雷魔法が最弱の世界

ともとも

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異世界

決闘

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目の前が真っ赤に染まる……

始めは小さかった火は木造建築だったことで、みるみる周りに広がった。
家は炎に包まれて壊れていく。
木は黒い炭になっていき、屋根や柱はもろくなって折れていく。

絶望でしかなかった。
いろんな思い出の詰まった家が燃える……

僕は笑っていた。
それは憎しみ、恨みの悪感情が詰まったとても醜い笑み。


貴族はとてもグズだ。
僕の大切な全てのものを奪っていく。

「くそっ! くそっくそおぉぉぁ!
復讐、復讐してや……」

憎しみに囚われようとしていた時、母の言葉が頭をよぎった。

「苦しい時こそ笑顔でいなさい……」
「自分の子どもが母さんの命より大切って思っているからだよ……」
「同じような苦しい思いをしている人たちを助けれるんじゃないかなと思うよ……」

……そうだ、僕はたくさんの人を助けるんだ。同じような苦しい思いをしている人たちを。

母が残してくれた物は全て、メラメラと燃えている。

食料も、思い出も、お金も。

だけど伝えてくれた思いは、心の中にある。

この数日間、母が僕にいろんなことを託してくれた。
それが貴族の策略によって簡単に潰されたのは許せない。

そう、こんな時だからこそ。
あの混沌をもう繰り返さないために、母の託してくれた想いを活かさないと!

