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魔法帝の屋敷
お手伝い
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魔法帝の屋敷に暮らし始めた一日目。
大きなベッドで感触もふわふわ。この上ない贅沢だったのでよく眠れた。
朝起きるとすぐに部屋を出た。
そして、隣の部屋。
ミヨの部屋へと歩み寄ろうとする。
いろいろ聞くためだ。
屋敷は広い。
だから、まだどこに何があるのか知らない。
朝食を食べるためにもまずは食堂の場所を教えてもらおうと思う。
そしてトイレもどこにあるのかまだ聞いていない。
ここら辺は知っておかないと不便だ。
ミヨの部屋の前まで行くとドアノブに手をかけた。
手に汗がにじみ、少し緊張しながらもドアを開けようとする。
しかし、途中で腕が止まった。
ん、もしかして、偶然にも着替え中に鉢合わせる可能性もあるよな……
ハーレムラブコメでよくあるシチュエーションだ。
ノックもなしにこのドアを開けると、ミヨの白い肌があらわになっている。
たぶん「キャッ」と叫ばれて、僕の信用がなくなってしまうかもしれない。
せっかく新たな出会いをしたのに嫌われて、気まずくなり、最終的に仲良くなれないという負の連鎖が起こるのではないか。
ソラさんや魔法帝からも白い目で見られて、最悪追い出されるかもしれない。
そんな悪い想像をしてしまい、僕は必ずノックしようと決めた。
よし、行くぞ、行くぞ。
覚悟を決めて呼ぼうとしたが、いろんなことを考えすぎてノックができない。
やはり昨日会ったばかりの女の子の部屋へ入れるほど、女性慣れしていないようだ。
しばらく、その場で立ってどうにか勇気を出そうとする。
だが、
ガコン!
急にドアが開いて、その勢いで硬いドアの板が僕の顔面にクリーンヒット。
「うっ、痛っ!」
直撃した頭は赤くなり、あまりの衝撃に腰が地面についていた。
「えっ? はっ! トモ君、どうしたの!?」
尻餅をついている僕を発見すると、ミヨは心配しながら駆け寄った。
そして、ドアを見るなり自分のやったことに気づく。
「あ、ごめんね、トモ君!
まさか部屋の前に立っているなんて思わなかったから」
「ああ、うん大丈夫だから安心して……」
体をガクガクと震わせながら笑顔を見せる。
全然、安心させれるような姿ではない。
「うぐぐっ……がく」
「あ! トモ君!!」
廃人のように真っ青な顔で意識が薄れていった。
ミヨの部屋の前でいろいろ試行錯誤した結果、ただ自分が恥をかくだけで終わってしまった……
「ごめんねソラ、少し朝食の時間に遅れてしまった!」
食堂に入ると、パンに目玉焼きに、綺麗な野菜のサラダなど豪華な朝食が並べられていた。
すでに魔法帝とソラさんは食事中だった。
「うん、別にいいけど冷めちゃうから早く食べて。
でも、何があったの?」
「あっ、えっとそれは……」
ミヨが微笑しながら僕を見る。
僕はピクリと肩を動かして、目を逸らした。
「ちょっと、ここでの生活が緊張してしまって、僕がいろいろ失敗したんだ……
僕のせいだからミヨを責めないでもらえるかな?」
「ああ、そうなんですね。トモヤ君も冷めてしまうので早く、食べて欲しいです。美味しいですよ!」
ソラさんの笑顔が眩しい。
すぐに僕とミヨは席につき、頂きます、をして食べた。
相変わらず、店を出せるほど美味しい料理だった。
「おはよう、二人とも」
魔法帝は美味しそうに食事を食べながら、挨拶をする。
やはり身分が高いので、礼儀作法はしっかりとしていて食べ方がとても美しかった。
ナプキンを膝にかけ、ナイフとフォークをうまく利用して、繊細だ。
ワイングラスを飲む動作でさえ、綺麗で僕の目は釘付けになる。
「どうしたんだい、トモヤ君?」
「い、いやなんでもありません」
「そうかい、この料理は全部ソラが作ったものなんだよ。私はこの味が大好きだ。遠慮せずに食べていいよ」
ソラさんが作ったことに驚きを覚える。
料理ができる男性ってかっこいい。
それを聞いてソラさんを見つめると軽く会釈をして視線を逸らしてしまった。
ちょっとほっぺが赤くなって照れているように見えた。
「魔法帝、ミヨの魔法もすごいですね!」
それを言うと、魔法帝は勢いよく机を叩いて立ち上がり、目をキラキラし始めた。
魔法の話になるとこれほどはしゃぐのは少し引いてしまう。
「そうなんだよ! ミヨの綿魔法、とっても気持ちいいよね!
