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魔法帝の屋敷
見知らぬ天井
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睡眠、それはボロボロになった体を癒してくれる治療法である。
そう、だから疲労を溜めていた僕は、眠りについたことで随分と身体が軽くなった気がする。
そこに関してはとてもいいことだった。
だが、
「ここはどこだ……」
うっすらと目蓋を開けると、白い輝きが目に飛んできた。知らない天井、そこに備え付けられている結晶は綺麗な光を放ち、僕を照らしていた。
寝返りを打って、横を向くと夕方頃になるのか、赤い光が外の窓から照らし出されていた。大きな窓には、純白の薄いカーテンがかけられていた。
また仰向けになり天井を見る。
そして寝転んだまま両手を上に上げて大きく背伸びした。
「ふわっぁぁぁ」
なんというか、寝起きに背伸びをすると気持ちよくなるものだ。
気持ちが落ち着いたところで、軋む体をゆっくりと起き上がらせる。この時、寝転んでいてしっかり見れなかった部屋の中を一望できた。
一目みると、上流階級の一室だと分かった。
二十畳ほどのワンルームに大きなベッドがシンプルに置いてある。
簡単な椅子やテーブルはあるが、ベッドが強調されているからあまり目立ってはいない。
今の状況を確認すると、自分は顎に手をついて冷静に考える。
自分はどうしてこうなったのか、頭に残る記録を辿った。
確か、少し前に魔法騎士団試験が終了した。
そのあとはみんなとパーティを組んで……
「うっ……」
頭に痛みが走った。
だが、一瞬だったのですぐ楽になり、再び記憶を辿る。
次に、ドルトムと話したな。
簡単な自己紹介をしてそれから……
そうだ、それから魔法帝がいきなり現れたのだ。
驚きながらも魔法帝に呼ばれて手を握った。
すると、僕は魔法帝と空中へ一緒に飛んで、スピードに耐えきれずに気絶したんだったな。
強烈なスピードを出された瞬間、セクアナが言った通りすぐに気絶した。
今だからこそ、あの青ざめた顔をしたセクアナの気持ちがわかる。
それにしても回復魔法をかけてすぐに立ち直ったセクアナはすごいな。
いろいろ整理して分かった。
僕は拉致されたんだな……いや、言い方が悪いか。
誘拐? いやこれもダメだ。
じゃあ、どう表したらいんだろう?
一人でどうでもいいことを頭を捻って考えていると、ドアノブがゆっくりと横に向く。
どうやら誰か、この部屋に入ってきたようだ。
思わず反射的に手を前に出して構えた。
知らない場所、知らない部屋だからこそ自然と体が硬直してしまう。
ドアが開いた。
そこから部屋に足を踏み入れた人は二人の若い男女だった。
「えっ……」
その二人の姿を見て、気が抜けて構えを解いていた。
一人の女性はオケに白いタオルを入れて持っていた。薄い金髪にまんまるとした瞳、髪はショートカットでとても優しそうな雰囲気を漂わしていた。
王都の人たちとは少し違って髪がサラサラに輝いていて、傷ひとつない綺麗な肌。
とても美しくて、貴族なんだと思わせる印象だった。
それに対して、男性の方は整った相貌にキリッとした目つき。とても真面目そうな人に見えた。髪は水色で服装は黒い服の上に純白の大きなマントを着込んでおり、こちらもまたお上品な感じだ。
こうして二人並ぶと美男美少女のとてもお似合いのカップルに見える。
と、一人固まりながらじっとしていると、二人とも顔を綻ばせてこちらに寄ってきた。
