雷魔法が最弱の世界

ともとも

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異世界

思い出の消失

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自分の部屋から出ると、魔石の光が眩しくて目をしっかり開けられなかった。
後ろを振り返ると、とても部屋の中は暗かった。とても思い詰めていたんだと思った。

母が晩ご飯の準備をもう終えて、座っていた。
「早く食べましょう。さめてしまうよ」
僕も椅子に座り、ご飯を食べ始めた。

食事はとても静かだった。
母は何も聞くことはなく、ただ静かに食べていた。普段ならとても気まずいが今日はなぜか心地よかった。
あまりに静かで、外から吹く風の音や夜に奏でる鳥の鳴き声など、自然を感じれた瞬間だった。

とても落ち着ける……

体が少し楽になり、食事をとっていた。

すると、トントンとドアをノックする音が聞こえた。

「はーい、たぶんセクアナね。母さんが出るからしっかりご飯を食べときなさい」
そう言ってセクアナを迎えに行った。

「おかえり、セクアナ……」
元気よくドアを開けていたが途中から疑問に思うような喋り方をしていた。

どうしたのかと思い、玄関の方に行こうとする。
玄関には誰かのお母さんが僕の家に来ていた。そして暗いトーンで僕のお母さんに何か伝えていた。

「じつは……その、セクアナちゃんがたくさんの人たちを助けるために魔法を使いすぎて倒れてしまいました……」
「えっ、本当ですか! 娘は、セクアナは無事なんですか?」
倒れたことを聞いて、声を大きく張り上げた。

「はっ、はい、セクアナちゃんは無事です。娘の友達だったので、今は私の家で寝かしているので安心してください」
母はセクアナが無事なことを聞くと心配で強張っていた体から力が抜ける。
手を胸に当てて安堵していた。


「ふうー、よかった。娘は無事なんですね」
「はい! あっ、すいません申し遅れましたが私はセクアナちゃんと同じクラスのチアキという子の母です。
でっ、その……いきなりの提案なんですけど、セクアナちゃんをしばらくお預かりしてもよろしいでしょうか?」

いきなりで母はしばらく固まっていたが、言葉の意味を理解してすぐに反対した。
「いやいや、そんな迷惑をかけられません」
「全然迷惑なんかじゃありません。セクアナちゃんは私の命よりも大切な娘を助けてくれたんです!
これくらいの恩返しをさせてください、お願いします!」

母に頭を下げて頼む。
いきなりそんなことをされて驚きながらも、母は内心、セクアナの成長に喜んでいるように見えた。

チアキの母の両肩に手を乗せて優しく言う、
「頭をあげてください。じゃあ、お言葉に甘えて、しばらく預からせてもらってもいいですか?」

「はい、責任を持って看病します! 本当にうちの娘を助けてくださりありがとうございました!」

「いえいえ、その言葉を私ではなくて目覚めたセクアナに言ってください」
元気よくチアキの母は返事をした。

「それにしてもお子様が大好きなんですね!」
「えへへ、そうなんですよ。そんなことを言うあなたも大好きですよね。話していたらわかります」

初めてのママ友のような人と話せて、母はご機嫌だった。
途中からお互いに子供のことを話し始めて、僕は後ろの隅で呆然と聞いていた。

「それに子どもって本当に親の気持ちをわかっていませんよね」
「本当、そうです」

母はため息をつきながら、
「いつも洗濯や料理などの家事で疲れます。なのにそんな苦労知らないで、うちの子達は修行をして家を汚したり、物を壊したりするんですよ。そんなのが続くと、お母さんの気持ちも考えて、と思うんですよ」

