太陽を愛した狼

カナメ

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エピローグ

『一匹狼と紅き伴侶のうた』

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 ⸻

【一】

 聞けよ旅人、焔揺らめく夕べの席で
 古き昔の物語
 人の世では語り尽くせぬ
 ひとりの狼の恋を。

 荒野に立ちて剣を抱き
 名よりも孤独を友とした
 その背に寄り添う影はなく
 男はただ夜を歩いた。

 人は彼を「一匹狼」と呼び
 寄るべき家を持たぬと嘲り
 だが彼は吠えず、背を向ける
 沈黙こそが彼の鎧だった。

 ⸻

【二】

 ある日、森風に揺れる
 紅の髪の少女に出会う。
 その瞳は朝焼けのように澄み
 言葉少なき空を映す。

 狼は戸惑い、少女は笑う。
 沈黙さえも怖れずに
 ただそこに座る少女の気配が
 荒野を春へと変えてゆく。

 赤き名は焔のよう
 孤独の闇に灯る焚火
 その温もりに狼は指先を伸ばした。

 ⸻

【三】

 ああ旅人よ、知らぬだろうか?
 狼という獣の習いを。
 彼らは生涯にひとりだけ
 伴侶を選び、生を捧ぐ。

 男はそれを知っていた。
 だからこそ息を潜めた。
 触れれば終わる、名付けば消える
 沈黙が二人を守っていた。

 だが少女はそっと手を差し出す。
 震えも恐れもなくただ
 「あなたの沈黙は、私の沈黙だ」と
 告げぬままに寄り添った。

 ⸻

【四】

 季節は巡り、二人は歩む。
 街に立つときも、荒野を渡るときも
 言葉より確かな絆を
 沈黙のあいだに織りあげて。

 狼の胸は穏やかに満ち
 少女の影は男の道を照らす。
 旅人よ、知るか?
 沈黙はときとして歌より強い。

 ⸻

【五】

 だが炎も、永遠には燃えぬ。
 季節は巡り
 赤き髪は白を含み
 歩みはゆるやかになった。

 ある夕べ
 彼女の息は、静かに旅を終える。
 花が散るように
 音もなく。

 狼は吠えず
 剣を壁に預け
 かつて赤き髪を撫で
 ただ一度だけ名を呼んだ。

 ⸻

【六】

 夜は深く、静かだった。
 狼はその手を包み
 隣に身を横たえる。

 怒りも、悔いもなく
 ただ寄り添い眠る。
 番を失った狼が
 森に伏すように。

 そして、ある朝
 朝日の中で
 二人は寄り添う恋人のように
 同じ夢の中にいた。

 ⸻

【七】

 聞けよ旅人。
 愛とは叫びではなく
 沈黙の中で選び続けること。

 誓いは言葉ではなく
 共に歩む決断で
 別れは悲嘆ではなく
 生き切った末の静けさ。

 狼は独りにあらず。
 炎は孤独に消えず。
 二つの影は、ひとつの歌となった。

 だから歌え、後の世までも。
 『一匹狼』と呼ばれた男が
 ただひとりを選び
 その終わりまで
 共に歩いたことを。

 ⸻





 この歌は、
 王都の酒場でも、街道沿いの宿でも、
 形を変えながら歌われ続けている。

 いつしか吟遊詩人たちは知った。
 この歌だけは、途切れさせてはならないと。

 理由を問われれば、誰も答えは持たない。
 ただ一人、その歌を最初に手渡した女性だけが、
 微笑んでこう言ったという。


 「それでよろしいのですわ」


 その歌は、今日もどこかで歌われている。
 誰のためでもなく、
 ただ、そうあれかしと願うように。






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