「よかったです、早くお目覚めになられて。傷は痛んだりしていませんか?」
ご丁寧に挨拶をしてくれる男性。
思わず、貴族だからもっと反発的な態度を取ると思っていた。
僕は雷魔法だし……
女性も僕の方に寄ってきて、ベッドに座った。
そしておでこに手を当てる。
「……うん、よかった! ちゃんと熱が下がってるみたいだね」
「あ、はい……どうもです」
とっさに女の子におでこを触られて少し照れてしまう。
「あ、ごめんなさい、ごめんなさい、いきなりおでこなんか触って! 迷惑でしたよね」
両手を前に組んで大きく頭を下げる彼女。
深々と謝られてこちらもちょっと戸惑ってしまう。
「え、いや別に大丈夫ですよ。
こちらとしては少し嬉しかったし……」
「えっ?」
「あ、いやなんでも!」
思っていることが声に漏れてしまった。
恥ずかしい……
「ダメだよ、いきなりお客様にあんな馴れ馴れしいことしたら」
「う、うん、そうだよね。私の悪い癖だな……」
「本当にすいませんでした」
男の人まで頭を下げる。
「いえ、別にそこまで大袈裟に謝らなくても!」
ここまで丁寧に扱われると、なんだかそわそわして落ち着かない。
女性は近くにある椅子に座り、その横に男性が立った。
改めて二人と向き直る。
「あの、えっと……」
「あ、そう言えばまだ、私たちの名前を教えていなかったよね」
「ああ、そうでした。まずは僕たちのことを知ってもらわないと、聞きたいことも聞けませんね」
「だね!」
女性はにっこりと笑いながら、
「私は、ミヨです。よろしくね!」
首を横に曲げてお辞儀のような仕草をする。
「僕はソラです。よろしくお願いします」
男性はご丁寧に胸に手を当てて軽く首を曲げる。
礼儀の正しい貴族に少し緊張してしまう。
こんな挨拶してもらったことないからな……
二人の自己紹介を聞いて、一呼吸置いてから僕も自分の名前を言う。
「トモヤです。こ、こちらもよろしくお願いします」
名前を言い終わると同時に、ぐうっとお腹が鳴ってしまった。
まさかのタイミングに俯いてしまう。
「体は正直に反応するんだね、ウフフ」
「フフフ、お腹も空きますよね、長い間眠っていたのですから。ちょうど夕食を作っていたところなので僕は取ってきます」
「い、いいよソラ。私が取ってくるから」
「大丈夫だよ、ミヨ。本当はトモヤ君に聞きたいことがいっぱいあるんでしょう。今は我慢しないでください」
「ん、ありがと」
ソラさんは歩き出してこの部屋を出て行ってしまった。
「…………」
ヤバイ、どうしよう。
いきなり女性と二人っきりになってしまった。
あまり知らない人だからこそ、この静かさに汗が滲み出る。
一人焦っていると、ありがたいことに女性の方から声がかかった。
「トモヤ君……だよね?」
「は、はい。その通りですけど……」
「じゃあ、トモ君だね!」
「えっ、トモ君ですか?」
両手を合わせて眩しい笑顔を僕に見せる。
いきなりニックネームをつけられて驚いた。
一度も今までになかったことだから複雑な気持ちだった。
でも、やっぱり少し嬉しいのかな。
「えっと、じゃあ、ミヨさんですよね」
「ミヨでいいよ! あと敬語も無しにしよ。なんだか距離がある気がするし」
「はい、わかりました。意識してみます……」
こうして、初対面の人と話す機会がなかったから固い表情になってしてしまう。
でもは大丈夫なのかな、僕なんかと話していて。
僕は雷魔法の悪魔だし、さっきのソラさんはミヨの彼氏みたいだったし……
「でもミヨはいいの? ほら、僕は悪魔だからさ、怖がったりしない?
