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魔法帝の屋敷
悲劇
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街に出発した村人、計十名は無事に村へ着くことができた。
しかし、すぐに緊急で召集されることになり、数人は疲弊しきった体を休めることもできずにいた。
まだ昼間だというにもかかわらず、食事をする時間を削ってその会議に参加した。
気怠い足取りで村長の家へ向かう。
「タキ、そしてメンバー十名無事、帰りました」
部屋の前に立つとしっかり挨拶をする。
「おお、そうかい、それは嬉しい話だ。
さぁ、村の者も集まっている。
早く中へ入れ」
かすれた声が聞こえると、街から帰還した男、三名が中へ入った。
やはりこの間と同じように村の豪華メンバーが集まっていた。
約十名ほどが集まり、会議が行われる。
まず初めに口を開いたのは村長。
「帰ってきていきなりだが、恐れていたことが起こってしまった……」
いつも冷静沈着な村長だったが、よっぽどのことがあったようで体が震えていた。
「お前たちが街に行っている間、たった四日ほどじゃったのだが三人も行方不明者が出てしもうた……
彼らの身元は分からない。
わしらも村総出で探したんじゃが発見できなかった……
唯一見つけることができたのは人間の血だ。
所々の場所で落ちていた。
まだビッグベアーの仕業と決めつけるには危ういが、とうとう村の皆に被害が及んでしまった……」
その出来事に街へ行っていた者たちは驚愕する。
そして魔法騎士に依頼することができなかった不甲斐なさに村長に目を合わせることができない者もいた。
「そ、そんなことがあったなんて……」
「タキ、お前たちは無事依頼できたのか?」
一番聞かれたくないことを突きつけられ、全身から汗が滲む。
「それは……」
「まぁいい。お前たちの反応を見ていたら流石にわしらでもわかる。そうか、それは残念だったな。
あとは国からいつ魔法騎士が来てくれるかに頼るしかないな」
「も、申仕上げご……」
タキが深く謝ろうとすると、一緒にいた残りの仲間が前に出る。
「タキさんは何も悪くありません!」
「そうです、リーダーはしっかり目的を達成しようと全力を尽くしてくれました!
なのに……」
一人が拳を握り怒りの顔をあらわにする。
「あの、生意気な奴らはリーダーを侮辱して……ふざけるな!」
拳で床を殴り、物に怒りを当て付ける。
「おい、冷静になれ!」
一人の青年が怒鳴ると、自分の行いに気づいたのか「すいません、つい……」と引き下がる。
「何があったか、話しなさい」
優しい村長の囁きに何があったのか、タキは淡々と説明した。
「あ、そんなだったわ! お父さんたちまだお昼ご飯を食べてなかったね」
旅から帰った母は荷物を整理しながら思い出す。
「確か、旅の残りの食事があったような……」
「お母さん、これだよね!」
「あ、そうそう。ソラは気が効くね」
「うん、結構残ってるね。たぶんお父さんたちお腹すきながら話し合いをしてると思うから届けよっか!」
「なら僕が届けてきます!」
「あー、ソラが行くなら私も!」
「旅帰りでありながらも元気な子どもたち。
まぁ、お父さんの背中に変わりばんこでおんぶされてたからね」
「だから、お母さんは休んでてください!
僕とミヨならすぐに届けます!」
ソラが天使のように優しい笑顔を見せると、疲れていたお母さんも動く気力がなく頼んでしまった。
「ならお願いしようかしら」
「任せて!」
ミヨはぽんっと胸を叩き、見栄を張ると弁当を持つ。
「じゃあ、行ってきます!」
すぐに準備が整い、両手で大きな弁当を持った可愛い双子が出発する。
一応、お母さんは玄関まで見送り軽く手を振る。
子どもたちの背中が小さくなると、すぐに床に転んで深い睡眠に入ってしまった。
「お父さんにお届け物~お届け物~」
初めてのお使いのようにはしゃぐミヨにソラは注意する。
「こら、弁当が崩れてしまうよ」
「もう、ソラは真面目すぎだよ。もっと肩の力を抜こうよ」
「うるさい、ミヨに言われたくない」
「ふん!」
そっぽを向いて顔を膨らませるミヨ。
喧嘩をしているとすぐに村長の家についた。
だが、
ドン!
