雷魔法が最弱の世界

ともとも

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魔法騎士団試験

修行の成果

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勝負が終わり、男の子に戻った瞬間に横で見ていた二人の石化が崩れた。

「あ、ああっ! あの男の子、勝ったんだ。
いやー、どんな闘いをしたのか知らないけど貴族に勝つなんてすごいね・・・・・
す、すごいよねサナさん!」
「う、うおん、そうだな。あの可愛い子が勝ててよかったな。貴族もメロメロになって手加減でもしたんじゃないか?」

さっきの決闘が夢と思うかのように二人はいろいろと言って現実逃避している。

サナなんて体が震えていて、返事が変だ。
可愛いもの好きからしたらあんなの悪夢でしかないからな。

「二人とも何言っているの? さっきの試合見ていなかったの?」
あまり二人のことを知らない、マネトが問いつめる。

それにビクッと二人の肩は動いた。

「あ、その・・・・あっちにかっこいい男の人がいたから見惚れちゃって・・・」
「わ、私は空中にモンスターがいたからここから剣を投げて倒していたんだ!」
セクアナの言い訳はまぁわかるかもしれない。
でもサナの嘘は下手すぎる。

「あ、そうなの! じゃあ教えてあげるよ。
あの幼い子がミノタウロスのような・・・」
「やめて!!」

二人の怒鳴り声が響く。

そして頭を抱えて暴走したかのように大きく揺れた。
「やめて・・・現実に引き戻さないで! あの可愛い子は可愛いままでいたことにしてよ!」
「あぁぁぁぁ!?」

女性方がだんだん壊れ始める。まるで魅了されたような姿だ。
特にサナは酷い。
よく見ると目の下にクマができているように見える。

ちょっと取り返しのつかないことになった。

「怖い・・・可愛いもの怖い・・・・」
あれだけ興奮していたのに最終的に膝を抱えて呪いを唱えるような暗い声になって縮こまっていた。

僕らだけでなく、他の女性達もこんなことになっていた。

これ洒落にならないな。
あの男の子、変な呪いでもかけられているのか。

一人の変貌で会場全体が収集のつかない状況になった。

次の試合が、たまたま小人族同士の可愛い戦いでこの場が和み、女性の方々は落ち着いた。

この時、ほとんどの人が「人は見た目で判断したらいけない」ということを学んだと思う。


「はぁー」
コロシアムの中に入り、一人が大きくため息をつく。

「セクアナ、そろそろ気持ちを取り直しなよ」
「うん・・・」
まだ恐怖とかそういう感情が抜けきっていないのか落ち込んでいた。

そんなセクアナとは打って変わってサナは上機嫌である。

さっきの小人族の戦いが彼女の気持ちを晴らしたのだろう。
確かに可愛かった。
目のくまもなくなって光を浴びているように輝いている。

「それにしても、もうトモヤのブロックは貴族様が二人いたけどいなくなったね。よかったよかった!」
「たぶん役員の人達は貴族が勝ち上がると思って始めと最後のにトーナメントをいれていたけど、予想が外れたな。結果はトモヤとあの子が勝ったからな」

よくわからないがもう貴族は僕のグループにいないらしい。そこに関しては安心できる。
でも、それなら一番、二番くらいに強い人を彼は倒したのだ。
相当強い。
僕は彼を倒さないと魔法騎士になれないのだと悟った。

三人で話している横ではセクアナが暗い顔をしてとぼとぼと歩いていた。

「ほらほら、もう明後日くらいに一回戦が始まるんだからしっかりしないと。まだあの子のことを考えているの?」
「いや、そうじゃなくて・・・   あの子を見ていたら怖くなってきてさ・・・
だって凶暴なモンスターみたいだったから」