それにさっき隣にいたソラさんとは仲良しだったし」
「う、うん。まぁ、仲良しなのかな?」
頬を掻いて少し横を向く。
やっぱり二人は付き合っていたりするのかな……
「アハハハハッ!」
部屋の中で大きな笑い声が聞こえた。
「あ、ごめんね、いきなり大笑いして」
ミヨは笑いすぎて、涙目になっていた。
それをそっと人差し指で拭く。
「まさか、トモ君がソラと私が恋人同士って考えていたなんて思わなかったから」
「いや、でもこっち側から見たらそんな風に見えるよ!」
全然似てないから分からなかった。
まさかの双子
変な妄想をしていた自分が痛い。
こういう失敗、最近よくする気がする。
思わずため息が出ていた。
「確かに、昔からよく私たちが全然似てないから双子って言っても信じてもらえなかったな。でも恋人って言われたのは初めてだね、フフフ」
「うう……」
また、いつかのように顔が赤くなる。
「あ、トモ君」
笑い終えると、何かを思い出したのか柔らかい顔をしていた。
そして、
「君のことを怖いなんて思わないよ」
その言葉に恥ずかしくて、落ち込んでいた顔が上がった。
「気付いていないのかもしれないけど、トモ君はたくさんの人から支持を集めているよ!
そんな悲観的な気持ちになるのは、辛い経験をしたからかもしれないけど、君の成し遂げたことでその常識は変わってきているよ。
私はすごいと思うな、そんなことができて!」
会場のあの歓声とミヨの言葉が重なり、心臓が震えた。
「ありが……」
ミヨの言葉に感動してお礼を言おうとした時にタイミング悪くドアが開いた。
ソラさんが綺麗なお盆を持ってきていた。
最近どうも自分は付いていないらしい。
「トモ君、何か言おうとした?」
「ううん、なんでもない」
言いたいことが言えなかった。
苦し紛れの笑みを向ける。
ソラさんが入ってきてから、すこしミヨの雰囲気が変わった。
さっきまで話していた時と違い、お客様を迎えるようにキビキビと行動していた。
ちょっとだけ名残惜しい気持ちになった。
すこし間だったが会話は楽しかったからな。
あっという間にベッドの上には小さなテーブルが置かれて、座ったまま食事ができる状態となっていた。
まるで、どこかの貴族にでもなったような気分だった。ここまで贅沢をしたことはない。
そして食事。
まだ病人であることに気を使ったのか、炭水化物やお肉などはなく、数十種類の果物が綺麗にお皿に並べられていた。
本当に贅沢だ。
思わずバチが当たらないかと不安になる。
「もし食欲がなくなったら、残してもいいのでどうぞご自由にお食べください」
丁寧にお辞儀をするソラさん。
なんでもこなす完璧な人を表しているようだった。
「全部、食べます!」
「いえ、そんな無理をなさらなくても……」
「大丈夫です!」
こんな綺麗な料理残せるはずがない。
手元にあるフォークを使って果物を指し、すぐに口へ運んだ。
味は申し分なく美味かった。
高級料理店のデザートを食べている感覚だった。
というか美味しすぎて、気づいた時には果物がなくなっていた。
「ご馳走様でした」
両手を合わし、軽く頭を下げると、ソラさんは笑顔になった。
丁寧な笑みは見せてくれていたが、歯を見せる笑顔は初めてだった。
とても爽やかだ。
食後、すぐに僕は呼ばれた。
「トモヤ君、もう歩けたりできますか?」
また丁寧に気を使ってくれるソラさん。
「大丈夫ですソラさん、そんなに気にしないで。体だけは鍛えているので頑丈ですから!」
元気にいうと納得してくれたのか、安心した様子が窺えた。
「そうですか、よかったです」
軽く頷くと、要件を話し出した。
「あの早速なのですが、魔法帝がお呼びなので一緒についてきてもらえますか?
……いやそれよりも、魔法帝のところまでしっかり歩けますか!?
ふらつきませんか!?
転んだりしませんか!?
本当に大丈夫ですよね?
別にここへ来てもらってもいいんですよ!
