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本編 第二章 【王都編】
秘密の街歩き
しおりを挟むイリスさんのマッサージのおかげか、すっかりと筋肉痛が引いた翌日の朝。
久々にルミア様とアラスターの3人で朝食を摂ることになった。
広々としたダイニングルーム。何十人も座れそうな大きなテーブルに3人で隅に集まって食事をするのは、なんだかものすごい贅沢な気分になる。
私とルミア様の前に置かれた食事は同じで、焼きたてのパンとサラダとヨーグルト。盛られている量は私の方が少ない。
…がアラスターの食事がすごい。
野菜もあるけれど、とにかく朝食とは思えないほどお肉が多い。脂の乗っていないものが多いから体づくりの一貫なんだろう。
私よりも朝早く起きていた彼は、どこかへ出掛けていたようだけれど数時間後には部屋に帰ってた。起きて出迎えると汗がすごいからとすぐに湯浴みをしに行ったのを思い出す。
多分鍛錬していたんだろう。ここのところ色々あって出来ていなかったから、念入りに励んでいたのかもしれないな。
「お二人は今日はこれから王都を観光するのですよね?」
「はい、せっかくなので楽しみたいなと思ってて」
「ならひとつだけよろしいかしら?」
「?」
食事の手を止めてそう告げるルミア様の視線の先はアラスター。
ぴくりと反応しルミア様の視線から顔を逸らすように食事を続ける彼の対応に、にっこりと微笑んでいる。
「アラスターさん、貴方変装をしたほうがよろしくてよ」
「………」
「あー、確かに王都に来た時も目立ってましたもんね」
王都へ来た時はアピールの為とはいえ、遣いのカラスを幌馬車の屋根に居させていたが…それだけで『黒』というのは目立つ。
住んでいる街ではすっかりアラスターという存在が定着しているし、私も前世は日本人で黒髪だったからそれほど違和感を覚えてはいなかった。それでもこの世界にとって『黒』はやはり、不吉の象徴というイメージが拭えない。
当の本人といえば黒に対する偏見を微塵も気にしていなさそうだけれど、王都に来る時にした「カラスは縁起が良い」なんて話をした時に嬉しそうだったから。やはり、ちょっと気にしてたりするんだろうか。
朝食を平らげて口元を布巾で拭い、改めてまじまじとアラスターを見る。
艶やかな黒い髪。金色の瞳。
白い肌に、右の目尻にあるほくろ。
長いまつ毛、少し垂れ目。
控えめに言っても美形だ。
上背もある。正確に測定したことはないけれど、180cmくらいはありそうだ。
細身に見えるけれど筋肉もしっかりついている。
うーん…黒髪ということを除いても、目立つ要素しかない。目立つなという方が無理だ。
心底嫌そうな顔でルミア様を一瞥した彼が、黙々と食事を続けている。
否定しないから変装の必要性に関しては理解しているんだろうな。
「まずは髪色を魔法で変えてくださいまし。服もいつもの黒い服ではダメですわよ?」
「……分かったよ」
渋々といった様子で返事をするアラスター。
まあ髪色は変えなきゃだよね。服もいつもの黒い服では意味がないから違う色の服に着替えるのか。でも黒以外着ているのをあまり見たことがないから、もしかして結構貴重なんじゃないか?
