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魔法騎士団試験
勝負の結末
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クリフにかすり傷を負わせた後も、猛攻は続いた。
今がサナにとって、最高のチャンスだ。
会場の人による歓声で気持ちは高ぶり、クリフに対しても技が通用している。
これを好機と思い、全力で攻撃するサナ。
どんどん切り裂くスピードが上がる。
「勝利のかけらを絶対に逃さない!」
「ハァァァァァァァ!」
強い意志を持っていた。
そして大きく双剣を振りかぶる。
ドカッン!
しかし、またサナは太い木の攻撃をくらい、吹き飛ばされた。
訪れたチャンスだったが、また初めからのスタートである。
それでも目は死んでいなかった。
痛めたところを抑えながらも再び立ち上がる。
「そう簡単にはいかないものだな・・・やはり、貴族の一撃は痛い。
そう何度も攻撃をくらうと私の体がもたないようだな」
手を握りしめ、目を瞑り、自分の状態を計測する。
「あと五回くらいかな・・・それまでにクリフを倒さないといけないか」
焦る感情が少しずつ出てきた。
嫌な汗が発生して、サナの心を蝕む。
サナは戦う前から魔力、技術の差が開いていることを知っていた。
それでも強者と交えることができて、始まった時からずっと喜んでいた。
旅で王都まで来る道中、魔法騎士団試験。
それまでの戦いで、ここまで興奮できるほどの、強さを持つ者に出会えなかったからだ。
でも、敗北の可能性を感じてしまうと思い悩む。
あと数回攻撃を受けると負ける現実に、初めてサナは悔しがった。
「おいおい、さっきの威勢はどこに行きやがった!
これだから弱者は存在が邪魔なんだよ!」
「ふっ、笑わせるな。こんな攻撃で私がへこたれるわけないだろ?
私の技は他にもある!
そう焦るなよ・・・もしかしてビビってるのか?」
ビキッ
サナの煽るような口調にクリフの頭に血が上る。
「山猿風情が、粋がってんじゃねえよ!」
「わざわざ攻撃をしてくれるなんて嬉しいな! それを返り討ちにしてやる!」
両手に持っていた双剣を落とすと、手を後ろに回し、エアーで両手剣を持つ構えをした。
その間にも大樹はサナ目掛けて、突き刺さすように飛び出す。
「晦冥の剣!」
すぐに剣は現れ、木の根を弾き飛ばす。
あらゆる方向からサナ目掛けて攻撃していたのに、一振りで軌道が変わったのである。
サナは真っ黒な剣を握りしめていた。
でも古臭い感じはなく、まるで何かに呪われたような不気味な色をしていた。
妖刀のような感じだ。
再びサナは勢いよく発走する。
さっきと比べると、見た目に欠けるが強い武器であることは間違いない。
クリフは先の戦いでやったように、また大樹による攻撃をする。
それを難なくサナは一撃で振り払う。
どうなっているのか意味がわからない。
「これならどうだ」
すると両手を天に上げ、再び大量の葉っぱが出現する。
「裁きの醜草!」
苛立ちのせいか次々と攻撃を仕掛ける。
でも一度見た技だからか、それとも武器の能力なのか2、3回振り回すとチリチリに散った。
たぶん後者だろう。
クリフは怒ったことで攻撃がすこし短調になっていた。
しかし罠だと気付いくと、すぐに落ち着きを取り戻していた。
攻撃を終える頃には、魔剣の能力が分かったのか、「ほう」と頷く。
「俺の魔法が吸い寄せられてるな。
闇か、吸収かそういう属性を持つ剣か」
すぐに魔法がバレて、ギクッとするも平然を装う。
「その通りだ! それがこの魔剣の便利なところだ」
素直にサナは武器の性能を答えた。
「だが、能力が分かったところで、意味はないがな」
それを言い放つと再び間合いを詰め始めた。が、さっきのように近づくことはできなかった。
クリフは正面から攻めるのをやめ、四方八方から、根を操作して攻撃し始めた。
「ふん、低レベルな技が。それには弱点がありすぎなんだよ」
クリフはサナを睨みつける。
「吸い寄せる能力はあっても、その魔剣には吸い寄せる範囲に限度があるだろう?