「そちらの家も大変ですね。私の家は嫌いな食べ物を残したり、怒ったら、対抗してすぐ口喧嘩になったりするんですよ!」
「あはは、そちらも大変ですね」

ん? 途中から子どもに対してお互いに愚痴こぼし始めたぞ。
一応、近くに子どもいますが……

「子どもは私たちの気持ちなんて考えてくれない……」
「そうですよね」

しばらく愚痴をこぼしてお互いにスッキリしたようだ。いつの間にか2人共優しい目をしていた。

「……でも」
「……でも」
「私の子どもでいてくれて本当に良かった」

同時にその言葉を言い放った。

「やっぱりそう思いますよね」
「ええ、母親はそう思うものよ。トモヤやセクアナのことを考えると、胸が暖かくなるの」
「そう、暖かくなります。たくさん怒ったり、嫌われたり、疲れることがあっても、家族みんなで一緒に楽しく暮らしていることを思い出すと嬉しくなります!」

「どうしても、何かしてあげたくなるのよ」

そこには、お互いに愚痴をこぼしあっていた二人はいなく、子どもへの愛を語り合っていた。

ああ……苦しい。

母がこんなにも僕達のことを思っていて胸が痛む。

僕はなんてことをしてしまったんだ。こんなにも愛のある人たちの宝物を魔法が暴走して傷つけてしまった。もしかしたら殺しているかもしれない……

やらなくちゃ、今の僕にできることをしなくちゃ。

そう考えていると体が勝手に動いて、母達のもとへ行っていた。

「すみませんでした! 僕のせいでチアキさんを危険な目に合わせて! 本当にすみませんでした!」
深々と頭を下げて大声で謝っていた。

いきなり僕がきたこともあり、しばらくチアキの母は困惑していた。

「あぁ、えっと……いえ、私達は全然大丈夫ですよ。セクアナちゃんが助けてくれたから。ありがとう! わざわざ謝りに来てくれて」
「すいません、僕の心が弱かったせいでこんなことになってしまって……
とても迷惑をかけました」
僕の姿を見て母も僕と同じようにして謝ってくれた。嬉しかった。

「ええっ!? うちは本当に大丈夫です。いきなりそんなことされても困惑するだけなのでもうやめてください」
言われた通りに頭を上げた。

しばらく母は一緒にセクアナのことを話していて僕は置いてきぼりになった。

話も終わり、チアキさんの母が帰ろうとする。
「こんな夜にお騒がせしました」
「いえいえ、こちらもセクアナのことをわざわざ言いに来てくれて感謝しています。ありがとうございました。暗いけど、大丈夫ですか?」
「はい、家も結構近くなので大丈夫だと思います。あっそうだ。トモヤ君だっけ? 君は雷魔法で大変かもしれないけど、君はとっても優しい子だよ。自信持ってね!」

そう言って僕達に手を振り返って行った。

ちゃんと内面を理解してくれる人だったな。暴走してもこんな人がいると知って少し感動した。
そして僕はある覚悟を決めた。

「お母さん! 僕、怪我をさせた人たちと向き合いたい。たくさん苦しい思いをするかもしれない、罵倒されてしんどいと思う。でもちゃんと謝りたい!」
そう言うとニッコリと笑っていた。

「それなら母さんも手伝うよ」
「いや、お母さんはやめて。僕のために傷つかないで」
「いいのよ、私は傷ついても。私よりトモヤが今日みたいに悲しんでいる方が母さんは悲しいな。こういう時に母さんを頼りなさい!」

頭をポンポンと撫でてくれた。ここまで言われたら断れなくて母にも手伝ってもらうことにした。

「お母さん、お願い……」

不安な気持ちもあり自信を持っていえなかった。そんな時でも母はたくましく胸に手を当てて、
「まっかせなさい!」
そう言って僕を安心させてくれた。


次の日になった。
学校があり、正直休みたかった。でも逃げてるようで嫌だと思う変なプライドがあり休まなかった。

昨日の事件が学校中に広がっていた。
いじめや陰口を言われることはなかったが、教室に着くまで僕の5メートル圏内に誰も入ってこなかった。
みんな僕を恐れて近づかなかった。
僕を見るだけで泣いている低学年の子もいた。
いつも隣にいてくれていたセクアナも魔法の使いすぎで倒れているし、カナメたちにも見放されて一人ぼっちだった。