僕の心は落ち着き始める。

手遅れでもいい、丸焦げになってもいい。
今は家族で過ごしたこの大切な家を守りたい。


僕は近くにある川から水を持ってきて家にばらまいた。

バケツに水を入れ、家にばらまくが火の力は強い。ほとんど消化されない。
それでも必死に何度も何度も水をばらまき、火事になった家の被害を抑えようとした。

「お願い、消えて……お願いします!」

何度も繰り返し祈りながら消化作業をすると、幸運なことに空から雨が降ってきた。

ザアァァァァァ


すぐに強く降り出し、家の火は徐々に小さくなる。

「ふぅぅ、よかった……」

家は丸焦げ。
太い柱が火に耐えてまるこげのまま二、三本立っている。

原型の姿などほとんどない。
ただ、自分の力でこの柱を守ることができた。
それだけで、心は満足していた。

また、森林に火が移ることはなく、最小限に抑えれた。

しんどい作業がひと段落するとお腹が「ぐうぅぅ」と音を立てた。

大きな音だったから恥ずかしけど頑張った証拠と捉えたい……

お腹を押さえながら立つ。

家に入ろうとするが、キッチンがない。
火を起こそうにも雨が降っているから消えてしまう。
それに一番の問題だと思っている食料。

家に全部あったからどうにもできないな……

問題が色々と発生し、悩んでいると頭がふらっとした。
そのまま目眩がして倒れ込んでしまう。

体が重い……

貴族に家を燃やされたこと。
火を消すために頭や体を働かせていたこと。無意識に疲れが溜まっていたのだろう。

倒れたまま、だんだんまぶたが重くなる。
全身の力が抜けて寝入ってしまった。


気づくと日は出ていないがあたりは明るくなっていた。

5時くらいかな……


目が覚めると昨日の出来事は夢じゃなかったということを実感した。
家がやっぱり黒い。
雨は止み、余計に火事の被害がわかる。

起きると川で顔を洗い、食料問題をどうにか改善しようとする。どこかにすこしでも余ってないかと家中を探し回った。

それは奇跡のように存在していた。

火事を早く鎮火できたことで近くにある小さな倉庫が無事だった。
その中には食料もある。

とは言っても、食料は少ない。
やりくりして一ヶ月もつか持たないかくらいの量しかない。
もしセクアナが帰ってきたら二週間……

一日一食くらいにしたら二ヶ月もつか……
そんな生活で僕の体は健康で保てるのか……

まだお金をどうやって稼ぐのかわからず焦りや不安がだんだん高まっていく。

もういっそ家も燃えてしまったし、一人でどこかへ旅にでも出ようかな。
僕がいなくなればセクアナが苦しむこともないし……

そんな考えも浮かんだが、唯一の家族と離れる勇気がなかった。

差し詰め、今を生きるために食料を探すことにした。

帰ってきたセクアナに心配されるのはいけないからな。暴走した僕を助けてくれたし。

僕は山に登った。

ここは大自然。
動物や果物がたくさんある。
何かはあるだろう。
自分に言い聞かせながら奥深くまで探し回った。

成果は木の実数個。

これから空腹と戦う日々が続く現実を思い知らされた……


今日も学校の教室で一人。
ひっそりと過ごす。

ついでにいいニュースも。

セクアナが元気になり、久しぶりに学校へ来ていた。
セクアナはみんなを助けたヒーローだ。だから学校にきたら、さまざまな人達に感謝されていた。

教室に登場して、しばらくは凄まじい歓声だった。

「わーー、すごい。やっと元気になってきてくれた!」
「僕達の誇りだね!」
「自分の限界を感じながらもみんなを助けるなんて、まるで女神様だね!」

たくさんの人達がセクアナの方へ集まって褒め称えた。
この光景にはセクアナも驚いていた。
たくさんの人達の中心にいることもあり、顔を赤面しながら、とても喜んでいた。

歓声のピークが終わるとみんな席に戻ろうと後ろを振り向いた。

大体の人達は僕と目が合う。
今まで目をキラキラしてセクアナのところにいた人達の目は、急変する。

「あっ……目が合ってしまったよ」
「どうしよう……私、呪われたかもしれない」
「同じ兄弟なのにセクアナちゃんと比べてあいつは出来損ないだな!」

小さな声で陰口を言われ、いまさっきの歓声が夢だったかのように一気に静かになった。

苦しい空間だ。

「トモヤ! 久しぶ……」
「ねぇ! セクアナ。あっちでみんなと遊ばない?」
僕に話しかけようとしたが、友達によって遮られた。

すこし前まではセクアナの横の席だったが、休んでいる間に席替えがあって、僕は端。
セクアナは反対の席になり、離れた。

学校では常に友達に囲まれていることや、家にまだ帰ってこないこともあり、喋る機会がほとんどなかった。

今日も一人だから足早に家に帰ろうとする。


帰宅するといつもよりサバイバルな生活をしていた。

簡単な魔法の修行をしたら、食料探しのために森へ入るのが最近の日課だ。

一応、修行にもなる。
森の中は障害物がたくさんあるからだ。
草木を退けるためにも木刀で切って進んだり、不安定な地面を踏みしめてどんな体勢でも攻撃できるようにしたり。

夜まで念入りに潜った。

だけど、収穫は木の実を10個くらい。
この事実はさすがにきつい。

家事全般は母に教えてもらったから、一人暮らしはちゃんとできる。

ご飯の炊き方だけはマスターしているつもり……

だけど、家事ができても無意味と思えるほど食べ物がない。
サバイバルはそこまで学ばなかったので余計に深刻だ。

そんな中だからこそ、子どもの頃に作っていた工作がとても役立っている。
特に懐中電灯は魔石がない今、とても嬉しい道具だ。

暗い夜もこれで明るくなる。

その光を見ながら今日の成果を自分なりに反省する。

この生活をこれからもっとより良くしないといけない。
セクアナに心配かけないためにも。

目の前の晩ご飯はおにぎり1つと、見つけた木の実……それぞれをしっかり噛んで蓄えた。

悪態をつきながら、耐える。


明日も忙しい。
食事が終わると、すぐに寝た。



約一週間が過ぎた頃、体が痩せた。
顔色も悪く、空腹を凌ぐ日々。

とても大変だということを痛感した。


「ううぅぅ……お腹すいた……」

今までより顔色が悪くなり、お腹が空いてちゃんと眠れない。
目次が悪くなったから、今まで以上に僕は恐れられた。

「ひっ!?」
「きたよ……あんな怖い目つき絶対危ない」
「早く逃げよ近づくとたらダメだよ」

足早に逃げていき力強く教室のドアを閉めた。
まるで入ってくるな、近づくなと言っているように。

(はぁ、苦しい……)