それは狭い!
だから今お前は苦戦しているのだ。
やはり雑魚は知能もないんだな!
新しい技を出しても、俺の圧倒的力の前では無意味なんだよ!
魔法が弱いのにでしゃばってんじゃねぇ!」
罵声を聞く余裕もないまま、全方位から攻撃をどうにか耐える。
それでも、数が多いせいで長くはもたない。
「後ろがガラ空きだ」
声が聞こえたと思うと、目の前まで根は来ていた。
「しまっ!」
巨大なムチで打たれたような激痛が、背中に走る。
「ぐああああああああっ!」
次は前に吹き飛ばされ、大樹の目の前まで来ていた。
「ハァハァハァ・・・」
うつ伏せで倒れながら洗い息を吐く。
「へっ、俺の足元にくるのもおこがましい!」
でも今回は、大樹による攻撃ではなく静かにサナに近づくのである。
クリフは拳を強く握りしめた。
すると、カチカチに固められた大樹の根が拳を覆ったのである。
「これで終わりかもな」
不敵な笑みを浮かべる。
サナは睨みながらも、どうにか回避しようと体を動かす。
それを逃すまいと、クリフはすぐに拳を叩きつけた。
ドゴ!
殴られて鈍い音が響き、再び吹き飛んだ。
そして何度目かわからないほど、同じように壁にぶつかったのである。
スラリと立つものの、そろそろ限界のようで、頭がゆらゆらと揺れている。
「チ…… いちいち間に触る奴だ。
弱者は弱者なりにとっとと負けろ!」
「ふっ、弱者か・・・
確かに私は弱いかもしれないな」
まだ意識は朦朧としているが、それでも凛々しい姿で立っている。
「なんだ今更になって弱いと認めるのか」
サナの傷を見て、余裕が出てきたのかよく、ニヤけるようになった。
「ああ、その通りだ。私は弱かった。
強いと思ったことは一度もない!」
体を痛めながらもゆっくり話す。
「ある時からずっと私は一人で過ごしていたのだ。
誰も助けてくれず、誰も見てくれない。
飢え死にしそうになったこともあった。
もちろん、山から降りてきた異種族だから差別は当然のことだ。
弱く、人という存在が怖かったから、私は一人寂しく山に閉じこもった。
私はずっと一人で過ごすと絶望していた・・・
山から降りる頃には勝手にモンスター少女と異名をつけられ、みんなから恐れられ、近づく者などいない。
また絶望した。
私を見てくれる人はいなかったのだから。
だが、それは違った。
あの日、トモヤは私をちゃんと見てくれたのだ。
トモヤだけじゃない。
セクアナにマネト。
この二人も私と一緒の仲間になってくれたのだ。
私は弱い!
それでも仲間を守る力さえあればそれで十分だ。
私はお前に負けるだろう。
だがな、仲間のために、簡単には勝たせない!」
ビキッ
またいつかのように、クリフの頭に血が上る。
「何が仲間だ! そんな甘い考えをしているからどいつもこいつも弱者なんだ!
ふざけるな!」
怒鳴り声が響く中、サナは魔法に集中していた。
一呼吸おくと、ゆっくりと光に覆われて持っている武器が変わる。
「紅焔の剣!」
白い剣の中にオレンジや赤の色が施されていた。
美しい色の剣だ。
また、さっきまでと比べて太くて大きい。
今の傷だらけのサナには重そうな紅の剣だが、大きく振り被り、ゆっくりと歩き始めた。
「そのボロボロの体ならこれで終わりだな!
