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魔法騎士団試験
みんなで過ごす夜
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決勝戦前日、たくさんの人が笑顔に満ち溢れて帰っていく。
誰が魔法騎士になるか、というのをたくさんの人が予想していた。
「あの悪魔、思ってた以上に強いね!」
「確かに貴族にも勝っていたからな」
僕は勝ち上がりすこしだけ、ほんの少しだけだが好感度が上がった。
「でも魔法騎士になるのはねー、ちょっと心配だよ」
「いつ暴走するかわからないし」
しかし、サンダー・ブラウンの話があり、いつ暴走するかわからない奴が魔法騎士になるのは嫌がる人は多い。
すこしでもよく思ってくれている人がいてよかった。
セイラ姉さんの言う通り、僕と言う存在を知らしめることができた。
あとはこれからの行動次第だ。
今僕たちはコロシアムの中にいる。まだ観客の人たちがぞろぞろと帰っているので、もう少し減るまで待つことにした。
「いやー、みんな揃って決勝に行くなんて珍しいことだよ!」
「もう明日で終わりか。まだまだ私は戦いたかったぞ。強くなるために」
「俺はもう懲り懲りだよ、戦うのあんまり好きじゃないから。セクアナもそうでしょ?」
「わ、私! もう少し戦いたかったかも・・・」
珍しく、セクアナは戦いに喜びを覚えていた。
三人とも驚いている。
まさかセクアナがここまで自信をつけているとは思わなかった。
一回戦が終わった後の歓声に味をしめたのかな。
ビビリだったセクアナがすこし成長できたようだ。
「みんなもわからない? あの勝負が決まったと同時に響く、応援してくれている人たちの声。必死に戦って報われるあの瞬間が最高なんだ!
今まで、悩んで、苦しんで、努力してきて、嫌になることもあったけど、あの瞬間はそんな苦しい思いがチャラになるんだよ!
それから・・・・・・」
楽しそうに試合のことを語っていた。
目が輝いていた。
ずっと笑顔で話している。
それを見ていると何だか僕たちも楽しくなってきた。
とてもいい雰囲気だったが、一人の奴が来て一気に空気が変わった。
「可愛いねえ、君・・・」
スルッと気づかないうちに誰かがセクアナの肩に腕を組んでいた。
「ひゃっ!」
楽しんで試合のことを話していたセクアナから笑顔が消えた。
「こんなに可愛いのにどうして魔法騎士なんかになろうとしてんの? もったいないな」
「ひゃ、あっ・・・」
知らない人からいきなり肩を組まれてセクアナは甲高い声をだす。
「この俺の女にならへんか。俺貴族でなぁ、めっちゃお金持っとるねん。贅沢して暮らしたいやろ? って、うお!」
「誰だ、貴様。いきなり女の体に触るなんて」
「そうだ、誰だよお前は!」
サナは男を鋭い目つきで、肩を組んでいた男の手を掴む。
僕もそいつを睨んだ。
男は綺麗な服を着ていて貴族と言われて納得のできる格好だった。
身長はすこし僕より高くて茶髪。
特に目立つのは目が細いところだ。
にやけているのかそれとも普通の顔か。
「おお、こっちにも可愛子がおるな。いきなり俺の手を握るなんて、もしかして俺に気がある?」
「ふざけるな!」
「アハハ、気が強い女も嫌いじゃないよ」
ずっとヘラヘラとしながら喋っていた。
サナも男から手を離す。
「ふっ、自己紹介が遅れたな。俺はナンピ・グバードだぞ」
誰かさっぱりわからなかった。
正直、三人以外興味がないからね、あと決勝で戦うあの子と。
貴族とか言っていたけど、本当に強いのか?
