雷魔法が最弱の世界

ともとも

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魔法騎士団試験

相性の壁

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砂ぼこりが舞い上がる闘技場の中央で一人、青い髪をたなびかせて立っている。

その対戦相手はというと、まだ現れない。

その姿を観客席で僕達は見ていた。
「遅いよね、セクアナの対戦相手。あれだけ頑張ろと覚悟を決めていたのに、こんなにも待たされたら士気も下がっちゃうよ。始まる前から相手のペースだね」
つまらなさそうに手すりに肘をついて、マネトは愚痴を言う。

サナも深刻そうな顔をしながら、
「そうだな。しかも相手は上級貴族なうえに魔法の相性が最悪だ。今の状況は悪いな」
「えっ! 上級貴族ってどういうこと?」

サナが唐突に言った一言に思わず食いつく。

「ああ、そうだったね。トモヤは常識に疎いから知らなかったかー」
マネトが面白がるように笑う。

「ナンピ・グバードはグバード伯爵家の長男だ。グバード家は歴代、属性で言うと「地」系の魔法を操る名家だから強いのだ」
「そうだよ。あの最強の貴族と比べると全然弱いし、応用技とかもあんまりだけど、魔力量は他と比べると圧倒的に多いかな・・・
受験者の中で一番か二番目くらいの魔力量かも」
「あ・・・そうなの・・・」
この二人の説明を聞いて冷や汗が出てきた。

言われてみれば強かったかも知れない。
応用技がうまくないから、岩石でできた拳のスピードは遅かった。でも、威力はとてもあった。
一撃で意識が飛びかけたからな。

魔力量が多いという事実。また、魔法の相性が最悪。

魔力量が同じなら、相性が悪くても簡単にセクアナは勝てていただろう。でも彼の魔力量は相当だ。

思っていた以上に苦戦する相手かもしれない・・・

「お、やっと出てきた。遅いよあいつ」
「セクアナはたぶん、彼の底知れない魔力量に苦しめられるだろうな。どう乗り越えるかが問題だな」

サナは腕を組んで、顔をしかめている。
その顔を見て、僕の心に不安が残った。

「大丈夫だよね・・・・・・」

その答えの返答は誰もしてくれなかった。


「さぁ! やってまいりました二十四回戦!
少し遅れてですが入場してきました、ナンピ・グバード! 今大会では圧倒的魔力量でたくさんの奴らを潰してきたぞ。今回はどんな戦いをしてくれるか」

不気味な笑みを浮かべながら歩いてくる。
すぐ近くの観客席には、さっき出会った付き添いの者が二人いた。

勝つのが余裕だと思っているのか、冷静に座っている。

「そして、ナンピと決勝を戦うのはセクアナ・フローレス! 魔力量は遠く及ばないが、さまざまな技で相手を翻弄するぞ。圧倒的魔力量に対してどう戦うか!」

司会の簡単な紹介が終わると握手をするために、ゆっくりと近づく。

「やぁ、こんにちはセクアナちゃん。俺は女の子に手を出したりしないからさ」

そう言って、手を握ると王子様のように膝をついた。
「あ、えっと・・・」
いきなりの行動に思わず戸惑ってしまう。

「魔法騎士になったら俺が君を助けてあげるよ。あの悪魔に脅されているから一緒にいるんだろう? そばに仕えるだけでなく、こんなに可愛い子を戦わして、あいつはクズだな」

「えっと、何か勘違いしていませんか?
私がここにいるのは自分の意思です。それにトモヤは優しい。あなたとは違います」

いきなりトモヤを悪魔呼ばわりされて頭に、カチンときた。
思わず睨んでしまう。

「ああ、かわいそうにな・・・・・・あの悪魔に反論できないように呪いをかけられているんだな。そこまでして君を隷属するなんて・・・」
「だから! 違います!」
「ああ、もう喋らなくても分かってるんだ」

手を前に出して私が伝えようとしていることを遮る。
話がこの人には通じない。

トモヤへの偏見をすこしでも減らしたいからこそ、ちゃんと誤解だってことを伝えたい。

トモヤはとても優しいから。

「君も早く僕との決勝戦、リタイアするってことを言ったほうがいいよ。どうせ俺には勝てないんだし」
「リタイア・・・そんなこと絶対にしません!」

絶対に負けないと思っているのか、軽々しくリタイアと言われて思わず声を荒げてしまった。
まるで相手のペースに飲まれているようだ。
だから深く深呼吸をして冷静を取り戻す。