ハッ!」
クフトは拳に力を入れると、ドシドシと音を立てて巨大な大樹がサナを襲う。
メキメキっと筋肉が鳴る音が小さく響いた。
静かに魔法を剣に与え、凝縮される。
しばらく呼吸をし、タイミングを掴むと空気を一気に肺に吸い込んだ。
胸がすこし膨らみ、さらに深く集中する。
そして、ずっと溜めていたサナの大技が今、炸裂する。
「フレアバースト!!!」
大炎走。
「なっ!?」
大きくそびえ立っている大樹を洗い流す獄炎の濁流が、全てを呑み干す。
「くそがぁぁぁぁぁぁぁ!」
絶叫とともに吐き払われる大樹。
元は木でできているため、ものすごい炎が発生する。
魔道具によって会場の人々に魔法が当たることはないが、ものすごい熱が外まで感じたのである。
メラメラと燃え盛る炎は、巨大大樹を一瞬で真っ黒に焦がした。
「ハァハァハァ・・・」
大半の魔力を使い果たしたサナは地面に膝をついた。
もうほとんど闘う元気がない状態だ。
それでも、相手の状態が分かるまで試合は続行するので、回復はできない。
まだ山火事のように大樹は燃えていたから。しばらく休憩する時間はある。
膝をついて休める時間。
これは全力を出し切ったサナにとってはとても至極の時だった。
と思っていた。
バキバキバキ!
燃えていた、大樹は爆発するように周りに散ったのである。
サナは思わず目を見開いていた。
こんな現象が起こると思わなかったことと、爆発が起こった大樹の中心を見て。
「山猿の下人が調子に乗るなよ・・・」
大樹の根によって形成されている球体の中から、クリフの小さな声が聞こえた。
「クズが!」
クリフはギリギリで反応し、凝縮した大樹で周りを覆っていた。
図太い幹が円の形をして、体を守っていたのだ。
また「バキバキ」と音が鳴ってそこからは傷をほとんど負っていないクリフがいた。
憎しみに満ち溢れた表情をしている。
サナの頭は働かず唖然とするしかなかった。
ビキッ
またクリフの頭に血が上る。
「図が高いぞ、山猿!
俺を誰だと思っている!
この世界で選ばれた特別な存在だぞ!
なのにこの俺に傷を負わせるなど罪人だ!
罰が必要のようだな!」
クリフの目に真剣な光が灯った。
クリフが片手を前に出し、じわりじわりと間合いが詰まてくる。
思わず威圧に押され、下がった途端、足元にがふらついた。
「まさか、根っこ!」
気付いた時、それは遅かった。
突如、根は成長して蔓のように伸び始める。
魔力がない理由もあり、なす術なく蔓はサナの体に纏わり付き、拘束されたのである。
「ぐっ、この・・・っ!」
どうにか拘束を解こうと、もがくがびくともしない。
クリフは不敵な笑みを浮かべながら、手を横に振る。
すると細長いムチがサナの体に激痛を与えた。
「きゃっ! ああああ!」
甲高い悲鳴が響く。
それに続き、細長い蔓は何本も発生し、次々とサナの体に叩きつける。
「アハハハハ! アッハハハハハハ!
言い様じゃねぇか!
山から来た薄汚いものにはぴったりだ!
俺の怒りはこれくらいでは済まないぞ!
もっと、もっとだ!」
「うぐっ! きゃあああ!
かはっ・・・・・・うぐ」
何度も打ち付けると、次は蔓が口まで伸び声が封じられた。
「ふむ! んうー!」
「アッハハハハハハ、言い様だ!
もっとだ、もっと苦しめ!
これがお前の罰だよ!
アッハハハハハ!」
ムチを打ち付けられる、嫌な音とクリフの甲高い笑い声が会場を包んだ。
「おいおい、あれやばくねぇか?」
「流石にやりすぎたろう・・・」
「降参を言わせないように口まで塞いでやがる」
「あの子も気の毒だな」
あまりに残虐な行為に民衆たちは怯えていた。
クリフが高笑いする中、僕たちは怒りが頂点まで達していた。
「いっ、もう・・・もうやめてあげてよ。
わざわざ痛めつけるなんて、もう勝負は終わっているのに」
セクアナはサナの呻き声が聞こえるたびに頭を両手で覆い、怯えていた。
「ハァハァハァハァ!!
もう限界だ! 見てられない!
