雷魔法が最弱の世界

ともとも

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異世界

聞きたかった言葉

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日差しが真上に登る頃、僕は必死に修行をしていた。
セクアナを絶対に取り戻す。
強い信念を胸に刻んでやっている。
今まで鍛えてきた筋トレも自分を追い詰めるためにハードになった。

それに加えて、魔法の細かい操作や戦いに使える魔法の整理も。

今思うとちゃんとした対人戦は初めてだ。
しかも決闘する相手があのゲンブ。

少し前に大魔法をぶつけられてカナメと二人で大火傷を負った思い出が蘇る。

普通なら勝てないよな……

少しネガティブになっていたが、母の教えや、セクアナに同じ思いをしてほしくないという強い意志で頑張れた。


負けたら、貴族の奴隷。
勝ってもここまで問題を起こせば、貴族が簡単に逃してくれるなんてありえない。

この二つの理由から、決闘後、この家を出ると決めている。

あと数日で僕の全人生をかけた決闘が開催される。
だから力をつけるためにも食事制限はせず、お腹いっぱいに食べることにした。

すぐに決闘があるから食料に心配する必要はないだろう。

修行にひと段落つき、昼食を食べようとしていた。
すると近くから馬の走る音が聞こえる。

大きな馬の上に、いつも貴族の世話をしている執事が乗っていた。僕を見つけるなり、こちらに寄る。
手には何か持っていて、それを渡された。

「これはハンダン様からの手紙です。決闘の詳細はここに書いてありますのでお読みください」
手紙を僕に渡すと、すぐに執事は帰っていかれた。

なぜそんなに急いでいるのだろう……
何かと大変そうだな。

そんなことを思いながら手紙を開く。
お金持ちということもあり、真っ白で、すべすべのきれいな紙に黒色の筆で書かれていた。

書いてある内容はこうだ。

決闘は一週間後の夜。
場所は貴族の家の中庭。

とても重要な戦いだけど、ウキウキしていた。
ダメだなこんな心じゃ。

ルール
相手が降参、または戦闘不能の状態になると勝ち。
一対一の決闘。
武器は使用可能で、安全面を考えて硬さはそのままで切れないように魔法をかける。もし木や鉄の棒などの切れない武器なら魔法はかけない。
正々堂々と戦こと。

以上。

短い説明だったので不安な気持ちになったが、決闘が近づいていることを意識させられて勇気が出てきた。

「よし、やるぞ!」
拳を握り勢いよく立ち上がる。

久しぶりにお腹いっぱいご飯を食べれた。こんなにも食事が美味しいと感じたのは初めてだ。
あまりの感動で涙が出そうになった。

腹ごしらえを終えると、また無茶なトレーニングや魔法の修行を続けた。


すっかり時が経ち運命の決戦の日になった。

最後は山の奥にある滝に打たれる滝行。

さまざまな気持ちがある中、心を落ち着かせて決闘するためや、目的達成を神に祈るためにとっておきの修行だ。
と、言っても最近までその神様と一緒に暮らしていたんだけどな……