私も最近ミヨの魔法で作られた枕が最高で、あれがないと寝れなくなってしまったんだよ!
それにたまに使ってくれる綿による回復!
あれ、とってもふわふわしていて気持ちいいんだよ!」
魔法帝がミヨに視線を移すと、びくりと肩を震わせている。
この時の魔法帝は苦手そう。
僕がドアに顔面をぶつけて倒れた後、ミヨに回復魔法を使ってもらって今元気に過ごしている。
おでこの擦り傷の痛みはすぐに引いた。
ヤーベルさんやセクアナの魔法とは違ってふわふわしていて面白かった。
羊の毛に包まれているように全身が暖かくなり、目覚めにとてもいい癒しだった。
話は戻って。
「はい、とっても気持ち良かったです!」
「いいな、トモヤ君はミヨに回復魔法を使ってもらって。私もとってもリラックスできるから毎日頼んでいるんだけど、毎回断られるんだよねー」
「ユリス様、毎日なんて無理に決まっているじゃないですか!
あなたとは違って私は魔力が少ないんです。
ユリス様の役に立てるのは嬉しいですが、せめて私のことも考えてお願いしてくださいよ!」
「アハハハ、すまない」
そのあとも四人で仲良く会話をしながら、三十分ほどかけてゆっくりと食事をした。
そして、食べ終わった途端、
「今日、トモヤ君は時間があるよね?
だから今から雷魔法を見してくれないかい?
昨日からずっと楽しみにしていたんだよ!
もうしっかりと休んだからいいよね、いいよね!
速く見してよ!」
魔法帝は立ち上がって体が前のめりになる。
「ええっと」
急な行動にいつかのミヨのように後退りしていた。
その様子を見ていたソラさんが引き剥がす。
「確かに、トモヤ君は今大丈夫かもしれませんが、ユリス様は任務に会議がありますよね?
せめて何も用事のない夜にしてください!」
「ええー、会議なんて休めばいいじゃない!
今はトモヤ君の魔法の方が見たい!」
「じゃあ、任務も欠席するんですか?