言われてみればそうだ。
僕、あんな屈強なやつと戦うかもしれない。

「そ、そうだね・・・」
励まそうとした僕が今度は怯え始めた。

「ふ、なんでトモヤが怯えだしてんの?」
「いや、もし戦うとなったら怖いなって思って」

軽くセクアナは笑ったあと、ポツポツと語り続ける。

「それに、もしこの一回戦で負けてしまったら魔法騎士になれるのが一年後だからね。
たくさんの人を救うためにこの世界に来たのに何もできないなんて・・・」

差別に悩んでいた時の僕と同じ顔をしていた。
確かに女神様が人間になってまでこの世界に来たからな。
セクアナも色々悩んでいるんだろう。
彼女は努力している。誰よりも努力していると思う。だからこそ報われて欲しい。

「そんな考え込まなくてもいいと思うな。
これまで僕と一緒に頑張ってきたし、セクアナがとっても努力しているのはわかっているよ! よく実戦形式で勝負もしたし・・・・
怯えて固まらなかったらだけど。
でもセクアナの回復魔法はすごいと思うよ。もし魔法騎士になれなくてもたくさんの命を救えると思うよ。僕は回復魔法を使えないからね!」
「うん、そうだよね・・・ありがとう!」

少し落ち着けたのか、透き通るような笑顔を見してくれた。

「頑張らないとね」

彼女がそれを決意して、日にちが過ぎるのは早く、すぐに一回戦当日がやってきた。

「わ・た・し・が・ん・ば・っ・て・く・る」

ダメだ! 体がカチカチに固まっている!

右手と右足を同時に出して歩いているし、ロボットの動きのように進むスピードも遅い。

こんな姿だと心配しかない。

「もう少しで、控室に行かないといけないよね! 関係者以外立ち入り禁止とかじゃなかった?」
「うん、そうだったよ、確か。そこへ行ったらもう僕達もセクアナのフォローできないからどうやって和ますか今考えているんだよ・・・ どうしょうマネト!」
「い、いや・・・俺に聞かれても・・・どうしょう!」

もうすぐだというのにこの有様だ。
どうしたら緊張が和らぐか頭を抱えていた。
そんなに悩まないで、欲しい。
自覚していないのかもしれないが、セクアナは小さい頃から努力して魔力量を増やしてきたから貴族並みにあるし、技術もすごい。

それだけ凄い人なのに重く考えすぎてこの状態だ。
どうしたものか。

悩んでいるとそこは救世主が・・・と思ったがサナだった。

「何を悩んでいるんだ?」
「セクアナが試合前なのにあんな状態だからどうしようって」
「うーん、私がなんとかできるかな?」
「えっ! 何か普通に戻る方法とかあるの?」
「やってみよう!」

サナは服の袖を軽く引っ張って自分に気合を入れてセクアナの元へ行った。

「セクアナ!」

ペチーン!

「痛そう・・・」
セクアナのほっぺを両手で掴んでいた。

勢いがあったので大きな音がした。

そのままおでことおでこをくっつけた。
「セクアナ、お前なら大丈夫だ。自信を持て
、必ず勝てる!」

手を離した時、少し顔が赤くなっていた。

結構強い力で顔を掴んだからな。
こちらから見ているとビンタをしているようだった。

でもそのおかげか、目を覚ましたような顔をしていた。

「行ってきます!」
そう言ってセクアナは駆け出した。

その後ろ姿を僕とマネトはぼんやりと見送った。

「よし、たぶんセクアナは大丈夫!」
「そうだといいな」
「そうだね」

心配しながらも外へ出た。

「それにしても、サナの緊張のほぐし方って自分で考えたの?」
「ああ、あれは私のお父さんが昔やってくれたんだ」
「そうなんだ・・・」

結果サナのおかげで普通に戻ってくれた。
一応、救世主だったのかもしれない。

僕が試合に勝った時は努力が報われた気がした。
みんなから罵倒があったけれど、セクアナならものすごい歓声が起きるだろう。

それを聞いたら今のセクアナでも絶対、自信がつくと思う。
だから勝って欲しい。

アナウンスが聞こえた。
もうすぐ勝負が始まる。


「まず右から現れたのは、セクアナ・フローレス! 水魔法を操るぞ。ここからは遠い遠い田舎から来たから謎に包まれている少女だ。どんなパフォーマンスを見してくれるかな」