「おっ、お前らは出来損ないの悪魔に・・・ビビリな少年じゃねえか。泥がつくから近寄らないでくれ!」
しっしっと手で僕とマネトを遠ざけようとする。
僕が貶されるのは慣れたからいい。
でもマネトは別だ。
僕の友達で優しい奴が馬鹿にされるのは腹が立つ。
「おい!」
「待って!」
前に出て言い返そうとしたがセクアナに止められた。
「トモヤ、これは私の相手だから私に任せて」
さっきまですこし震えていたが、鋭い目をしていた。
その透き通る言葉に僕は一歩下がった。
「この人は明日、決勝で私が戦う相手なの。
必ず私はあなたに勝ちます! それと私の仲間を馬鹿にしないでください!」
セクアナは強い口調で言った。
それでも男はヘラヘラとする。
「へっ、お前が俺に勝つ? 無理だろう!
魔法には相性って奴があるだろう?
俺は砂でお前は水。いくらお前みたいにたくさんの魔力があったところで無理だ! 所詮は女、所詮は平民だ。
おっと、女性を困らせるのはよくないな。明日の試合楽しみにしているぜ!
セクアナちゃん」
不敵な笑みを浮かべながら去っていった。
今の空気はどこか重くて、話だしにくかった。
さっきまでの笑顔はない。
あの男の登場によって、現実を見せられた気がした。
僕だけじゃない。
サナもマネトもセクアナもみんなピンチなんだ。
それを突きつけられるような出来事だった。
そのまま会話はなく、コロシアムから出た。
重い空気の中、初めに口を開いたのはサナだった。
「みんな、明日は絶対勝とうな! 明日は試合もランダムだったな。
もし私が初めに戦うなら一瞬で決めてやる!」
戦いだけでなく、サナは心も強かった。
天然なところはあるけど、こうやってリーダーシップをとるように話しかけてくれたら安心する。
「戦う時は一人だけど、私達は仲間だ。
苦しくても、応援してる。そばで見ている。一人で勝とうとするんじゃなくて、みんなで、この四人で勝とう! そして魔法騎士になるんだ。
全員が魔法騎士になって、明日どこかの酒場で祝おうじゃないか!」
サナはさっきのセクアナのように楽しそうに話していた。
それに釣られて、また楽しい空気に戻る。
楽しくなったのはいいけど、すぐにサナと別れてしまった。
宿のある場所が僕たちのところより結構離れている。
ここで別れるのは何だか寂しかった。
明日もまた会えるからいいけど。
「じゃあ、明日はみんなで魔法騎士になろう!」
「うん! またねサナ!」
「サナさん、また明日!」
サナの意志は受け取った。
四人で勝つか・・・
僕達だけにしかできないことだな。
全員が残っているといいけど。
いや、全員が残るだな。
僕にもサナみたいな強い意志が必要だな。
別れてからは三人で宿に向かう。
着くまでは色々と対抗策を話し合った。
でも、これ! と言えるほどの策は思い浮かばない。
魔法騎士になるというのは難しいということを改めて実感した。
宿へ着くとそれぞれ別行動だ。
マネトはお腹が空いていたのかすぐに食堂へ行き、セクアナと僕は部屋へと戻る。
宿に三人いたが、それぞれ色々考えることがあり、顔を合わせることはなかった。
僕は部屋へ戻るとイメージトレーニングをした。
何度も何度も彼と対峙することをシュミレートする。
とは言っても、あの圧倒的防御力を撃ち破る方法が考えれなかった。
実際に対面しないと弱点とかわからないかな・・・
頭を働かしすぎてお腹が空き、食堂へ向かった。
誰とも会わず、一人で食べる。
暖かい夕食は働いていた頭の疲れを癒し、体力を回復してくれた。
締めに水を飲んで夕食は終了する。
帰ってきた時間が遅かったため、時刻も八時頃。
完璧な状態にするために早く寝たい。