一人で過ごすようになってからストレスや不満がだんだん積もってきている気がする。

今日までどうにか耐え忍んでいた。
耐えようと努力していた。

すべてはセクアナが帰ってきて心配させないために。

また一緒に暮らせる、そう信じていた。

ただ、それはで幻想でしかない。

今まで積もってきたストレスや不満。
空腹による苦痛。
その抑えていた憎しみの感情は、ある光景を見て抑えきれなくなった……




今日は日直ということで、いつもより帰りは遅くなった。

しんどいし、ゆっくり帰ろう。
綺麗な夕暮れの中、そんなことを考えながら歩いていた。

「じゃあ、この馬車に乗れ!」
「はい、わかりました!」

夕暮れに見惚れていると、聞くだけで吐き気がする、カールの声が聞こえた。


ああ、立派な馬車で学校までお迎えですか。いいですね、貴族は楽ができて。
どうせ夜はたくさんの豪華な食事が並んでお腹いっぱい食べれるんだよな……

愚痴をこぼすことで自分の黒い感情を抑えることができた。

え?

ふと、貴族の乗ろうとしている馬車が気になり始める。
カール以外に聞き覚えのある、いや、いつも横にいてくれた大切な人の声が……

「わざわざありがとうございます、貴族様。この私がこんな綺麗な馬車に乗ってもよろしいのですか?」
「ああ、お前には大切な用事がある。いいから乗れ」
「またまた、大切な用事だなんて嬉しいな」

セクアナは笑っていた。楽しそうにカールと話していた。
頭が混乱して、しばらくこの状況を理解できなかった。

「うっ……嘘だろセクアナ……」

そんな声も届かず嬉しそうに馬車に乗って行ってしまった。


何で……何であんな奴に笑顔でついていけるんだ!

友達を、お母さんを、思い出の詰まった家を、僕の全てを奪ったクズな奴らにどうして……

まさかお前も僕を裏切るのか。

いや違う。
僕は信じていたセクアナにも裏切られたんだ。

この思いが強くなるにつれ、あの時のように魔法が暴走しそうになる……

はぁはぁ……落ち着け! 

また同じような事故を繰り返すな!

自分の存在が危険と感じて、すぐに学校を離れた。
森の奥へ奥へと走りる。


くそっ、くそおぉぉぉぉぉ!!

ドカッン! ビリビリ!


感情が高まり、森の奥で真上に向かって特大の雷を打ち上げた。
山奥で誰にもバレないとは思うが危なかった。

何かをぶっ放して気持ちが落ち着いたが、セクアナのあの表情を忘れられず、怒りの感情が湧く。

信じてたのに……ずっと信じてたのに!

あの言葉も嘘だっんだな。
この世界を救う……何が女神だ。
権力に屈して結局誰も助けない、臆病者が!

ああ……もう誰も信用できない。
この時、僕は目つきを変えてこの世界、全てを憎むようになった。




私は学校が終わった後、呼ばれた。
隣の、1つ上の学年に君臨するカールさんにだ。

呼ばれた時は、また何かされると思った。
正直怖かった。
それでも無視すると、もっと酷いことをされるので勇気を出して会いにいく。

誰もいない放課後の静かな教室の中、カールさんと、執事の2人がいた。

カールは静かに座って外の眺めを見ている。その横にはきれいな姿勢で立つ従者の方。
どんな要求でもすぐにこなせるような体勢でした。

「すいません……その、話とは何でしょうか……」

「ふんっ、やっときたか。俺の父上がお前に話があるようだからすぐについてこい」
「はい……わかりました」

それだけ言い終わると、足早に教室を出ていかれた。

横からは執事が私の方に歩み寄って、
「では、私についてきてください。校門の方に馬車の迎えが来ていますのでそちらにお乗りください」

お行儀が良く丁寧に教えてくれた。
声はとても優しい。

それぞれが教室を出ていくと安堵する自分がいた。

「よかった何もされなかった……」
思わず声が漏れる。

話によればカールさんについていくだけのようだった……

ん?
この話だと今から貴族様の屋敷に行くのかな?