母が僕のことを信じてくれているのは嬉しかったが、学校では一人になってしまうから苦しいな……

教室に入ると、会話が止まってとても静かな沈黙が訪れた。
そして僕の姿を見ると、ぞろぞろと離れ、教室の隅に行くと再び話しを始めた。席はちょうど真ん中らへんだったから周りの人、全てから机を離されているのを見て、とても悲しくなった。

昨日まで普通のように話していたホノカとカナメはお互いに気まずいのか二人とも別々の友達と話していた。
昨日の出来事によってみんなの絆は崩れ去っていた。

先生からは何も言われず今日の一日を終え、苦しい学校から足早に家へ帰った。

今日、母は休みだったらしくて帰ると優しく迎えてくれた。
「おかえり!」
「うん、ただいま」
今日の学校はいつも以上に苦しかった。
改めてセクアナがどれだけ僕を安心させてくれていたかがわかる。

帰ってからすぐに準備をして、迷惑をかけた人に謝罪する。
全ての人を覚えているわけではないが、自分の記憶や、先生にも協力してもらい、約二十件くらいの家に謝りに行くことになった。

そして先生から誰も死んでいないということを聞いた。僕の魔力がそこまでなくて死に至らなかったのか、セクアナが必死で回復魔法をかけてくれたおかげかわからないが、そのことを聞いて僕と母でほっと安心した。

「さぁ、準備はできた?」
「うん……準備できたよ」
いざ謝りに行くとなると不安になる。

自信がなくなり始める……

「大丈夫、トモヤは一人じゃないよ。何があっても守るから安心して!」
「うっ、うん」

こうして僕達は長い道を歩きながらたくさんの家を周りに行った。
まだ日は照っている時間だったので、明るいうちにたくさんの家を訪ねた。


コンコン

「すいませーん」
「はーい」
いざ目の前にすると、心が落ち着かなくて、ほとんど母に任せてしまってた。
中から女性の声がしてドアを開けられた。そしてこの家のお母さんらしき人が出てきた。

「この度は息子さんに怖い思い、ひどい怪我を負わしてしまって申し訳ありませんでした」
「も、申し訳ありませんでした」

出てきた瞬間に頭を下げたのでびっくりしていた。
しばらく固まっていると、すぐに冷静になって僕達のことを受け止めてくださった。

「あの……もしかしてあの事件を起こした人ですか?」
「はい……本当にすいませんでした」
「ああ、そうですか……」

少しの間、沈黙が訪れた。
この何も喋らない時間は僕にとってとても恐ろしかった。

この母親の息子を巻き込んでしまったからどんなことを言われるかわからず、体を震わしていた。

「全然うちの息子は元気なのでいいですよ」

この一言を聞いた時、とてもほっとした。

「確かに昨日の事件のせいで怖がっていましたが、今は逆にとてもすごい魔法を見れて、もっと頑張らないとって努力しています。
新たな息子の成長を見れて私はとっても嬉しかったです。だから、わざわざ謝りに来てくださいありがとうございました」