国民が困っているんですよ!」
「それは休めないね。国民の命は第一だから」
雰囲気を変えて真面目に答える。
魔法帝はマントを大きく払い、大股で部屋を出て行ってしまった。
「フフフ、相変わらずユリス様は国民の方々を第一に考えますね。そこが僕も大好きなんですが……」
尊敬の眼差しを向けながら静かにソラさんは笑った。
「ユリス様が出発したなら、私たちも頑張らないといけないね」
ミヨも笑みを浮かべながら立ち上がる。
「あ、トモ君はゆっくりしてていいよ。大切なお客様だからね」
駆け足でミヨも部屋を出て行った。
僕は呆然と椅子に座る。
正直何もない。
ゆっくりしろって言われても、ごろごろして過ごすのはつまらない。
暇になってしまった。
ぼーっと一人、何をするか考えているとソラさんはてきぱきと皿を片付けていた。
「ソラさん、えっと、僕も手伝いましょうか?」
「あ、いやわざわざトモヤ君に手伝ってもらうなんて。あなたはお客様で、病人でもありますのでしっかり体を休めてもらわないと」
ミヨと同じようなことを言われた。
二人からのお客様扱いはとても嬉しい。
面倒なことを何もやらずに過ごせるからだ。
でも暇になってしまう。
二人のその優しさがなんだか寂しい。
「じゃあ、せめて僕にできることがあれば……」
役割のなさに声が小さくなってしまう。
「じゃあ、あの少し恥ずかしいことなんですが………」
少しソラさんのほっぺが赤くなっていた。
「自分のことをソラと呼んで欲しいです。なんだかミヨに負けているようでずっと引っかかっていたんですよ……」
可愛いソラさんの嫉妬だった。
思わず吹き出していた。
「アハハハハ、そんなことでいんですか?」
「僕にとっては結構重大な問題です。双子でも、僕の方が兄ですから!」
「アハハハ、そうなんですね。じゃあ僕のこともトモヤでいいですよ」
それを言うと、大きめに両手を振って、
「いや、それは流石にちょっとできません。ええっと、そう、大切なお客様ですから!」
少し動揺していた。
「そんなに丁寧に扱わなくてもいいよ、ソラ」
「ソラって言ってくれ………こほん、その追い追いに言えるように努力します」
まるで友達ができたかのように喜んでいた。それでも真面目な姿勢をどうにか貫こうとしている。
真面目だと思っていたからこそ、たまに崩してくれるその姿勢が少し可愛いかった。
「ああ、はい、もう十分です!」
「ん、十分?」
「では!?」
「速っ! ていうか凄っ!」
皿をこれでもかってほど重ねて、一度で洗い場の方まで持って行ってしまった。
「あ、ちょっと!」
僕の声も届かず、すぐに食堂からいなくなる。
部屋に一人ぽつんと残されてしまう………
何度も言うが、暇だ。
食事が終わると自室に戻ってベッドに寝転んでいた。
しかし、すぐに飽きてしまう。
今はどうにか速く時間が立たないかと思いながら、魔法帝の屋敷を散策している。
たぶんゆっくり歩けば一時間ほどで一周できるだろう。
肩を落とし、一人寂しく探検した。
「ここは、お風呂場………お風呂場!?」
だが、暇だと思っていた探検は意外にも面白かった。
それはここが常識外れの部屋ばかりだったからだ。
お風呂場。
床にはタイルが敷かれていて、大浴場が広がっていた。
流石にシャワーというものはないが、体を流す場所があり、木でできているオケがあり、これまた綺麗な木でできている椅子がある。
傾斜につけられた溝からはさらさらとお湯が流れ、少し奥の一番大きな浴槽にはライオンのジャグジーが取り付けられていた。
転生前、たまに行っていた温泉に似ていて興奮する。
「これ………今すぐ入ってもいいのかな………」
入浴したいという欲求に耐えるのがしんどかった。
「また今日の夜に入れるから、我慢我慢。楽しみは後に置いておくべきだから」
独り言を言いながらすこし足だけつけてお風呂場を後にする。
気分が上がり、どんどんドアを開けまくった。
「ここは、図書室かな? たくさんの本がある」
「ここはなんだろ? あ、でもベランダがあるから星を見たり、街を見たり、景色を楽しむところかな? 魔法帝のお気に入りだったりして」