いきなり大きな衝撃音が耳に入った。
子どもにはあまりに大きく、固まってしまった。
「なんか揉めてそうだね……」
「静かになるまで待つ方がいいかも」
そして遅れて、
「ふざけるな!」
大きな怒声が響いた。
またその声にビクッと肩が動く。
「し、静かに待とうね……」
「う、うん」
だが、この時の判断はあまりよくなかったかもしれない。
なぜなら、この後の話で大怪我をしたお父さんたちの身に何が起こったのか明らかになるからだ。
小さいながらも、人間の恐ろしさを二人は覚えた。
収穫祭、当日
空がまだ快晴の中、村人総出で祭りの準備が行われていた。
女性は一つに集まり大量の食料を調理し、男性は力仕事で中央に大きな丸太を組む。
みんなが祭りを成功させようと必死に汗水垂らして働く。
そして夕方になる頃、やっとの思いで全ての準備が整い、誰もが休憩する。
疲れ果てた村人の間に話す余裕などない。
ゆっくりと夕日が沈む。
虫の声が大きく響く中、「リンリン」と鈴の音が微かに聞こえる。
祭りの始まりだ。
その合図を聞くと、疲れ果てた村人はぽつぽつと立ち上がる。
そして、鈴の音が止むと同時に綺麗な装飾をした村一番の美女が巫女の姿をして登場した。
一歩進むごとに村の明かりが輝り始め、中央の大きな焚火の前で立った。
この祭りは彼女が焚火に火を灯して始まる。
昔からの伝統だ。
巫女はゆっくりと火のついた木の枝を丸太に近づける。
そして、火が「ボオッ」と音がなりとメラメラと木の枝に移り、焚火から発せられる強い光が村、全体を照らした。
また、吊り下げられていた魔石もそれに合わせて光り輝く。
まるで提灯のようになり幻想的な景色が広がる。
「宴の始まりじゃ!」
「うぉぉぉおおおお!」
村長が挨拶をすると、村人は音楽を奏で、それに合わせて中央では男女がお互いに組んでダンスを始める。
中央から少し距離を取れば肉や魚、村で取れた採れたての野菜が調理され美味そうに並べられている。
また村、特製の果物をふんだんに使ったミックスジュース。
これも大きな樽に入れられておかれていた。
こちらも名物なのでお酒と同じくらい多く飲まれていた。
それを爆食いする人もいれば、飲み物を片手に静かに景色を楽しむ人、酒を片手にわいわいとはしゃぐ男たち、みんなが笑顔で大きく騒いだ。
もちろん、楽しむだけでなく警備も行っている。
大抵の人はビッグベアーの噂を知っており、警備をしないと村人は安心できないとのことだ。
村にいる戦士の精鋭が集まり三箇所ほど大きな高台に立って見張りをしている。
楽しみだった祭りに思う存分参加できないがそれでもお酒だけは許されているようで、遠くから聞こえる騒ぎ声をおつまみにしながら飲み倒していた。
「あ、これ美味しいね! これもこれも、全部美味しい!」
ミヨは祭りが始まってしばらくお父さんと一緒にいたが、途中から食事に釘付けになったようで色々と食べている。
「えっと、ありがとう……そこら辺、一応全部僕が作ったんだ……」
微妙に赤面しながらもミヨの感想に受け答えするソラに、ミヨは食べていた手を止める。
「え、そう……なんだ、ま、まぁ美味しいよ……」
「あの、途中で感想変えないでもらえますか!」
ミヨの態度の変化に普段出さない大きな声が出る。
「実際、褒めてるんだからさ、そこは素直に受け取ろうよ」
「そこに関してはなんとも思ってないけど、料理担当が僕って知った時の、態度の変わり方!