自分の罪を許してもらえた時、人はここまで嬉しい気持ちになることを知った。

話も終わり、次の家へ行った。
だが、今のように簡単に許してもらえるほど世の中、甘くはなかった。


三件目を周り終わり、今日は次の家が最後だ。
僕を見ると怖がられて、僕を遠ざけて母だけが謝るようなこともあったが、平和的にみんなから許してもらえた。

僕一人じゃなくて母が手伝ってくれたおかげで、というかほぼ母が積極的に僕をリードしてくれたから感謝しかない。

「次で今日は最後だよ。トモヤ、下手くそでもいいから笑顔を向けていい印象を与えるだよ」
「うっ、うん……笑顔だよね……頑張るよ」

こうしている間にもう家の前まで来ていた。

「すいませーん。誰かいますか?」
何も反応がなかった。
「すいませーん、すいませーーーん」
「うるさいわね!」

怒鳴るような声が中から聞こえてきた。
強くドアが開けられる。

「今は家事や息子のことで忙しいの。邪魔しないでくれる!」

この家の母は僕達を睨み、とても怖い顔だった。

「それは申し訳ありません。雷魔法の暴走を引き起こしてしまった謝罪に来たんですが……すこし時間はありませんか?」

その一言を言った瞬間、パチンッと大きな音が鳴り響いた。
母の頬が赤くなっていた。

「あんたが、あんたが、いやあんたの息子のせいで……今更何しにきたんだ!」
「本当に、すいませんでした!」
「すいませんでした……」

僕達は深々と頭を下げたが、それだけでは許されなかった。まぁ、これが普通だよね。
ひどい目に合わせたんだから……

「お前の、お前のせいでうちの息子がどれだけ塞ぎ込んでいるかわかるか!
いつも明るくお母さんって呼んでくれた息子が部屋から出てこなくなったのよ! いつも怖い怖いって言って……幸せな日々がお前のせいで潰されたんだ! 
この……悪魔!! 汚らわしい悪魔が私達に近づくな!」

……悪魔……

…………悪魔!!


脳裏に何度もその言葉が繰り返された。
頭が狂いそうになる。

急に黒いもやのかかったたくさんの人に囲まれて、怒鳴られているように錯覚する。

下を向いて僕が帰ろうとすると、まさかの声に目が見開いた。

「取り消してください……」
「はぁ? さっさと消えて!」
「お願いです、取り消してください……」

母は静かに言い返す。

「……なんだよその目は。そう思えばあんたはこの悪魔の母親だったそうね。やっぱり悪魔なんて産んだ母親も出来損ないですね!」

その言葉を聞いて、怒りが込み上げてくる。
僕が一歩踏み出そうとしたが、固まってしまった。

母は土下座をしていた。
僕のためにやってくれた。

どうして、どうしてそこまでやれるの……

「お願いです……私の大切な息子を悪魔と呼んだことを取り消してもらえませんか?」

まさかの行動に相手もびっくりしていた。
ずっと強い口調で罵っていたが動揺する。
むしろ怯えているようにも見えた。

「悪かったわね……」
小さく謝ってドアを強くしめた。


日もくれ、薄暗くなっていく中、憂鬱な雰囲気で家に帰ろうとしている。
「ふぁー。最後の人は大変だったね!」
明るい声で両手を上に上げ、背伸びをしていた。

「どうして……」

僕のためにあそこまでの行動をする人を今までに見たことがなく疑問しかなかった。

「ん? 何か言った?」
「どうしてあんな行動ができるの!
嫌なこと言われても対抗せずに、僕のために土下座なんて!」

「フフフ、トモヤはわかってないな……
そんなの自分の子どもが母さんの命よりも大切に思っているからだよ!」

強い風が髪を揺らす。

心が温かくなった。
親の温もりを今まで知らなかった。
こんなにも温かくて、心が和らぐんだな。

ヤバイ、感動で泣きそう……

自分の家に向かいながらそんなことを思う。

「お母さん、さすがにあれはやりすぎだよ……気持ちは嬉しいけど、僕はお母さんにも傷ついて欲しくないんだ。
あと、ごめんね……お母さんにほとんど任せちゃって……こんな弱い僕なんかが魔法騎士になんてなれるかな……」