「ではここは……」
ドアを、開けると外から眩しい光が入ってきた。
そこにミヨが机に座り、真面目に勉学に勤しんでいた。
壁の端には乱雑に書類や本がばら撒かれており、とても努力していることがわかる。
「あ、トモ君どうしたの?」
僕に気づくと、椅子を回転して振り向く。
勉強の邪魔になるのか、短い髪を後ろにゴムのようなものでくくっていた。
その髪型も思わず似合っていて、僕の顔が熱くなっていた。
まだ女性慣れしていないな自分。
「いや、暇だったからこの屋敷の探検を……」
「フフフ、やっぱり男の子だね。ここに初めてきた時、ソラもやっていたな」
僕はミヨのやっていた勉強に興味が湧いて、近づく。
「私が何をやっているのか気になるの?」
「うん、とっても勉強に努力しているように見えたから」
「フフフ、それは嬉しいな」
笑顔を見せながら机の上にある書類を見してもらう。
「国の予算の計算をしていたんだよ。本当は魔法帝の仕事だけど、街の人を助けるのに必死だからね。
私、これくらいしかできないから、毎日やってるんだー!」
渡された紙には、簿記のようにたくさんの桁の数字が並んでいた。
ミヨが筆で書いた字もあり、まだ空欄がたくさん残っていた。
一人でこれをやるのは大変そうだ。
「一応、昔から算数は得意だったから頑張っているんだけど、やっぱり桁が大きいと何かと大変なんだよね」
「り、理系女子じゃん! カッコいい!」
「えっ……理系女子?」
ミヨは首を傾げて困惑していた。
まぁ僕がいきなり意味のわからない言葉を言ったからな………
「あ、ごめん。思わず興奮してしまった」
「う、うん、別にいいけど」
僕は持っていた紙を渡した。
「あ、見してくれてありがとう。ごめんね、仕事の邪魔をしてしまって……」
「全然大丈夫だよ。逆にトモ君がきてくれてやる気、出ちゃった」
「計算は得意だし、これくらいなら僕にも解るから、手伝おうか?」
「えっ………」
ミヨはその発言を聞くと、目を見開いて固まっていた。
何か変なことでも言っただろうか。
「トモ君、本当に言ってる?」
「うん、この計算だよね。手伝えるよ!」
すると、ミヨの顔がみるみる明るくなった。
「本当にできるなら手伝って欲しい!」
「うん」
返事をすると、ミヨはテキパキと行動して椅子をもう一つ持ってきた。
ミヨの座席の横に椅子が置かれる。
「じゃあ、この書類の計算してもらえる?」
一枚の紙を僕に渡すと横に座り、僕が問題を解く姿をガン見する。
ここまでしっかりと見られたら、監視されているみたいで緊張してしまう。
「はっ、はい、できました!」
試験官にテストの採点をしてもらうかのように両手に汗を滲まして渡す。
それを受け取ると、ミヨも答えがないので計算を始めた。
ほんの数十分の時が過ぎる。
「わ、すごいよ、トモ君!
ほら見て、全問正解だったよ!」
先生に褒められたようで、とても嬉しくなった。
「そう思えば、ソラは手伝わないの?」
「ああ、えっとソラだよね………一度頼んだことがあったけど、ほとんど計算が間違ってたな……
だから私がクビにしたんだ!」
「えっ! ………クビ!」
真顔でとても厳しい発言をするミヨを見て、体が震えた。
「ええっと、僕でもそんなことはあるのかな………?」
「何言ってるの。そんなわけないじゃん!
クビにしたのはソラがあまりにできなかったからだよ」
切り捨てられなかったことにホッと一息つく。
でも、ソラは算数ができないんだ……
「これで少しでも楽になるなー。大変かもしれないけど手伝ってもらえる?」
「もちろん!」
そう返事をすると、すこし何処かへ行った。
そして、
ドス!
木の鈍い音とともに大量の書類が置かれた。
思わず怯んでしまう。
「えっと、これを全部やるのでしょうか………」
「違うよ、そんなにやったら私たちが壊れてしまうよ」
「そ、そうだよね……」
「ゆっくりでいいから二人でやって行こう。もちろんできるなら全部やりたいけど!」
やっぱりやる気はあるんだ……
「これ、結構大事な資料だから、一度解いたら、確認でもう一度解かないといけないだ。
だから最初にトモ君が解いてくれるかな?
