雷魔法が最弱の世界

ともとも

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魔法帝の屋敷

二人の今

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私はその当時、近隣の国への会議に出席していた。

ちょうどその頃に近くの小さな村からの噂を聞いていた。
当然、身分の高い人達が集まっていたから話している者は酷い言い草だった。

昔から私は誰かを見下している者がすこし苦手だったので、苦笑いでしか返していなかった。
でも、そのあまりに酷い言われように思わず腹が立って、私はその依頼の解決を自らの手で遂行しようと考えた。

そう、私はそんな軽い気持ちで小さな村へ行くことになるのだった。

あんなに無残な状況になっているとも知らず……



「まったく、あの人たちは何なのだ。同じ人間だというのにどうしてあんなにも見下すことができるのか、分からないな!」

一人愚痴を言いながら、いつものように高速で飛行しながら目的地へと向かうと、森の中に妙に広がっている赤い点々を発見した。

「お、もしかして村で祭りでもやっているのか!」

よくこのように飛行していると、祭りというイベントに巡り合う場合もたまにあり、思わず笑みを漏らした。

しかし、そのような楽しい想像を覆す想像以上に悲惨な光景が目に焼き付く。

祭りかな、と期待していた赤い点は人間の血、そして烈火の如く燃え盛る炎だった。
村にはまだビッグベアーが唸りながら食事を荒らし、人間の肉を食いちぎっていた。

私はこの時、後悔しかなかった。

どうして軽い気持ちになっていたのか。
どうしてもっと早くここへ来れなかったのか。
噂に流されず、すぐに依頼に取り組めなかったのか。

魔法騎士とは人を守る者だ。
しかし、私は緊張もせず、実力があることで簡単なこととして済ませ、すぐにここへ駆けつけなかった。
命の重さを微塵も感じていなかった。

この時、自分は馬鹿にしていたあの人たちと同じように彼らの命を踏み躙ったことに気付かされた。


私の後悔が相当だった分、行動は早かった。

村にいるビッグベアーをすぐに倒す。
倒すことは容易だった。
しかし、生存者は一人も村にはいなかった。
次に周辺を探すがほとんどの人が殺されている。

それでも唯一、三人だけ生きている者を見つけた。
村から10km離れた森で発見することができたが、最悪のタイミングだった。

すでに母親が子どもの上に覆い被さって襲われている。

すぐにビッグベアーに攻撃を与え、倒すことができた。
しかし、母親の体はもう冷え切っていてピクリとも動かなくなっていた。


私が過ちを犯した結果、小さな子ども二人しか救うことができなかった。

人生の中でこの事実だけはずっと私の心を蝕んだ。



悲劇に見舞われてすぐ、私は頼れる魔法騎士や専属の従者たちを呼び、この村でしばらくを過ごすことになった。

といってもほとんどが生き残った二人の心のケアだ。

美味しい料理を振る舞ったり、温泉を用意したり、他にも綺麗な服を見せたり、面白い魔法を見せたり、たくさんのことを試した。

しかし、二人は心を開いてくれることはなかった。

当然と言えば当然だ。
二人は最高に幸せな日に家族、そしてたくさんの友人を斬殺されたのだ。

特に母親は目の前で悲鳴を上げながら死んでしまったのだ。トラウマにならないはずがない。
母親は自らの命をかけて守ったとも言えるが、そんなこと綺麗事でしかない。

親がいないのに、子どもだけで生きていくなど不可能なことだ。

私のせいでこうなってしまったから、どうにか普通通りの暮らしをできるまで見届けたい。
そんな気持ちはあるが、こんな残酷な経験をした者など私の身近にはおらず、頭を悩ますばかりの日々が続いた。


ある朝、私が一人大きな石に座って悩んでいると、その二人の子どもはゆっくりと肩を並べて近づいてきた。

正直、話したいことがいっぱいあったので私としてはとても嬉しかった。

「あの、魔法帝様……」

そしてなんと、自分の存在がこんな小さな村にまで知れ渡っていることに感動した。

「ど、どうしたのかな! ぐすん、私に何か頼み事でも!
あと、こんな私に話しかけてくれてありがと~う!」

大の大人が大粒の涙を流しながら、ゆっくりと近づく様子に少し引いているようにも見えるが……たぶん気のせいだろう。

「えっと……そのまずは泣き止んでください……」
「あ、ありがとう! ぐすん!」

なんということでしょう。
こんなにも小さいのに私より大人の対応。

男の子に渡してもらったハンカチで勢いよく鼻を噛むと心が落ち着いた。

冷静になると私はすぐに頭を下げた。

「すまなかった、二人とも。私がもっと早く駆けつけていたらこんなことにはならなかった。本当に、心から謝る!」

そんな私の姿に目を丸くする二人は温かい目を私に向けてくれた。

まるであの悲劇がなかったかのように。

「そ、そんな魔法帝様、わざわざ謝らないでください。あなたのおかげで僕たちの命があるんです」
「そうです、魔法帝様のおかげで私たちは救われました。謝る必要なんてないですよ」
「でも、君たちはとっても悲しい思いをした。私のせいだ」