それ、結構酷いよ!」
「アハハハ! ごめんごめん。
でも私、なんだか悔しいからさ。
ソラって私より女子力高いじゃん?」
「ずっとだよね、小さい頃から。
でも僕もミヨの頭の賢さ羨ましいよ。
この間の街で役に立ってたし」
「それは嬉しいな!
なんていうか、どっちもどっちだね」
「そうだね」
「まぁ、二人ともそこにいたの?」
ママ友同士の話に切りがついたのか、お母さんが寄って来た。
「料理は美味しかった?」
「うん!」
ミヨの反応を聞くと少し寂しそうに焚火でダンスをしている人たちを目で見ていた。
「もしかしたらね、この村を手放さなくちゃいけないの。これから大変かもしれないけど二人ともちゃんとついて来てくれる?」
お母さんは膝をたたんで子どもを下から見つめるように聞いてきた。
「もちろんだよ!」
「うん、私も!」
「そう、それが聞けたなら嬉しいわ……だからせめて、最後の祭りはお父さんと一緒にあそこで踊りたかったな……」
子どものように小さな背中を向けて呟いた。
「あ、乾杯、乾杯しよっか、二人とも」
お母さんは素早く立ち上がると、三人分のコップに飲み物を注いで持ってきてくれた。
「乾杯、大好き!」
二人は興奮して、お母さんの持ってきたコップをそれぞれ受け取った。
「ではでは、ウフフ。
二人の成長を祝って乾……杯」
「大変だぁぁぁぁああ!」
村の警備をしていた方の叫び声を聞いた途端、地面が大きく揺れた。
それに伴い、祭りを楽しんでいた人たちの顔が険しくなる。
たくさんの光が集まる村に長い沈黙が訪れた。
しばらく静かな時が過ぎると、
メキメキ、ドッカン!
「ブオォォォォォォオオオオ!」
巨大な木々が倒れる音と、巨大な咆哮が村を襲う。
また、全身汗まみれの村人が走ってきた。
「ビッグベアー、一体だけじゃない!
子どもも連れていた!
はぁはぁ……見ただけでも十体以上いた!
早くみんな逃げろ!」
その言葉を聞くと、危機感を覚えたのか村人はパニックになる。
祭りという楽しい思い出はもう彼らの頭に残されていない。
積まれていた食事も地面に散らばり、小さな子どもは親と離れ離れになり泣き喚く。
「早く食料を!」
「おい、そんなもの必要なわけないだろ!
命が一番だ! 早く逃げろ!」
だが、不運なことはまだまだ起こる。
「ビッグベアーはあっちから来た! 早く女、子どもはこっから逃げろ!
もうこの村は終わりだ!