一瞬、恐怖を覚えた。
あれだけ酷い目に遭わされたから、当然です。

それと同時に、私はチャンスとも捉えていた。

貴族様でも、少しは優しい心を持っている。
一市民として意見を言ったら改善してくれるかもしれない。
トモヤへの差別をなくせる可能性だってある。
この誘いは、私たちの暮らしを変えることのできる光だ。

途中からは恐怖など微塵もなくなり、自然と明るくなっていた。


しかし、彼らの所業を許したわけではない。
むしろ許すことなどできない。
私の大切な友達を傷つけた。
本当は怒ってちゃんと謝ってもらいたい。

色々やってもらいたいことはある。
その中でまずは、トモヤを今の状況から解放してもらわないと。

また、家族三人で楽しく笑い合いたいからね……


覚悟を決めて、生き生きと振る舞った。

「わざわざありがとうございます、貴族様。この私が、こんなきれいな馬車に乗ってもよろしいのですか?」
「ああ、お前には大切な用事がある。いいから乗れ」
「またまた大切な用事なんて嬉しいな」

こうして私は馬車に乗り、貴族の屋敷に向かった。


「うわぁー!」

実際に近くで見てみると、とても大きな屋敷だ。それに自然の森が程よく合わさっていて綺麗だ。
何より、庭の広さと植物に施されているアートがとても強い印象を与えている。

それとは裏腹に、ここへ来るまで、とても大変そうに仕事をしている人たちを見た。
美しい景色の中にこの国の暗い現状に目を背きたくなる。

「カール様、セクアナ様、屋敷につきました。どうぞおりてください」
馬車が止まると、執事の方はドアを開けて礼をされている。

「じい、ご苦労」
「はい、では私はハンダン様に来られたことをお伝えに参ります」

執事はすぐ中へ入っていかれた。

私はカールさんの後ろをついていく。

薄暗い廊下には赤い絨毯。壁には美しい絵が飾られていた。
まるでお姫様になったやうな気分で興奮していた。

ただ、今の二人っきりはすこし気まずいな。何も話せない。

だんだん歩いていくと大きな扉があった。
カールさんは勢いよくそれを開ける。

「父上! 今帰りました」
「おお、そうかそうか。ちゃんと言った通りに連れてきてくれたな」

中はとても広い部屋になっていた。
窓もいっぱいついて、太陽の光が入ってとても明るい。

貴族様は玉座に偉そうに座っていた。

「よく来てくれた……確か、セクアナと言ったか?」
「はい、セクアナです」
貴族様の前まで来るとひざまずいた。

「あの、貴族様……出会っていきなりこういうことを言うのも失礼なのですが、トモヤへの差別をやめてもらえませんか?」

怖い、一番の権力を持っている方が目の前にいる。
手を見ると、震えていた。

それでもはっきりと私は貴族様に言う。

「こら! お前いきなりお父様に向かって何を言う、失礼だろう!」
怒鳴ってカールは私の方へ近づいてきた。

うっ、どうしよう……攻めすぎた……

「カール! すこし落ち着け。
ワシは怒ってなどいない」
「そ、そうですか。すいませんお父様。すこし黙っておきます……」

カールさんが引き下がる。

貴族様は改めて私をまっすぐ見て、ニヤリと歯を出す。

「今、お前は差別をやめてほしいと言ったな。その答えはお前の答え次第で変わってくる」
「私の答え……ですか?」
「そうだ、フフフ」

不気味な笑みだった。

今まで一応優しくしてくれていたが、態度変わる。
この顔はカールがホノカ達を酷い目にあわせた人たちと同じ顔だ。

「あの、トモヤに何かしましたか?」
「ふんっ、そうかお前はまだ、あの悪魔がどんな状態か知らなかったようだな。
ならば教えてやろう。

まず、お前の家はこのワシが燃やした。今は跡形もなく消えておる。
次にお前の母は仕事のやり過ぎによって病気で倒れた。確か、変な魔道具で今は父のところに転移したらしいが、その後どうなったかはわからんな。

最後はあの悪魔だ!

この出来事を一人で受け止めているようだ。
フフフ、フハハハハハ!