そんな思いとは裏腹に、緊張や彼と戦えるという好奇心によって、眠気なんて微塵も感じない。
今まで、何度かあったな。
こんな気持ち。
初めて修行をするってセクアナに言われた時、ゲンブと決闘をすることになった前日。
そして今日。
また一日の出来事で人生が決まるようなことで緊張し始めた。
すこし恐怖心も抱いているかもしれない。
心臓の音がすごく聞こえた。
動いているわけではないのに心拍数が上がった気がする。
嫌な汗も出てきた。
一人で焦っているとドアがノックされる音が聞こえた。
何かに飲まれそうな感覚が静まった。
「はい……」
ドアを開けるとそこには青色の髪を揺らすセクアナが立っていた。
僕と同じように苦しそうな顔をしている。
でも、いきなり女性が部屋に押しかけたので何だか顔が赤くなってしまう。
「ど、どうしたの」
今の僕はちょっと挙動不審だ。
「トモヤ、寝れてる?」
はにかんだ優しい笑顔を向けてくれる。
何かを隠しているような笑顔だ。
僕と同じようにセクアナも苦しんでいたのかな。
「うーん、ちょっと寝にくいかな・・・」
「そっか、そうだよね。えっと、そのちょっと私のわがままに付き合ってくれるかな?」
どうせ寝れないし、セクアナの頼みを受けた。
僕たちは外に連れ出された。
月明かりに照らされながら二人で並んで歩いた。
行くあてもなく、ただフラフラと適当に。
それでも、セクアナと二人で散歩をするなんて久しぶりで、新鮮な気分だった。
月の光に照らされている姿が美しくてすこし照れてしまうけど。
「それにしても、あの貴族なんだったんだ。いきなりセクアナの肩組むなんて」
第一声がその話だった。
こういう雰囲気で明日のことを話すのはなんか堅苦しいと思った。
「ああ、うん。私もいきなりはびっくりしたよ。それにしてもちゃんと心配してくれたんだ」
「そりゃそうだよ。僕だってセクアナと肩組んだことないのに」
「フフフ、もしかして嫉妬る?」
「ああ、えっとそれは・・・」
からかうように上目遣いで言われて思わず言葉に詰まってしまう。
正直、嫉妬しているかもしれない。
あんなに積極的に僕はいけないし、セクアナがナンパされてたのはなんか嫌だ。
「嫉妬しているかも・・・・・・」
「ふぇっ! あっそうなんだ・・・」
普段、言わないようなことを言って二人とも顔が赤くなる。
「あ、ありがとう・・・」
下を俯きながらも小さな感謝の言葉が聞こえた。
しばらく二人で歩いていると、意外な人に鉢合わせた。
「ふっふっ、はぁはぁ」
なんとサナがランニングをしていたのだ。
「え? なんで走っているの?」
「あれ、トモヤとセクアナじゃないか。どうしたんだ? もしかして寝れないのか?」
「そ、その通りです・・・」
「そうか、奇遇だな!」
同じ人がもう一人いた。
仲間がいたことに安心していると次は上の方から声が聞こえた。
「あれ? 三人とも何しているの?」
近くに建っていた家の屋根から声が聞こえた。
その主はマネトだ。
なんの運命に繋がれているのか僕達は全員が夜寝れず、外をふらついていたのだ。
しかも鉢合わせた。
こんな運命的なことはない。
せっかく揃ったので、話しやすそうなマネトがいる屋根の上に登った。
「みんな外にいるとはね。まさか一日に二度も会うとは思わなかったよ」
セクアナがため息を混じりながら言う。
「もう一度出会うとわな・・・・」
みんなそれに納得する。
「それよりも、これだ!」
マネトが指を刺した先を見る。
それは空だった。魔石があまりついていないからこそ、星がとても鮮やかに輝いていた。
三人ともそれに感動して見惚れる。
月も満月。
この日の夜空はとても綺麗だった。