やめろぉぉぉぉぉぉ!」
「俺も、我慢できない・・・あいつを許せない。限界だ・・・」
憤怒の気持ちが隠せず、マネトと僕は今までにないほど強く奴を睨んだ。
するとあいつは歯を見せて笑ったのだ。
さらに怒りは立ち昇る。
「クリフ!!!」
大きく吠えて、駆け出そうとした時、限界だと思われていたサナが動いたのだ。
トモヤとマネトの反応に気を取られ、一瞬の隙ができた時、サナはクナイを魔法で作って蔓を自らの力で切ったのだ。
とは言っても体はもう限界。
立ち上がっているだけでも不思議な状態だった。
「チッ…… 自力で解放したか」
「ああ・・・だが、私にはもう戦う力は残ってないな」
体中が腫れ上がり、足がもたつきながらでも話を続ける。
「私の役目はこれで終わりだ。
あとはトモヤにでも任すとするか・・・」
「へっ、あんな最弱にこの俺が負けるわけねぇだろ!
もういい、はやく終わらせてやる!」
「やけに気が早いな・・・まぁいい。
最後に忠告してやる!
トモヤは必ずクリフ、お前に勝つ!
よく覚悟しておけよ・・・そしてこれが最後のお土産だ・・・」
スッと素早い軌道でクリフの元まで飛んでいき、横腹あたりにクナイが当たった。
毒が含まれていたようで、すこしクリフの動きが制限されたようだ。
最後の働きを終えると、ゆっくり前のめりになりサナは倒れた。
ビキッ、ビキビキ
今までにないほどの怒りの感情がクリフに芽生えた。
「おい、何様のつもりだ。
この特別な存在である俺様に卑怯な手を使いやがって・・・」
怒りに支配される。
そして、
「消えろ・・・」
ゆっくりと右手を下ろそうとすると先が尖っている根が素早く動く。
「雷神!」
「閃光!」
ビリッ
シュッ
サナに攻撃が向けられる前に、トモヤ、マネトが行動し、クリフの動きが止まった。
「何やってるんだ?」
「それ以上、サナに手え出してみろ・・・
試合なんて関係なしにお前を殺す!」
普段から怒らないマネトでさえ、クリフを睨みつけ、ドスの効いた声を出している。
「サナ! 大丈夫? 応急処置しないと!」
すこし怯えながらも、遅れてセクアナも闘技場に合流し、回復魔法をかける。
今までにないほど真剣な表情だった。
「あなた酷いです・・・こんなにも卑劣な人、初めて見ました」
回復魔法をかけ終わると、僕たちの横に並んでクリフを責める。
「ああん?」
三人がサナを庇うように立ち、クリフと対峙した。
今がサナにとって、最高のチャンスだ。
会場の人による歓声で気持ちは高ぶり、クリフに対しても技が通用している。
これを好機と思い、全力で攻撃するサナ。
どんどん切り裂くスピードが上がる。
「勝利のかけらを絶対に逃さない!」
「ハァァァァァァァ!」
強い意志を持っていた。
そして大きく双剣を振りかぶる。
ドカッン!
しかし、またサナは太い木の攻撃をくらい、吹き飛ばされた。
訪れたチャンスだったが、また初めからのスタートである。
それでも目は死んでいなかった。
痛めたところを抑えながらも再び立ち上がる。
「そう簡単にはいかないものだな・・・やはり、貴族の一撃は痛い。
そう何度も攻撃をくらうと私の体がもたないようだな」
手を握りしめ、目を瞑り、自分の状態を計測する。
「あと五回くらいかな・・・それまでにクリフを倒さないといけないか」
焦る感情が少しずつ出てきた。
嫌な汗が発生して、サナの心を蝕む。
サナは戦う前から魔力、技術の差が開いていることを知っていた。
それでも強者と交えることができて、始まった時からずっと喜んでいた。
旅で王都まで来る道中、魔法騎士団試験。
それまでの戦いで、ここまで興奮できるほどの、強さを持つ者に出会えなかったからだ。
でも、敗北の可能性を感じてしまうと思い悩む。
あと数回攻撃を受けると負ける現実に、初めてサナは悔しがった。
「おいおい、さっきの威勢はどこに行きやがった!
これだから弱者は存在が邪魔なんだよ!」
「ふっ、笑わせるな。こんな攻撃で私がへこたれるわけないだろ?
私の技は他にもある!