あの悪魔が、苦しんでいるところを想像するだけで笑いが止まらないな! 無様な生き方だ、なぜあんな奴がこの世に生まれてきたのか理解できん!」

「えっ……」
この言葉を聞いて、固まっていた。

トモヤの苦しみを考えると胸が苦しくなった。いや、苦しいどころでは表せない感情だと思う。

ずっと一人で、母との別れや家が焼けたことを耐えている。
私がチヤホヤされている間に。

激しい後悔が押し寄せた。

私はトモヤを信じるとか言いながら一番苦しい時に何もできなかった。

悔しい……

「なんだその、目は? 言いたいことでもあるのか?」

まるで当然のことのように貴族様ら笑っていた。

頭に血が登った。

分からない分からない……
同じ人間なのになんて残虐なことをするの。

絶対に貴族様を許せない。
でもそれを気づけなかった、助けることをできなかった自分も許せなかった。


「そこで話の続きだ。お前、わしの女にならないか?」

その発言にさらに怒りが増す。

「まさか……そのためにここまでトモヤを、お母さんを苦しめたんですか? 私をあなたの妻にするためだけに!」

「ああ、そうだ。お前がワシの女になるなら、悪魔を不自由なく暮らせるようにしてやろう。離れた地域に行くが、ちゃんと召使をつけて家にも困らせない。差別も受けない。いい話だろう?
どうだ、お前の答え次第で、変わってくるのだ」
笑みを浮かべて私に提案してきた。

その提案に私の心は動かされた。私さえ犠牲になったらトモヤは苦しい思いもせず、暮らしていける……

「すこし考えさせてください!」

私はそう言って貴族の返答も聞かず、部屋を出ていった。そして、一番相談しないといけない相手のもとへ全力で走っていった。




家に帰ったが、黒い感情が抑えきれなくていつも寝ている草原に寝転んで心を落ち着かせようとしている。
なんで、どうして。

今まで貴族にされてきたことが何度も頭の中に浮かんでくる。

苦しい、しんどい、心が壊れそうだ。

一人で黒い感情と戦う。

ストレスで怒りがピークの時、タイミングが悪く、セクアナが帰ってきた。

「……トモヤ……大丈夫?」
汗をかきながら、立ち止まって荒い呼吸をしていた。
久しぶりに話せた。
だけどそんなこと関係ない。
こいつは大事な時、いつも助けてくれない。

挙句、裏切り。

今更戻ってきたことにとてつもない怒りが芽生えた。

「なんで……戻ってきたんだよ……今更、何しに戻ってきてんだよ!」

黒い感情が暴走して、恨みや苦しみ、怒りを全てセクアナにぶつける。

ここまで怒鳴ったことは今までになくてセクアナは戸惑っていた。

また、僕を哀れむ目で見てくる。
やめてくれ、もうそんな目をしないでくれ。

「ごめんね。何もしてあげられなくて……」

ごめんね?

そんな簡単な言葉で終わらそうとしていることに憤怒する。

僕はセクアナを強く睨んだ。

「そんな簡単な言葉で許せるわけないだろ!!」

大きな声を張り上げたこともあり、セクアナは体を縮こめていた。

「お前が眠っている間、お母さんがどれだけ苦しんでいたかわかるか!
重労働で無理をして重い病気にかかったんだぞ! 
僕達が苦しい思いをしている時に、セクアナは呑気にヒーローとして讃えられていいよな!
挙句、僕の全てを奪ったあのクズ達のところへほいほいとついていって……あんたも変わったな!」

ふざけるなよ。
苦しい思いをしている中、僕とは対照的にみんなから褒め讃えられて、クズと仲良く話している。

僕がどれだけ悲しんで、苦しんで、喉がはりさけるくらい叫んだか……
こんなボンボンには分からない。

「違う……私は貴族達を許せるわけない!」

「ふん、どうだか……それも演技だったりするんだろ! どれだけあいつらの嘘の演技を見てきたか。
騙されて挙げ句の果て、この状況だ!」

安心させられた後、何度も騙された。
家も燃やされ、母も傷つけた。

「お願い! どうか私を信じてくれない?」
祈るようなポーズをしてこちらを見つめている。

「信じられるわけないだろ!
どうせあれだろ……貴族達から負け犬のツラを拝んでこいって頼まれてんだろ!
ほら、正直に言えよ! 
もうわかってんだよ!
どうせ全ての奴に憎まれる存在だってことを!」
「絶対そんなことはないよ、信じて……」

