太陽を愛した狼

カナメ

文字の大きさ
42 / 77
本編 第二章 【王都編】

乙女の語らい

しおりを挟む



 昼下がり。
 一番心地の良い時間に、青髪のメイドさんに連れられて庭へ出る。
 普段着ているワンピースとは異なる、ネイビーのドレスは随分と動きにくくて重たい。貴族の女性たちはこんなものを毎日着ているんだな…と顔をげっそりさせた。

 到着早々に風呂で更に疲弊させられたものの、ルミア様との夕食も終えて旅の疲れをゆっくりと癒すことが出来た1日目。
 二日目となる今日は、朝食を済ませてからアラスターに徹底的におめかししてもらった。
 クローゼットに入っていたこのドレスはびっくりするほどぴったりで、着替えの手伝いから髪のセットまで相変わらずアラスターが一人でこなしてしまったのだ。

 約束していたルミア様とのお茶会。
 けれどここにアラスターはいない。
 ルミア様曰く「乙女の語らいに殿方が入るのは不粋」らしく、レオニス様にアラスターは呼ばれているから行くようにと言われてやむを得ずアラスターは出かけて行った。
 すごく嫌そうな顔をしていたけど。


 バラ園へ入ると、ガゼボがありその中にはテーブルと椅子が並べられ、ルミア様が座って待っていた。
 こちらに気がつくとゆるゆると手を振ってくれる。


「ルミア様、お待たせしました」
「とんでもありませんわ。ドレスも髪もとてもお似合いですわ」
「ありがとうございます」
「シニョンだなんて、アビゲイルさんは器用ですわね。メイドが何もさせてもらえないと言っておりましたのよ」
「…あー、これはですね、その…彼が…」
「……まぁ」


 自分でも簡単なセットは出来るけれど、彼ほど凝ったセットを綺麗にも器用にも出来なくて、恥ずかしくてもごもごと答える。
 ルミア様は驚いた顔をしたものの、すぐに理解して微笑む。恐ろしいほど察しの良い人だ。

 椅子へ座ろうと歩み寄ると、テーブルには色とりどりのスイーツがたくさん並べられていて、どれもこれもとんでもなく美味しそう。
 私が目を輝かせてるのを見て、ルミア様はくすりと笑った。


「愛されておりますのね」
「あ、ありがたいことに…」
「あら、自信をお持ちになって。久々にお会いしましたけれど…二人とも随分とお変わりになりましたのね」
「そうですかねぇ?」


 二人で椅子に腰を下ろして、お茶やお菓子を嗜みながら会話する。
 私たち二人の変化を口にするルミア様は、綺麗なルビーの瞳をこちらに向けて告げる。
 そんなに変わったんだろうか?自分のことは自分でよく分からない。でも確かにアラスターに関して言えば変わったと私も思う。
 以前は完璧超人で、冷静で、紳士然としてて時にものすごく脆いという印象を受けていたけれど…今は、なんというか安定している。んん…うまく言語化できないな。


「以前はアビゲイルさん以外には全く興味がないようでしたけれど、今は少し違いますわね」
「うーん、なんで言えば良いんですかね?」
「貴女を通して世界を見ていますわ。もっと端的に言えば、より“人らしく”なった…かしら?」
「なるほど…」


 確かに。私が彼と恋仲になる前に感じていた、完璧超人がゆえに親近感のなさが最近はめっきり感じなくなった。S級冒険者として飛び抜けて優秀である…というところを差し引けばだけれど。
 けど、彼がこれまでの過程でさまざまなものに興味や関心を持って持たずに過ごして来たんだろうなというのは薄々理解していた。
 王都に来る道中に、私がどう感じるのかというのをやたらと聞いてきていたのは、知ろうとしている証拠だったんだろう。


「ふふ、アビゲイルさんもとっても綺麗になりましたものね」
「私はいつも通りですよ?」
「あら、自覚がなくて?女性は愛情を注がれて美しくなるものでしてよ?」
「うう…」
「一目見て、お二人が愛し合っているのがよく分かりましたわ」
「う~、恥ずかしい…」


 ニコニコと語るルミア様の笑顔がいたたまれなくて、両手で顔を覆う。
 相変わらずくすくすと笑う声が聞こえてくるが、不思議と嫌ではなかった。
 周囲の人から私たちのことを聞かれたり言われたりするのは、今だに慣れないけれど。