そう焦るなよ・・・もしかしてビビってるのか?」
ビキッ
サナの煽るような口調にクリフの頭に血が上る。
「山猿風情が、粋がってんじゃねえよ!」
「わざわざ攻撃をしてくれるなんて嬉しいな! それを返り討ちにしてやる!」
両手に持っていた双剣を落とすと、手を後ろに回し、エアーで両手剣を持つ構えをした。
その間にも大樹はサナ目掛けて、突き刺さすように飛び出す。
「晦冥の剣!」
すぐに剣は現れ、木の根を弾き飛ばす。
あらゆる方向からサナ目掛けて攻撃していたのに、一振りで軌道が変わったのである。
サナは真っ黒な剣を握りしめていた。
でも古臭い感じはなく、まるで何かに呪われたような不気味な色をしていた。
妖刀のような感じだ。
再びサナは勢いよく発走する。
さっきと比べると、見た目に欠けるが強い武器であることは間違いない。
クリフは先の戦いでやったように、また大樹による攻撃をする。
それを難なくサナは一撃で振り払う。
どうなっているのか意味がわからない。
「これならどうだ」
すると両手を天に上げ、再び大量の葉っぱが出現する。
「裁きの醜草!」
苛立ちのせいか次々と攻撃を仕掛ける。
でも一度見た技だからか、それとも武器の能力なのか2、3回振り回すとチリチリに散った。
たぶん後者だろう。
クリフは怒ったことで攻撃がすこし短調になっていた。
しかし罠だと気付いくと、すぐに落ち着きを取り戻していた。
攻撃を終える頃には、魔剣の能力が分かったのか、「ほう」と頷く。
「俺の魔法が吸い寄せられてるな。
闇か、吸収かそういう属性を持つ剣か」
すぐに魔法がバレて、ギクッとするも平然を装う。
「その通りだ! それがこの魔剣の便利なところだ」
素直にサナは武器の性能を答えた。
「だが、能力が分かったところで、意味はないがな」
それを言い放つと再び間合いを詰め始めた。が、さっきのように近づくことはできなかった。
クリフは正面から攻めるのをやめ、四方八方から、根を操作して攻撃し始めた。
「ふん、低レベルな技が。それには弱点がありすぎなんだよ」
クリフはサナを睨みつける。
「吸い寄せる能力はあっても、その魔剣には吸い寄せる範囲に限度があるだろう?
それは狭い!
だから今お前は苦戦しているのだ。
やはり雑魚は知能もないんだな!
新しい技を出しても、俺の圧倒的力の前では無意味なんだよ!
魔法が弱いのにでしゃばってんじゃねぇ!」
罵声を聞く余裕もないまま、全方位から攻撃をどうにか耐える。
それでも、数が多いせいで長くはもたない。
「後ろがガラ空きだ」
声が聞こえたと思うと、目の前まで根は来ていた。
「しまっ!」
巨大なムチで打たれたような激痛が、背中に走る。
「ぐああああああああっ!」
次は前に吹き飛ばされ、大樹の目の前まで来ていた。
「ハァハァハァ・・・」
うつ伏せで倒れながら洗い息を吐く。
「へっ、俺の足元にくるのもおこがましい!」
でも今回は、大樹による攻撃ではなく静かにサナに近づくのである。
クリフは拳を強く握りしめた。
すると、カチカチに固められた大樹の根が拳を覆ったのである。
「これで終わりかもな」
不敵な笑みを浮かべる。
サナは睨みながらも、どうにか回避しようと体を動かす。
それを逃すまいと、クリフはすぐに拳を叩きつけた。
ドゴ!
殴られて鈍い音が響き、再び吹き飛んだ。
そして何度目かわからないほど、同じように壁にぶつかったのである。
スラリと立つものの、そろそろ限界のようで、頭がゆらゆらと揺れている。
「チ…… いちいち間に触る奴だ。
弱者は弱者なりにとっとと負けろ!」
「ふっ、弱者か・・・
確かに私は弱いかもしれないな」
まだ意識は朦朧としているが、それでも凛々しい姿で立っている。
「なんだ今更になって弱いと認めるのか」
サナの傷を見て、余裕が出てきたのかよく、ニヤけるようになった。
「ああ、その通りだ。私は弱かった。
強いと思ったことは一度もない!」
体を痛めながらもゆっくり話す。
「ある時からずっと私は一人で過ごしていたのだ。
誰も助けてくれず、誰も見てくれない。
飢え死にしそうになったこともあった。
もちろん、山から降りてきた異種族だから差別は当然のことだ。
弱く、人という存在が怖かったから、私は一人寂しく山に閉じこもった。
私はずっと一人で過ごすと絶望していた・・・
山から降りる頃には勝手にモンスター少女と異名をつけられ、みんなから恐れられ、近づく者などいない。
また絶望した。
私を見てくれる人はいなかったのだから。
だが、それは違った。
あの日、トモヤは私をちゃんと見てくれたのだ。
トモヤだけじゃない。
セクアナにマネト。
この二人も私と一緒の仲間になってくれたのだ。
私は弱い!