強い水流で痛いし冷たかった。

代わり、その修行が終わると心が落ち着いていて今までの疲れが吹っ飛んだ気がした。

まるで今まで抱えてきた全ての問題から解放されるような……
まぁ、問題が解決していないから今困っているんだけど……

精神を落ち着かせ、お腹いっぱい、ご飯を食べてこの家を発つ。



町、決闘という田舎では滅多にないイベントに賑わっていた。

建物や柱には布のようなものが垂れ下がっており、たくさんの屋台が並んでいた。
一応、僕は姿を見られるだけでも怖がられるから顔に布を巻いてバレないようにしている。

だからこそ、あまり聴きたくない言葉も耳に入るようで、
「まあぁー。あの悪魔が貴族様と決闘! 頭までおかしい子よね」

「しかも戦う相手があのゲンブ様って無理な戦いに挑む馬鹿だわ」
「ええ、無茶よ。この決闘であの悪魔も痛い目を見るといいわ」

三、四人のお母さん方が話していた。
この人たちだけじゃない。他にも屋敷に行く途中でたくさんの陰口を聞いた。

家から1時間くらいかな……
それくらいかけてやっと屋敷に到着する。
着くとすぐに門は開かれて、庭に入った。


「うわぁ!」
壮大な景色に声が出る。

庭がとにかく広い。
屋敷まで100メートルほどの長い道が続いていた。
貴族は馬車をつかっているから楽かもしれないけど、歩くのは疲れる。

やっとの思いで玄関まで行くと何人かの執事とメイドが出てきた。

「トモヤ様、ここまでの道のり誠にご苦労様でした。まだ時間はありますのでゆっくりと決闘の準備をしてください」

そう言われて、僕は武器があるという部屋へ連れて行かれた。
「ここで準備をなさってください」

礼をするとゆっくりと歩いていかれた。


正直、この部屋を見てまた驚いた。

連れられた場所は巨大な武器庫。
剣や鎧が何百種類も並べられている。

「わっ! かっこいい!」

目をキラキラ光らせながら、たくさんのものを試着しては脱いでを繰り返していた。

男の子ですもの。
誰でも興味を持ちますよ。

「すげぇぇー! こんなに武器がある。どれを使おうかな!」

鎧の試着も済ませ、次は武器に目をやる。
刀や槍、弓矢などの基本的な武器はもちろん、特殊な武器もあった。鎖鎌やギザギザの形をした剣、ついで死神が持ってそうな巨大な鎌。

ここは男のロマンが詰まっている部屋と言える。

しばらく考えた結果、装備したのは動きやすくするために、軽いものを選んだ。

防具は光が跳ね返るほどきらめいている、銀色の胸当て。硬いわりに、とても軽い装備で動きやすかった。

いっぱいありすぎて最初は困っていたけど、ちゃんとしたものが見つかってよかった!

次に武器。
1メートルくらいの真っ直ぐ伸びた剣。
これくらいのサイズが、昔から振って木刀と似ていた。
だから扱いやすい。

装備も決まり、控え室のようなところで待っていた。十畳程度の広さ。

周りは石造り。
正面には石に彫刻が施されている豪華ドア。このドアを開けると勝負をする会場の中庭に出るのだろう。
雰囲気が他と比べ物にならない。


あと三十分くらいか……

時間が経つに連れて緊張感が高まっていく。

バタン!

力強くドアが開けられた。
僕の前にはフードを深くかぶって魔術師のような人が現れる。

「そろそろ時間でございます。装備、武器の点検を今からしますので立ってもらえますか?」
そう言われて僕が立つと軽く一回りして、終わった。

最後に僕が持っていた剣に魔法をかけていた。たぶん切れないようにするための魔法だろう。不思議な魔法もあるんだな。

そんなことを思っていると目の前のドアが開かれる。

「さあ、どうぞ」

魔術師が手を出して催促する。

僕は一呼吸おくと、進み始めた。

絶対負けない、必ずセクアナを取り戻す。

僕は決戦の地へと足を踏み入れた。



暗い石の階段を登ると、眩しい光が入ってくる。
登り切ると多くの歓声がある中心に僕は立っていた。

二階からたくさんの観客が見ている。祭後の最終イベントとして楽しみにしている。

少し上を見ると、貴族のおじさんにカールが座っている。僕が負けて苦しむ姿を楽しむためか、にやけている。
僕が無様に負ける瞬間を楽しもうとしているのだ。

飛んだクソ野郎だ。

その横ではセクアナが心配そうに見守っていた。


小さな足音とともにゲンブが登場する。
貴族の護衛に魔法騎士、そんな肩書きを持っているなら完成など起こらないはずもなく。

「うおおぉぉぉぉぉ!!」
「とうとう来てくれたぞ!」
「私達の希望の魔法騎士様よ!」

この大きな声に地面が揺らいだ。

現れたゲンブは、大きな黒いマントを着ている。防具をしているのか、武器を持っているのか、その全てが謎だ。
改めて目の前にすると僕よりも筋肉があり、身長も高い。

とても屈強だ。

「お集まりの皆さん。とうとうこの日がやってきました! この決闘にゲンブ様が勝ったなら、いつも我らが恐れている悪魔が貴族様の家来になる。もう私達が恐れることはありません!」

