雷魔法が最弱の世界

ともとも

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魔法騎士団試験

優勝者の景色

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「試合終了!
何という大番狂わせだ!
誰がこの者の優勝を予想したことか!
数々の戦いを制し、このエキシビジョンマッチ決勝戦で優勝を果たしたのは・・・
トモヤ・フローレス!
最強の貴族、クリフを倒した!」

ボロボロの体ではあるものの、大きな司会の叫び声は耳に入った。
だが、その大きな声もだんだん小さくなる。

全身の痛み、魔力の限界消費、この二つが合わさることにより、今までに経験したことがない苦しみを感じた。

大量の蔓を攻略することができた。
エキシビジョンマッチで優勝することができた。
セイラ姉さんに言われた通り、僕という存在を全国民に知らしめることができた。
クリフを倒すことができた。
みんなの思いを繋げた。
魔法帝と戦える。

さまざまな達成感はあった。
自分の体は全力を尽くした。
もう行動を起こす意志が喪失していた。

頭がゆっくりとふらつく。
視覚もゆらゆらと波のように揺れる。
呼吸がしっかりとできない。
筋肉が軋む。

(もう僕は限界だね・・・)

体が重いが、それでもクリフへの勝利は素晴らしいものなので笑みが溢れた。

そのまま力なく倒れそうになる。

ゆっくりと体が傾き始めた。

バサッ!

意識が遠のいていく中、なにかふわりとした柔い布に包まれる。

「雷の少年。君はまだここで倒れるべきではないよ!」

暗闇の中で一際光を放つような、優しい声が耳に響いた。

声にならない声を発しながら徐々に目を開く。
すると、輝くような笑顔を向けた魔法帝が僕の体を支えてくれていた。

母とまではいかないが、そのハグはとてもリラックスできた。

苦しみが少し吹き飛び、癒される。

「よく頑張ったね、決勝戦!
君が優勝、こん年、最強の魔法騎士だ!」
眼鏡が光に反射してよく見えないものの、優しい笑顔をしていることが声を聞けばわかる。

「少し楽になったならこれを飲みなさい」
抱き抱えて、片手で僕の体を支えるような形をとった。
空いた反対の手は、右のポケットに突っ込む。

そこから出てきたのは小さな白い錠剤だった。

「・・・ええと?」
困惑した表情を向けていると、
「少し楽になると思うから!
口を開けなさい」

魔法帝のメガネが光る。
見た目が怪しい研究者みたいだから引いてしまうが、彼は魔法帝。
たぶん、大丈夫だろう・・・

(大丈夫かな?)

心配しながらも言われた通り、口を開ける。魔法帝はゆっくりと口の中に薬を入れて飲ましてくれた。
すると、すぐに効き始めて体の痛みが柔らかくなり始めた。
体を動かせるとは言えないが、それでもゆっくりと歩けるくらいに疲労は回復した。

「あ、そうだ。本題を言い忘れていました」

何かを思い出したのか、メガネをくいっと上げる。

そして抱き抱えていた手を解いて、僕の右手を肩の上に乗せて支えてくれた。
「雷の少年、この光景を見てみなさい!」

魔法帝が会場の観客席に向かって手の掌を向ける。
それに合わせて、魔法帝だけを見ていた顔を上げる。


そこには嵐のような大歓声と喝采がステージを吹き荒らしていた。
まだ、司会の人が解説や実況を続けていたが、それもかき消されてしまうほどの騒々しさだった。

深い傷により、魔法帝のことしか考えていなかったせいで気づかなかった。

「よっ、最弱の最強の魔法騎士! 
お前のこれからに期待してるよ!」

「最強の悪魔! 俺はお前の戦いに心打たれちまったぜ! すげよ、本当に常識を覆しやがった!」

「すごいよ、最強の魔法騎士様!
最弱魔法だけど最強ってなんか面白いね!」
「うん、私もファンになっちゃったよ、彼の熱い心に。
これからも頑張ってね!」

「ああ、魔法騎士様。そのお力でこれからもワシらをお守りください!
どうか、お願いします・・・」

「俺、あいつのこと嫌いだったよ。下人でしかも暴走する最弱魔道士。
でもやっぱ違うかもな。
これからは歴史が少し変わるな!
今まで、悪口ばっか言って悪かった!」

そこには老若男女全ての世代、の人達が僕の存在を認め、称賛の声を上げていた。

「えっ・・・」
あまりの衝撃に開いた口が塞がらなかった。
また、激しい鳥肌が立つ。


こんな思い初めてだ。
今までずっと差別され続けていた。
たくさん、本当にたくさんの罵声や憎まれ口を叩かれてきた。
まぁ、これが現実だと諦めていた。
これからもこの振る舞い、態度は変わらないと絶望した時もあった。

だが、今の状況はそれと間反対なのだ。
大歓声、これが全て自分に向けられている。
こんなシチュエーションは夢ではないのだ。

僕は今までに感じたことがない思いになった。
こんなにも頼られ、褒められ、讃えられ、尊敬され、喜ばれるのは。

この笑顔は自分が作った。
そんなことなど考えられるはずがない。

思考停止しながらも、周りを見渡すと二人、いや三人を発見した。
さまざまなところに包帯を巻きながらもとても嬉しそうなサナが立っていた。

(よかった見ていてくれたんだ!)