命が惜しければ、必死で走……」
大きな声を出して誘導していた青年の声が止まる。
彼の見る視線の先には1メートルの熊が二体、目を光らせていたのだ。
「は、挟まれた……」
身体中が震え、汗が大量に出てきた。
逃げようとしていた村人もその最悪な現実を突きつけられて固まってしまった。
彼らの心の余裕がないにもかかわらず、地面の揺れはどんどん大きくなる。
そして奴は現れた。
3メートル級のビッグベアー、この大群のボスである。
「に、逃げろ!」
一人の図太い男の声と共に、村人は駆け出し、熊が人間に向かって襲いかかった。
戦士がいるおかげで、すぐに犠牲は出なかった。少し時間ができた。
だが、
「こいつは俺がやります」
村一番の戦士がビッグベアーのボスと対峙する。
ビッグベアーは戦士を凝視すると、大きな牙を剥き出し、吠える。
「ブオォォォォォォ!」
「村のために、死んでくれ!」
大きな槍を構え、炎の魔法を纏いながら突っ込む。
が、ビッグベアーが振り下ろした一撃、爪による内臓破壊によって一瞬で村一番の戦士は帰らぬ人となってしまった。
そこからはまさに地獄絵図。
焚火の火は民家に移り燃え盛る炎、焼き払われる木々、今まで見慣れていた景色が一晩で赤く染まる。
戦士の士気が下がったことにより一人、また一人と死んでいく。
戦士が少なくなると守れる範囲が狭くなり、矛先は村人に向く。
弱い村人はただただ圧倒的力に蹂躙されるだけだった。
離れていった者たちも、熊の全力のスピードに勝てるはずもなく殺され、残っている者は囲まれて殺された。
泣いて喚く者もいた。
子どもを抱いている親もいた。
早く歩けない老人もいた。
それら全ての者無慈悲に熊の爪によって引き裂かれ、喰い殺される。
家に逃げ込んで焼け死ぬ者もいる。
炎に炙られ、親しんだ人たちがねじくられ、死体として地面に転がった。
幼い二人にとっては感じたことのない景色だった。
母は必死に手を引っ張たが、二人は動くことができなかった。
「生きていたか! よかった!」
大きな声で片手に槍を持つお父さんがやってきた。
そして三人を全力で抱きしめる。
「最期にみんなの姿を見ることができてよかった、ありがとう」
「ねぇ、お父さん……最期って……」
涙目になりながら、何かを訴えようとする子どもに何も言わずに背を向けた。
「お前たちは俺が守る! さあ、早く逃げてくれ!」
「お、お父さん!」
「走れ!」
初めて聞く、お父さんの怒鳴り声に驚く。
が、すぐに察したのか、次はミヨとソラが母の手を引いて走った。
母は大粒の涙を流しながら二人に引っ張られていた。
「タキさん……あなたと結婚できて幸せでした……」
父はニヤリと笑った。
真っ暗な夜の森に向けて走り続ける。
「はぁ、はぁ、はぁ」
あてもなく、光の見えない森は恐怖そのものだった。
「もう……ここまで来たら、大丈夫かな……」
「いいえ、まだまだよ……ビッグベアーは鼻がいいの。もっと遠くに逃げないと……」
「お母さん、大丈夫! 次は僕が先導して走るから!」
母は先導して走ったせいで草木に、足が何度もぶつかってたくさんの擦り傷を負っている。
「ありがとう……」
流石に母の足が限界だったので、木の影に背中をつけて休んだ。
悪夢はまだ終わらない。
草小さく揺れると、三匹の熊がもう追いついていた。
静かに唸りながら、のそのそと歩く。
絶望する瞬間だった。
あれだけ必死で、走ったのに、お父さんが僕たちを逃してくれたのに、獣は夢を見させてくれないのだ。
しばらく、僕らを凝視していた。
それに合わせて、僕らも目を離さず静かに後退するが、現実はそう甘くない。
「ブオォォォォォォ!」
獣の咆哮をあげると一気に突進してきた。
「危ない!」
母は二人に覆いかぶさるように倒れる。
ビッグベアーはその母の背中に向かって大きな爪で引っ掻いた。
「アアアァァァァ!」
「お母さん!」
甲高い声が森中に響くが母はまだ強く二人の子どもを抱きしめる。
「絶対……絶対……二人のことは守るからね、
アアアァァァァ!!」
何度も何度も背中をえぐられるが、母は二人を抱きしめていた。
「助けは……か……必ず……くるから……」
もうほとんど母の声は聞こえない。
小人のように小さな声になっていった。
