雷魔法が最弱の世界

ともとも

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魔法帝の屋敷

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「え、えっと君は確か……ギャアアァァ!
あのおっきくなる子だよね!」

「そうだよ、そうそう。僕のこと覚えてくれてたんだね! なんか嬉しいな!
ドルトムだよ、よろしくね!」

マネトは腰を抜かして地面に尻餅をつき、それを見下ろす形で小さな少年は悪戯めいた笑みを向けていた。


私が駆けつけた時、マネトさんはすごい汗をかきながら四つん這いで地面を這いっていた。

その横ではサナが全身を震わせて、
「なっ、ななな、小さな子ども……」

「コラ、僕はこれでもみんなと同い年になるんだぞ! って、君は!?」

小さいと言われたことに、ドルトム君は頬を膨らませて怒るが、サナの姿を見ると顔がだんだんと青ざめる。

「可愛い! 僕、僕、こっちにおいで! お姉さんが可愛がってあげるよ!」

サナは我を忘れたかのようにメロメロになって抱きつきにいく。

自分が怪我をしていること忘れてないかな……
私が不安になっているも、関係なしに突っ込んでいった。

「げっ! 来るな~、僕はもう子どもなんかじゃないんだぞ!」
「僕、僕、そんな背伸びしないでいんだぞ!
さあ、お姉さんの胸に飛び込んできなさい! フフフフ」

「あらら、大変そうだね……」
正面ではサナがドルトム君を追いかけ回し、騒々しい光景が広がっていた。

それとは裏腹に、
「マネトさん、もう怒ってないので安心して……」
横を向くと、後ろに隠れたいけどさっき殴られたこともあり、どうしたらいいかわからずにいるマネトさん肩をびくつかせていた。

「本当? そっか、ならよかった!」

私の言葉を聞くと、こちらも子どものように無邪気に笑う。

今度こそ、気をつけないといけないね。

こちらが和やかになると、今度はサナたちの方が一段と騒がしくなっていた。

ドン! シュゥゥゥゥ……

大きな音と軽い蒸気が発生している。

「はぉ、はぁ……この姿になれば、もう追いかけてくることはないよな」

低い声と共に、2メートル以上もある長身の猛牛が現れていた。

急な出来事だったため、街は小さなパニックにはなっていた。
それでも、ここは王都ということもありすぐに、普段通りの生活に戻る。

大事にならないのはいいことなのだけど……どおしてこんなに騒々しくなるのかなぁ。


巨大なドルトム君を前にしたサナは固まっていた。

そして、
「チッ!」

小さな舌打ちをするとこっちに戻ってくる。

「……なんだろう……今の聞いて、俺、とても心の底から暴れたい気持ちになったんだけどど……」

怖い顔をしながら拳を強く握りしめる。
ドルトム君もやっと落ち着いて話ができるようになった。

気のせいかもしれないけど、ドルトム君がとても怖いんだけど……
ゆっくり近づくから、思わずマネトさんと一緒に手を繋いで怯えているんですけど……

「もう終わった。さあ、早くトモヤを助ける方法を考えようではないか」
「サナ! ドルトムっていう子、どうにかしてよぉぉぉ! 怖い、怖い! サナが追いかけ回したせいで!」
「まずは謝ろ!」
「けっ!」