自分の意気地のなさを感じてネガティブになっていた。

「違うよトモヤ、そういう時はありがとうっていうんだよ! 謝るより感謝される方が嬉しいの」
「アハッ、アハ、そうだね。ありがとうお母さん!」

「それに魔法騎士には絶対なれるよ!
なぜならトモヤはとっても優しいじゃない。
今だって、母さんの悪口を言われると注意しようとしてくれた」

「いや、僕はそんな人じゃないよ……そのせいで魔法が暴走してたくさんの人に迷惑をかけた。今も注意じゃなくて暴力で解決しようとしたし……」

「そんなことない。たくさん人を助けているよ。ほらっ、前もお友達を助けていたじゃない」

「でも、僕は弱い。みんなからも嫌われているからどうにもできないよ」

「確かに力がある人は大抵のことはできるね。でもトモヤはたくさんの苦しみや、辛さや、自分の弱さを知っている。
そういう経験をしているからこそ、同じような苦しい思いをしている人を助けられるんじゃないかな。
強さとは力が全てじゃない。
思いやりや優しさで周りの人を幸せにすることが本当の強さだとお母さんは思うな!」

日も落ちる真っ暗の中で、母の笑顔が輝いていた。

星々が綺麗に光る中、僕達はゆっくりと手を繋ぎながら帰った。
いつもはセクアナもいるが二人だけということもありなんだか不思議な感覚だった。

「あっ! お母さん顔に泥がついてるよ。今日はお風呂、僕がやるからゆっくり休んでよ」
「……はぁ、今はいいこと言ったのに話切り替えるの早い気がするよ。ちゃんと聞いてたのかな?」

ちゃんと聞いてるに決まってるよ。あんな嬉しい言葉……


家に帰り僕はお風呂を沸かした。今日は一番に入ってもらって疲れをとって欲しいな……

「そろそろご飯ができるから入ってきなさい!」
「はーーい」
お風呂の準備を整えて机に座った。

「あれ? お母さんはご飯食べないの?」
「ああ、うん。ちょっとダイエット中だから今日入らないかな……」

そう思えばいつもの食事より今日は少ない気がする。
それに腕が昔より少し細い気が……
驚く気持ちはあったが気にせず食べ続けた。

「明日はトモヤは学校から休みだよね。母さん、明日仕事だから謝りに行くのはできないね。けどセクアナがいない分、何もできないトモヤには家事をしっかり教えないといけないから明日は覚悟しておいてね!」
「うっ………はい……」

すこし母の目が怖かった。
厳しく指導させられそう……

それを言うと、母はすぐにお風呂に行ったから何をされるか教えてくれなかった。



次の日、母が仕事に行っている間に、せめて魔法だけは強くなりたいと思い、修行を始めた。
そろそろ昼ごろになるが、一人で修行をしていると寂しくなるのでやめてしまった。

家に入るとおにぎりが置いてあった。
母の手作り握りだ。
感謝をしてしっかりと手を合わせる。

「……あっ! そうだ、お母さんの仕事を見学しに行こう」

昼食を食べながら寂しさを紛らわすことを考える。

食べ終わると僕はこの地域で唯一、買い物ができる町に来ていた。
一応、誰にもバレないように顔は帽子とかをかぶって誤魔化している。

バレたら町の人たちがうるさそうだからな……
久しぶりか、それとも気のせいかわからないけど、町がすこし暗くなったような気がする。

確かここら辺の土木系の仕事を今はやっているそうだけど……

「おい! 何をやっている。早く動け!」

大きな怒鳴り声が聞こえたのでその方向に行った。
建物の間を抜けてやっと道に出たと思うと、辺りにはたくさんの人が土を掘っていた。
近くにある大きな川を貴族の家まで流すつもりなのか、家の方へ掘っていた穴が続いている。