「まったく、この俺に反論できるくらい強い呪いをかけているなんて、とんでもないやつだな。はぁー、まぁすぐにわかるよ、俺の実力が。ニヒヒヒヒヒ」

気持ちを落ち着けるとまっすぐに彼の方を見た。
「私はあなたを全力で倒します!」

「はいはい、わかってるって。俺に対する助けを求めているんだよね? すぐに終わらしてあの悪魔を倒そうな!」

本当にこの人は話が通じない。

すこし長めの会話を挟んだあと、それぞれに間合いを取る。

私は緊張で筋肉が強張りながらも杖を胸の前に持った。
みんなに背中を押されたが、まだ胸がドキドキしている。

だから目を瞑り、再び深呼吸をした。

「よし! 勝つよ!」


「さーて、両者準備ができたようです。
それでは二十四回戦・・・始め!」

いきなりの速攻魔法が来ると身構えていた。

しかし、彼は何をするでもなく余裕の顔をして立ち尽くしていた。
まるで魔法をどんどん打ってこいと言わんばかりのポーズだ。

完全に舐め切っている。

怒りが湧いてきて、強力な魔法を放出しようとしたが思いとどまった。
感情に身を任せたらダメだ。

もしかしたら彼の作戦かも知れない。
そう思い冷静に考えて決勝に挑む。

すっと涼しい風が透き通り、髪が揺れると同時に私は動き出した。

人差し指を立てて銃を打つようなポーズをとる。

「おっ、なにがくるのかな? まぁ君のどんな攻撃も俺が受け止めてやるよ!
どうせすぐにリタイアするんだし」

彼の言葉など聞こえないほど、指に意識を集中させる。

「水鉄砲・・・」

バキュン!

カキン

目で追えないような速度で水弾が彼に向かって飛んでいった。

しかし、なにもしていない彼に当たらなかった。
体に当たるギリギリのところで跳ね返って、水弾が消えた。

「え・・・」
なにが起こったか分からず固まってしまう。

小さい頃からずっとこの技は使っていた。
スピードも威力も昔と比べると格段に上がった。
なのに跳ね返ったのだ。
意味がわからない。

「ど、どうして当たらないの? もう一回、ん!」

バキュン、バキュン!

カキン・・・

「はぁー、何度繰り返しても無駄だよ」
彼の満更でもない姿にすこし怯えてしまう。
まだ、始まってなにもやっていないのだから。

「そんな弱い魔法、意味ないよ。俺の体の周りには小さな砂の粒子が舞っているんだよ。それで軽いバリアみたいなのを作ってるんだ。そんな弱い攻撃なんて屁でもないよ」

今起こったことの解説が終わると「はぁー」と深いため息をする。

「だから勝負はだるいんだよなー。みんな弱すぎ・・・・・」

耳の穴をほじって、そこから取れた耳カスを「ふっ」と息を吐いて落とす。

「ま、まだまだ」

まだ私には色々な技がある。
臨機応変に対応して、彼にダメージを与えられる技を見つけないと・・・・

「ムラサメ!」

杖を向けると、光を出して槍のように尖った水弾が次々と放出される。
一つ一つに威力はないが、圧倒的な量で攻める。

「ふっ、まぁいい」
不敵な笑みを向けると、彼は初めて動き出した。
地面に手を置いて何かをする。

「はっ!」
かけ声と共に、大量の砂が地面から湧き出す。
それが彼を覆うように壁の形になって私の攻撃を防いだ。
水の攻撃だったため、砂の壁を壊すどころか、吸収されてほとんどダメージがない。

全て防ぎ終わると真ん中に隙間ができて、その間がだんだん広がり、彼は出てきた。

「どうだ。この砂の壁でどんな攻撃でも防いでやるよ。どうせこれを攻略できないんだからすぐリタイアして欲しいが・・・」

また、リタイアという言葉を聞いて、眼をギラつかせる。

「それは無理そうだな」
「はい、無理です」

さっきと同じように杖に力を込めてどんどんと魔法をぶつける。

素早くて操作しやすい鳥の造形魔法をぶつけたり、刃の形をした攻撃をしたり、爆発する魔法も試したがびくともしない。

自分が今までずっと修行して、努力して考えてきた技を放出した。しかし何度も止められて、苦しくなる。

なにをやっても彼に勝てない・・・
体力と魔力だけがなくなってくる。
希望がだんだん薄れていくような気分だ。

自分がピンチになると、思わず三人が羨ましくなる。
トモヤ、マネトなら超スピードで相手に接近するんだろうな。
サナならあんな防御ものともせずに破壊できる超パワーを持っているんだろうな。

しんどいわけではないが、何かに追い込まれるような嫌な感情が私を支配し、息が上がってしまう。
「はぁはぁはぁはぁ・・・・・・・」

本当に負けそうな状況だ。

でも、私にはまだ彼に対して使っていない魔法がある。
もしものために置いていたけど、ここで使うしかない!
そう覚悟を決めて強く杖を握る。
そして今までとは違う白い光が杖から放たれる。

「スーーー・・・」
深く深呼吸をして溜める。
そして、

「ピンチになった時、氷魔法を使う・・・・だろ?」

シュッ!
ガン!