トモヤ君の体は全身の骨がヒビだらけなのですから」
この人は真面目ではあるが、相当な心配症のようだ……
「はい、大丈夫です……魔法帝のところまで連れて行ってください」
「分かりました。では案内いたします」
ミヨもソラさんの心配症に微妙な顔をしていた。
すこし呆れながらも後ろへついて行った。
部屋を出るドアに差し掛かる時、前を歩いていたミヨがこちらをくるりと振り向いた。
ドアから顔だけをひょっこりと出す。
「そうだ、言い忘れてたことがあった」
頬をすこし赤らめていた。
「私、魔法騎士の戦い、見てたの!」
「あ、そうなんだ」
ミヨも見てくれていたことに喜びを覚える。
「トモ君、かっこよかったよ!」
満面の笑みを浮かべた。
その不意打ちの笑顔と言葉に心臓の鼓動が早くなる。
「早く行こ」
ワンピースのスカートを揺らしながら、先に行ってしまった。
僕の体はとても暑くなっていた。
唐突に反則的に可愛い顔をされてフリーズしてしまう。
そのせいもありすこし遅れたが、小走りで追いついた。
でもミヨの顔をしばらくみることができなかった。
魔法帝の部屋の前にて。
茶色く、大きな扉が目の前にあった。
どんな人でも入れるためか、入り口は広い。
入るまでの心の準備ができずにいた。
魔法帝とは何度も話す機会があり、自分の中で緊張せずに話せるくらいになっていた。
しかしそれはルーディニア・コロシアムでのこと。
こう改まって、ちゃんとした部屋へ入るのは初めて。
自分の服装は入院着のようなもの。
本当にこんな状態で会っていいのかと疑問に思ってしまう。
「トモヤ君、そう緊張なさらずにいつも通りでいいんですよ」
ソラさんの穏やかな口調に、すこし気が紛れた。
二度、コンコンとソラさんはノックをする。
そして、ガコンと音を立てて両手でドアを開けた。
開けてすぐに白い光が飛んできた。
目をしばらく開けれなかったが、光に慣れた時、一人の男性が立っていた。
赤いマントにたくさんの称号を表しているバッチ。
とてつもないオーラを漂わせている人がこちらを射抜くような目で向いていた。
そう、だから疲労を溜めていた僕は、眠りについたことで随分と身体が軽くなった気がする。
そこに関してはとてもいいことだった。
だが、
「ここはどこだ……」
うっすらと目蓋を開けると、白い輝きが目に飛んできた。知らない天井、そこに備え付けられている結晶は綺麗な光を放ち、僕を照らしていた。
寝返りを打って、横を向くと夕方頃になるのか、赤い光が外の窓から照らし出されていた。大きな窓には、純白の薄いカーテンがかけられていた。
また仰向けになり天井を見る。
そして寝転んだまま両手を上に上げて大きく背伸びした。
「ふわっぁぁぁ」
なんというか、寝起きに背伸びをすると気持ちよくなるものだ。
気持ちが落ち着いたところで、軋む体をゆっくりと起き上がらせる。この時、寝転んでいてしっかり見れなかった部屋の中を一望できた。
一目みると、上流階級の一室だと分かった。
二十畳ほどのワンルームに大きなベッドがシンプルに置いてある。
簡単な椅子やテーブルはあるが、ベッドが強調されているからあまり目立ってはいない。
今の状況を確認すると、自分は顎に手をついて冷静に考える。
自分はどうしてこうなったのか、頭に残る記録を辿った。
確か、少し前に魔法騎士団試験が終了した。
そのあとはみんなとパーティを組んで……
「うっ……」
頭に痛みが走った。
だが、一瞬だったのですぐ楽になり、再び記憶を辿る。
次に、ドルトムと話したな。
簡単な自己紹介をしてそれから……
そうだ、それから魔法帝がいきなり現れたのだ。
驚きながらも魔法帝に呼ばれて手を握った。
すると、僕は魔法帝と空中へ一緒に飛んで、スピードに耐えきれずに気絶したんだったな。
強烈なスピードを出された瞬間、セクアナが言った通りすぐに気絶した。
今だからこそ、あの青ざめた顔をしたセクアナの気持ちがわかる。
それにしても回復魔法をかけてすぐに立ち直ったセクアナはすごいな。
いろいろ整理して分かった。
僕は拉致されたんだな……いや、言い方が悪いか。
誘拐? いやこれもダメだ。
じゃあ、どう表したらいんだろう?
