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本編 第二章 【王都編】
乙女の語らい
しおりを挟む昼下がり。
一番心地の良い時間に、青髪のメイドさんに連れられて庭へ出る。
普段着ているワンピースとは異なる、ネイビーのドレスは随分と動きにくくて重たい。貴族の女性たちはこんなものを毎日着ているんだな…と顔をげっそりさせた。
到着早々に風呂で更に疲弊させられたものの、ルミア様との夕食も終えて旅の疲れをゆっくりと癒すことが出来た1日目。
二日目となる今日は、朝食を済ませてからアラスターに徹底的におめかししてもらった。
クローゼットに入っていたこのドレスはびっくりするほどぴったりで、着替えの手伝いから髪のセットまで相変わらずアラスターが一人でこなしてしまったのだ。
約束していたルミア様とのお茶会。
けれどここにアラスターはいない。
ルミア様曰く「乙女の語らいに殿方が入るのは不粋」らしく、レオニス様にアラスターは呼ばれているから行くようにと言われてやむを得ずアラスターは出かけて行った。
すごく嫌そうな顔をしていたけど。
バラ園へ入ると、ガゼボがありその中にはテーブルと椅子が並べられ、ルミア様が座って待っていた。
こちらに気がつくとゆるゆると手を振ってくれる。
「ルミア様、お待たせしました」
「とんでもありませんわ。ドレスも髪もとてもお似合いですわ」
「ありがとうございます」
「シニョンだなんて、アビゲイルさんは器用ですわね。メイドが何もさせてもらえないと言っておりましたのよ」
「…あー、これはですね、その…彼が…」
「……まぁ」
自分でも簡単なセットは出来るけれど、彼ほど凝ったセットを綺麗にも器用にも出来なくて、恥ずかしくてもごもごと答える。
ルミア様は驚いた顔をしたものの、すぐに理解して微笑む。恐ろしいほど察しの良い人だ。
椅子へ座ろうと歩み寄ると、テーブルには色とりどりのスイーツがたくさん並べられていて、どれもこれもとんでもなく美味しそう。
私が目を輝かせてるのを見て、ルミア様はくすりと笑った。
「愛されておりますのね」
「あ、ありがたいことに…」
「あら、自信をお持ちになって。久々にお会いしましたけれど…二人とも随分とお変わりになりましたのね」
「そうですかねぇ?」
二人で椅子に腰を下ろして、お茶やお菓子を嗜みながら会話する。
私たち二人の変化を口にするルミア様は、綺麗なルビーの瞳をこちらに向けて告げる。
そんなに変わったんだろうか?自分のことは自分でよく分からない。でも確かにアラスターに関して言えば変わったと私も思う。
以前は完璧超人で、冷静で、紳士然としてて時にものすごく脆いという印象を受けていたけれど…今は、なんというか安定している。んん…うまく言語化できないな。
「以前はアビゲイルさん以外には全く興味がないようでしたけれど、今は少し違いますわね」
「うーん、なんで言えば良いんですかね?」
「貴女を通して世界を見ていますわ。もっと端的に言えば、より“人らしく”なった…かしら?」
「なるほど…」
確かに。私が彼と恋仲になる前に感じていた、完璧超人がゆえに親近感のなさが最近はめっきり感じなくなった。S級冒険者として飛び抜けて優秀である…というところを差し引けばだけれど。
けど、彼がこれまでの過程でさまざまなものに興味や関心を持って持たずに過ごして来たんだろうなというのは薄々理解していた。
王都に来る道中に、私がどう感じるのかというのをやたらと聞いてきていたのは、知ろうとしている証拠だったんだろう。
「ふふ、アビゲイルさんもとっても綺麗になりましたものね」
「私はいつも通りですよ?」
「あら、自覚がなくて?女性は愛情を注がれて美しくなるものでしてよ?」
「うう…」
「一目見て、お二人が愛し合っているのがよく分かりましたわ」
「う~、恥ずかしい…」
ニコニコと語るルミア様の笑顔がいたたまれなくて、両手で顔を覆う。
相変わらずくすくすと笑う声が聞こえてくるが、不思議と嫌ではなかった。
周囲の人から私たちのことを聞かれたり言われたりするのは、今だに慣れないけれど。
カチャリとティーカップを置く音がして、顔を隠すのをやめて私もお茶を楽しもうとティーカップに手を伸ばすと視界にマカロンがうつる。
視線を上げるとルミア様がマカロンを指先で掴んで、私に差し出していた。