その後私が確認してこのハンコを右端に打つから。この一通りの作業でやっと一枚が完成するよ!」
「うん、分かった。じゃあ張り切ってやりましょう。目標はこれ全部!」
「だね!」
首を傾けてミヨは笑うと、椅子に座った。
それに合わせて僕も座り、お手伝いを始める。
大きなベッドで感触もふわふわ。この上ない贅沢だったのでよく眠れた。
朝起きるとすぐに部屋を出た。
そして、隣の部屋。
ミヨの部屋へと歩み寄ろうとする。
いろいろ聞くためだ。
屋敷は広い。
だから、まだどこに何があるのか知らない。
朝食を食べるためにもまずは食堂の場所を教えてもらおうと思う。
そしてトイレもどこにあるのかまだ聞いていない。
ここら辺は知っておかないと不便だ。
ミヨの部屋の前まで行くとドアノブに手をかけた。
手に汗がにじみ、少し緊張しながらもドアを開けようとする。
しかし、途中で腕が止まった。
ん、もしかして、偶然にも着替え中に鉢合わせる可能性もあるよな……
ハーレムラブコメでよくあるシチュエーションだ。
ノックもなしにこのドアを開けると、ミヨの白い肌があらわになっている。
たぶん「キャッ」と叫ばれて、僕の信用がなくなってしまうかもしれない。
せっかく新たな出会いをしたのに嫌われて、気まずくなり、最終的に仲良くなれないという負の連鎖が起こるのではないか。
ソラさんや魔法帝からも白い目で見られて、最悪追い出されるかもしれない。
そんな悪い想像をしてしまい、僕は必ずノックしようと決めた。
よし、行くぞ、行くぞ。
覚悟を決めて呼ぼうとしたが、いろんなことを考えすぎてノックができない。
やはり昨日会ったばかりの女の子の部屋へ入れるほど、女性慣れしていないようだ。
しばらく、その場で立ってどうにか勇気を出そうとする。
だが、
ガコン!
急にドアが開いて、その勢いで硬いドアの板が僕の顔面にクリーンヒット。
「うっ、痛っ!」
直撃した頭は赤くなり、あまりの衝撃に腰が地面についていた。
「えっ? はっ! トモ君、どうしたの!?」
尻餅をついている僕を発見すると、ミヨは心配しながら駆け寄った。
そして、ドアを見るなり自分のやったことに気づく。
「あ、ごめんね、トモ君!
まさか部屋の前に立っているなんて思わなかったから」
「ああ、うん大丈夫だから安心して……」
体をガクガクと震わせながら笑顔を見せる。
全然、安心させれるような姿ではない。
「うぐぐっ……がく」
「あ! トモ君!!」
廃人のように真っ青な顔で意識が薄れていった。
ミヨの部屋の前でいろいろ試行錯誤した結果、ただ自分が恥をかくだけで終わってしまった……
「ごめんねソラ、少し朝食の時間に遅れてしまった!」
食堂に入ると、パンに目玉焼きに、綺麗な野菜のサラダなど豪華な朝食が並べられていた。
すでに魔法帝とソラさんは食事中だった。
「うん、別にいいけど冷めちゃうから早く食べて。
でも、何があったの?」
「あっ、えっとそれは……」
ミヨが微笑しながら僕を見る。
僕はピクリと肩を動かして、目を逸らした。
「ちょっと、ここでの生活が緊張してしまって、僕がいろいろ失敗したんだ……
僕のせいだからミヨを責めないでもらえるかな?」
「ああ、そうなんですね。トモヤ君も冷めてしまうので早く、食べて欲しいです。美味しいですよ!」
ソラさんの笑顔が眩しい。
すぐに僕とミヨは席につき、頂きます、をして食べた。
相変わらず、店を出せるほど美味しい料理だった。
「おはよう、二人とも」
魔法帝は美味しそうに食事を食べながら、挨拶をする。
やはり身分が高いので、礼儀作法はしっかりとしていて食べ方がとても美しかった。
ナプキンを膝にかけ、ナイフとフォークをうまく利用して、繊細だ。
ワイングラスを飲む動作でさえ、綺麗で僕の目は釘付けになる。
「どうしたんだい、トモヤ君?」
「い、いやなんでもありません」
「そうかい、この料理は全部ソラが作ったものなんだよ。私はこの味が大好きだ。遠慮せずに食べていいよ」
ソラさんが作ったことに驚きを覚える。
料理ができる男性ってかっこいい。
それを聞いてソラさんを見つめると軽く会釈をして視線を逸らしてしまった。
ちょっとほっぺが赤くなって照れているように見えた。
「魔法帝、ミヨの魔法もすごいですね!」
それを言うと、魔法帝は勢いよく机を叩いて立ち上がり、目をキラキラし始めた。
魔法の話になるとこれほどはしゃぐのは少し引いてしまう。
「そうなんだよ! ミヨの綿魔法、とっても気持ちいいよね!