まっすぐに先の尖った氷は飛んでいった。
砂の壁なら通り抜けていただろう。
しかし、私の考えは読まれていた。
彼の予想は的中して、壁は岩石のように固められていた。
それに氷はぶち当たり、粉々に消える。

その光景に私は固まることしかできなかった。

「ウソ・・・でしょ・・・・・」
勝てるという希望がまだ残っていたが、それでも考えていることを完全に読まれて、糸もたやすく止められることに絶望を覚えた。

「私、負けてしまうのかな・・・」
「フフフ、フッハハハハ! これが圧倒的実力差というのもだ。分かったか! 君はもう俺に勝てないね。さっさと降参してさ、俺の女になれよ、へっへへへへ!」

魔法の相性の悪さ、賢明な頭、そして何よりも圧倒的魔力量、この三つが合わさって勝てる気力がだんだんなくなった。

試合が始まってから彼はずっと魔法を放出し続けて砂の壁を操作していた。
それなのにピンピンしている。

彼は天性の才能に恵まれていて、さらに私の心を蝕む。

「負け・・・負けてない・・・ハアァァァァ!」

気持ちを紛らわすために、水弾を放出した。
といってもただ自分の魔力が少なくなるだけで意味はない。

「はぁー、やけくそになったか。ちょっと可愛いとか思っていたけど、さすがに負けを認められないような弱者はすこし嫌いかもな・・・無様な姿だ・・・」
「ッ!?」

ヘラヘラしていない彼の言葉を聞いて自覚する。
今の私は醜い。

彼に勝てないからやけくそになって、ただただ自分の魔法を消費していた。
しかし、もうどうにもできない。
私はすべてにおいて彼に負けたのだ。

どうしろと、私はみんなみたいに強くない。

元水の女神だったから調子に乗っていた。
それに私は、人一倍努力してもすぐに身につかない体質だ。他と比べたら劣っている。
また、トモヤのように自分の魔法が好きだと素直に言えない。
正直にいうと水魔法なんて弱いと感じていて、嫌いだった時期もあった。

その結果が今の私だ。
水魔法によって身体能力向上できる技なんて取得できず、ただの攻撃技だけが増えた。
魔王を倒すという大きな目標を掲げておきながら、その土台である魔法騎士になれない。

改めて自分は弱いのだと感じる・・・

(目に光がなくなった・・・・もうそろそろ終わりだな)

彼は笑みを浮かべていた。

全くその通りだ。恥ずかしい話、このままリタイアしますと言いそうだ。

「ごめんね、みんな・・・」

ドッガーーーーン!!

何かが爆発したような激しい音が聞こえて、凄まじい風が飛び込んできた。

「いつものセクアナに戻れぇぇぇぇ!」

会場中にトモヤの声が響いた。
観客からの悲鳴も。

「そんな簡単に諦めるのは君じゃない。まだ全力を尽くしていないだろう! 僕は知っている。セクアナは誰よりも努力してきたことお! だから・・・諦めるなぁぁぁぁぁ!」

トモヤの思いが心に響く。


「おい、とうとう悪魔が暴走したぞ」
「ヤベェよ、俺達死んじゃう。こんなの試合どころじゃねぇよ」
批判の声が殺到した。
決勝での試合もあり、良いイメージを持っている人もいたが、全てが台無しだ。

「悪魔!」
「消えろ!」
「死ね!」

暴言を会場中から吐かれている。
また、ブーイングをされてとても辛いと思う。
私なら耐えられないくらい苦しい。
でもトモヤはまっすぐ見ていてくれた。もちろんサナもマネトさんも。

「自分を犠牲にして、あんなとんでもないことをするなんて本当に馬鹿」

それでも笑顔が漏れてしまう。

「フフフ、嬉しい。やっぱりトモヤは優しいね!」
すこし気持ちが晴れる。

「ハッ、簡単に俺に吹き飛ばされたあいつは知能もないんだな。猿以下だ。あーあ、どうしてあんな奴がこの世界に生まれてきたのかな! 人間の恥だな」

まだ人を馬鹿にすることができるほどの余裕がある彼に、力強く一歩踏み出す。

「お、すごいね君。あんな無様な姿を晒しておいてまだ戦えるなんて。俺また君に惚れ直したかも知れねぇな」
「もうあんな姿は見せない」
「へっ、そうかい。今度はどんな技を見してくれるのかな? へっへへへへ」

私は杖を彼ではなく、上に向けた。

「ふっ!」
上に大量の水を放出して、雨を降らせる。
この攻撃に意味はない。

「はぁー、なんだ。すこし期待したのにまたこれかよ。無駄に魔法を消費して意味のないことをよくするな。こんな雨、こうして砂の壁でこうすると濡れないんだよ」

彼は砂をドーム状にして雨宿りをする。

「チッ、もういいから早くリタイアしてくれない?」

一分ほど雨を降らせると魔法を解除した。
彼の周りはあまり濡れていないが他の地面は水溜りなどができている。すこし彼の服も濡れていた。

この雨を降らしたのは、次の攻撃をするための前準備だ。

雨が止むとゆっくりと近づいてきた。
そして、そのチャンスが来たと同時に魔法を発動する。

「アイスフィールド!!」

水滴を浴びていた地面がビシビシと音を立てて凍る。

ギーーーーン!

「くっ、うわぁ!」

コロシアム全体が氷に覆われた。
まるで白い世界。

「はぁぁぁぁー」
息を吐くと白い空気が出てきた。

勝負はどうなったのかわからない。
でも、今この闘技場に立っているのは私ただ一人だけだった。

そして、冷たい風がこのコロシアムを包む。
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