大きな声が響いた。
魔石のような物がマイクの代わりとなっている。


司会はたくさんの聴衆がいる中で始めから貶してきた。
その言葉と同時に町の人たちが僕への不満をぶちまけてきた。

「そうだ、早く負けて貴族様の家来になれ」
「早く負けろ!」
「どうせ悪魔なんてゲンブ様にかかればすぐ負けるんだ」
「俺の息子によくも怪我を負わせたな! 痛めつけられろ」

物を投げられることはなかったが、たくさんの罵声を浴びせられた。

クソ! お前らまで僕を差別するのか。

セクアナを救おうと思っていた心がだんだん怒りに変わる。

「静まれ!」

司会の一言で中庭は静まり返った。

「では、今から魔法騎士であるゲンブとトモヤによる決闘を行う。どちらかが負けを認めるか、気絶させたことによって勝敗が決まる」

僕は剣を片手に持って、ゲンブは・・・大きなマントをしているからどんな構えをしているのかわからない。
だが、堂々と立っていた。

普通に無口だから何を考えているかもわからない。

と、思い込んでいると、低くて男らしい声でゲンブは喋り始めた。
「そなたはトモヤと言ったか……お前には期待などしておらん。確か、一度会ったことがあったよな」

「は……はい……」

「あの時はすぐに逃げていた育児なしだったな。まぁ生きていたことは褒めてやろう」
「あ、ありがとうございます」

初めての声にどう答えていいか、迷う。

「そんなお前に俺からの敬意だ……すぐに終わらせてやる!」

その言葉によって心に火がついた。
燃えてきた……

「大丈夫です、僕もあの時のように簡単にややられませんから」
鋭い目つきで睨んだ。

「ほぅ、そうか。ならばやってみろ」
ゲンブも睨み返して、しばらく沈黙した。

「では両者・・・・」

確かあいつは炎魔法だった。油断するとどんな破壊力のある魔法を打ってくるかわからない。絶対に強い。まだちゃんと本気の戦いを見ていない。
でも僕なら素早さは負けないと思う。
だから今の僕にやれるとしたら……速攻!!