私も最近ミヨの魔法で作られた枕が最高で、あれがないと寝れなくなってしまったんだよ!
それにたまに使ってくれる綿による回復!
あれ、とってもふわふわしていて気持ちいいんだよ!」
魔法帝がミヨに視線を移すと、びくりと肩を震わせている。
この時の魔法帝は苦手そう。
僕がドアに顔面をぶつけて倒れた後、ミヨに回復魔法を使ってもらって今元気に過ごしている。
おでこの擦り傷の痛みはすぐに引いた。
ヤーベルさんやセクアナの魔法とは違ってふわふわしていて面白かった。
羊の毛に包まれているように全身が暖かくなり、目覚めにとてもいい癒しだった。
話は戻って。
「はい、とっても気持ち良かったです!」
「いいな、トモヤ君はミヨに回復魔法を使ってもらって。私もとってもリラックスできるから毎日頼んでいるんだけど、毎回断られるんだよねー」
「ユリス様、毎日なんて無理に決まっているじゃないですか!
あなたとは違って私は魔力が少ないんです。
ユリス様の役に立てるのは嬉しいですが、せめて私のことも考えてお願いしてくださいよ!」
「アハハハ、すまない」
そのあとも四人で仲良く会話をしながら、三十分ほどかけてゆっくりと食事をした。
そして、食べ終わった途端、
「今日、トモヤ君は時間があるよね?
だから今から雷魔法を見してくれないかい?
昨日からずっと楽しみにしていたんだよ!
もうしっかりと休んだからいいよね、いいよね!
速く見してよ!」
魔法帝は立ち上がって体が前のめりになる。
「ええっと」
急な行動にいつかのミヨのように後退りしていた。
その様子を見ていたソラさんが引き剥がす。
「確かに、トモヤ君は今大丈夫かもしれませんが、ユリス様は任務に会議がありますよね?
せめて何も用事のない夜にしてください!」
「ええー、会議なんて休めばいいじゃない!
今はトモヤ君の魔法の方が見たい!」
「じゃあ、任務も欠席するんですか?