獣は手を振り上げ、漆黒に包まれた鋭い爪は苦しむ母の体に振り下ろされ……直後、獣の首は一瞬にして吹き飛ばされていた。
「よかった、生存者がまだいてくれた」
透き通るような若々しい声が重い空気の中に透き通る。
目を開けると、黒いマントに角帽を被った人がひどい汗をかきながら立っていた。
しかし、すぐに緊急で召集されることになり、数人は疲弊しきった体を休めることもできずにいた。
まだ昼間だというにもかかわらず、食事をする時間を削ってその会議に参加した。
気怠い足取りで村長の家へ向かう。
「タキ、そしてメンバー十名無事、帰りました」
部屋の前に立つとしっかり挨拶をする。
「おお、そうかい、それは嬉しい話だ。
さぁ、村の者も集まっている。
早く中へ入れ」
かすれた声が聞こえると、街から帰還した男、三名が中へ入った。
やはりこの間と同じように村の豪華メンバーが集まっていた。
約十名ほどが集まり、会議が行われる。
まず初めに口を開いたのは村長。
「帰ってきていきなりだが、恐れていたことが起こってしまった……」
いつも冷静沈着な村長だったが、よっぽどのことがあったようで体が震えていた。
「お前たちが街に行っている間、たった四日ほどじゃったのだが三人も行方不明者が出てしもうた……
彼らの身元は分からない。
わしらも村総出で探したんじゃが発見できなかった……
唯一見つけることができたのは人間の血だ。
所々の場所で落ちていた。
まだビッグベアーの仕業と決めつけるには危ういが、とうとう村の皆に被害が及んでしまった……」
その出来事に街へ行っていた者たちは驚愕する。
そして魔法騎士に依頼することができなかった不甲斐なさに村長に目を合わせることができない者もいた。
「そ、そんなことがあったなんて……」
「タキ、お前たちは無事依頼できたのか?」
一番聞かれたくないことを突きつけられ、全身から汗が滲む。
「それは……」
「まぁいい。お前たちの反応を見ていたら流石にわしらでもわかる。そうか、それは残念だったな。
あとは国からいつ魔法騎士が来てくれるかに頼るしかないな」
「も、申仕上げご……」
タキが深く謝ろうとすると、一緒にいた残りの仲間が前に出る。
「タキさんは何も悪くありません!」
「そうです、リーダーはしっかり目的を達成しようと全力を尽くしてくれました!
なのに……」
一人が拳を握り怒りの顔をあらわにする。
「あの、生意気な奴らはリーダーを侮辱して……ふざけるな!」
拳で床を殴り、物に怒りを当て付ける。
「おい、冷静になれ!」
一人の青年が怒鳴ると、自分の行いに気づいたのか「すいません、つい……」と引き下がる。
「何があったか、話しなさい」
優しい村長の囁きに何があったのか、タキは淡々と説明した。
「あ、そんなだったわ! お父さんたちまだお昼ご飯を食べてなかったね」
旅から帰った母は荷物を整理しながら思い出す。
「確か、旅の残りの食事があったような……」
「お母さん、これだよね!」
「あ、そうそう。ソラは気が効くね」
「うん、結構残ってるね。たぶんお父さんたちお腹すきながら話し合いをしてると思うから届けよっか!」
「なら僕が届けてきます!」
「あー、ソラが行くなら私も!」
「旅帰りでありながらも元気な子どもたち。
まぁ、お父さんの背中に変わりばんこでおんぶされてたからね」
「だから、お母さんは休んでてください!
僕とミヨならすぐに届けます!」
ソラが天使のように優しい笑顔を見せると、疲れていたお母さんも動く気力がなく頼んでしまった。
「ならお願いしようかしら」
「任せて!」
ミヨはぽんっと胸を叩き、見栄を張ると弁当を持つ。
「じゃあ、行ってきます!」
すぐに準備が整い、両手で大きな弁当を持った可愛い双子が出発する。
一応、お母さんは玄関まで見送り軽く手を振る。
子どもたちの背中が小さくなると、すぐに床に転んで深い睡眠に入ってしまった。
「お父さんにお届け物~お届け物~」
初めてのお使いのようにはしゃぐミヨにソラは注意する。
「こら、弁当が崩れてしまうよ」
「もう、ソラは真面目すぎだよ。もっと肩の力を抜こうよ」
「うるさい、ミヨに言われたくない」
「ふん!」
そっぽを向いて顔を膨らませるミヨ。
喧嘩をしているとすぐに村長の家についた。
だが、
ドン!