もう飽きた。
セクアナの演技に飽きて、いってはいけないことを言う。

「何が女神だ!
こんな世界に連れてきて、何もできてないじゃないか、この役立たず……この役立たず!もういいよ、お前の顔なんて見たくない……出ていってくれ……」

僕は貴族の屋敷がある方を指差して繰り返し言う。

「出て行けよ!!」

「もう私のこと、名前で呼んでくれないんだね……
うん、そうだよ、全部、私のせいだもんね……トモヤ、もうこんな思いしないようになるから!」

ずっと怒っていたこともあり、なんて言っているかわからなかった。
セクアナから一粒の涙がこぼれた気配を感じる。

あっ……

言いすぎたことを謝るために顔を上げると、セクアナは駆け出して、その姿はだんだん遠くなっていく。

ああ、言ってしまった……

自分のことが大っ嫌いになる。

今、セクアナに言ったことは全て自分のせいでなっている。

仲間を助けることを軽はずみに考えて貴族に雷魔法を操ることを知られた。

自分の心を押さえきれずに魔法が暴走してしまった。それによってたくさんの人を傷つけて、母にも迷惑をかけた。
大切に僕を育ててくれた母に、何もできずにお別れしてしまった。
重労働をさせて、病気にかかったのも僕が母の子どもだったせい。

全て自分のせいなのに、セクアナへ溜まっていた怒りをぶつけてしまった。
酷い言葉を言ってしまった。
もう会えないかもしれない。

なにより、軽はずみにこの世界に来てしまったこと。ただ雷魔法に憧れる、それだけの思いで、この世界に来てしまった。
そこから僕は間違っていたんだ。

結果、僕は何もできず、ただ迷惑をかけて終わるだけ。

トモヤという人間はそんな軽くて浅はか人間だ。

「くそっ! 自分のことが大っ嫌いだ!!」

拳を強く握りしめ、何度も何度も地面を殴った。

「くそっ、くそっ! くそおおぉぉ!」

僕は最終的に疲れ果て、地面の上に倒れ込んだ。
もう日は沈み、気づくと夜になっていた。空も曇り、星や月も見えず懐中電灯をつけないと本当に真っ暗だった。
今の僕の気持ちを表しているようだ。

はぁはぁ、しんどい、熱い、気持ち悪い、お腹すいた。

ああ、一人だ……
苦しい……

腹ごしらえを済ますためにおにぎりを一つ、昨日作っていた分を取ってきた。

これからどうしようか……
いっそ、もう死んでしまおうかな。

そんなことを考えていると、森の奥からドサっと何かが倒れた音がした。

何かと思い、音のした方へ近づくと大人の女性が倒れていた。

とても美しかった。

真っ白の髪が真っ直ぐストレートに伸びている。とても柔らかな優しそうな瞳が僕の目を見ていた。
まるで黒い感情が消えていくような優しそうな目。
服は、綺麗な純白の羽織を着ている。
身長は普通の女性と比べると高いと思う。
僕と同じくらいか、すこし高いくらいだった。

僕と目が合うとその女性は腕を組んで立った。

「ふっふん……あれ?」

堂々としていたが僕の反応を見ると、人差し指を顔につけて首を傾けていた。

どうしたんだろう、いきなり堂々と立って。

始めは大丈夫かと心配はした。だけど、元気そうに立っているのを確認すると、たぶん、怪我はないだろう。

僕はその女性を無視してご飯を作るために帰ろうとした。

「すいません……無視しないでください~~~」
柔らかい口調でそう言って僕の方へ近づいてきた。

「何! なんか用ですか? 僕は忙しいので後にしてもらえますか!」
強い口調で話し、帰ろうとすると腕を掴まれて静止させられた。

「あの……私、一応貴族で、六大天という魔法騎士なんですが~~~」
「は?」

こいつは何を言っているんだと思い、疑いの目を向けていた。

「この国を守るためにも、食料と灯りになる魔石を恵んでくださいませんか?」
「ごめんなさい、今はそんな余裕がないので、他をあたってください」

僕はそう言って足早に帰っていった。

家に戻り食事をしようとすると、またあの人の声が聞こえた。

「誰か~~~助けてください~~~」
何度も叫んでいた。
すぐにやめて帰ると思って、明日の準備をする。


--20分後--

「誰か~~~助けてください~~~」

20分間この声を聞いていた。
流石に我慢の限界がきて、女性の元まで行く。
今日一日分のおにぎりと、唯一の明かりである懐中電灯を渡した。
充電は満タンだから一週間くらいは持つだろう。