すごくムカつく鼻息を立てる。

「あわあわ、何言ってるの! 後ろからすごい憎悪の視線が送られているんだけど」

今にも片手で握りつぶしそうな勢いだ。

その殺気をサナは感じたようで、ドルトム君に向かって睨み返した。

「な、なんで対抗するの……」

私の声も届かず、
「なんだ、私とやるのか? やるなら正々堂々と戦ってやるぞ!」
「おお、いいだろう……いつでもかかって来い!」

二人の間に火花が立ち並ぶ。

なんかこの二人の相性は悪そうだ。
小さくなったらサナは引っ付くし、大きくなったら喧嘩腰になる。

どうやって止めるの……

私は怯えながらも、ドルトム君の前に立つ。

「うちの仲間が、すいません……あの、お怒りになられているかもしれませんが、許して頂けるとありがたいです……」
「しょうがない、今回だけだからな」

顔をしかめながら苦笑を交えて申す。

「あとできれば、怖いので元の姿に戻ってもらえたら嬉しいです」
「ああ、それは別にいいが……」

私が間に入って仲裁することでドルトム君の声は柔らかくなった。

問題は……
「この子のことですよね……」

ドルトム君は微妙な顔をしながら未だに睨みつけているサナを見る。

どうしたらいいかドルトム君が迷っているので、私は笑顔で応える。
「はい……サナのことですよね。安心してください……すぐに、意識を奪いますので!」

「へっ?」
「えっ……?」

一瞬で後ろに回り込み、
「ゲホッ!」

サナの首筋に向かって手刀を打ち込んだ。
白目を向きながら、地面に倒れる。

マネトさんはもちろんだがドルトム君までも体を震わしていた。

「ひ、久しぶりに女性の恐怖を身にしみたよ……」

「これで安心して元に戻れますよ!」
「ああ、その言葉に従がおうか……」

シュゥゥっと蒸気をあげ、小さな少年が地面に降り立つ。
マネトさんも小さくなったことで、恐怖心もなくなりつつあり、小さな足取りでドルトム君に近づく。

それぞれまだ距離はあるものの、自己紹介を始めた。

「改めまして、ドルトム君。私はセクアナです。よろしくね」

身長差があったため、私は膝を抱える。
手を差し出すと小さな手が包んでくれた。

「分かった! 君はセクアナって呼んだらいんだね! 僕はドルトムだよ!」

次に私たちの視線はマネトさんの方に移された。
それにおどおどするマネトさん。

「え、ええ! 俺も……」
「当たり前でしょ」

もじもじしながら前に出てくる。

「そこの怖がりの男の子。僕はいつも大きくなったりしないよ。仲良くなってくれると嬉しいな……」

瞳を潤わせて、これでもかと可愛い顔をしながらドルトム君はお願いする。

サナが起きてたら、悩殺されているだろうな……

「お友達になるの……俺もなりたい! ドルトムだよね、まだ怖いけど、よろしく!」

マネトさんは、ちょっと心を開いたようで震えてはいなかった。

「俺はマネトって呼んで」

「うん、マネトにセクアナ、よろしくね!」

ドルトム君は無邪気な笑顔を向ける。
その破壊力に母性本能なのか、ニマニマしながら頭を撫でていた。

「コラコラ、これでも小さく扱われるのは気に食わないぞ!」
「あ、ごめんなさい……」

すこし仲良なったところで、ある人のことを思い出す。

「ええっと……一応、この気絶している子はサナです……」
「う、うん、覚えておく……」

顔を引き攣らせていた。
予想通り、サナは苦手そう。


「ずっと思ってたんだけど、僕の戦友であるトモヤはどこにいるの?」

唐突に、一番の悩みの種であることに話が切り替わった。
一瞬、マネトさんと顔を見合わせる。

そして同時に指をさして、
「あそこ……」

巨大なお城に指だけ向ける。

「ええ……まだトモヤって魔法帝に連れ去られてたんだ……」

大きく頷くと、ドルトム君も呆気にとられていた。

「俺たち、どうやって救出するか考えているんだけどさぁ、どうにもできないからな」
「その通りだな、手伝いたいけど王城はどうしてもね……」

ドルトム君でさえもどうしようもできない。

そんな絶望的な状況だったが小さな光が見える。

「あ、あれ魔法帝が空飛んでる」

マネトさんの視線の先には飛行機のようにすごいスピードで魔法帝は風を切り、王城へ進んでいた。

「マネトさん前々からだけど、そういう気配、よく気づくね」
「うん、なんかこういうのは俺感じるんだよ。今日以外でも、朝と夕方に空飛んでいるよ!」
「えっ!」

マネトさんの感知能力に思わずギョッとする。
ドルトム君は目をキラキラさせていた。

「何! すごいよ、マネト! 
速いだけじゃなくてそんなこともできるの!」

まるでマネトさんに弟ができたような光景だ。
褒められたマネトさんは頬を掻きながら照れていた。

「でも、魔法帝の姿が見れたところで私たちにはどうにもできないなー」
「マネト、すごいのに意味ないのか。勿体ない! いいところまで来ているのに!」

腕を振り回して、悔しがるドルトム君。
私も打つ手なし。
惜しいところでまた一からスタートする。

そんな悩んでいる中、マネトさんが突拍子もないことを発言する。

「俺たちが空を飛んで、魔法帝を捕まえたらいいんじゃない? それだよ!」
「そんな夢みたいなことあったらなー」

マネトさんは目をキラキラさせるがドルトム君に軽くあしらわれる。

私も無理だと思っていた。
でも、もしかしたらと頭の中で想像してしまう。

「それだよ!」

大きく目を開けて、マネトさんの意見に賛同する。

「それとは……空を飛ぶっていうこと?」
ドルトム君が痛い視線で私を見つめる。

馬鹿げている作戦だからわかるけど! 