上を向いていたが、首が疲れて四人、頭を合わせて寝転んでみた。
決勝戦前、みんなといい思い出が作れた。
もし離れ離れになってもこの日のことは忘れないと思う。
始めはなんでここにいるだとか、星のこととか、いろいろ話した。
最終的にみんなと一緒にいたせいか、星に癒されたせいかわからないが、ここにきてやっと眠気がきた。
そのまま四人仲良く並んで屋根の上で寝てしまった。
とても楽しそうな寝顔を浮かべて。
誰が魔法騎士になるか、というのをたくさんの人が予想していた。
「あの悪魔、思ってた以上に強いね!」
「確かに貴族にも勝っていたからな」
僕は勝ち上がりすこしだけ、ほんの少しだけだが好感度が上がった。
「でも魔法騎士になるのはねー、ちょっと心配だよ」
「いつ暴走するかわからないし」
しかし、サンダー・ブラウンの話があり、いつ暴走するかわからない奴が魔法騎士になるのは嫌がる人は多い。
すこしでもよく思ってくれている人がいてよかった。
セイラ姉さんの言う通り、僕と言う存在を知らしめることができた。
あとはこれからの行動次第だ。
今僕たちはコロシアムの中にいる。まだ観客の人たちがぞろぞろと帰っているので、もう少し減るまで待つことにした。
「いやー、みんな揃って決勝に行くなんて珍しいことだよ!」
「もう明日で終わりか。まだまだ私は戦いたかったぞ。強くなるために」
「俺はもう懲り懲りだよ、戦うのあんまり好きじゃないから。セクアナもそうでしょ?」
「わ、私! もう少し戦いたかったかも・・・」
珍しく、セクアナは戦いに喜びを覚えていた。
三人とも驚いている。
まさかセクアナがここまで自信をつけているとは思わなかった。
一回戦が終わった後の歓声に味をしめたのかな。
ビビリだったセクアナがすこし成長できたようだ。
「みんなもわからない? あの勝負が決まったと同時に響く、応援してくれている人たちの声。必死に戦って報われるあの瞬間が最高なんだ!
今まで、悩んで、苦しんで、努力してきて、嫌になることもあったけど、あの瞬間はそんな苦しい思いがチャラになるんだよ!
それから・・・・・・」
楽しそうに試合のことを語っていた。
目が輝いていた。
ずっと笑顔で話している。
それを見ていると何だか僕たちも楽しくなってきた。
とてもいい雰囲気だったが、一人の奴が来て一気に空気が変わった。
「可愛いねえ、君・・・」
スルッと気づかないうちに誰かがセクアナの肩に腕を組んでいた。
「ひゃっ!」
楽しんで試合のことを話していたセクアナから笑顔が消えた。
「こんなに可愛いのにどうして魔法騎士なんかになろうとしてんの? もったいないな」
「ひゃ、あっ・・・」
知らない人からいきなり肩を組まれてセクアナは甲高い声をだす。
「この俺の女にならへんか。俺貴族でなぁ、めっちゃお金持っとるねん。贅沢して暮らしたいやろ? って、うお!」
「誰だ、貴様。いきなり女の体に触るなんて」
「そうだ、誰だよお前は!」
サナは男を鋭い目つきで、肩を組んでいた男の手を掴む。
僕もそいつを睨んだ。
男は綺麗な服を着ていて貴族と言われて納得のできる格好だった。
身長はすこし僕より高くて茶髪。
特に目立つのは目が細いところだ。
にやけているのかそれとも普通の顔か。
「おお、こっちにも可愛子がおるな。いきなり俺の手を握るなんて、もしかして俺に気がある?」
「ふざけるな!」
「アハハ、気が強い女も嫌いじゃないよ」
ずっとヘラヘラとしながら喋っていた。
サナも男から手を離す。
「ふっ、自己紹介が遅れたな。俺はナンピ・グバードだぞ」
誰かさっぱりわからなかった。
正直、三人以外興味がないからね、あと決勝で戦うあの子と。
貴族とか言っていたけど、本当に強いのか?