三人は笑顔でこちらを向いている。
マネトは拳を前に出し、セクアナは親指を立てた。

この素晴らしい空気の真ん中に自分は立っている。

とても気持ちいい瞬間だった。

「雷の少年。君は最弱の魔法、しかも雷という最悪の魔法を授かった。
差別をされ、苦しい思いをたくさんしていただろう・・・

だが、この景色を見てわかっただろ?
この空気、この瞬間を作ったのは君自身だ!
雷の少年、君は素晴らしい才能を秘めている。
とてもよい魔法騎士になると私は信じているよ!
そして、これは君のスタートだ!」

肩に乗せていた僕の腕を掴んだ。
もう、結構時間は経ったので支えがなくても立つことはできるようになっていた。

魔法帝は僕の腕をしっかりと、かつ怪我に影響しないように優しく掴むと、天に仰ぐように上へあげた。


「彼がエキシビジョンマッチ優勝者、トモヤ・フローレス!
再び大きな拍手を送ってもらいたい!」

魔法帝の言葉が会場にしっかりと伝わると、
さっき以上の大きな音が響き、コロシアムが震えた。

腕を上げ終わると、対面するように二人で少し話した。

「雷の少年、私は心から君を迎え入れる! ようこそ、魔法騎士団へ!
これからは同じ魔法騎士としてよろしく頼むよ!」

ちょうど影になり、メガネの光も消え、魔法帝の輝かしい笑顔が見れた気がした。

「これからはこの喝采を幾度も聞くこととなるんだ。その代わり、これからは君がこの笑顔を守っていくんだよ!
魔法騎士の第一歩、成功したんじゃないかな?」
「はい! 魔法帝、ありがとうございました!」

「うん・・・て、雷の少年。最大のイベントを忘れていないかい?」
「ん? 最大のイベントですか?」
「君は優勝したんだ。ということは私と決闘する挑戦権をもらえたんだよ!
まだ、私と戦う気力は残っているかい?」
「っ!?」

クリフに勝ったという達成感、聴衆の人からの称賛の声。印象強い出来事が立て続けに起こるせいで完全に忘れていた。

思わず、今の状態で戦えるのかと不安になってしまう。

せっかくのチャンスが訪れているのに蔑ろにしてしまうかもしれない・・・

「怪我のことなら、私直属の回復魔道士がいるからたぶん大丈夫だ。魔力は戻る。
だが、傷は深いから完全には治らないだろう」
「本当ですか!」

僕の甲高い声に魔法帝は驚いていた。

「おお、元気がいいな・・・」
「魔力が戻るならそれで十分です!
魔法帝、僕との決戦受けてくださいますよね!」
「当たり前です! 私の力を、とくとご覧に入れましょう!」

話が決まるとすぐに、行動が始まった。

会場の整備にあたる土系の魔術師は多数出てきた。
僕は魔法帝に連れられて回復魔術師のところへ向かう。

「そう思えば君には、すごい回復技術を持つ子が仲間にいるよね」
「はっ、はい!」

セクアナの話題が魔法帝の口から出てきて元気よく反応してしまう。

「とってもセクアナはすごいです!」
「ハッハハハ、君がいうなら相当実力がありそうだ!」
「はい、戦闘の実力もそうですが、回復とかは技術がすごくてすぐ治りました。小さい頃からよく助けてもらっています」

「そうだろうね。森の少女が負傷した時の対応を見ていたらわかる。
君も彼女のことを尊敬しているのだな!」
「はい!」

「彼女も君の回復の手を貸して貰う方がいいな。雷の少年、君は素晴らしい仲間に恵まれているよ!」
「あ、ありがとうございます!」

「では私は、彼女を呼んでくるので、速やかに医務室に行きなさい。そこで私の信頼できる人がいるから」

高速移動するのか、魔法帝の気配が変わった。
飛ぼうとする直前、彼はこちらを振り向いた。

「私は自分で言うのもあれだが、この世界で一番強い。
回復に徹して全力で向かってきなさい!」
「あ、あの・・・」

僕の返事を聞かず、飛んで行ってしまった。

唖然と棒立ちしていたが、すぐに動く。

万全の状態で魔法帝と決戦するためだ。

それぞれ別々に動き、スペシャルマッチが始まろうとしていた。
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