国民が困っているんですよ!」
「それは休めないね。国民の命は第一だから」
雰囲気を変えて真面目に答える。
魔法帝はマントを大きく払い、大股で部屋を出て行ってしまった。
「フフフ、相変わらずユリス様は国民の方々を第一に考えますね。そこが僕も大好きなんですが……」
尊敬の眼差しを向けながら静かにソラさんは笑った。
「ユリス様が出発したなら、私たちも頑張らないといけないね」
ミヨも笑みを浮かべながら立ち上がる。
「あ、トモ君はゆっくりしてていいよ。大切なお客様だからね」
駆け足でミヨも部屋を出て行った。
僕は呆然と椅子に座る。
正直何もない。
ゆっくりしろって言われても、ごろごろして過ごすのはつまらない。
暇になってしまった。
ぼーっと一人、何をするか考えているとソラさんはてきぱきと皿を片付けていた。
「ソラさん、えっと、僕も手伝いましょうか?」
「あ、いやわざわざトモヤ君に手伝ってもらうなんて。あなたはお客様で、病人でもありますのでしっかり体を休めてもらわないと」
ミヨと同じようなことを言われた。
二人からのお客様扱いはとても嬉しい。
面倒なことを何もやらずに過ごせるからだ。
でも暇になってしまう。
二人のその優しさがなんだか寂しい。
「じゃあ、せめて僕にできることがあれば……」
役割のなさに声が小さくなってしまう。
「じゃあ、あの少し恥ずかしいことなんですが………」
少しソラさんのほっぺが赤くなっていた。
「自分のことをソラと呼んで欲しいです。なんだかミヨに負けているようでずっと引っかかっていたんですよ……」
可愛いソラさんの嫉妬だった。
思わず吹き出していた。
「アハハハハ、そんなことでいんですか?」
「僕にとっては結構重大な問題です。双子でも、僕の方が兄ですから!」
「アハハハ、そうなんですね。じゃあ僕のこともトモヤでいいですよ」
それを言うと、大きめに両手を振って、
「いや、それは流石にちょっとできません。ええっと、そう、大切なお客様ですから!」
少し動揺していた。
「そんなに丁寧に扱わなくてもいいよ、ソラ」
「ソラって言ってくれ………こほん、その追い追いに言えるように努力します」
まるで友達ができたかのように喜んでいた。それでも真面目な姿勢をどうにか貫こうとしている。
真面目だと思っていたからこそ、たまに崩してくれるその姿勢が少し可愛いかった。
「ああ、はい、もう十分です!」
「ん、十分?」
「では!?」
「速っ! ていうか凄っ!」
皿をこれでもかってほど重ねて、一度で洗い場の方まで持って行ってしまった。
「あ、ちょっと!」
僕の声も届かず、すぐに食堂からいなくなる。
部屋に一人ぽつんと残されてしまう………
何度も言うが、暇だ。
食事が終わると自室に戻ってベッドに寝転んでいた。
しかし、すぐに飽きてしまう。
今はどうにか速く時間が立たないかと思いながら、魔法帝の屋敷を散策している。
たぶんゆっくり歩けば一時間ほどで一周できるだろう。
肩を落とし、一人寂しく探検した。
「ここは、お風呂場………お風呂場!?」
だが、暇だと思っていた探検は意外にも面白かった。
それはここが常識外れの部屋ばかりだったからだ。
お風呂場。
床にはタイルが敷かれていて、大浴場が広がっていた。
流石にシャワーというものはないが、体を流す場所があり、木でできているオケがあり、これまた綺麗な木でできている椅子がある。
傾斜につけられた溝からはさらさらとお湯が流れ、少し奥の一番大きな浴槽にはライオンのジャグジーが取り付けられていた。
転生前、たまに行っていた温泉に似ていて興奮する。
「これ………今すぐ入ってもいいのかな………」
入浴したいという欲求に耐えるのがしんどかった。
「また今日の夜に入れるから、我慢我慢。楽しみは後に置いておくべきだから」
独り言を言いながらすこし足だけつけてお風呂場を後にする。
気分が上がり、どんどんドアを開けまくった。
「ここは、図書室かな? たくさんの本がある」
「ここはなんだろ? あ、でもベランダがあるから星を見たり、街を見たり、景色を楽しむところかな? 魔法帝のお気に入りだったりして」
「ではここは……」
ドアを、開けると外から眩しい光が入ってきた。
そこにミヨが机に座り、真面目に勉学に勤しんでいた。
壁の端には乱雑に書類や本がばら撒かれており、とても努力していることがわかる。