「始め!」
合図と同時に僕は手を前に出した。

「電気ショック!」
一番早い攻撃を繰り出す。もちろん速さを重視しているから威力はない。

予想通り、ゲンブはこの速さには対応できず、綺麗に攻撃がヒットした。

少量の電気によってしばらく麻痺いていたがすぐに持ち直した。

僕はこの隙を逃さない。

ゲンブが痺れている間に一気に間合いを詰める。

彼が体勢を立て直した時、僕は目の前まで来ていた。

「これで終わりだあぁぁぁ!!」
剣に雷の魔法を込めて頭を狙い全力で振った。


「………」

勝った、と思ったがギリギリのところで僕の剣は腕で防がれた。

ゲンブの図太い腕がメキメキと音を立てる。


「クソッ!」
悔しい、練りに練った作戦がこうも通じない。

止められるとは想像しておらず、瞬間、全身が震えた。

「はあっ!」

気配を感じてすぐに間合いをとった。

こちらが体力を消耗しているのに対して、ゲンブは平静を装って、攻撃を受けた腕を手で払っている。

全然効いていない。

手を払い終わると、着ていたマントを脱いだ。

「な、なんだその体……」

筋肉がの硬さに唖然とする。

まるでどんな攻撃をしても耐えれるような肉体。戦う相手が僕だからか防具は何もていなかった。

「フフフ、意外にやるではないか。まだまだ俺はやるぞ。これくらいか……フレイムアタック!」

手からバスケットボールくらいの炎の球が放出された。

速い! 
どうにか横に避けて回避したが、地面に当たった時の衝撃で吹き飛んだ。

「くっ!」

余裕のない僕を、ゲンブはさらに追い討ちをかける。

「まだまだいくぞ!」

次は野球ボールほどの火弾が飛んできた。威力はあまりなさそう。
しかし、圧倒的数に僕は苦しめられる。

さすがにこの量は避けるのは不可能。
だから剣で防いだ。

「ぐはっ!!」

でも完璧に防げるわけでもなく、肩や足に当たって火傷を負う。

どうにか急所に当たらないようにできた。

しかし痛い、熱い。
火傷によって、さきほどのように身軽に動けない状態になる。

物理攻撃では勝てない。
魔法の力によって勝敗が決まるだろう……

自分の体は長く持たないことは自覚できる。
すぐに決めるため、どんどん技を放出した。

「雷鳴斬!!」
剣に魔力を込めて3、4回振った。
雷のエネルギーが斬撃となってゲンブの方へ飛んでいく。

「電撃波!」
スピードは遅いが威力の強い電気を追撃のために放出した。

僕にとっては強力な攻撃。
だけど、ゲンブにとっては違うようだ。

腕に魔力を溜めると、僕の技を最も容易く打ち消した。

僕が一瞬、体が強ばる隙を狙って、またゲンブの攻撃が飛んできた。

今度は一メートル以上の巨大な球体だ。
大きい分、威力がでかい。
もちろん飛んでくるスピードは遅い。

だけどカナメとの事件が脳裏をよぎる。

もし避け切れたとしても、どれだけ強力な衝撃波と熱が飛んでくるんだろうか……

攻撃魔法で打ち消すこともできるかもしれないが、火傷によって万全の大勢を作れなかった。

恐怖しながらも左右、後ろに下がる。

ピカッ!

眩しい光が現れると灼熱に襲われる。

「あああぁぁぁぁ!!」

皮膚が溶けるような熱に襲われて倒れこんでしまった。

このタイミングを好機と思ったのか、ゲンブは何か強い魔法を放とうとしている。
僕は倒れているが、体勢は整っているので威力の強い魔法を放出した。

「不死鳥!!」
「雷鷹電撃!!」

お互いに鳥を具現化した魔法を放った。

鷲と火の鳥がぶつかり合う

どちらも互角の魔法で接触と同時に爆発した。

あたりは煙が発生する。

周りがほとんど見えない。

そして少し見えるようになった時、目の前に大きな影が現れた。
今まで魔法でしか対処せず、その場から動こうとしなかった奴が近距離にいる。
そんなの予想できるはずがない。