「おい! そこの女。さっさと運べ、なに倒れているんだ」
「はい……すぐに運びます」

よく見ると怒られていたのは母だった。
とてつもなく重労働で女の人には過酷な仕事だ。

「おい、何ヘラヘラしている。すこし教育が必要なようだな」

そう言って運んでいた石にさらに石を乗せて運ばされていた。

汗をどばどばに流していて、足もふらふらの状態だった。
母がとても苦しい思いをしているのを見て胸が締め付けられる。


だんだん僕の心が耐えられなくなった時とどめを指すようにそれは現れた。

近くから立派な馬車が音を立てて工事現場に止まった。
そこからは髭の長い貴族が出てきた。
ここの地域を領主になるといきなり言い出してきた身勝手な人たちだ。

近くにいた母を呼び出していた。

ん? 何か話している……

建物との間で観察していたが何も聞こえないのですこし近くまで行こうとした。
広いところに出る。
土や馬車など障害物も多かったから、バレずに近づくことはできた。

「待ってください。それだけはどうかお願いします」
「おい! 貴様、頭が高い! 誰に口を聞いているのだ、もっと頭を下げろ」
母は殿に頭を下げるように縮こまっていた。

「お願いです。どうか給料だけはもらえないでしょうか……私には二人の子どもがいて、タダで働くなんて、とても子どもを養っていけません」
「はぁ、子ども? あの悪魔のような子どもなんて何も与えなくていいだろ。それに伝承のように魔力が暴走しているし、あんなクズ存在する価値なんてない!」

「取り消してください……」
悪魔と僕のことを言った瞬間、前のように母はまた言い返していた。

「それよりもうちの息子だ。あの悪魔のせいでうちの息子はすり傷を負ってしまった。本当なら、今すぐ殺しに行っているが、子どもだからな。まぁ、許してやっているのだ。
むしろ感謝しろ、薄汚い下人が!」

不気味な笑みを浮かべてそう言った。
「給料のことはもうどうでもいいです。ですが、取り消してください。うちの息子は悪魔なんかじゃありません」

ドゴッ!

母は貴族に蹴られて地面に倒れ込んだ。

「ワシにに向かってよくそんな口が聞けたな! うわっ、何をやっている離せ!」

痛いだろう。
それでも母は諦めなかった。
どうしても謝って欲しく、足にしがみついてまでお願いしていた。

「おら!」
「きゃっ!」
もう一度、母を蹴り飛ばして離れた。

「ワシに泥をつけやがってこのやろう! 
下人に罰を与えてやれ!」
その一言を言うと周りにいた兵士らが数人集まってきた。
そして一人が母の胸ぐらを掴んだ。

「ゲボゲボ、お願いです。息子が悪魔っていうことを取り消してください……」
「ふん、誰がお前みたいな人間のゴミに言うか! 身分をわきまえろ、じゃあ、やれ!」
「分かりました」
兵士はそう言い、大きく腕を後ろにふりかぶった。

ドカン

すこしの沈黙が訪れた。
母は殴られると思って目を瞑っていた。

「僕のお母さんに何してんだ……」
僕は兵士の拳を掴み、ドスの聞いた低い声で威嚇した。

あの事件のことは地域で知らない人はいない。
だから、その兵士はひっ、と声を上げて母を離した。

その隙を狙って母を抱えてすぐに逃げた。
「おい、何を怯えている! あの悪魔を捕まえろ!」

何も問題は起こさなかったから、町の人には気づかれなくて数人の兵士からも簡単に逃げ切れた。

「トモヤ、ありがとうね……」

家に帰ると笑顔だったが、苦しさを抱えているような笑い方だった。

「はぁ、子どもに助けられて私もまだまだだね」
「うん……」
慰めれるほどの言葉が思い浮かばず、黙ってしまった。

「………」
「……トモヤにすこし内緒にしていたことを話すね。
あの貴族様たちはお父さんよりも高い地位の人たちなの。それに加えて、あの方たちは私たちの裏の関係を知られてしまった。今は圧力をかけられているから仕送りが無くなってしまったんだよね……
世間に貴族様と結婚していることを知られたら、私たち家族はみんな迫害されるの。
だから、お父さんはどうすることもできないんだよ。
一応、ヤリクリしていくと魔法騎士団の試験までの食料はあるよ。けれど量が少なくて、食事も今の半分くらいになると思う。ごめんね、成長期なのに……
だからせめて仕事をしようって思ったんだけど、しばらく給料がでなくなってしまったし……」