 カチャリとティーカップを置く音がして、顔を隠すのをやめて私もお茶を楽しもうとティーカップに手を伸ばすと視界にマカロンがうつる。
 視線を上げるとルミア様がマカロンを指先で掴んで、私に差し出していた。


「はい、アビゲイルさん。あーんですわ」
「あ、え、えっ!?」
「あら、今はわたくしが貴女をひとりじめして良い時間でしてよ?彼がいたら出来ませんわ」
「あわ、で、でも…」
「わたくし、こういうことをお友達としてみたかったんですの」


 そうして満面の笑みで告げるルミア様。
 そういえば視察に来た時も、サンドイッチを照れながら一口食べていたっけ。
 思い出すとまだほんの少し前の出来事なのに、随分昔のようにも感じて思わず笑みが溢れる。

 少々控えめに身を乗り出して、マカロンにかぶりつく。私の唇にルミア様の指先が僅かに触れて羞恥心に駆られるものの、口の中に広がる甘酸っぱさに舌鼓を打つ。
 はちゃめちゃに美味しい、ラズベリーの味かな。


「ん…おいひいです」
「ふふふ、良かったですわ。…貴女は本当に誰かを幸せにするお顔をしていますわね」
「?」


 ひとくちでマカロンを頬張ったせいでもごもごと口を動かしつつ、頬杖をつき微笑みながらこちらを見るルミア様の言葉に首を傾げる。
 でもなぜか、ルミア様のその表情が…アラスターがこちらを見て優しく微笑んでいるのと同じように見えた。おかしな話だ、二人は全然似てないのに。


「あの、ところで…アラスター様はレオニス様のところへ行ったんですよね?…大丈夫ですかね?」
「国王陛下への謁見とその他細々としたことだけですから、問題ないと思いますわよ?」
「なら良かっ……謁見!?」


 ふと不安に思っていた事を聞いてみたら、とんでもない答えが返って来て思わず咳き込む。
 私が危惧していたレオニス様との不仲という問題点よりももっと重要なものが飛び出して来た。王様への謁見て…つまりレオニス様のお父さんだし、いやもしかして手合わせで重傷を負わせたのを叱られたりとかするんだろうか。
 そう考えたら急に血の気が引いていくのが分かる。あわわ…どうしよう。


「勇者様の知人として紹介しているだけですわ。あるとすれば、この王都のS級冒険者にならないかと打診されるくらいですわね」
「それはまたすごいですね…」
「王都にいるどのS級冒険者よりも強いレオニス様を負かしたのですから、当然と言えば当然ですわ」


 手合わせの勝敗は王都にも広がっているようだ。王様の耳に入れば、スカウトが来ることくらいルミア様がいう通り当然か。

 王命にも近い要求だ。彼も断れないかもしれない。そうなれば、彼はこのまま王都に残るのだろうか?
 私はあの街に帰る?だって、たくさんお世話になった人たちがいるし、私の帰る場所だ。
 そうしたら、私たちは二人ではいられなくなる?
 でも王様に認めてもらうなんて名誉はそう得られるものじゃない。なら彼にとっては良いチャンスなのではないだろうか。
 でも彼が受けるとも思えなかった。彼は討伐遠征で私から離れるのすら嫌がっていたし。

 あれ、私、彼にどうして欲しいんだろう?


「……」
「…アビゲイルさん?」
「あ、すみません。少し考え事をしてました」


 ルミア様に呼びかけられ、思考を中断させる。
 ふと私の心の中で芽生え始めた何かに蓋をするように、笑って見せるとルミア様は少し困ったような顔をした。


「…選ぶということは、責任を持つということですわよね」
「…?ルミア様、なんて?」
「いえ、なんでもありませんわ」


 小さく呟かれた言葉がどういう意味かわからずに聞き返すが、首を横に振っていつも通り優しく微笑む彼女に首を傾げる。
 そこに先ほど私を案内してくれた青髪のメイドさんが歩み寄り、顔を伏せたまま一礼する。


「ルミア様、仕立て屋が到着しました」
「思ったよりも早い到着ですわね」
「仕立て屋さん…ですか?」
「ええ、五日後にレオニス様主催の仮面舞踏会がありますのよ」
「忙しいんですね、なら私は部屋に戻りますね」
「なにを仰ってますの、アビゲイルさん」
「…はい?」


 席を立ち、部屋へ戻ろうとするとがしりと手を掴まれる。
 手を掴んだルミア様を見るとそれはそれは満面の笑みでこちらを見ている。


「貴女も参加するんですのよ?仕立て屋はアビゲイルさんのドレスを仕立てにお呼びしたんですもの」
「………はいぃ!?」


 そう告げるとルミア様は私の手を引いて、足早に屋敷へと歩いていく。
 仮面舞踏会!?私が!?いや色々聞きたいことがありすぎて追いつかないし、なんなら歩く速度すら追いつかない。


 誰か助けて欲しい!!