一人でどうでもいいことを頭を捻って考えていると、ドアノブがゆっくりと横に向く。
どうやら誰か、この部屋に入ってきたようだ。
思わず反射的に手を前に出して構えた。
知らない場所、知らない部屋だからこそ自然と体が硬直してしまう。
ドアが開いた。
そこから部屋に足を踏み入れた人は二人の若い男女だった。
「えっ……」
その二人の姿を見て、気が抜けて構えを解いていた。
一人の女性はオケに白いタオルを入れて持っていた。薄い金髪にまんまるとした瞳、髪はショートカットでとても優しそうな雰囲気を漂わしていた。
王都の人たちとは少し違って髪がサラサラに輝いていて、傷ひとつない綺麗な肌。
とても美しくて、貴族なんだと思わせる印象だった。
それに対して、男性の方は整った相貌にキリッとした目つき。とても真面目そうな人に見えた。髪は水色で服装は黒い服の上に純白の大きなマントを着込んでおり、こちらもまたお上品な感じだ。
こうして二人並ぶと美男美少女のとてもお似合いのカップルに見える。
と、一人固まりながらじっとしていると、二人とも顔を綻ばせてこちらに寄ってきた。
「よかったです、早くお目覚めになられて。傷は痛んだりしていませんか?」
ご丁寧に挨拶をしてくれる男性。
思わず、貴族だからもっと反発的な態度を取ると思っていた。
僕は雷魔法だし……
女性も僕の方に寄ってきて、ベッドに座った。
そしておでこに手を当てる。
「……うん、よかった! ちゃんと熱が下がってるみたいだね」
「あ、はい……どうもです」
とっさに女の子におでこを触られて少し照れてしまう。
「あ、ごめんなさい、ごめんなさい、いきなりおでこなんか触って! 迷惑でしたよね」
両手を前に組んで大きく頭を下げる彼女。
深々と謝られてこちらもちょっと戸惑ってしまう。
「え、いや別に大丈夫ですよ。
こちらとしては少し嬉しかったし……」
「えっ?」
「あ、いやなんでも!」
思っていることが声に漏れてしまった。
恥ずかしい……
「ダメだよ、いきなりお客様にあんな馴れ馴れしいことしたら」
「う、うん、そうだよね。私の悪い癖だな……」
「本当にすいませんでした」
男の人まで頭を下げる。
「いえ、別にそこまで大袈裟に謝らなくても!」
ここまで丁寧に扱われると、なんだかそわそわして落ち着かない。
女性は近くにある椅子に座り、その横に男性が立った。
改めて二人と向き直る。
「あの、えっと……」
「あ、そう言えばまだ、私たちの名前を教えていなかったよね」
「ああ、そうでした。まずは僕たちのことを知ってもらわないと、聞きたいことも聞けませんね」
「だね!」
女性はにっこりと笑いながら、
「私は、ミヨです。よろしくね!」
首を横に曲げてお辞儀のような仕草をする。
「僕はソラです。よろしくお願いします」
男性はご丁寧に胸に手を当てて軽く首を曲げる。
礼儀の正しい貴族に少し緊張してしまう。
こんな挨拶してもらったことないからな……