「はい、アビゲイルさん。あーんですわ」
「あ、え、えっ!?」
「あら、今はわたくしが貴女をひとりじめして良い時間でしてよ?彼がいたら出来ませんわ」
「あわ、で、でも…」
「わたくし、こういうことをお友達としてみたかったんですの」
そうして満面の笑みで告げるルミア様。
そういえば視察に来た時も、サンドイッチを照れながら一口食べていたっけ。
思い出すとまだほんの少し前の出来事なのに、随分昔のようにも感じて思わず笑みが溢れる。
少々控えめに身を乗り出して、マカロンにかぶりつく。私の唇にルミア様の指先が僅かに触れて羞恥心に駆られるものの、口の中に広がる甘酸っぱさに舌鼓を打つ。
はちゃめちゃに美味しい、ラズベリーの味かな。
「ん…おいひいです」
「ふふふ、良かったですわ。…貴女は本当に誰かを幸せにするお顔をしていますわね」
「?」
ひとくちでマカロンを頬張ったせいでもごもごと口を動かしつつ、頬杖をつき微笑みながらこちらを見るルミア様の言葉に首を傾げる。
でもなぜか、ルミア様のその表情が…アラスターがこちらを見て優しく微笑んでいるのと同じように見えた。おかしな話だ、二人は全然似てないのに。
「あの、ところで…アラスター様はレオニス様のところへ行ったんですよね?…大丈夫ですかね?」
「国王陛下への謁見とその他細々としたことだけですから、問題ないと思いますわよ?」
「なら良かっ……謁見!?」
ふと不安に思っていた事を聞いてみたら、とんでもない答えが返って来て思わず咳き込む。
私が危惧していたレオニス様との不仲という問題点よりももっと重要なものが飛び出して来た。王様への謁見て…つまりレオニス様のお父さんだし、いやもしかして手合わせで重傷を負わせたのを叱られたりとかするんだろうか。
そう考えたら急に血の気が引いていくのが分かる。あわわ…どうしよう。
「勇者様の知人として紹介しているだけですわ。あるとすれば、この王都のS級冒険者にならないかと打診されるくらいですわね」
「それはまたすごいですね…」
「王都にいるどのS級冒険者よりも強いレオニス様を負かしたのですから、当然と言えば当然ですわ」
手合わせの勝敗は王都にも広がっているようだ。王様の耳に入れば、スカウトが来ることくらいルミア様がいう通り当然か。
王命にも近い要求だ。彼も断れないかもしれない。そうなれば、彼はこのまま王都に残るのだろうか?
私はあの街に帰る?だって、たくさんお世話になった人たちがいるし、私の帰る場所だ。
そうしたら、私たちは二人ではいられなくなる?
でも王様に認めてもらうなんて名誉はそう得られるものじゃない。なら彼にとっては良いチャンスなのではないだろうか。
でも彼が受けるとも思えなかった。彼は討伐遠征で私から離れるのすら嫌がっていたし。
あれ、私、彼にどうして欲しいんだろう?
「……」
「…アビゲイルさん?」
「あ、すみません。少し考え事をしてました」
ルミア様に呼びかけられ、思考を中断させる。
ふと私の心の中で芽生え始めた何かに蓋をするように、笑って見せるとルミア様は少し困ったような顔をした。
「…選ぶということは、責任を持つということですわよね」
「…?ルミア様、なんて?」
「いえ、なんでもありませんわ」
小さく呟かれた言葉がどういう意味かわからずに聞き返すが、首を横に振っていつも通り優しく微笑む彼女に首を傾げる。
そこに先ほど私を案内してくれた青髪のメイドさんが歩み寄り、顔を伏せたまま一礼する。
「ルミア様、仕立て屋が到着しました」
「思ったよりも早い到着ですわね」
「仕立て屋さん…ですか?」
「ええ、五日後にレオニス様主催の仮面舞踏会がありますのよ」
「忙しいんですね、なら私は部屋に戻りますね」
「なにを仰ってますの、アビゲイルさん」
「…はい?」
席を立ち、部屋へ戻ろうとするとがしりと手を掴まれる。
手を掴んだルミア様を見るとそれはそれは満面の笑みでこちらを見ている。
「貴女も参加するんですのよ?仕立て屋はアビゲイルさんのドレスを仕立てにお呼びしたんですもの」
「………はいぃ!?」
そう告げるとルミア様は私の手を引いて、足早に屋敷へと歩いていく。
仮面舞踏会!?私が!?いや色々聞きたいことがありすぎて追いつかないし、なんなら歩く速度すら追いつかない。
誰か助けて欲しい!!
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