「これを持ってさっさとどこかへ行ってください!」

それだけ渡すと帰ろうとした。でもまた腕を掴まれて止められる。
意外に力が強くて引き剥がせない。

「少年、君はとてもやさぐれているようだけど何かあったのかな~~? お礼にお姉さんが聞いてあげるよ」
「いえ、おばさんに話すことは何もありません」

「うわぁ! 今、おばさんって言いましたよね! こんなこと生まれて初めて言われましたよ! 一応、私は貴族様なんですよ!」

「はいはい、貴族ですね……」

「絶対信じていないでしょ! ここまで貶す人、初めて出会いましたよ! 
あぁ、もういいから話しなさい、少しは楽になると思いますよ!」

少し迷った。
もう死んでしまおうと考えているし、最後に聞いてもらおうかな……

「もし存在するだけでたくさんの人達に嫌われて、家族や友達にまで迷惑をかける人がいたらその人は、死んだ方がいいでしょうか?」

「うーーん……そんな風には思わないね~~    たんさんの人に迷惑をかける。たくさんの人に嫌われる。
そんな中でも、死んでしまったら悲しむ人は必ずいるはずよ。
もし死んだら、愛してくれた人達はとっても苦しからね。
死ぬってことはとっても悲しいことなのよ」

ふわふわしたイメージだったがちゃんとしたことを言ってくれて心に響いた。

「まともなこと言ってる……」
小さな声で言うと、どうやらそれが聞こえたようで。
とても怒られた。

「またそんなこと言う! 私、貴族なんですよ! 
本当に初めてだよこんな失礼な人!」

まぁ、無関心だったので適当に「はいはい」と頷いてあしらった。

「君みたいな若者にはわからないと思うけど、死っていうのは本当に恐ろしいことだよ……」
この一言は鋭い目つきで言われた。

この言葉で心にぐっと刺さり、自殺しようと思う心は無くなっていた。

「あっ! 私そろそろ任務に行かないと~~~    少年、食料と灯りありがとう! また会おうね!」

そう言ってゆっくりと歩いて消えていった。

あのおばさんと話して場が和んだ。

そう思っているのも束の間、一人になると、とても静かだった。
懐中電灯も渡したし、周りも真っ暗だ。

どっと疲れが押し寄せたので僕はそのまま寝た。


セクアナに酷いことを言ってしまった。もう戻ってこないかもしれない。でも、もし、もう一度会いに来てくれたなら仲直りをしたい……
もし裏切っていたとしても、今までの感謝を伝えたいな。

真っ暗な夜の中でも心は落ち着いて、いつものようになっていた。





数日が過ぎて私はまた貴族の屋敷に足を踏み入れていた。

悔しい、許せない、そんな気持ちでいっぱいだったが、押し殺して笑顔で言った。

「あの時の提案、どうか受けさせてください!」
「ほう、そうか! いい返事が聞けると思っていた」

トモヤはとても苦しんでいた。あんな怒鳴る姿をみたことがない。
私がこの世界に転生してしまったからこんなことになってしまった……

「せめて最後にトモヤと会わしてください」

「フフフ、そうか。最後くらいお別れをさしてやろう。そうだな、家族に挨拶をしないとな。ハッハハ!」

そう言って馬車を出し、貴族様もついてきた。

家の近くまでつくと馬車が止まり、私と貴族の二人が降りた。

前、帰った時は暗くてよく見えなかったが、家は黒こげになって、潰れている。
その近くにはトモヤが汗まみれで休憩のためか座っていた。

会うの、怖いな……
あんなことを言われたし……

だけど必死なトモヤを見ていると変わった。

胸の前に拳を握る。
勇気を出してトモヤを呼んだ。

私に気づいた時、前とは違って表情が明るくなっていた。
でも後ろに控えている貴族を見ると、浮かない顔になる。

「少し二人で話させてください……」
そう言って貴族から離れて二人っきりになる。






「その……あの時は、僕がおかしくなっていて、酷いことを言ってしまいました。ごめんなさい……」

丁寧に頭を下げた。

こんなことで許してもらえるとは思っていない。
僕は何を言われても耐えるために目を強く瞑る。

「うん……全然いいよ。あんなことで嫌いになんてならない」

許してもらえるとは思わず、僕は大きく目を見開いた。

「それより今日は大切な話があってここへきたんだ」

仲直りができたことに正直、もっと明るくなりたかった。
だけど深刻そうなセクアナの顔を見て、何も発せられなかった。

「うっ……うん。大切な話って?」

ごくりと唾を飲む。

「それがね、私は貴族様の妻の一人なるんだ! めでたいでしょ!」
「えっ?」

僕は混乱した。仲直りが無事できて嬉しかった。
しかし、セクアナは貴族の妻になる。
そのことを聞くと、頭が真っ白になった。

「え、何言ってるの? うっ……嘘だよね? そんなことないよね!」

「全部、本当のことだよ。私が貴族様の妻になったらトモヤは今までのように苦しい思いをしなくて済むよ。召使や家を用意してくださるし。
本当は私がそばにいてサタンを倒して欲しかったけど……今日からお別れだね」