「経験の差だ……」

図太い声が聞こえた。
ゲンブはもう拳を後ろに振り上げている。

驚く間も無く、僕は強烈な拳を腹に受けた。

「うっ! げほげほ………」

あまりの痛さに地面に倒れ込んでしまった。もし防具をつけていなかったら内臓が潰れていたかもしれない。

「どうした、もう終わりか? 早く立て!」

お腹を抑えながら立った。
苦しい、息ができない。

どうにか呼吸を整えようとしてもすぐ追撃がくる。
右の大振りのストレート。舐められているのかゆっくりとした攻撃だった。もちろん回避できる。

と思っていたが、ただのフェイントのようだ。
その後の追撃である回し蹴りに左手からのフックが直撃する。

当たり前のように僕は後ろに吹き飛ばされた。


意識は保てている。
しかし急所に命中した打撃は痛みに変換されて、体を蝕む。
僕は立つ元気がなくなっていた。

ああ、もう勝てないかな……

希望がなくなり始める。

「頑張れ……」

セクアナじゃない誰かからの声が聞こえた。
こんな体じゃ、誰か判別できるわけない。

それでも応援は励みになる。
僕の目にまだ光は残っていた。


最後の追い討ちのためか、ゲンブはゆっくりと近づいてきた。

僕の前まで来ると胸ぐらを掴む。

「お前はよく戦った。最後に忠告する、降参はしないのだな?」

「ふんっ……そんなことはしないな……」

僕の応答に何かを思ったのか、ゲンブは初めて笑った。

「……わざわざこんなボロボロになった……奴に近づいてくれてありがとう」

「そうか、お前の覚悟はよくわかった。なら、これで決闘も終了だ!」

右腕を大きく振りかぶる。

「ふっ!」
僕は微かに笑った。

「雷轟!!!」


空から青い稲光が落ちてくる。

勝負が始まった時に保険として準備しておいた技を繰り出した。

相手がとどめを刺す時、それが一番、油断する時だ。
もしも負けそうになった時、最大の奇襲攻撃。
威力もスピードも最大の魔法をゲンブに目掛けて撃つ。

「ぐわあぁぁ!」

見事に当たった、直撃だ。

まる焦げになりながら初めて膝をついた。

強力な魔法を受けても、まだ気絶せずに耐えている。
でも痺れて体がちゃんと動いていない。
最大のチャンスが訪れた。

軋む体を起こして剣を強く握りしめる。

この瞬間を逃さず全魔力を注ぐ気持ちで、初めと同じように剣に溜めた。

「ハアァァァァァァァ!」

ビリビリ、と雷が溢れ出る剣を振り下ろす。

これで終わりだ。

これなら絶対に勝てる!

そう考えると笑みが出てきた。

僕の勝ち……

「ぐはっ!」

突然背後から強く押されて、体がよろめいた。
何が起きたのか、攻撃を受けた方を見ると、カールが不敵な笑みを浮かべていた。

「あいつ!!!」

風魔法のようなものを受けた。軽い攻撃で痛みはほとんど感じなかったが、最大のチャンスを逃した。

こちらを向いて見下している。

そして……誰も何も言わない。
貴族の野郎は当たり前のように平然としていた。

ふ・ざ・け・る・な!!

「てめええぇぇぇ!」
大きな声で怒鳴るも痺れていたゲンブは回復して、立っていた。

手に強大な魔力が注ぎ込まれている。

「破壊砲!」

高熱のエネルギーが一点集中でビームのように飛んできた。体勢を崩しながらも拳に魔法を込めて放出した。

だが、ゲンブの攻撃の方が圧倒的に強く、放出した雷は打ち消された。

赤い光が目を覆い尽くす。



僕は負けた……


ボロボロになりながらも憎しみが言葉として現れた。

「何が決闘だ、卑怯者!」
喉が乾いて思うように叫べない。

一対一の決闘に邪魔が入った。

「何を言ってるんだこのクソ悪魔。卑怯とはなんのことだ」

はっ? おい何を言っているんだ?

理解が追いつかない。

ルールが決めてある神聖な決闘を貴族自身がが潰している。

「お前の息子が水を差したんだよ! そのせいで体が倒れたんだ!」

「ふんっ、何を言っているんだ。それはお前が勝手にこけていただけだろう」

「おい! 何を言ってやがるんだ。とぼけるんじゃねえ!! お前らも見ていただろ! 何か言ってやれ!」

そう言って僕は観衆に目を向けた。
しかし、誰もそんなことは起こっていないと目を逸らしたり、無視をする。
ゲンブにも目を向けたが表情ひとつ変えない。

嘘だろ……
これは本当に現実か……

今の現状に黒い感情がどんどん増えてくる。

「悪魔の言うことなど聞くことはない。ゲンブ、お前の勝ちだ!」

貴族が勝敗を言い渡すと同時に、町の人が大きく喜び合った。
正面を向くと、カールが笑みを浮かべてを見下している。

「ざまあみろ」

小さく口を動かして大笑した。

なんなんだ、なんなんだこいつらは!
聴衆も貴族も全てが信じられない!
この決闘でこんな負け方をして、あいつらの言いなりにならないといけないのか!

「ふざけるな!!」

決闘にこんな裏があるのか。
貴族は全てがクズだ!

そう思えば、あの時、簡単に決闘を承諾したのはこう言う手を使って、必ず勝つと確信していたからか!

確かにこんなセコいことをするなら僕は絶対に勝てないだろうな……どこまで貶めるのだ!