二人の自己紹介を聞いて、一呼吸置いてから僕も自分の名前を言う。
「トモヤです。こ、こちらもよろしくお願いします」
名前を言い終わると同時に、ぐうっとお腹が鳴ってしまった。
まさかのタイミングに俯いてしまう。
「体は正直に反応するんだね、ウフフ」
「フフフ、お腹も空きますよね、長い間眠っていたのですから。ちょうど夕食を作っていたところなので僕は取ってきます」
「い、いいよソラ。私が取ってくるから」
「大丈夫だよ、ミヨ。本当はトモヤ君に聞きたいことがいっぱいあるんでしょう。今は我慢しないでください」
「ん、ありがと」
ソラさんは歩き出してこの部屋を出て行ってしまった。
「…………」
ヤバイ、どうしよう。
いきなり女性と二人っきりになってしまった。
あまり知らない人だからこそ、この静かさに汗が滲み出る。
一人焦っていると、ありがたいことに女性の方から声がかかった。
「トモヤ君……だよね?」
「は、はい。その通りですけど……」
「じゃあ、トモ君だね!」
「えっ、トモ君ですか?」
両手を合わせて眩しい笑顔を僕に見せる。
いきなりニックネームをつけられて驚いた。
一度も今までになかったことだから複雑な気持ちだった。
でも、やっぱり少し嬉しいのかな。
「えっと、じゃあ、ミヨさんですよね」
「ミヨでいいよ! あと敬語も無しにしよ。なんだか距離がある気がするし」
「はい、わかりました。意識してみます……」
こうして、初対面の人と話す機会がなかったから固い表情になってしてしまう。
でもは大丈夫なのかな、僕なんかと話していて。
僕は雷魔法の悪魔だし、さっきのソラさんはミヨの彼氏みたいだったし……
「でもミヨはいいの? ほら、僕は悪魔だからさ、怖がったりしない?
それにさっき隣にいたソラさんとは仲良しだったし」
「う、うん。まぁ、仲良しなのかな?」
頬を掻いて少し横を向く。
やっぱり二人は付き合っていたりするのかな……
「アハハハハッ!」
部屋の中で大きな笑い声が聞こえた。
「あ、ごめんね、いきなり大笑いして」
ミヨは笑いすぎて、涙目になっていた。
それをそっと人差し指で拭く。
「まさか、トモ君がソラと私が恋人同士って考えていたなんて思わなかったから」
「いや、でもこっち側から見たらそんな風に見えるよ!」
全然似てないから分からなかった。
まさかの双子
変な妄想をしていた自分が痛い。
こういう失敗、最近よくする気がする。
思わずため息が出ていた。
「確かに、昔からよく私たちが全然似てないから双子って言っても信じてもらえなかったな。でも恋人って言われたのは初めてだね、フフフ」
「うう……」
また、いつかのように顔が赤くなる。
「あ、トモ君」
笑い終えると、何かを思い出したのか柔らかい顔をしていた。
そして、
「君のことを怖いなんて思わないよ」
その言葉に恥ずかしくて、落ち込んでいた顔が上がった。
「気付いていないのかもしれないけど、トモ君はたくさんの人から支持を集めているよ!