「そっ、そんなの絶対嘘に決まっている! 今までずっと騙されてきたじゃないか、そんなの信じちゃダメだ!」

「ちゃんと用意できている実物を見に行ったよ。家もあって誰にも邪魔されない山の中。執事の方もおられるし、嫌な思いをした貴族様とも離れられるよ。平和で自然も豊か。
トモヤにぴったりなところだよ!
だから安心して!」

言い終わるとしばらくの沈黙が訪れた。

明るく笑顔で言っていたが、セクアナの手を見ると震えていた。

これで最後……?

「おい! もういいか、そろそろ行くぞ!」
あのクソ野郎の声が聞こえたと同時にセクアナが離れていく。

「バイバイ! 今までありがとう!」

セクアナは震えた手を横に振る。
顔もひくつかせていた。

無理をしている。

「ちょっと待っ……うっ!?」

こんな時につまずいてこけてしまった。

手を握ろうとしたが、掴めずだんだん離れていく。

待って、待って、待って!

また僕は助けることができなかったのか……
セクアナも母と同じように、自分を犠牲にして僕を助けてくれる。

そんなの嫌だ!

もう母と同じ思いをさせたくない。

遅れて走ると馬車はすぐ近くまで来ていた。

貴族とセクアナはすぐに乗り込み、止める間もなく、出発する。

この世界は力が全て。
強いものが勝ち弱いものが負ける弱肉強食。

その考えが頭に浮かんで、ある決意をした。


馬が速いスピードで走っていく。
距離は相当あった。

だけどまだ間に合う。 

僕は諦めず、追いかけた。
体勢が整った時、魔法を使う。

「電気ショック!!」

光のように早く雷は飛んでいき、狙い通り馬の足に当たった。

少量の電気だったこともあり、馬の足が痺れて馬車が止まった。

この隙に一気に距離を詰める。

馬が止まり、何事かと家来達は外に出る。

しばらく馬車は動かないだろう。

僕はこのチャンスを逃さない。

全力で走って追いつく。

「クッ!? なんだ、なぜ悪魔がここにいる!」
少し怯えたように家来達は僕を睨む。
セクアナも驚いていた。

「決闘……」
「セクアナを返してもらうため、一対一の決闘を申し込む!!」

鋭い目つきで言う

当然のように周りの人たちに笑われた。

「貴様。このわしに向かって何を言っている? もし決闘してお前が負けたら何をもらえるのだ、ハッハハハハ!
冗談もほどほどにしろよ!
こちらにいい条件がない限り、その決闘は無意味だろう。
さぁこの馬鹿げた悪魔を連れて行け!」
「はっ!」

そして兵士達が僕を囲んだ時、手を前に出した。
その行動に兵士達は動きを止める。

「待て、まだ話は終わっていない!
もし僕が負けたら、僕自身をくれてやる!
僕を奴隷にするなり、拷問をしたり、お前の喜ぶことをなんでも受けよう!」

「ダメ! そんなことに手を出さないで!
私は自分から望んでやっているの、だからやめて!」

何かセクアナが言っているが僕の耳に入ってこない。
今はただ一点、貴様だけを見て返答を待っていた。

「……ふん、いいだろう。その決闘、私が認めてやろう」

少し考えた末、決闘が認められた。

「それまでこの娘は預かる。また後日決闘の日時を伝えに使者を送ろう。だが、お前と戦うのはうちの最強の戦士、魔法騎士であるゲンブ・フライグだ!
せいぜい頑張れよ」

「望むところだ!」

この言葉を交わすと、馬車に乗り貴族達は帰って行った……

負けたらそこで僕の全人生が終わることになる。
僕の命をかける決闘が始まるのである。






































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