普通通りだ。
緊張はしているかもしれないがさっきほどはひどくない。
大丈夫だろう。

「続いてウェザ・サンドラ。こちらは風魔法! どんなものでも吹き飛ばす風で相手を苦しめるぞ!」

軽く紹介も終わり、握手を交わした。

「両者準備ができました!」


私は杖を強く握りしめた。
どんな攻撃がくるかわからない。
もしここで負けてしまったら次は一年後。
最悪の場合、一生、魔法騎士になれないかもしれない。

そんな私でもトモヤは人を救えると言ってくれた。
信じてくれている人のためにも勝たないと。

「第18回戦・・・始め!」

ガーーン

開始と同時に杖に思いっきり魔力を溜めた。

怖い、負けそうで怖い。
だからすぐに決めるか、今放出する水で防御をしないと。

自分が一人で焦っていると、相手が魔法を放った。

「ストムトルーネド!」
強い風が発生して、思わず目をつぶってしまった。

そして目を開けた時、目の前に竜巻ができていた。

ふ、防がないと!

体が震えて動かなかった。
でも、なぜか相手は集中を乱したのかすこし竜巻の大きさが小さくなった。

それでも私なら簡単に吹き飛ばせるくらいの風力だ。
どんどん近づいてくる。

負けそうで怯えていた時、上から巨大な影が出てきた。
何かと見てみると直径20メートルくらいの水の塊があった。

これって私の魔法?
初めは自分のだと理解できなかった。

でも、もし自分の魔法だったら竜巻を潰せると思い、水を操った。

するといとも簡単に潰せた。

これによって、この水の塊は私の魔力だと実感できた。

「な、なんだこりゃ! 貴族並みの魔力量じゃねえか」
怯えていたのは私ではなく、相手だった。

後退りしながら文句を言っている。

「アクアボール」
そう言ったら、巨大な水弾は相手に向かって移動する。

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!」
叫び声が聞こえたが、直撃した瞬間静かになった。

どうやら対戦相手は気絶したようだ。

「決まったぁぁぁぁ! 勝者はセクアナ・フローレス。とんでもない魔力量を持った逸材の登場だぁぁぁぁ!」

司会の人、アナウンスと同時に凄まじく大きな歓声が沸き起こった。
それを向けられている視線の先は私自身だ。

なんと気持ちいいことか。
今まで、重く考えてきたことがバカらしくなった。
そして頑張ってきたことが報われたと感じた。私は魔法騎士になるために頑張ってきたのだと。

「ねぇ、あの子って本当に最果ての村娘なの?」
「さぁ、知らないけど貴族並みの魔力量だよね! 凄いよ」
「セクアナちゃんだっけ? 可愛いよな。強くて可愛いなんてもう最高の女性だよ」
「あの子はすごいな。これからの未来をせよってくれるなら誇らしいな」

たくさんの褒め言葉ももらえた。
とにかく、今は嬉しい。

勝負が終わり、スタッフの人に案内されて中に戻った。

戻るとすぐに三人が立っていた。
みんな笑顔に満ち溢れている。

ああ、安心するな。
肩の力が抜けて、いつかのように倒れそうになった。

一回戦で結構魔力を使ったんだな。
体が戦う前と比べてだるい。

ゆっくりと三人のところまで行った。

「よかったね」
「よかったよかった」
「よかったよ」

サナさんとマネトさんは冷静だったが、トモヤだけは真っ青な顔だった。
ずっと心配してくれたんだなと思う。

私はなぜか温もりが欲しくて、三人の前までいくと両手で強く抱きしめた。

いきなりだったので、びっくりしたり、照れていたり、頭を撫でてくれたりと色々だった。

この時、心がとても温かくなった。




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