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

世界を救う予定の勇者様がモブの私に執着してくる

菱田もな
恋愛
小さな村の小さな道具屋で働くイリア。モブの村娘として、平凡な毎日を送っていたけれど、ある日突然世界を救う予定の勇者様が絡んできて…?

転生したら4人のヤンデレ彼氏に溺愛される日々が待っていた。

aika
恋愛
主人公まゆは冴えないOL。 ある日ちょっとした事故で命を落とし転生したら・・・ 4人のイケメン俳優たちと同棲するという神展開が待っていた。 それぞれタイプの違うイケメンたちに囲まれながら、 生活することになったまゆだが、彼らはまゆを溺愛するあまり どんどんヤンデレ男になっていき・・・・ ヤンデレ、溺愛、執着、取り合い・・・♡ 何でもありのドタバタ恋愛逆ハーレムコメディです。

レンタル彼氏がヤンデレだった件について

名乃坂
恋愛
ネガティブ喪女な女の子がレンタル彼氏をレンタルしたら、相手がヤンデレ男子だったというヤンデレSSです。

気付いたら最悪の方向に転がり落ちていた。

下菊みこと
恋愛
失敗したお話。ヤンデレ。 私の好きな人には好きな人がいる。それでもよかったけれど、結婚すると聞いてこれで全部終わりだと思っていた。けれど相変わらず彼は私を呼び出す。そして、結婚式について相談してくる。一体どうして? 小説家になろう様でも投稿しています。

男嫌いな王女と、帰ってきた筆頭魔術師様の『執着的指導』 ~魔道具は大人の玩具じゃありません~

花虎
恋愛
魔術大国カリューノスの現国王の末っ子である第一王女エレノアは、その見た目から妖精姫と呼ばれ、可愛がられていた。  だが、10歳の頃男の家庭教師に誘拐されかけたことをきっかけに大人の男嫌いとなってしまう。そんなエレノアの遊び相手として送り込まれた美少女がいた。……けれどその正体は、兄王子の親友だった。  エレノアは彼を気に入り、嫌がるのもかまわずいたずらまがいにちょっかいをかけていた。けれど、いつの間にか彼はエレノアの前から去り、エレノアも誘拐の恐ろしい記憶を封印すると共に少年を忘れていく。  そんなエレノアの前に、可愛がっていた男の子が八年越しに大人になって再び現れた。 「やっと、あなたに復讐できる」 歪んだ復讐心と執着で魔道具を使ってエレノアに快楽責めを仕掛けてくる美形の宮廷魔術師リアン。  彼の真意は一体どこにあるのか……わからないままエレノアは彼に惹かれていく。 過去の出来事で男嫌いとなり引きこもりになってしまった王女(18)×王女に執着するヤンデレ天才宮廷魔術師(21)のラブコメです。 ※ムーンライトノベルにも掲載しております。

つかまえた 〜ヤンデレからは逃げられない〜

りん
恋愛
狩谷和兎には、三年前に別れた恋人がいる。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

一途に愛した1周目は殺されて終わったので、2周目は王子様を嫌いたいのに、なぜか婚約者がヤンデレ化して離してくれません!

夢咲 アメ
恋愛
「君の愛が煩わしいんだ」 婚約者である王太子の冷たい言葉に、私の心は砕け散った。 それから間もなく、私は謎の襲撃者に命を奪われ死んだ――はずだった。 死の間際に見えたのは、絶望に顔を歪ませ、私の名を叫びながら駆け寄る彼の姿。 ​……けれど、次に目を覚ました時、私は18歳の自分に戻っていた。 ​「今世こそ、彼を愛するのを辞めよう」 そう決意して距離を置く私。しかし、1周目であれほど冷酷だった彼は、なぜか焦ったように私を追いかけ、甘い言葉で縛り付けようとしてきて……? ​「どこへ行くつもり? 君が愛してくれるまで、僕は君を離さないよ」 ​不器用すぎて愛を間違えたヤンデレ王子×今世こそ静かに暮らしたい令嬢。 死から始まる、執着愛の二周目が幕を開ける!

処理中です...