初めて『夜の星』に連れて行ってもらった時に白を着ているのを見た以来かも。そう考えると少しワクワクしてくる。
「黒い服じゃないアラン様はあまり見たことがないので、ちょっとだけ楽しみですね」
「なら、服は君に見立ててもらおうかな」
何気なく素直な言葉を告げると今までさぞ面倒そうな顔をしていたアラスターが、ころりと笑顔で答える。
面倒だと思うことを楽しみに変えられるのはとても良いことだと思うけれど、まさかこんなに態度が変わるとは…
「(チョロい…)」
「(チョロいですわ…)」
そう考えてルミア様を見ると、彼女も私と同じことを考えていたらしく私を見ていた。
なんだかそれが妙に可笑しく思えて、二人で笑ってしまった。
ーーーーーー
白い石材で統一された王都の街並みは、太陽に照らされてより一層眩しく感じる。
午前中から人の往来も激しく、とても賑わっているのが見て取れる。
はぐれたらいけないからと、彼の腕を掴んで歩く私は彼からもらったチョーカーにネイビーのコート。中は着慣れた緑のワンピースを着て、いつもの装いだ。
ルミア様に舞踏会の時のように視力を一時的に回復させる目薬や、お化粧はするかと聞かれたけれど断った。いつも通りで良い。
隣を歩く彼を見上げる。
私と同じネイビーの色のコート。中は白のシャツにグレーのパンツ。愛用している革手袋も今日は黒ではなく焦茶色。
そして極め付けは…銀髪だ。
魔法で全く別の色に変えるより、一時的に脱色させる方が楽だという主張で黒髪から銀髪になったのだが、ルミア様はそれはそれで頭を抱えていた。
黒じゃないから目立たないか?と問われればそれはNoだ。なんというか平民にしては品がありすぎる。パッと見は、完全にお忍び貴族である。
そういえば銀髪もあまり見ないかも?と首を傾げたらルミア様曰く、銀髪は北方の人間に多いそうだ。
私の父親が銀髪だったので、そんなに珍しいとは思っても見なかった。お父さんも元々は北方の人なのかな。
なんだか銀髪のアラスターを見ると、少しだけお父さんみたいだなと思ってちょっとだけ心がソワソワしていた。
「銀髪を見るとよ、昔北方で名を馳せたっていう『銀狼』を思い出すな」
「ああ!聞いたことあるぜ。なんでもとんでもなく強くて、小国の守護者だなんて言われてたらしいな!」
「そいやその『銀狼』ってどうなったんだろうな?」
「さてな。討ち死にしたとか王女と駆け落ちしただとか、色々噂にはなってるが誰も知らないみたいだな」
通り過ぎた王都の人の何気ない会話が聞こえてくる。『銀狼』って人が居たんだ。まあアラスターも通り名は『一匹狼』だから、銀髪になってる今はあながち間違ってはないかもなんて思って彼を見上げる。
少し考えるような顔をしている彼の顔にかかる銀の髪が風に揺れて、なんだか新鮮な気分になる。
私の視線に気が付いた彼がこちらに微笑みかけてくれる。髪色が変わっても彼は彼だ。そう思って私も笑みを返す。
「今日はどこを見て回ろうか?」
「露店を見て回ってもいいですか?何か良さそうなものが見つかればいいなって」
「…?何か欲しいものがあるのかい?」
しまった。うっかり口を滑らせてしまった。
というのも実は王都に滞在している間に、何かアラスターに贈り物を買えたら良いなと考えていたのだ。
チョーカーを貰っているし、私も何か彼にお返しがしたいとずっと考えていたのだが…贈り物というのは難しい。
必要なものや欲しいものは買えるだけの収入があるだろうし、欲しいものと言っても物欲は無さそうにも見えるし…かなり悩んでいる。
かといって消え物はあまり気乗りがしない。
これは我儘かもしれないけれど、ちゃんと私にくれたチョーカーみたいに形に残るものが良い。…アクセサリーをつけている彼を想像出来ない。冒険者としては邪魔になってしまうかも。
ぐるぐると考えて、結論を出す。
うん、正直に相談してみよう。
遠慮されてしまうかもしれないけど、その時は押し通そう。
うんうんとひとりで頷いて、不思議そうに首を傾げる彼に向き直る。
「あのですね。アラン様にプレゼントをしたくてですね」
「…プレゼント?」
「チョーカーをいただいてますし、私も何かお返しをしたいなって」
「うん」
「貴方が気兼ねなく身につけられるものが良いなって思ってるんですけど」
「うん」
「アクセサリーって邪魔になりませんか?」
「そうだね…君から貰える物だからね。邪魔にはならないよ?」
にこにこと微笑みながら相槌を打ってくれていた彼は、上機嫌で答える。
うーーん、そう来たか。遠慮されるかもしれないと予測はしていたけれど、まさか全肯定されるとは。
解決策を求めたはずなのに、さらに悩みが増えるとは思っていなかったので唇を尖らせて彼を恨めし気に見る。
「むーー、アラン様…」
「ふふ…いや、ごめんね。君からの贈り物だから、素直にどんな物でも嬉しいと伝えたかったんだ」
緩やかに微笑む彼が本当に嬉しそうな表情をして笑うので、毒気を抜かれてしまう。
配慮なんて飛び越えて、嬉しいというだけで笑う彼に私も身につけるものを贈りたいというわがままを通しても良い気がしてくる。
本当に困った人だ。
でもそんなアラスターに困らせられるのは、胸の内が暖かくなるような喜びを感じてしまうのだ。私も大概かもしれない。
「まあ焦って決めても仕方ないですよね。とりあえず、露店を見て周りましょう」
「うん、そうしようか」
自分に対しての溜め息を小さく漏らし、私たちは露店が立ち並ぶ大通りへと向かう。
彼が変装をしてくれてるおかげでもあるけれど、前回よりもしゃんと背筋を伸ばして歩いている自分が、少しだけ誇らしく思えた。
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