雷魔法が最弱の世界

ともとも

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魔法騎士団試験

鉢合わせ

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ずっとサナの試合を見ていた。
みんなが注目していた。

でも歓声はサナが登場した時より小さくなっていた。

理由はたぶん分かる。
観客視点から見ると、普通だったからだ。

大型モンスターを何体も倒して、魔法騎士団試験を受けている受験生の中でも最強と思われていたサナの戦いが普通だったからだ。
瞬殺で終わっていたら、歓声もいっぱい巻き起こっていただろう。
だけどサナは平均くらいのタイムで相手を倒した。
派手な技を使うでもなく、後ろ回し蹴りでとどめを刺した。

そんな戦い方だったからこそ、観客はすこし陰口を言っている。

「え、あれで終わりだったの?」
「もっと怖い戦い方をすると思ってた」
「本当に正門から入って来たの?」

サナが門に帰る時にはほとんどの人がざわざわと話し出していた。

観客からはそう見えるだろう。

でもあの戦いをちゃんと見ていた人はサナのことをすごく評価すると思う。

サナの戦い方がすこし怖く思えてきた。

なぜならサナは始めの構えた場所からほとんど移動していなかった。
猛攻撃を受けている時なんか平気な顔をして弾いたり、受け流していた。
魔法の剣を取り出したのは攻撃をされるギリギリだったけど、狙っているように見えた。
たぶん、変身魔法って言っていたから他の剣とかもしかしたら鎧も魔法で作り出せたかもしれない。
それなのに剣一本で、余裕を持って戦っていた。
しかも攻撃は全て蹴りだった。
魔法ではなくて蹴り。
相手も魔法ですこしは防御力を高めていたのに蹴りで気絶させたのだ。
まるで準備運動をしているような印象だ。

パワーに攻撃を回避する技術、それらを踏まえてサナは強い。
というか恐ろしく感じた。

「トモヤ?」

まじまじとサナのことを肘に手を当てて考えているとセクアナに呼ばれた。

青い瞳が僕を不思議そうに見ていた。

「ああ、うん。どうしたの?」
サナのことを深く考えすぎていて、思わず慌ててしまう。

「もう試合も終わったし、サナのところに行こう! 疲れていそうだから水でもあげよっかな!」
僕の感情とは正反対で、セクアナは明るかった。
さっきまで深く考えていた僕がバカみたいになる。