この話を聞いてあることに気づいた。

というか、もっと前から気づいてた……

「お母さん、僕のせいだよね……僕が雷魔法をカールに見せてしまったせいでこうなってしまったんだよね……迷惑かけないために僕もうこの家から………」
「やめて! トモヤは何も悪くないよ。ずっと母さんが守るって決めていたから、離れたりしないわ!
こんなことで母さんはくじけないから安心して!    あっ! そうそう、もしもの時のためにってこれをお父さんが送ってくれたんだ」

母は何かを取り出して僕に見せた。綺麗な鉱石で作られていて、真ん中にはアメジストのような物があった。

「この紫色の鉱石を押すと、お父さんの元に行ける。転移の魔道具ね。もし命の危険があったらこの魔道具を使って……」
「でもお母さんをほっといてなんてできない!」
「あなたとセクアナは母さんの宝物なの。だからお願い、必ず生きて!」
「う、うん」
母の気合いに押されて、なにも言い返せなかった。


「さぁ、今からみっちり教えるわよ」
「うわぁ!」

その一言で空気が変わる。
昨日、約束していたことを思い出した。

母の指導は怖い。

僕は逃げようとする。
苦手なものに挑戦するのは嫌だ。

「あっ、こら逃げるな」

結局捕まり、みっちりと家事を教えられた……


無理をしてまで謝り、重労働の日々。
食事もあまり食べない。

今のように元気に喋れる機会は少なく、母の体が限界を迎えるのは早かった。




あれから二週間ほど経ったある日、母は食事の準備をしている時に倒れてしまった。

「お母さん、お母さん!」
読んでも意識がなく、とにかく急いでベッドに寝かした。

二、三時間くらい寝込むと目を覚ました。でもいつもの笑っている母の姿はなかった。

腕や足はとても痩せ細り、肌はとても白くなっていた。目に熊ができていて今までちゃんと寝れてなかったように見える。
そして、おでこに手を当てると、とてつもない熱が出ていた。
汗の量もひどい。

気づかなかった……

ずっと母といたのに気づかなかった。
僕は自分のことしか考えいなく、母が苦しんでいたことを知っていたのに、なにもしてあげれなかった。

最近、母はご飯を食べていなかったのに、気付くどころかおかわりをしてしまった。
やりくりしていたことも忘れて。

自分を救ってくれたのに……

また絶望の淵に入る。

母が目を開けてからは、ずっと謝っていた。
「ごめん……ごめんねお母さん……僕が、無能だから何もできなくて。仕事を頑張ってくれていたのに、僕を暗闇から救ってくれたのに……」

「コホ、コホ……母さんは大丈夫だよ。すぐに、コホ、こんな病気治るって!   コホ、コホ」

僕はある覚悟を決めた。

「トモヤ……何しているの?」
「お母さん、この魔道具を使ってお父さんのもとへ行って!」

驚いていた。
そして最後の力を振り絞って母は起き上がった。

「そんなこと絶対に母さんは許しません。トモヤを一人にするなんてできません。コホ、母さんはまだまだいけますよ!」

「お母さん、もう無理しないで……十分、僕を育ててくれたよ……もう、誰も傷つけたくない、お願いだよ!」
「なにを言っても無駄です。ずっとそばにいるって約束したわよ。
一人の寂しさはとってもわかっているの。それはとっても苦しい。
だからそばにいる! 
ゲホッゲホ!」
喋るにつれて母は病気が悪化していく。