もう全人生が終わった。
こんな茶番のせいで終わるのか……

「ふざけるなふざけるな! この世界も何もかも全て潰してやる!!」

体中に怒りの感情が駆け巡った。
こんな時こそ暴走をして欲しかったが、魔力がほとんどなくなっていて、何もできない。
絶望と怒りに包まれて倒れ込んだ。






「ふんっ、終わりだ」

鼻息を立てて、貴族はセクアナの方を向いた。

「これで決闘は終わりだ。お前はワシのものになるんだ。これからは楽しい日々を送ろうな!」

気持ち悪い笑みを向けながら近づいてくる。

「……ふざけないでください……」

セクアナは強く拳を握りしめた。

ずっと私はトモヤの決闘に何も言わず、耐えていた。でもさすがに今の光景を見ると怒りが立ち上る。

「ん? 何か言ったかな?」
「ふざけないでください!!」

体の周りに水が渦巻くように覆って体に触れようとしていた貴族様の手を弾いた。

「くっ!」
その勢いで貴族様は後ろに飛ばされていた。

「貴様……ワシに向かって何をするか! おい! そこ兵士達、そこの小娘を押さえつけろ!」

数十人の兵士達が私を囲んできた。

「この、卑怯者! 今の決闘はトモヤが勝っていました。それをあなた達の行動で潰した! 許せません!」

最後に鋭い目を向け、二階の観客席から飛び降りた。

「あの小娘を今すぐ捕らえてこい! 悪魔と一緒に厳しい罰を与えてやる!!」

二階から飛び降りて、水の魔法をうまく操作して着地した。

この場所からトモヤだけでもいいから連れ出さないと……

全力でそばに行こうとするも、前にはゲンブが立ちはだかっている。

私では勝てない。でもトモヤに触れさえすれば一人でも逃げさせられる。
時間がない。

だから体に渦を巻いたまま突進して、弾き飛ばす!

体当たりをしようとしたが、にいともたやすく体の渦を取り除かれた。
唖然としている隙に頬にビンタをされる。

「きゃっ!」

筋力があり、強い一撃ですぐに立てない。
私はすぐに駆けつけた兵士達に取り押さえられた。

「嫌、嫌だ。せめて……トモヤだけでも……」
手を伸ばしても届かない。
一人、苦しんでいるのに、私は、私は何もできない。

「トモヤ!」

絶体絶命そう思った時にある人がやってきた。


ビキーーーン!

一瞬にして中庭に冷気が差し込む。
吐く息が白くなっていた。

何かと思い目を開けると取り押さえられてた兵士達は氷漬けにされている。また、やってきた人が着地した場所に、大きな氷の結晶が作られていた。

目の前には白髪が腰のところまで伸びたとても美人な大人の女性が立っていた。

静寂が訪れる。

「あっ……あれは……魔法騎士の六大天の一人であるセイラ・ラインハート様!!」

彼女が現れた途端、全ての町民は膝をついて頭を下げた。
あんなに強く、たくましく戦っていたゲンブでさえ膝をついている。
私も六大天という言葉を聞いてすぐに膝をついた。

六大天は何千人といる魔法騎士の中のトップ六位の人達が選抜されている。
この世で最強の人たちだ。


(そうそう、この反応だよ~。最近、悩んでいる少年にひどい扱いを受けたけど、これが普通の反応なのよね~~)