「はぁー」
自然とため息が出てセクアナを睨んでいた。

セクアナは不思議そうに首を傾げながらもサナの元へ行った。

疲れていると予想はしていたが、汗一つかいていないような爽やかな印象だった。

「お、トモヤとセクアナ! どうだった? 私の試合は」
「う・・・」
「うん、手の内をあまり見せていないのはいいと思うよ!」

サナの恐ろしさをあらためて知ったからどう返答するか迷っていたけど、セクアナは元気に答えていた。

「ふむ、そうか・・・・」
そう言いながらゆっくりと僕達の方へ寄って来た。

手が届くところまで来たらサナはガクッと膝から力が抜けたように座った。

「ふうぁぁぁぁぁ・・・」
今まで貯めていた何かを吐き出すように大きなため息がサナの口から出た。

すこし怖い気持ちがあったが、これを見て安心する。

肩がすこし震えていた。

「き、緊張したよぉぉぉぉぉぉ!」
そのままセクアナの膝にしがみついて顔を疼くめていた。

そうだったね。
人見知りだもんね。

確かに歩ちゃんも仕事のプレゼンとか終わるといつもこんな感じになっていたような・・・・・

さっきまでの戦いに集中している鋭い目はなくなって、すこし涙目になっている。

あまりのギャップで幼いこのように見えた。
幼い子を慰めるように思わずハグをしそうになった話は置いておこう。

それにしても今の光景はちょっと好きかもしれない。

セクアナがお姉さんのようにサナの頭を撫ぜて慰めている。
サナも姉に甘えるように泣きじゃくり、まるで仲のいい姉妹を見ているようだ。

昨日出会ったばかりだけど、もう友達になったな。

これからもたまにセクアナにサナが甘える姿を観れるのだろうか。
歩ちゃんが甘えているようで、苦しい時にこれをみると心がほっこりする気がする。

すぐにいつものサナに戻って、それからは試合を観戦した。

さまざまな試合があって面白かった。

魔法騎士団試験、二日目を通してすこしだけ気がかりだったことがある。

それは昨日、全員揃っていた六大天のうち今日は二人くらいしか来ていなかった。

任務とかそういうので毎日は見れないのだろうか。
昨日は開会式だったからな。

やっぱり六大天だからか、任務は大変そうだ。


今日も長い一日が終わり、サナと別れて宿へと帰った。

それにしても人混み、嫌い・・・・

王都に来てからずっと人、人、人だ。
ずっと田舎暮らしだったせいか、人に慣れない。帰るだけでも一苦労だった。

「はぁー、やっと着いた・・・・・」
人混みに何度も押されて、人とぶつかる。そういうのが何回も続いて宿に着いた時には髪がくしゃくしゃになっていた。

ドアを開け、宿に入る。

「おかえりなさい! フードの人に杖の人」
「うう」
名前ではなく、変なあだ名をつけられて思わず落ち込んでしまう。

名前を覚えるのが苦手なのか、僕達が特徴的なのか知らないがフードと杖って・・・・

マネトを助けてから、犬耳の受付員さんとすこし距離が近くなった気がする。

だからこそ、そのあだ名が傷ついた。

「た、ただいま」
微妙な気持ちだったけど元気よく挨拶してくれたので軽く手を出して挨拶を返す。
でもこういうことを言ってくれるのは安心するな。

そのまま、部屋へ戻ろうとすると、忙しそうに働く音が食堂の方からした。

何かあったのかと思い、食堂へ行くと、
「おかわりぃぃぃぃ!」
「!?」
思わず僕達は目を見開いた。

マネトがお皿を何十枚も上に並べて夕食を食べていた。

「#&/$€! #/&€%>=☆:#〒#\☆!」
僕達を見つけるなり、食べ物を口いっぱいに詰め込みながらも話してきた。

一度、注意したのに態度があまり変わっていなくて呆れる。
口に食べ物を入れながら喋るのは行儀が悪い。
すこしテーブルの上にも食べ物が飛び散っている。

それに僕にはなんて言っているかわからない。
僕はわからない。
たぶん横にいるセクア那覇ちゃん聞き取れているだろう。

まぁ、もうこれにはちゃんと通訳者もいるし大丈夫か・・・・・

それにしてもこの二人はどんな繋がりがあってこんなことができるのだろうか。

「えっとセクアナさん。恒例ですが、マネトはなんと言っているのでしょうか?」
「えっと、おーい二人とも! 今日は試合があったから僕は疲れたよ! と言っておりますよトモヤさん」
「そっか・・・・」

そんな会話をしているとマネトが手招きをしてきたので、同じ席に座った。

一人でマネトは食べていたが、食べる量が半端ないので四人がけのテーブルにいた。

そのまま僕も横に座り、夕食を食べる。

この宿に泊まって何日も思っていることだが、やはり食事は美味しいものだ。

これプラス夜景の見えてワインとかがあったら、誰かプロポーズでもしそうだ。

そのまま食事も終わり、部屋へ戻った。

食事中はセクアナが美味しそうに味わっていたから通訳をしてくれず、マネトとほとんど話せなかった。
一応、マネトは何か言っていたが僕は聞き取れないので「はいはい」と受け流すことしかできなかった。

何も話せなかったからこそ、食事が終わってから部屋まで行く道での会話は弾んだ。

なぜかわからないが、マネトの試合を見てから苦手意識がなくなっていて友達のように話せた。

部屋へ戻ると、正直暇だった。

何もやることがなく、僕の愛剣である日本刀を布で磨いた。それだけで時間が潰れるわけがない。

正直、セクアナの部屋に行ってこれからのこととかを話して時間を潰したいと思う。
でも今から女性が泊まっている部屋へ訪れると誤解を与えそうだ。
夜這いしにきたのとか、そういうことを言われて白い目で見られる。

明日から気まずい空気になりそうなのでそのまま軽く寝る準備をして、ベッドに寝転んだ。

魔石の明かりを消して目を瞑るが早すぎるのか興奮しているのか全然寝付けなかった。

マネト、そしてサナの戦いが何度も頭の中に残る。

何度も何度も。

マネトの超スピード、サナの剣術。
二人に教えてっとか言ったら教えてくれるのかな・・・・・

今日で自分はまだまだということを実感した。
いつの間にか深く眠っていた。
印象が強かったのか、二人と僕が戦う夢を見た。
夢の中では、僕は二人に惨敗だった。


朝目覚める日の光を浴び、三人で昨日と同じように食事をし、ルーディニアコロシアムに向かう。

今日、僕達は宿を出るのが早かったせいか人がちらほらとしか道を移動していなかった。

早起きは三文の徳とはこのことかなと思った。

すこし霧があって肌寒い感じだ。

そんな霧の中、うめき声が聞こえた。
霧ですこし薄暗いからお化けのようで怖かった。

「きゃっ!」
セクアナが僕の後ろに隠れて怯えている。
微妙に胸が当たっているのですこし顔が赤くなってしまった。

「マネト・・・?」
さっきまで横にいたはずのマネトがいつの間にかいなかった。
後ろを振り返るとマネトも僕の背中の後ろで怯えていた。

あ、分かった。
この二人の繋がり。

二人とも結構ビビリなんだ。

そう新たな発見をしていると、うめき声がまた聞こえてきた。
怯えながらも僕は刀に手をかけてゆっくりと進んでいく。

進んでいくと長い髪の女性のような人が何かを抱えて座っていた。

それはそれは黒髪でよくお化けとして出てくるあれ・・・・ではなく、黄緑の髪をした剣士であるサナだった。

普通の可愛い子犬を抱き抱えながら泣いているように見えた。

「んんんんんんんんんんんん?」
みんなしてサナが泣いている理由が理解できなくて首を傾げた。


こんな形ではあるが四人、これからたくさんの日々を過ごす仲間が初めて揃ったのである。
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