そんな悲観的な気持ちになるのは、辛い経験をしたからかもしれないけど、君の成し遂げたことでその常識は変わってきているよ。
私はすごいと思うな、そんなことができて!」
会場のあの歓声とミヨの言葉が重なり、心臓が震えた。
「ありが……」
ミヨの言葉に感動してお礼を言おうとした時にタイミング悪くドアが開いた。
ソラさんが綺麗なお盆を持ってきていた。
最近どうも自分は付いていないらしい。
「トモ君、何か言おうとした?」
「ううん、なんでもない」
言いたいことが言えなかった。
苦し紛れの笑みを向ける。
ソラさんが入ってきてから、すこしミヨの雰囲気が変わった。
さっきまで話していた時と違い、お客様を迎えるようにキビキビと行動していた。
ちょっとだけ名残惜しい気持ちになった。
すこし間だったが会話は楽しかったからな。
あっという間にベッドの上には小さなテーブルが置かれて、座ったまま食事ができる状態となっていた。
まるで、どこかの貴族にでもなったような気分だった。ここまで贅沢をしたことはない。
そして食事。
まだ病人であることに気を使ったのか、炭水化物やお肉などはなく、数十種類の果物が綺麗にお皿に並べられていた。
本当に贅沢だ。
思わずバチが当たらないかと不安になる。
「もし食欲がなくなったら、残してもいいのでどうぞご自由にお食べください」
丁寧にお辞儀をするソラさん。
なんでもこなす完璧な人を表しているようだった。
「全部、食べます!」
「いえ、そんな無理をなさらなくても……」
「大丈夫です!」
こんな綺麗な料理残せるはずがない。
手元にあるフォークを使って果物を指し、すぐに口へ運んだ。
味は申し分なく美味かった。
高級料理店のデザートを食べている感覚だった。
というか美味しすぎて、気づいた時には果物がなくなっていた。
「ご馳走様でした」
両手を合わし、軽く頭を下げると、ソラさんは笑顔になった。
丁寧な笑みは見せてくれていたが、歯を見せる笑顔は初めてだった。
とても爽やかだ。
食後、すぐに僕は呼ばれた。
「トモヤ君、もう歩けたりできますか?」
また丁寧に気を使ってくれるソラさん。
「大丈夫ですソラさん、そんなに気にしないで。体だけは鍛えているので頑丈ですから!」
元気にいうと納得してくれたのか、安心した様子が窺えた。
「そうですか、よかったです」
軽く頷くと、要件を話し出した。
「あの早速なのですが、魔法帝がお呼びなので一緒についてきてもらえますか?
……いやそれよりも、魔法帝のところまでしっかり歩けますか!?
ふらつきませんか!?
転んだりしませんか!?
本当に大丈夫ですよね?
別にここへ来てもらってもいいんですよ!
トモヤ君の体は全身の骨がヒビだらけなのですから」
この人は真面目ではあるが、相当な心配症のようだ……
「はい、大丈夫です……魔法帝のところまで連れて行ってください」
「分かりました。では案内いたします」
ミヨもソラさんの心配症に微妙な顔をしていた。
すこし呆れながらも後ろへついて行った。
部屋を出るドアに差し掛かる時、前を歩いていたミヨがこちらをくるりと振り向いた。
ドアから顔だけをひょっこりと出す。
「そうだ、言い忘れてたことがあった」
頬をすこし赤らめていた。
「私、魔法騎士の戦い、見てたの!」
「あ、そうなんだ」
ミヨも見てくれていたことに喜びを覚える。
「トモ君、かっこよかったよ!」
満面の笑みを浮かべた。
その不意打ちの笑顔と言葉に心臓の鼓動が早くなる。
「早く行こ」
ワンピースのスカートを揺らしながら、先に行ってしまった。
僕の体はとても暑くなっていた。
唐突に反則的に可愛い顔をされてフリーズしてしまう。
そのせいもありすこし遅れたが、小走りで追いついた。
でもミヨの顔をしばらくみることができなかった。
魔法帝の部屋の前にて。
茶色く、大きな扉が目の前にあった。
どんな人でも入れるためか、入り口は広い。
入るまでの心の準備ができずにいた。
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しかしそれはルーディニア・コロシアムでのこと。
こう改まって、ちゃんとした部屋へ入るのは初めて。
自分の服装は入院着のようなもの。
本当にこんな状態で会っていいのかと疑問に思ってしまう。
「トモヤ君、そう緊張なさらずにいつも通りでいいんですよ」
ソラさんの穏やかな口調に、すこし気が紛れた。
二度、コンコンとソラさんはノックをする。
そして、ガコンと音を立てて両手でドアを開けた。
開けてすぐに白い光が飛んできた。
目をしばらく開けれなかったが、光に慣れた時、一人の男性が立っていた。
赤いマントにたくさんの称号を表しているバッチ。
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