雷魔法が最弱の世界

ともとも

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異世界

お母さん

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私は取り巻きの男達に殴られると思い、思わず目を瞑っていた。

だけど痛みを感じない。

びくつきながらもゆっくり目を開くと、衝撃の光景が広がっていた。

私を殴ろうとしていた男達は黒く焦げている。この三人だけならよかったのだが、他にもたくさんの人たちが倒れていた。

その中心にトモヤがうずくまっている。

その姿を見て何が起こったかわかる。
雷魔法が伝承のように暴走してしまったのだ……

私はトモヤに手を差し伸べようと前に出した。

何か、何かを言って助けなくちゃ。
そう思ったが私の弱い心では、何も言い出せなかった。

大丈夫、そんなこと気にしないで。
そんな言葉、トモヤの気持ちがわからない私は無責任で言えない……
いつの間にか差し伸べようとしていた手は下がっていた。

今はやるべき事をしないといけない。

すぐに行動へ移す。

まずはホノカとカナメの怪我を治さないと。
そう考えるとすぐに私は二人のそばに行って、怪我を治した。

回復魔法はトモヤに何度もかけていたから慣れた。
だからどんな怪我でもすぐに治せるようになっていた。

「はっ!!」

深く負っていた傷はほとんどきれいに治った。
ただカナメはおでこに跡が残り、ホノカは右頬の切り傷が残った。

何度も何度も魔法を使ったがこの傷は消えなかった。

「大丈夫、大丈夫、2人共!」

その言葉に気づいた2人は元気に起き上がった。

「あれ、痛みが消えている。セクアナが治してくれたの?」
「痛かったよー! セクアナ」

カナメは冷静だったが、ホノカはずっと痛みに耐えてきた時の弱音が一気にきたのか大粒の涙を流して、私に抱きついてきた。

「よく頑張ったね、ホノカ。本当によく頑張ったよ!」
「ぐすん、うん……」
頭を撫でながら優しく抱きしめて慰めた。

この声を聞いてうずくまっていたトモヤも立ち上がってこちらの方へ来た。
「よかった……生きてくれてて本当によかった……」

しかしトモヤの姿を見た瞬間、目の色を変えた。
「ちっ、近寄らないで!」

ホノカの発言にトモヤは固まっていた。
目を見開いて、絶望する。

また、ホノカも体を震わせて、まるで化け物を見るように怯えている。

意識がもうろうとしている中で暴走したところを見ていたんだろうな……

「ごめん、トモヤ。もうあなたとは一緒に入れないよ……」
そう言いながら後ろにゆっくり後退する距離
途中から涙を流して走り去って行った……

カナメもトモヤの方に近づいて行った。

今のことに衝撃を受けて、意識が上の空になっている。

「トモヤ、ごめん。あれを見たら僕も君のことが怖くなった。ちょっと距離をおかせてくれ……」

その一言だけ言うと、ゆっくりと歩いきだす。
サッとトモヤの肩をすれ違って行ってしまった。

トモヤはドサっと音を立てて膝をつき、四つん這いの姿勢になっていた。

泣いていた……

今までにそんな姿見たことない。
どんな苦しいことがあっても耐え抜いていたトモヤが、小さな声で泣いていた。

私のせいだ。私がこの世界に呼ばなかったらこんな苦しい思いをしていなかったのに。

私は今のトモヤを助けれるほどの言葉をかけれない。

でも、すこし安心してくれると嬉しいな。
小さく願って言う。

「トモヤに誰も殺させないよ。私が全員の命を守る。だから一人で考え込まないでね!」

肩に手を置いて伝えると、私は倒れている人の元へ行った。




僕は暗闇の中にいた。どこまでも続く真っ暗な場所に。

衝撃的な出来事が多すぎて、頭が混乱しているのだろう。
悲しい現実に絶望して、その場所に孤独で座る。

ああ、このままここにずっといるのかな。
誰にも邪魔されず静かに死ねるならこのまま……

そんな事を考えていた時、一筋の光が差し込んだ。
誰の言葉か分からない。
何を言っているのかも聞き取れない。
だが、その光はとても眩しく、暗闇は晴れた。

目を開けると現実に戻っていた。
目の周りには涙の跡が残り、手や服がドロドロになっている。

そして正面を見るとセクアナ頑張って、たくさんの人に回復魔法をかけていた。
前に意識があった時より倒れている人は少ない。

自分の不甲斐ない姿にまた絶望した。
僕はとぼとぼと重い足を動かしながら家に帰った。

この日から僕はうまく笑えないようになった……

家に帰るといつも遅くに帰ってくるはずの母がいた。

「おかえり!」
笑顔を向けて僕の方に寄ってきた。

やめて、こないで……

母に自分のやってしまった事を話すのが怖くて、体を震わせて怯えながら後退りしていた。

「あーあ、またこんなにも服を汚して帰ってきて。今からお風呂を沸かすからきれいに洗いなさい」
「何で、どうして家にいるの……」
「ん? 何か言った?」

はぁはぁはぁ……はぁはぁ!

心拍数が上がって呼吸がしんどい。
そんな優しい顔でこっちにこないで。
やめて。
もう誰も信用できない。

今の状況に我慢できず、僕は母を押しのけて自分の部屋に閉じこもった。

「えっ、ちょっと! どうしたの?」
自分のこんな姿を見るのは初めてだったから母は戸惑っていた。

部屋に入った途端、耐えようと頑張ってきた苦しみが一気にこみ上げてきた。

僕は体操座りをして部屋の隅で縮こまる。


ああ、苦しい。
今まで一緒にいてくれた友達が去って行った。
伝承の通りに魔法が暴走してしまった。
僕は人殺しなのか。

そう考えた瞬間ホノカとカナメが血まみれで倒れていた事を思い出し、自分の手に赤い血がついている幻覚が見えた。

ああ、ああ、やめて。
僕はやっていない!