「おっ、お前らは出来損ないの悪魔に・・・ビビリな少年じゃねえか。泥がつくから近寄らないでくれ!」
しっしっと手で僕とマネトを遠ざけようとする。
僕が貶されるのは慣れたからいい。
でもマネトは別だ。
僕の友達で優しい奴が馬鹿にされるのは腹が立つ。
「おい!」
「待って!」
前に出て言い返そうとしたがセクアナに止められた。
「トモヤ、これは私の相手だから私に任せて」
さっきまですこし震えていたが、鋭い目をしていた。
その透き通る言葉に僕は一歩下がった。
「この人は明日、決勝で私が戦う相手なの。
必ず私はあなたに勝ちます! それと私の仲間を馬鹿にしないでください!」
セクアナは強い口調で言った。
それでも男はヘラヘラとする。
「へっ、お前が俺に勝つ? 無理だろう!
魔法には相性って奴があるだろう?
俺は砂でお前は水。いくらお前みたいにたくさんの魔力があったところで無理だ! 所詮は女、所詮は平民だ。
おっと、女性を困らせるのはよくないな。明日の試合楽しみにしているぜ!
セクアナちゃん」
不敵な笑みを浮かべながら去っていった。
今の空気はどこか重くて、話だしにくかった。
さっきまでの笑顔はない。
あの男の登場によって、現実を見せられた気がした。
僕だけじゃない。
サナもマネトもセクアナもみんなピンチなんだ。
それを突きつけられるような出来事だった。
そのまま会話はなく、コロシアムから出た。
重い空気の中、初めに口を開いたのはサナだった。
「みんな、明日は絶対勝とうな! 明日は試合もランダムだったな。
もし私が初めに戦うなら一瞬で決めてやる!」
戦いだけでなく、サナは心も強かった。
天然なところはあるけど、こうやってリーダーシップをとるように話しかけてくれたら安心する。
「戦う時は一人だけど、私達は仲間だ。
苦しくても、応援してる。そばで見ている。一人で勝とうとするんじゃなくて、みんなで、この四人で勝とう! そして魔法騎士になるんだ。
全員が魔法騎士になって、明日どこかの酒場で祝おうじゃないか!」
サナはさっきのセクアナのように楽しそうに話していた。
それに釣られて、また楽しい空気に戻る。
楽しくなったのはいいけど、すぐにサナと別れてしまった。
宿のある場所が僕たちのところより結構離れている。
ここで別れるのは何だか寂しかった。
明日もまた会えるからいいけど。
「じゃあ、明日はみんなで魔法騎士になろう!」
「うん! またねサナ!」
「サナさん、また明日!」
サナの意志は受け取った。
四人で勝つか・・・
僕達だけにしかできないことだな。
全員が残っているといいけど。
いや、全員が残るだな。
僕にもサナみたいな強い意志が必要だな。
別れてからは三人で宿に向かう。
着くまでは色々と対抗策を話し合った。
でも、これ! と言えるほどの策は思い浮かばない。
魔法騎士になるというのは難しいということを改めて実感した。
宿へ着くとそれぞれ別行動だ。
マネトはお腹が空いていたのかすぐに食堂へ行き、セクアナと僕は部屋へと戻る。
宿に三人いたが、それぞれ色々考えることがあり、顔を合わせることはなかった。
僕は部屋へ戻るとイメージトレーニングをした。
何度も何度も彼と対峙することをシュミレートする。
とは言っても、あの圧倒的防御力を撃ち破る方法が考えれなかった。
実際に対面しないと弱点とかわからないかな・・・
頭を働かしすぎてお腹が空き、食堂へ向かった。
誰とも会わず、一人で食べる。
暖かい夕食は働いていた頭の疲れを癒し、体力を回復してくれた。
締めに水を飲んで夕食は終了する。
帰ってきた時間が遅かったため、時刻も八時頃。
完璧な状態にするために早く寝たい。
そんな思いとは裏腹に、緊張や彼と戦えるという好奇心によって、眠気なんて微塵も感じない。
今まで、何度かあったな。
こんな気持ち。