「あ、トモ君どうしたの?」
僕に気づくと、椅子を回転して振り向く。
勉強の邪魔になるのか、短い髪を後ろにゴムのようなものでくくっていた。
その髪型も思わず似合っていて、僕の顔が熱くなっていた。
まだ女性慣れしていないな自分。
「いや、暇だったからこの屋敷の探検を……」
「フフフ、やっぱり男の子だね。ここに初めてきた時、ソラもやっていたな」
僕はミヨのやっていた勉強に興味が湧いて、近づく。
「私が何をやっているのか気になるの?」
「うん、とっても勉強に努力しているように見えたから」
「フフフ、それは嬉しいな」
笑顔を見せながら机の上にある書類を見してもらう。
「国の予算の計算をしていたんだよ。本当は魔法帝の仕事だけど、街の人を助けるのに必死だからね。
私、これくらいしかできないから、毎日やってるんだー!」
渡された紙には、簿記のようにたくさんの桁の数字が並んでいた。
ミヨが筆で書いた字もあり、まだ空欄がたくさん残っていた。
一人でこれをやるのは大変そうだ。
「一応、昔から算数は得意だったから頑張っているんだけど、やっぱり桁が大きいと何かと大変なんだよね」
「り、理系女子じゃん! カッコいい!」
「えっ……理系女子?」
ミヨは首を傾げて困惑していた。
まぁ僕がいきなり意味のわからない言葉を言ったからな………
「あ、ごめん。思わず興奮してしまった」
「う、うん、別にいいけど」
僕は持っていた紙を渡した。
「あ、見してくれてありがとう。ごめんね、仕事の邪魔をしてしまって……」
「全然大丈夫だよ。逆にトモ君がきてくれてやる気、出ちゃった」
「計算は得意だし、これくらいなら僕にも解るから、手伝おうか?」
「えっ………」
ミヨはその発言を聞くと、目を見開いて固まっていた。
何か変なことでも言っただろうか。
「トモ君、本当に言ってる?」
「うん、この計算だよね。手伝えるよ!」
すると、ミヨの顔がみるみる明るくなった。
「本当にできるなら手伝って欲しい!」
「うん」
返事をすると、ミヨはテキパキと行動して椅子をもう一つ持ってきた。
ミヨの座席の横に椅子が置かれる。
「じゃあ、この書類の計算してもらえる?」
一枚の紙を僕に渡すと横に座り、僕が問題を解く姿をガン見する。
ここまでしっかりと見られたら、監視されているみたいで緊張してしまう。
「はっ、はい、できました!」
試験官にテストの採点をしてもらうかのように両手に汗を滲まして渡す。
それを受け取ると、ミヨも答えがないので計算を始めた。
ほんの数十分の時が過ぎる。
「わ、すごいよ、トモ君!
ほら見て、全問正解だったよ!」
先生に褒められたようで、とても嬉しくなった。
「そう思えば、ソラは手伝わないの?」
「ああ、えっとソラだよね………一度頼んだことがあったけど、ほとんど計算が間違ってたな……
だから私がクビにしたんだ!」
「えっ! ………クビ!」
真顔でとても厳しい発言をするミヨを見て、体が震えた。
「ええっと、僕でもそんなことはあるのかな………?」
「何言ってるの。そんなわけないじゃん!
クビにしたのはソラがあまりにできなかったからだよ」
切り捨てられなかったことにホッと一息つく。
でも、ソラは算数ができないんだ……
「これで少しでも楽になるなー。大変かもしれないけど手伝ってもらえる?」
「もちろん!」
そう返事をすると、すこし何処かへ行った。
そして、
ドス!
木の鈍い音とともに大量の書類が置かれた。
思わず怯んでしまう。
「えっと、これを全部やるのでしょうか………」
「違うよ、そんなにやったら私たちが壊れてしまうよ」
「そ、そうだよね……」
「ゆっくりでいいから二人でやって行こう。もちろんできるなら全部やりたいけど!」
やっぱりやる気はあるんだ……
「これ、結構大事な資料だから、一度解いたら、確認でもう一度解かないといけないだ。
だから最初にトモ君が解いてくれるかな?
その後私が確認してこのハンコを右端に打つから。この一通りの作業でやっと一枚が完成するよ!」
「うん、分かった。じゃあ張り切ってやりましょう。目標はこれ全部!」
「だね!」
首を傾けてミヨは笑うと、椅子に座った。
それに合わせて僕も座り、お手伝いを始める。
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