太陽を愛した狼

カナメ

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本編 第二章 【王都編】

黄金と黒の歌

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 ドシン、と巨体が地に伏す振動が響く。
 その巨体が立ち上がっていた時は、人の大きさを軽く超え、周囲に生える木々をも凌ぐ大きさだった……はずだ。

 ブンと長剣についた血を払い、鞘に収める黒い男の姿に、連れて来た騎士団の者たちは驚きのあまり微動だに出来ないでいた。


 ーーーーーー


「時間を持て余しているなら、手伝って欲しい事があるんだ」
「………」


 自分の私室へアラスターを呼びつけたレオニスは、にっこりと満面の笑みを浮かべて告げた。
 相変わらず不愉快そうに顔を顰め、沈黙するアラスターは小さくため息を漏らした。


「その、手伝って欲しいこととは何かな?」
「……」
「…ないなら、失礼するよ?」
「ああ、すまない」


 心底めんどくさそうな顔をしてはいるものの、一応話を聞こうとする彼にレオニスは目を見開いた。
 まさか、こんなにすんなりと聞いてくれるとは思ってもみなかったからだ。

 一度衰弱状態に陥っていた彼の寛解の知らせを、ルミアから聞いて呼びつけたのは確かだが。
 まさかここまで“変わった”とは思わずに、ついレオニスの思考が止まってしまった。

 いつも通り、自分に対しては辛辣だ。彼の心は以前と変わらずアビゲイルただひとつだろう。
 けれど、彼のその様相には微塵の焦りも憤りも不安もなく、ただ静かだった。
 いや僕に会った事で若干不機嫌ではあるが。

 驚いたのも束の間に、気を取り直す。


「実は、王都の付近に大型の魔物が出たと報告があってね。今すぐに討伐に行きたいんだ」
「…他の冒険者は出払っているのかな」


 アラスターは察しが良い。
 僕が動かなくてはいけない、と言うことは今はこの国の冒険者たちがそれぞれに依頼に出てしまっているのを正確に読み解く。


「その通りだよ。すぐに動けるのが僕と君と騎士団数名しかいない」
「魔物の情報は?」
「熊型らしいが、相当にデカいらしい」
「…なるほど。ずいぶん肥えたね」
「僕たち二人でも苦戦を強いられるかもしれない大きさだ。王都からは近いが、舞踏会に間に合うかどうか」
「……」


 ふーん。とでも言いたそうに、アラスターは自分の装備の状態を確認しながら、踵を返して扉へ歩き出す。
 やはり受けてはもらえないか。と肩を落とすと、彼は歩みを止めてこちらへ振り向く。


「……行かないのかい?」
「あ……ああ、すぐに行こう」
「剣を貸してくれないかな?」
「だからなぜ君は武器を持っていないんだ…」



 ーーーーーー



 規格外に大型の魔物だから、討伐に時間を要するだろうと…短く限られた時間で最大限の準備をして、我々はこの場に来たはずだったのだ。


「…終わったけれど」
「……」
「素材などを考慮して、首を落とすだけにしたんだけれど……心臓をひと突きの方が良かったかな?」
「い、いや、討伐出来るなら手段は問わないよ」


 はい、と団員に借りた剣を返してそう首を傾げるアラスターに、騎士団たちが我に返り始める。
 瞬間的に呆然としていたレオニスが、なるべく平静を装って答える。

 魔物に対峙してから、騎士団の者たちは皆アラスターの動きを追えなかった。
 そしてそれは、対峙した魔物とてそうであっただろう。

 アラスターと共に並んで馬で駆けた先、大きな巨体を視認して「あれだ」とレオニスが告げた瞬間。
 馬から飛び出し、魔物の首を一閃したのだ。


「規格外すぎる」
「あれが『一匹狼』か」
「あの巨体をたった一閃で」
「しかも剣だって、俺たちが使ってる長剣だぞ」


 ざわめく団員たちにレオニスは耳を傾ける。
 アラスターの規格外っぷりを見て、騎士団の者たちはどう彼を見るのかが気になっていた。
 手合わせの時とはまた異なる規格外に、レオニスも鳥肌がたっているくらいだ。
 団員たちも恐怖するのではないか……


「すっっっげえええ!!!」
「なんすか!?なんすかあの一閃!!」
「何かスキルか魔法を使ったんすか!?」


 一気に爆発したように興奮し出した団員たちが、身に纏った鎧をガシャガシャと音を立てながらアラスターを取り囲む。
 興奮状態の団員たちに、アラスターが若干身を引いてる。


「俺はスキルだと思うぜ!レオニス様の『光刃』みたいなやつだ!」
「魔法じゃないんですか!?風魔法系の!」
「……いや、何も…使ってないけれど…」

「「「何も使ってない!!?」」」

「てことは純粋に筋力ってことっすか!?」
「いやいや普通の長剣で!?やばすぎるだろ!」
「ああ、その剣…多分ダメにしたよ。請求はレオニスに頼むよ」
「君、さらりと僕になすりつけないでくれるかな?」

「うわ!レオニス様見てください!刃がボロッボロです!!」


 やいのやいのと騒ぎ立てる団員たちと、あくまでも静かなアラスターの様子にレオニスは笑いが込み上げた。

 先ほどまで不安に思っていたのが馬鹿馬鹿しく思えて仕方がない。

 きっと今までのアラスターなら、そのあまりにも人外的な強さに団員たちに恐れられていただろう。
 けれど今のアラスターは、違う。
 相変わらず化け物じみた規格外の強さではあるが、この男がちゃんと“人”であるのを団員たちは肌で感じたのだろう。

 確かにこの騎士団は、頭の中まで筋肉で出来た奴しか居ないが皆気の良い者たちばかりだ。
 彼らに受け入れてもらっているなら、おそらくアラスターはもう大丈夫なんだろう。


 ふと彼を見る。
 今だにやかましい団員たちに適度に反応を返しながら、その視線は傾き始めた太陽を見ている。

 その目は、優しく穏やかで、そして静かだ。

 彼女を想っているのが見て取れて、レオニスは軽く笑い…次の指示を出す為に、歩き出した。


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