普通の反応を見れて、少し嬉しがっている六大天、セイラ・ラインハート。


「おっ、お前は! なぜここにいる!」
貴族の口調が変わっていた。
堂々と上から目線だった人が少し怯えている。

「あら~~ そうだったわ! 私はあなたに話したいことがあって乱入しているのよ~~」

なんだか柔らかい口調の人だな………
少し思ってたのと違う。

「今の決闘、始めから見ていたわ」

顔色が変わった。
ふわふわした喋り方で笑顔だが、目が笑っていない。

「うっ……なんのことだ」
一瞬で貴族の前に移動して問い詰めている。

「決闘を承諾しておいてこの様はなんなのかしら? 貴族が神聖な決闘を乱すなんて」

「なっ………何を言っているのだ!
ワシらは何もしてないぞ、ほら町の下人達を見てみろ」

貴族様の話など聞かず肩に手を置いた。
その手から冷気が漂い、だんだん貴族様の肩が氷に浸食されていく。

「あなた、まだ反省していないのかしら。
貴族が怖くて町の人たちが何も言えないことをわかっている?」
「ひっ!」
貴族は腰を抜かして地面に倒れた。

「この決闘はあなた達の負けよ。分かった?」
「ふっ、ふざけるな! あんな悪魔に負けてたまるか、ワシの付き人であるゲンブが勝った」

まだ懲りずに反論していた。

「あらあら。まだそんなことを言うのかしら………」

バキーーーン

顔の真横に氷を発生させて脅した。

貴族様の顔が徐々に青くなり、
「うっ……分かった……負けを認めよう」

「はい! そうですね~~~よくできました!」
優しくそう言うとゆっくり歩いく。
次の矛先はカールの方に向かう。

カールは権力に怯えて、セイラが来ると既に土下座をしていた。

「あなたはちゃんと反省しているようね~~~     偉いわ~~~」
「はっ、はい!」

反省している誠意を見していれば大丈夫と思っていたのだろう。

カールは安心して頭を上げると、胸ぐら掴まれた。
セイラは目つきを変える。
この表情に、カールは全身を震わせていた。

「もう二度とこんなことしたらダメよ……貴族は人を苦しめるのではなく、たくさんの人を守るためにいる存在なのだから……」
「はっ、はい……!」


セイラは大きく背伸びをする。
「よ~~し、私の仕事はこれくらいかな~~?」

全てをやり終えると、スッと氷が舞い落ちて消えていた。

(……少年、あなたからもらった恩は返しました。あとはあなた達がどんな選択をするかですよ~~)


「くっ、覚えておけよ悪魔。わしに恥をさらしおって。これ以上関わらないが、顔と雷魔法のことを全地域にばらまいてやる」

最後まで奴はクズで、捨て台詞を言って帰っていった。




決闘は微妙な感じで終わった。
ぞろぞろと聴衆は帰って行き、中庭には僕とセクアナの二人になる。

セクアナがゆっくりと僕の方へ近づいてくる。

「く、来るな!!」

ここは……地獄だ。
僕は何もやっていない。それなのに、貴族の策略によって差別され、裏切られ。さまざまな人達もそれに乗っかって、同じことを繰り返す。
いや違うな。全て自分の安易な考えのせいでこうなっているな………

もう嫌だ。
誰も近づかないでくれ。
一人にさせてくれ。
こんな所にいるなら……殺してくれ!

「ごめんなさい、あなたをこの世界に連れてきておきながら、私は何もしてあげられなかった」

「もういい、どうせ全てのやつに差別されるんだ。僕は一人だ、もう生きている意味がない!」


「セクアナ……もう僕を殺してくれないか?たくさんの人にいらない存在として認識される。家族や友達に迷惑をかける。僕が魔法をみんなに見せたせいでこうなった。なのにセクアナを責め立てたり、魔法が暴走したり……もう嫌なんだ!
……もう……この世界も自分も大っ嫌いだ!!」

自分がずっと思っていたことを素直に吐いた。
黒い感情が自分の中を支配しているから、と強く言っていたと思う。
それにセクアナへこの対応は最悪だ。

自分がクズだと改めて思う。

「ごめんなさい、私には殺せません」
「ああぁ、そうだよな! この世界に連れてきた張本人だもんな! 
どうせ、この苦しみをずっと耐えてサタンを倒せって言うんだろ!」

「そんなこと言ってません。ただ、どうか私のことを信じてください!」

セクアナが僕の腕を掴もうとしたが薙ぎ払った。

「離せ! もう近づくな! もう苦しめないでくれ! 
どうせお前も離れていくんだろ!
分かっているんだよ、一緒にいると酷い目に合う。それに耐えきれなくなって捨てていくんだろ!!」