いきなり大きな衝撃音が耳に入った。
子どもにはあまりに大きく、固まってしまった。
「なんか揉めてそうだね……」
「静かになるまで待つ方がいいかも」
そして遅れて、
「ふざけるな!」
大きな怒声が響いた。
またその声にビクッと肩が動く。
「し、静かに待とうね……」
「う、うん」
だが、この時の判断はあまりよくなかったかもしれない。
なぜなら、この後の話で大怪我をしたお父さんたちの身に何が起こったのか明らかになるからだ。
小さいながらも、人間の恐ろしさを二人は覚えた。
収穫祭、当日
空がまだ快晴の中、村人総出で祭りの準備が行われていた。
女性は一つに集まり大量の食料を調理し、男性は力仕事で中央に大きな丸太を組む。
みんなが祭りを成功させようと必死に汗水垂らして働く。
そして夕方になる頃、やっとの思いで全ての準備が整い、誰もが休憩する。
疲れ果てた村人の間に話す余裕などない。
ゆっくりと夕日が沈む。
虫の声が大きく響く中、「リンリン」と鈴の音が微かに聞こえる。
祭りの始まりだ。
その合図を聞くと、疲れ果てた村人はぽつぽつと立ち上がる。
そして、鈴の音が止むと同時に綺麗な装飾をした村一番の美女が巫女の姿をして登場した。
一歩進むごとに村の明かりが輝り始め、中央の大きな焚火の前で立った。
この祭りは彼女が焚火に火を灯して始まる。
昔からの伝統だ。
巫女はゆっくりと火のついた木の枝を丸太に近づける。
そして、火が「ボオッ」と音がなりとメラメラと木の枝に移り、焚火から発せられる強い光が村、全体を照らした。
また、吊り下げられていた魔石もそれに合わせて光り輝く。
まるで提灯のようになり幻想的な景色が広がる。
「宴の始まりじゃ!」
「うぉぉぉおおおお!」
村長が挨拶をすると、村人は音楽を奏で、それに合わせて中央では男女がお互いに組んでダンスを始める。
中央から少し距離を取れば肉や魚、村で取れた採れたての野菜が調理され美味そうに並べられている。
また村、特製の果物をふんだんに使ったミックスジュース。
これも大きな樽に入れられておかれていた。
こちらも名物なのでお酒と同じくらい多く飲まれていた。
それを爆食いする人もいれば、飲み物を片手に静かに景色を楽しむ人、酒を片手にわいわいとはしゃぐ男たち、みんなが笑顔で大きく騒いだ。
もちろん、楽しむだけでなく警備も行っている。
大抵の人はビッグベアーの噂を知っており、警備をしないと村人は安心できないとのことだ。
村にいる戦士の精鋭が集まり三箇所ほど大きな高台に立って見張りをしている。
楽しみだった祭りに思う存分参加できないがそれでもお酒だけは許されているようで、遠くから聞こえる騒ぎ声をおつまみにしながら飲み倒していた。
「あ、これ美味しいね! これもこれも、全部美味しい!」
ミヨは祭りが始まってしばらくお父さんと一緒にいたが、途中から食事に釘付けになったようで色々と食べている。
「えっと、ありがとう……そこら辺、一応全部僕が作ったんだ……」
微妙に赤面しながらもミヨの感想に受け答えするソラに、ミヨは食べていた手を止める。
「え、そう……なんだ、ま、まぁ美味しいよ……」
「あの、途中で感想変えないでもらえますか!」
ミヨの態度の変化に普段出さない大きな声が出る。
「実際、褒めてるんだからさ、そこは素直に受け取ろうよ」
「そこに関してはなんとも思ってないけど、料理担当が僕って知った時の、態度の変わり方!