初めて修行をするってセクアナに言われた時、ゲンブと決闘をすることになった前日。
そして今日。
また一日の出来事で人生が決まるようなことで緊張し始めた。
すこし恐怖心も抱いているかもしれない。
心臓の音がすごく聞こえた。
動いているわけではないのに心拍数が上がった気がする。
嫌な汗も出てきた。
一人で焦っているとドアがノックされる音が聞こえた。
何かに飲まれそうな感覚が静まった。
「はい……」
ドアを開けるとそこには青色の髪を揺らすセクアナが立っていた。
僕と同じように苦しそうな顔をしている。
でも、いきなり女性が部屋に押しかけたので何だか顔が赤くなってしまう。
「ど、どうしたの」
今の僕はちょっと挙動不審だ。
「トモヤ、寝れてる?」
はにかんだ優しい笑顔を向けてくれる。
何かを隠しているような笑顔だ。
僕と同じようにセクアナも苦しんでいたのかな。
「うーん、ちょっと寝にくいかな・・・」
「そっか、そうだよね。えっと、そのちょっと私のわがままに付き合ってくれるかな?」
どうせ寝れないし、セクアナの頼みを受けた。
僕たちは外に連れ出された。
月明かりに照らされながら二人で並んで歩いた。
行くあてもなく、ただフラフラと適当に。
それでも、セクアナと二人で散歩をするなんて久しぶりで、新鮮な気分だった。
月の光に照らされている姿が美しくてすこし照れてしまうけど。
「それにしても、あの貴族なんだったんだ。いきなりセクアナの肩組むなんて」
第一声がその話だった。
こういう雰囲気で明日のことを話すのはなんか堅苦しいと思った。
「ああ、うん。私もいきなりはびっくりしたよ。それにしてもちゃんと心配してくれたんだ」
「そりゃそうだよ。僕だってセクアナと肩組んだことないのに」
「フフフ、もしかして嫉妬る?」
「ああ、えっとそれは・・・」
からかうように上目遣いで言われて思わず言葉に詰まってしまう。
正直、嫉妬しているかもしれない。
あんなに積極的に僕はいけないし、セクアナがナンパされてたのはなんか嫌だ。
「嫉妬しているかも・・・・・・」
「ふぇっ! あっそうなんだ・・・」
普段、言わないようなことを言って二人とも顔が赤くなる。
「あ、ありがとう・・・」
下を俯きながらも小さな感謝の言葉が聞こえた。
しばらく二人で歩いていると、意外な人に鉢合わせた。
「ふっふっ、はぁはぁ」
なんとサナがランニングをしていたのだ。
「え? なんで走っているの?」
「あれ、トモヤとセクアナじゃないか。どうしたんだ? もしかして寝れないのか?」
「そ、その通りです・・・」
「そうか、奇遇だな!」
同じ人がもう一人いた。
仲間がいたことに安心していると次は上の方から声が聞こえた。
「あれ? 三人とも何しているの?」
近くに建っていた家の屋根から声が聞こえた。
その主はマネトだ。
なんの運命に繋がれているのか僕達は全員が夜寝れず、外をふらついていたのだ。
しかも鉢合わせた。
こんな運命的なことはない。
せっかく揃ったので、話しやすそうなマネトがいる屋根の上に登った。
「みんな外にいるとはね。まさか一日に二度も会うとは思わなかったよ」
セクアナがため息を混じりながら言う。
「もう一度出会うとわな・・・・」
みんなそれに納得する。
「それよりも、これだ!」
マネトが指を刺した先を見る。
それは空だった。魔石があまりついていないからこそ、星がとても鮮やかに輝いていた。
三人ともそれに感動して見惚れる。
月も満月。
この日の夜空はとても綺麗だった。
上を向いていたが、首が疲れて四人、頭を合わせて寝転んでみた。
決勝戦前、みんなといい思い出が作れた。
もし離れ離れになってもこの日のことは忘れないと思う。
始めはなんでここにいるだとか、星のこととか、いろいろ話した。
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