また酸素をうまく体に取り入れられなくて、過呼吸になった。

「はぁはぁ、ごっほ!」
気付いたら僕は涙を流していた。

「助けて……ねぇ、誰か僕を助けてよ!」

真っ暗の中、一人で苦しんでいると、キキキっと音が鳴ってドアが開いた。
見ると母が立っていた。

怖い、近づかないで!

そんなふうに思っていると、母は僕に近づこうともせずその場に座った。
しばらく何も言わずに僕の気持ちが落ち着くまで待っててくれた。

「はぁ……はぁ……」
「落ち着いた?」
「う、うん……」
「何かあったんでしょ、お母さんに話して」

しばらく僕は黙り込んでいた。
母なら僕を信じてくれるとは思ったがやっぱり怖くて言えない。

「何があってもお母さんはトモヤのことを受け止めるよ。あなたは私の息子だもの。だから絶対に見捨てたりはしないわ」

その言葉を聞いても、まだ言い出せなかった。
今までずっといた二人に見捨てられたことを思うと、同じようになるんじゃないかと想像してしまう。

「大丈夫、ずっとそばにいる」

怖い、苦しい、しんどい。
母も巻き込んで苦しい思いをされるなら一人で考え込む方がいいかもしれない。

でも母は心の温まることを言ってくれた……

僕は母を信じて勇気を振り絞る
今日あったことを全て話した。

「……そっか」
話終わると軽く返事をして母は僕を強く抱きしめる。
手を震わして、僕と同じように泣いてくれた。

「よく……よく頑張ったね。
よく一人で耐えたね。
苦しかったね。
辛かったね」

優しい香り。

胸に抱き寄せられて、暴走した時に芽生えた悪の感情がだんだん消えていくように感じた。

「トモヤは私のとても、とても大切な息子。何があっても、どんなことがあってもあなたを守る」
抱かれながら母の顔を見ると目を潤んでいながらも笑っいた。

僕は、まだ一人じゃないんだね……


いくら慰めてもらっても不満がたくさんある。
自分を落ち着かせるためか、無意識に相談していた。

「ずっと、ずっと僕のそばにいてくれる?」
「そんなの当たり前じゃない。この世に生まれて一人ぼっちなんてことは絶対ない。いつかあなたにも仲間ができる。その時までずっとお母さんはトモヤのそばにいるよ!」

「でも、セクアナに迷惑をかけてしまった。また、雷魔法が暴走したりすることもあるかもしれない。こんな僕でも仲間なんてできるかな?」

「大丈夫よ、トモヤはとても優しい子だよ。どんなに強大な人でも友達を守るために立ち向かったじゃない。
そして、誰かを守るために、苦しい修行をしてきている。こんなに優しい子がずっと一人なんてこと、絶対にないわ」

優しい声だった。
不満に思っていたことが解消されていき、心も落ち着いてきた。

「雷魔法は絶対に暴走しないようにお母さんが止めるから安心して」

「僕はお母さんの言っているような人じゃないよ……」

「トモヤ……」
母は僕の肩に手を置いた。

「てい!」
「ぐふっ、げほげほ! 痛ったぁぁぁ! いきなり何するんだよ!」

肩に置いていた手は両方の首にドンっと衝撃を与えた。
首に当たったこともあり、呼吸を一瞬だけできなかった。

「ぷっふ、あはははは。やっぱりトモヤの反応は面白いね」

「えっ、何これ……」

普通はいろんなことを言って僕を慰めるっていう感動的なやつじゃないの……

苦しんでいる時にいきなりこんなことされて唖然としていた。

「そんなずっとマイナスなこと言うのはいつものトモヤじゃないよ。ほら、面白い発想をして、雷魔法が大好きで、それ以外のことが何もできないトモヤにそろそろ戻りなさい」

確かに、いつもの自分ではなかった。
まるで何かに取り憑かれていたようだ。

でも、さすがにこれは酷くない?

「トモヤ、今のあなたはとても苦しんで、しんどくて、大変ってなのはわかる。そんなトモヤにおまじない!
これはあなたのお父さんが私に教えてくれた言葉なんだけど……そんな時こそ笑っていなさい」

始め何を言っているのかわからなかった。

「笑顔でいると自分だけでなく、他の人も幸せになる。それに笑っていると楽しくなるよね。世の中笑っている人が一番強いのさ!
だからトモヤも笑おう!
一緒に大笑いして苦しい気持ちを吹っ飛ばしちゃお!」
「ふっ、なにそれ……」

こんな話を聞いていると何もかも馬鹿らしくなってきた。
大笑いとは言わないが小さく笑えた。

母はまっすぐ僕の方を向く。

「ふふ、笑えてよかった。母さんはトモヤの気持ちはわからない。
でも、私も貴族のお父さんと結婚したから似たような思いをしたことがあるの。
そんな時にお父さんが笑っていなさいって言ってくれたわ。この言葉に助けられて、今の私がある。
だから、これからも笑顔でいてね!」

母も僕と似たような体験をしていることを聞いて、心に響いた。

「うん……!」

まだ声は落ち込んだような悲しい声だったし、うまく笑えなかった。
でも今できる最大の笑顔で言った。

その笑顔があまりに不気味だったようで母に大笑いされたことは、ちょっと頭に血が登った。

「さて、そろそろご飯は炊けるよ。セクアナは帰っていないけど、食べましょうか!」

母は立ち上がって廊下を歩いて行った。
後ろ姿はとても気高くカッコイイ。

苦しみや友達がいなくなって寂しい気持ちがなくなったとは言えない。

でもお母さん……ありがとう!




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