それ、結構酷いよ!」
「アハハハ! ごめんごめん。
でも私、なんだか悔しいからさ。
ソラって私より女子力高いじゃん?」
「ずっとだよね、小さい頃から。
でも僕もミヨの頭の賢さ羨ましいよ。
この間の街で役に立ってたし」
「それは嬉しいな!
なんていうか、どっちもどっちだね」
「そうだね」
「まぁ、二人ともそこにいたの?」
ママ友同士の話に切りがついたのか、お母さんが寄って来た。
「料理は美味しかった?」
「うん!」
ミヨの反応を聞くと少し寂しそうに焚火でダンスをしている人たちを目で見ていた。
「もしかしたらね、この村を手放さなくちゃいけないの。これから大変かもしれないけど二人ともちゃんとついて来てくれる?」
お母さんは膝をたたんで子どもを下から見つめるように聞いてきた。
「もちろんだよ!」
「うん、私も!」
「そう、それが聞けたなら嬉しいわ……だからせめて、最後の祭りはお父さんと一緒にあそこで踊りたかったな……」
子どものように小さな背中を向けて呟いた。
「あ、乾杯、乾杯しよっか、二人とも」
お母さんは素早く立ち上がると、三人分のコップに飲み物を注いで持ってきてくれた。
「乾杯、大好き!」
二人は興奮して、お母さんの持ってきたコップをそれぞれ受け取った。
「ではでは、ウフフ。
二人の成長を祝って乾……杯」
「大変だぁぁぁぁああ!」
村の警備をしていた方の叫び声を聞いた途端、地面が大きく揺れた。
それに伴い、祭りを楽しんでいた人たちの顔が険しくなる。
たくさんの光が集まる村に長い沈黙が訪れた。
しばらく静かな時が過ぎると、
メキメキ、ドッカン!
「ブオォォォォォォオオオオ!」
巨大な木々が倒れる音と、巨大な咆哮が村を襲う。
また、全身汗まみれの村人が走ってきた。
「ビッグベアー、一体だけじゃない!
子どもも連れていた!
はぁはぁ……見ただけでも十体以上いた!
早くみんな逃げろ!」
その言葉を聞くと、危機感を覚えたのか村人はパニックになる。
祭りという楽しい思い出はもう彼らの頭に残されていない。
積まれていた食事も地面に散らばり、小さな子どもは親と離れ離れになり泣き喚く。
「早く食料を!」
「おい、そんなもの必要なわけないだろ!
命が一番だ! 早く逃げろ!」
だが、不運なことはまだまだ起こる。
「ビッグベアーはあっちから来た! 早く女、子どもはこっから逃げろ!
もうこの村は終わりだ!