けど、可愛い子からの冷たい視線は結構傷つきますね。

「ええっと、空を飛ぶというか、まぁ私の考えは……」

私はトモヤ救出作戦を詳しく伝えた。


・作戦その一
魔法帝の感知が得意なマネトさんができるだけ早く魔法帝を見つける。

・作戦そのニ
変身したドルトム君が私を抱えたサナ、計二名を持ち上げて空へ向かって全力で投げつけてる。

・作戦その三
空中にいるサナが私をもう一度空へ投げつける。
ここで大体魔法帝が飛んでいる高さと同じになっていることが理想。

・作戦その四
私が空中で水をうまく放出して、魔法帝を捕まえる。

・作戦その五
捕らえた魔法帝からトモヤの居場所を吐いてもらい救出する。

ミッションコンプリート

という流れ。

無茶だし、時間もかかる。
また、魔法帝が敵と認識する可能性だってある。
そうなれば、空を飛べない私は完全に不利。
逆に捕らえられて終わってしまうだろう。


そんな作戦なんだけど、
「ええ! なんかカッコいい! ただ、俺の役目そこまで意味ない気がする……」
「何、言ってるの! むしろ一番大切だよ!
早めに魔法帝を感知してもらわないと後の行動が全部遅れてしまうよ!」

「え、そうなの……クフフ」
「うん、とってもいい作戦だと思うよ! 
これなら僕でも手伝えそう」
「じゃあ、こういう流れで進めていこうね!」

「うん!」

みんな納得してくれた。

「最後なんだけど、騒ぎにならないために、マネトさんの超スピードでサナとドルトム君を回収してくれないかな?
マネトさん、とっても速いから護衛の人たちが来ても逃げ切れると思うんだけど……」

「うっ……護衛の人たち怖いな……
で、でも、全……全力で逃げるから大丈夫!」

トモヤのためなのか、勇気を出してくれた。

「だけどもう夜だよ。明日からは準備するんだよね? また、明日楽しみにしているよ!」

夕焼けがほとんど黒く染まり、一番星が照らしていた。
すこし肌寒くもなり、今日が終わる。

私たちはサナを持ち上げてドルトム君と別れた。


これから四人で空を飛ぶ練習が始まる。



「ドルトム君! ドルトムキュン!」

サナがドルトム君を追いかける声が響く。

「サナ……もう一度、気絶したい……?」
私のドスの効いた声にサナがやっと大人しくなってくれた。

「もう、サナは疲れる! 嫌い!」
「そ、そそ、そんなこと言わないで欲しいぞ……」

しょんぼりしながら、ゆっくりと頭に手を伸ばそうとするが払われていた。

いつになったら練習が始められるのやら……

初日は仲良くなる会みたいな感じで終わりました。


二日目からはしっかりと練習ができた。

感知能力をより優れたものにするため、マネトさんは座禅を組んで集中。

一人だけやることが違うから、大変だと思うけど、文句ひとつ言わなかった。
トモヤのことを思ってくれて優しい人です。


一週間、練習が続いて二日の休み。

しっかり観光もしないと。
トモヤのことを忘れたわけではありませんよ。でも、練習ばかりというのは疲れますからね。
こうやって休みをもらわないと続けられません。

えっと……この二日はとても楽しかったよ!

そのせいもあり、次の日サナ、マネトさんのお金が底をつきました。

ご飯の食べすぎです。

信じられない……


色々あったが、作戦決行日は訪れた。

「時間的にもう少しじゃないかな?」
「そうだな」

サナと並んで空を見上げていると、
「あ、来た! あっちの方から魔法帝が飛んでるよ!」

マネトさんが大きな声で呼びかけると豆粒のように小さな点が見える。
魔法帝だ。

「ドルトム君、準備!」
「うん!」

ブオッと毛を逆立てて、巨漢に変身する。

軽々しくサナと私を持ち上げると、
「飛ぶぞ、しっかり構えろ!」

図太い声が耳に入り、勢いよく走り出す。
そのスピードもすぐに最高速度となった。

「ブオォォォォォォォォォォォ!」

雄叫びをあげると、ものすごい風が全身を包む。

私たちは宙に浮いた。

次にサナ。

「セクアナ、踏ん張れよ!」

サナは両手に光を浴びると、剣を魔法で出現させる。
私はその剣に足を置くと、サナは筋肉を両腕に溜めて、
「行ってこい、飛んでけぇぇぇぇ!」

私はまた高く空へ飛ばされ、ゆっくりとサナは落ちていく。

「下は俺に任せて! さあ、ドルトム、俺に捕まって!」

マネトさんは小さくなったドルトム君を抱え込んで、

「逃げるよ……閃光!!」

全身に光を浴び、空中にいるサナのところまで瞬間で行く。

サナの手をしっかり握りしめ、地面に降り立って閃くと、すぐに姿が見えなくなった。


あとは残った私、どうにか魔法帝を捕まえないと……

「ハアアアァァァァァァァ!!」

体から全力で水を放出する。

届け、届け……

魔法帝のスピードは早く、後ろから追いかける形となった。

いつもの速さなら到底追いつかないけれど、今日はすこしゆっくりだった。

これほど恵まれたタイミングはない。
今しかない、今日しか、成功はあり得ない。

だから限界を超える勢いで全魔力を降り注いだ。

トモヤを助けるんだ!



「届け……届けええええぇぇぇぇぇ!!」

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