当だとしたら...是非協力してもらいたい。」

「でしょう?」

山崎は自分の事の様に胸をはった。












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