命が惜しければ、必死で走……」
大きな声を出して誘導していた青年の声が止まる。
彼の見る視線の先には1メートルの熊が二体、目を光らせていたのだ。
「は、挟まれた……」
身体中が震え、汗が大量に出てきた。
逃げようとしていた村人もその最悪な現実を突きつけられて固まってしまった。
彼らの心の余裕がないにもかかわらず、地面の揺れはどんどん大きくなる。
そして奴は現れた。
3メートル級のビッグベアー、この大群のボスである。
「に、逃げろ!」
一人の図太い男の声と共に、村人は駆け出し、熊が人間に向かって襲いかかった。
戦士がいるおかげで、すぐに犠牲は出なかった。少し時間ができた。
だが、
「こいつは俺がやります」
村一番の戦士がビッグベアーのボスと対峙する。
ビッグベアーは戦士を凝視すると、大きな牙を剥き出し、吠える。
「ブオォォォォォォ!」
「村のために、死んでくれ!」
大きな槍を構え、炎の魔法を纏いながら突っ込む。
が、ビッグベアーが振り下ろした一撃、爪による内臓破壊によって一瞬で村一番の戦士は帰らぬ人となってしまった。
そこからはまさに地獄絵図。
焚火の火は民家に移り燃え盛る炎、焼き払われる木々、今まで見慣れていた景色が一晩で赤く染まる。
戦士の士気が下がったことにより一人、また一人と死んでいく。
戦士が少なくなると守れる範囲が狭くなり、矛先は村人に向く。
弱い村人はただただ圧倒的力に蹂躙されるだけだった。
離れていった者たちも、熊の全力のスピードに勝てるはずもなく殺され、残っている者は囲まれて殺された。
泣いて喚く者もいた。
子どもを抱いている親もいた。
早く歩けない老人もいた。
それら全ての者無慈悲に熊の爪によって引き裂かれ、喰い殺される。
家に逃げ込んで焼け死ぬ者もいる。
炎に炙られ、親しんだ人たちがねじくられ、死体として地面に転がった。
幼い二人にとっては感じたことのない景色だった。
母は必死に手を引っ張たが、二人は動くことができなかった。
「生きていたか! よかった!」
大きな声で片手に槍を持つお父さんがやってきた。
そして三人を全力で抱きしめる。
「最期にみんなの姿を見ることができてよかった、ありがとう」
「ねぇ、お父さん……最期って……」
涙目になりながら、何かを訴えようとする子どもに何も言わずに背を向けた。
「お前たちは俺が守る! さあ、早く逃げてくれ!」
「お、お父さん!」
「走れ!」
初めて聞く、お父さんの怒鳴り声に驚く。
が、すぐに察したのか、次はミヨとソラが母の手を引いて走った。
母は大粒の涙を流しながら二人に引っ張られていた。
「タキさん……あなたと結婚できて幸せでした……」
父はニヤリと笑った。
真っ暗な夜の森に向けて走り続ける。
「はぁ、はぁ、はぁ」
あてもなく、光の見えない森は恐怖そのものだった。
「もう……ここまで来たら、大丈夫かな……」
「いいえ、まだまだよ……ビッグベアーは鼻がいいの。もっと遠くに逃げないと……」
「お母さん、大丈夫! 次は僕が先導して走るから!」
母は先導して走ったせいで草木に、足が何度もぶつかってたくさんの擦り傷を負っている。
「ありがとう……」
流石に母の足が限界だったので、木の影に背中をつけて休んだ。
悪夢はまだ終わらない。
草小さく揺れると、三匹の熊がもう追いついていた。
静かに唸りながら、のそのそと歩く。
絶望する瞬間だった。
あれだけ必死で、走ったのに、お父さんが僕たちを逃してくれたのに、獣は夢を見させてくれないのだ。
しばらく、僕らを凝視していた。
それに合わせて、僕らも目を離さず静かに後退するが、現実はそう甘くない。
「ブオォォォォォォ!」
獣の咆哮をあげると一気に突進してきた。
「危ない!」
母は二人に覆いかぶさるように倒れる。
ビッグベアーはその母の背中に向かって大きな爪で引っ掻いた。
「アアアァァァァ!」
「お母さん!」
甲高い声が森中に響くが母はまだ強く二人の子どもを抱きしめる。
「絶対……絶対……二人のことは守るからね、
アアアァァァァ!!」
何度も何度も背中をえぐられるが、母は二人を抱きしめていた。
「助けは……か……必ず……くるから……」
もうほとんど母の声は聞こえない。
小人のように小さな声になっていった。
獣は手を振り上げ、漆黒に包まれた鋭い爪は苦しむ母の体に振り下ろされ……直後、獣の首は一瞬にして吹き飛ばされていた。
「よかった、生存者がまだいてくれた」
透き通るような若々しい声が重い空気の中に透き通る。
目を開けると、黒いマントに角帽を被った人がひどい汗をかきながら立っていた。
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