それでも仲間を守る力さえあればそれで十分だ。
私はお前に負けるだろう。
だがな、仲間のために、簡単には勝たせない!」
ビキッ
またいつかのように、クリフの頭に血が上る。
「何が仲間だ! そんな甘い考えをしているからどいつもこいつも弱者なんだ!
ふざけるな!」
怒鳴り声が響く中、サナは魔法に集中していた。
一呼吸おくと、ゆっくりと光に覆われて持っている武器が変わる。
「紅焔の剣!」
白い剣の中にオレンジや赤の色が施されていた。
美しい色の剣だ。
また、さっきまでと比べて太くて大きい。
今の傷だらけのサナには重そうな紅の剣だが、大きく振り被り、ゆっくりと歩き始めた。
「そのボロボロの体ならこれで終わりだな!
ハッ!」
クフトは拳に力を入れると、ドシドシと音を立てて巨大な大樹がサナを襲う。
メキメキっと筋肉が鳴る音が小さく響いた。
静かに魔法を剣に与え、凝縮される。
しばらく呼吸をし、タイミングを掴むと空気を一気に肺に吸い込んだ。
胸がすこし膨らみ、さらに深く集中する。
そして、ずっと溜めていたサナの大技が今、炸裂する。
「フレアバースト!!!」
大炎走。
「なっ!?」
大きくそびえ立っている大樹を洗い流す獄炎の濁流が、全てを呑み干す。
「くそがぁぁぁぁぁぁぁ!」
絶叫とともに吐き払われる大樹。
元は木でできているため、ものすごい炎が発生する。
魔道具によって会場の人々に魔法が当たることはないが、ものすごい熱が外まで感じたのである。
メラメラと燃え盛る炎は、巨大大樹を一瞬で真っ黒に焦がした。
「ハァハァハァ・・・」
大半の魔力を使い果たしたサナは地面に膝をついた。
もうほとんど闘う元気がない状態だ。
それでも、相手の状態が分かるまで試合は続行するので、回復はできない。
まだ山火事のように大樹は燃えていたから。しばらく休憩する時間はある。
膝をついて休める時間。
これは全力を出し切ったサナにとってはとても至極の時だった。
と思っていた。
バキバキバキ!
燃えていた、大樹は爆発するように周りに散ったのである。
サナは思わず目を見開いていた。
こんな現象が起こると思わなかったことと、爆発が起こった大樹の中心を見て。
「山猿の下人が調子に乗るなよ・・・」
大樹の根によって形成されている球体の中から、クリフの小さな声が聞こえた。
「クズが!」
クリフはギリギリで反応し、凝縮した大樹で周りを覆っていた。
図太い幹が円の形をして、体を守っていたのだ。
また「バキバキ」と音が鳴ってそこからは傷をほとんど負っていないクリフがいた。
憎しみに満ち溢れた表情をしている。
サナの頭は働かず唖然とするしかなかった。
ビキッ
またクリフの頭に血が上る。
「図が高いぞ、山猿!
俺を誰だと思っている!
この世界で選ばれた特別な存在だぞ!
なのにこの俺に傷を負わせるなど罪人だ!