「もう私たちは大丈夫です。最初はとっても悲しかったんです。でも昨日ソラと久しぶりに話してわかったんです」
「僕たちがずっとこんな状態でいたら、命をかけて守ってくれた父や母に顔向けできません」

二人は笑みを向けていた。
なんて強い子たちなのだと感じた。

「そうか、それはよかった。それでも私は全員を守ることができなかった責任を感じている。だからできることならなんでも君たちの言うことを叶えるつもりだ。なんなりと言ってくれ」

私がそれを告げると、二人は顔を見合わせた。

そして、
「なら、僕たちを魔法帝様と一緒に王城へ連れていってください!」

「え、ええっと……」

私が戸惑うと子どもとは思えないことを発言した。

「この国を変えたいです!」




「いやー、衝撃だったね! こんなに小さい子どもがあんな言葉を言うなんてびっくりしたよ!」

魔法帝はミヨとソラに尊敬の眼差しを向けるように天井を仰いだ。

「そりゃ、私だけじゃなくて、信頼している魔法騎士でさえ猛反対したよ。8歳ほどの子どもが王城で暮らすとなったらどれだけ大変か、君ならわかるよね。
貴族から差別されて、陰口を言われて、怪我をさせられることもあるからな。
でも二人は全然食い下がらないし、その時は焦ったよ。
結局、芯の強い二人に押し負けて今はこんな状態だね」

二人の心の強さを改めて僕は知った。

「案の定、ここへ連れてきた時はすごい雰囲気が悪かったよ。できるだけ二人のそばにいるようにしたけど、私がいない時はとても酷いことされていたし、それでもソラとミヨは負けなかった。
二人のおかげですこしは差別が緩和されたけどまだまだ直らないからね。
もっと私も頑張らないと。
改めて二人のことを私は誇りに思う!

まぁ、私もあの出来事以来、できるだけ依頼はこなしているつもりだけど、なかなか問題も減らないものだなー」

二人のことを話し終えると、ため息を魔法帝はついた。

魔法帝は、あの出来事以来、どんな些細な依頼でも村の人々を助けているそうだ。
それが魔法帝なりの救えなかった人への償いかもしれない。

誰にでも平等に接し、たくさんの人を助ける魔法帝は英雄そのものだ。
心から魔法帝のことが誇りに思えた。

本当にこの人が魔法帝でよかった。

ちょっと変な人だけど……

「魔法帝は、自分の体に気をつけてくださいよ」
「ああ、それはもちろ……」

「って、またですか!?」

勢いよくドアが開き、そこにはミヨが迫力のあるオーラを纏いながら立っていた。

「早く寝て下さい! はい、もう勉強会終了です!」
「いや、ち、違うんだよミヨ!」

「何が違うんですか、ユリス様!
まだ明日の任務の日が残ってるんですよ!」

「うう……そ、そうですね……早く寝させていただきます……」

ミヨの威圧に負けた魔法帝は、肩を落として席を立った。

「はい、トモ君も一緒だよ!」
「う、うん……」

さっきの話もあり、ちゃんとミヨの顔を見れなかった。


灯を消し、それぞれの自室に戻る前に魔法帝は僕に手招きをした。

「そうだ、明日はせっかくだしトモヤ君も私の手伝いをしてみない?
一緒に学んだ魔法の実技ということも含めてさ!
どうだい、いい提案ではないかい?」

静かに話していると、ギロッと睨むミヨの視線を感じる。

それに僕たちは、ピクリと肩を震わせる。

「はい、それはとても光栄なお話ですね。ぜひ、お願いしたいです!」
「本当か! それはよかった、明日、楽しみにしているよ!」

ミヨの視線を気になるのですぐに会話を中断して、手を振って別れた。


僕の部屋まで、ミヨと二人っきり。
魔法帝の話が気になりうまく話せなかった。

「ねぇ、トモ君、月が綺麗だね!」
「つ、月が綺麗!?」

変な捉え方をしてしまい、挙動不審になる。

ミヨは首を傾げながら、満月の月を指差していた。

「う、うんそうだね」
どうにかいつものように振る舞おうと意識した。

「なんかトモ君変だね。何話していたの?」

その言葉に目を見開きながらも答える。

「えっと、ミヨとソラの昔のお話かな……」
「ああ、そっか……そうなんだね」

会話が途切れてしまった。
そこから部屋までは沈黙が続いた。

「あ、もう部屋に着いたね。じゃあ、また明日!」

手を振り扉を閉めようとするミヨ。

しばらく気まずかった。
でも、これだけは聞きたくて思わずミヨの振る手を握って呼び止めていた。

「ミヨ……ミヨは今、幸せ?」

僕がそう質問すると、
「もちろんだよ! 今、最高に私は幸せ!」
月明かりに照らされて満面の笑みが僕の目に映った。

「そっか、なんだか嬉しいな」
「ん、なんかあった?」
「いやなんでも」

何かが吹っ切れたように気持ちが楽になった。

すると、すこし恥ずかしそうにミヨは頬を赤らめていた。

「その……そろそろ手を離してもいいと思うよ……なんだか恥ずかしいな……」

「あ!」
反射的に手を離す。

「ンフフ、じゃあまた明日ね。
おやすみ!」

「おやすみ!」









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