「もう喋らないで、苦しめたくない」
「こんな病気なんて何日も寝たら、ゲホゲホゲホゲホ……」

咳をして口から血が出てきた。
その血は受けていた手にひっついてその光景に母は固まっていた。

「えっ……!」
「ねぇ、そろそろ気づいて、僕よりお母さんの命が危険なの!
確かに一人は寂しくて苦しい。でもお母さんがもし死んでしまうって考えるよりは全然マシだよ!  
だから、お願い!」

ああ、セクアナがこんな時にいたらな。
帰ってこれないか。
人は守っても家族は守ってくれないのかな……

「でっ、でも……」
気づかないうちに涙が出ていた。

「お願い!」
母が何か言おうとしたけど、僕が涙を流しているのを見ると止まった。

「コホ、コホコホ……フフフ、そんなクシャクシャな顔しないでコホ! 怖いな、子どもの成長って。つい最近までこんなに小さかったのに、今はこんな立派になって……」

母の手が僕の頭に置かれた。

「ごめんね約束、最後まで守れなくて……」
「そんなことないよ! 僕が雷魔法を暴走してからとっても辛かった。一人、暗い闇の中にいた。そんな時にいつもお母さんは優しく僕を支えてくれた!
たくさんのことを教えてくれた。弱かった心をすこしでも強くしてくれた。もう十分すぎるよ!」

「そっか……ありがとう。嬉しいな、こんなお母さんにそこまで言ってくれるなんて。
コホコホゴホッ!」

母は顔を綻ばせる。
 
「じゃあ最後にこれだけは守ってほしいな……お父さんとお母さんの大切な言葉。どんだけ苦しくも、自分は大丈夫だって、笑って! 最後に笑っている奴が一番強いから。
近くでずっとお母さんは見ているよ!」
「うん、わかった」

僕の顔をしっかりと見ると、安心したようにベッドに身を委ねた。

ゆっくりと目を開けて笑顔を見せる。

「じゃあ、また……トモヤ………大好き!!」

細い手で、僕の手を握る。

母は紫色の鉱石を押した。ゆっくりと白い光に包まれ始める。握られていた感触がすこしずつなくなり母は消えていった……


母がいなくなって、一週間くらいの時が過ぎた。

自分の中では一人暮らしに慣れ始めた。

母に教わったことを利用して平和に暮らしている。

突然、奴は現れた。


家に帰ると玄関に誰か来ていた。見ると貴族のおじさんが一人で来ている。

こちらに気づくと手招きをしてきた。
さすがに嫌な出来事が多すぎて、とても警戒した。

「確か、トモヤという奴だったのう。そのあれだ……この前はすまなかった悪魔と呼んでしまって。
最愛の息子に怪我を負されたこともあり、ついカッとなってな。それにお母さんは気の毒だったのう」

貴族は優しい顔をして、笑みを向けていた。
ちゃんと頭を下げて謝る。

意外な対応すぎて頭が戸惑っていた。
飴と鞭みたいだ。

「それで、これがお詫びの品なんだが……」

手には魔道具によって炎を出していて、何のために使うのか見当もつかなかった。

「ああ、プレゼントだ!」
口調がいきなり変わった。
僕を蔑むようないつもの目。

そしておじさんはその炎を家に向かって投げた………

ボウ、ボオオオオオ

家が燃えた、火事だ。

「せいぜい森の中で暮らすんだな!
そして、わしにその汚らわしい顔を見せないでくれ」
森の中に馬車が隠されていて僕の顔を見ると満足したのか、すぐにおじさんは帰っていった。

「僕の家が……母と、セクアナと、みんなで暮らした家が……燃えている……」

この瞬間、怒りという感情は一切でず、ただただ絶望の感情が支配した。

もう二度とお母さんはここに帰ってこない。

唯一、母と繋がっていると思っていた家、思い出。
それをこんな貴族の手によって潰された。

これにはもう、笑うことしかできなかった。

憎しみや絶望の感情が入り混ざったとても不気味な笑い声で………

「アハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

この日僕は、家族、思い出、お金、友情、全てを失った。
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