罰が必要のようだな!」
クリフの目に真剣な光が灯った。
クリフが片手を前に出し、じわりじわりと間合いが詰まてくる。
思わず威圧に押され、下がった途端、足元にがふらついた。
「まさか、根っこ!」
気付いた時、それは遅かった。
突如、根は成長して蔓のように伸び始める。
魔力がない理由もあり、なす術なく蔓はサナの体に纏わり付き、拘束されたのである。
「ぐっ、この・・・っ!」
どうにか拘束を解こうと、もがくがびくともしない。
クリフは不敵な笑みを浮かべながら、手を横に振る。
すると細長いムチがサナの体に激痛を与えた。
「きゃっ! ああああ!」
甲高い悲鳴が響く。
それに続き、細長い蔓は何本も発生し、次々とサナの体に叩きつける。
「アハハハハ! アッハハハハハハ!
言い様じゃねぇか!
山から来た薄汚いものにはぴったりだ!
俺の怒りはこれくらいでは済まないぞ!
もっと、もっとだ!」
「うぐっ! きゃあああ!
かはっ・・・・・・うぐ」
何度も打ち付けると、次は蔓が口まで伸び声が封じられた。
「ふむ! んうー!」
「アッハハハハハハ、言い様だ!
もっとだ、もっと苦しめ!
これがお前の罰だよ!
アッハハハハハ!」
ムチを打ち付けられる、嫌な音とクリフの甲高い笑い声が会場を包んだ。
「おいおい、あれやばくねぇか?」
「流石にやりすぎたろう・・・」
「降参を言わせないように口まで塞いでやがる」
「あの子も気の毒だな」
あまりに残虐な行為に民衆たちは怯えていた。
クリフが高笑いする中、僕たちは怒りが頂点まで達していた。
「いっ、もう・・・もうやめてあげてよ。
わざわざ痛めつけるなんて、もう勝負は終わっているのに」
セクアナはサナの呻き声が聞こえるたびに頭を両手で覆い、怯えていた。
「ハァハァハァハァ!!
もう限界だ! 見てられない!
やめろぉぉぉぉぉぉ!」
「俺も、我慢できない・・・あいつを許せない。限界だ・・・」
憤怒の気持ちが隠せず、マネトと僕は今までにないほど強く奴を睨んだ。
するとあいつは歯を見せて笑ったのだ。
さらに怒りは立ち昇る。
「クリフ!!!」
大きく吠えて、駆け出そうとした時、限界だと思われていたサナが動いたのだ。
トモヤとマネトの反応に気を取られ、一瞬の隙ができた時、サナはクナイを魔法で作って蔓を自らの力で切ったのだ。
とは言っても体はもう限界。
立ち上がっているだけでも不思議な状態だった。
「チッ…… 自力で解放したか」
「ああ・・・だが、私にはもう戦う力は残ってないな」
体中が腫れ上がり、足がもたつきながらでも話を続ける。
「私の役目はこれで終わりだ。
あとはトモヤにでも任すとするか・・・」
「へっ、あんな最弱にこの俺が負けるわけねぇだろ!
もういい、はやく終わらせてやる!」
「やけに気が早いな・・・まぁいい。
最後に忠告してやる!
トモヤは必ずクリフ、お前に勝つ!
よく覚悟しておけよ・・・そしてこれが最後のお土産だ・・・」
スッと素早い軌道でクリフの元まで飛んでいき、横腹あたりにクナイが当たった。
毒が含まれていたようで、すこしクリフの動きが制限されたようだ。
最後の働きを終えると、ゆっくり前のめりになりサナは倒れた。
ビキッ、ビキビキ
今までにないほどの怒りの感情がクリフに芽生えた。
「おい、何様のつもりだ。
この特別な存在である俺様に卑怯な手を使いやがって・・・」
怒りに支配される。
そして、
「消えろ・・・」
ゆっくりと右手を下ろそうとすると先が尖っている根が素早く動く。
「雷神!」
「閃光!」
ビリッ
シュッ
サナに攻撃が向けられる前に、トモヤ、マネトが行動し、クリフの動きが止まった。
「何やってるんだ?」
「それ以上、サナに手え出してみろ・・・
試合なんて関係なしにお前を殺す!」
普段から怒らないマネトでさえ、クリフを睨みつけ、ドスの効いた声を出している。
「サナ! 大丈夫? 応急処置しないと!」
すこし怯えながらも、遅れてセクアナも闘技場に合流し、回復魔法をかける。
今までにないほど真剣な表情だった。
「あなた酷いです・・・こんなにも卑劣な人、初めて見ました」
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