「私は何があってもずっとトモヤのそばにいます。ずっと、ずっとそばにいるよ!」

「嘘つけ! じゃあなんで一番苦しい時にいなかったんだよ! 
信じられるわけない! この役立たず!!」

あっ………
また言ってはいけないことを言った……

ああ、これだから自分が嫌いなんだ。
前のように逃げていったかな………

思い悩みながら顔をあげると、満面の笑みを向けるセクアナがいた。

「やっと、こっち向いてくれた!」

前のように怯えて逃げるでもなく、悲しんだ顔でもなく、ただただ、なんの濁りもない笑顔。

その笑顔を前に、まるで体の中にあった黒い感情が散っていくような気がした。

「私は知っている。トモヤはとても心優しくて、どんな人でも助けてくれることを」

「やめろ………やめてくれ」

「家族や友人のために、命を張って戦ってくれることを」

「そんな人間じゃない! ただ雷を操りたいって理由だけ、そんな軽い理由のためだけにこの世界に来ているんだ!
僕はそんな軽い人間なんだよ!!」
「いつもピンチになるときてくれる。とっても優しい人!」

「そんなわけない……僕は弱くて……軽い気持ちで……この世界に来て……迷惑ばかりかける……」

ここまで情けなくて、軽い気持ちでこの世界に来ているのに、なんでそこまで僕にこだわるんだ。
僕を殺して他の人を転生させることもできるんじゃないか。なのにどうしてそんなに信じられるんだ。

「だって、トモヤは私の恩人なんだよ!」

気づくと、セクアナは大粒の涙を流しながら僕に訴えかけていた。

「私は天界で何回も何回も、この世界への転生を断られてきた。そんな時、トモヤと出会えて、やっとこの世界に来れたんだよ!
覚えてないかもしれないけど、初めてモンスターの討伐に行った時、私、本当なら死んでた。でもトモヤは助けに来てくれた!
今日の決闘だって、私一人のために命をかけて戦ってくれた。ピンチの時に助けに来てくれて、私のヒーローなんだよ!」

その言葉には信愛が込められている。
僕の心を揺さぶられた。

「死ぬ寸前に現れた時、もう二度会えなくなるかもしれない時、私が危険な時、トモヤは助けてくれた!
あの瞬間、どれだけ私の心が救われたか、どれだけ嬉しかったのか、きっとトモヤには分からないよ!」

「………」

「トモヤじゃなきゃダメなの、トモヤがいいんです!」

手を胸に当ててまっすぐ見つめてくる。

「私は信じています。この世界中、全ての人がトモヤを憎んで、差別してもずっとそばにいます。
見捨てません!
もう絶対に離れません!」

ああ、僕がずっと聞きたかった言葉だ……

この世界に来てずっと苦しい思いをしてきた。一人で抱え込んでいた。暗い空間の中に閉じこもっていた。

周りを見れず、ずっと一人で………

この言葉で僕の中に光が一気に差し込んだ。

「う…………うう………」

だんだん闇から解放されて、自然と涙が出ていた。

「ううううう……うううううう……」

涙がどうやっても止まらない。

セクアナが僕に一歩近づいた。
そっと両手を僕の首に伸ばす。
引き寄せる力は強くないが無抵抗になす術なく、彼女に抱きしめられる。
セクアナの温もりを感じた。

「苦しかったね。しんどかったね。これからはその苦しみを、私にも分かち合って」

「本当に、本当に僕なんかでいいのか? 
この世界に軽い気持ちきた最低な奴だ」
「そんなことないよ。この世界にを変えるほどの優しい心を持ってる」

「また酷いことを言って悲しい気持ちにさせるかもしれない」
「どんなことを言われても笑顔で吹き飛ばしてあげる。もうトモヤを悲しませたりしない」

「僕は心が弱い」
「そんなの私も同じだよ。一緒に手を取り合って生きよ!」

「うう……うああああぁぁ………!?」
僕はこれまでにないほど大声で泣いた。

だんだん体の力が抜けてくる。
そのまま僕の意識がスーッと遠くなっていった。

心が安心して、寝入ってしまってのだ。



再び意識が戻ると頭に何か柔らかい感触がする。
目を開けると、セクアナに膝枕をしてもらって寝ていた。

優しく僕の頭を撫でてくれている。

誰かがそばにいてくれる。ただ、それだけで心の中にあった闇が消えて、気持ちが軽くなった。

セクアナによって苦しみの日々から救われた。












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