雷魔法が最弱の世界

ともとも

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任務

深い森

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初任務に向かうべく、僕たちは山を越えた。

約二日ほどかけて、その町に着いたのであった。


この二日は色々あった。

まずは問題の発生。

マネト、サナの爆食に見合う量の食料だ。
出発してからセクアナがずっとヒヤヒヤしていた。

「お腹空きすぎたら、二人は動けなくなるなんて起こらないよね……」
とか、
「逆に発狂して、野生のモンスターみたいにならないかな……」
などなど、いろんな思考を働かしていた。

王都でも食料を買っていたけど、一食でなくなってしまったから、余計にセクアナはおどおどしていた。


一日目の旅で僕は何度も何度も、セクアナに相談された。

だけど、


ドーーーーーーン!


その日の夜、
「これは今日の晩飯にしよう! 
これは……アナギダ牛だな!
石焼きもおすすめだが、私は牛の骨を煮込んだ、濃厚なスープも好きだな!」

「ひっ! でかいでかいでかいよ!?
踏み潰されちゃう!
嫌ぁぁ! 俺、俺、今日この巨大な牛に食べられるんだぁぁぁぁ!」

サナは狩りで、二メートル以上もある巨大な牛を仕留めてきた。

夜にそんな巨大な動物を持ち帰ったからこそ、マネトは大声で嘆いていた。

確かに、今にも動き出しそうなほどの迫力だ……

牛の目がぎらつく。

「って、本当に動いた!」
「なっ! こいつ、しつこいぞ!
大人しく捕まれ!」

「い、嫌ぁぁぁぁぁぁぁああああ!」

セクアナとマネトが巨牛の大暴れに悲鳴を上げていた。
まるで息を合わせたかのように、森の方へ二人は逃げて行く。

牛は、サナの正拳突き一発で静かになった。

そのあと、二人も「暗い森、怖い」って言いながら戻ってきた。

それもあり、セクアナとマネトは疲れ果てていた。


「サナ、酷いよ……せめてちゃんと仕留めてからこっちに持ってきてくれないと、私だって怖いんだから……」
「人生怖い……生きてるの怖い……任務嫌だ……」

マネトはいつも以上に顔が青くなっていた。



「っ! 美味い! 美味いよ美味い!」
「本当、びっくりするくらい美味しいね!」

とはいったが、マネトとセクアナはすぐに明るい笑顔を取り戻していた。

というのも、牛のお肉が狩りたてで、新鮮だったのである。

食いしん坊のサナ、マネトは上機嫌。
さっきまで、あんなに生きる意味を失っていたのにどういうことやら。


こうして、食料問題が解決された。

それ以外にも良いことはあった。
それはサナの巨大な荷物だ。
中にはキャンプ用具に照明、ナイフに可愛いぬいぐるみ。

まぁ、関係ない物もありますが、しっかりと常備されていた。

だから夜は快適に過ごせた。

サナのサバイバル的生き方がとても役立ったのである。


これが今日までの出来事。

お金を消費しなかったことにセクアナがサナに尊い眼差しを向けていたことは、また別のお話。


と、そんな経緯で今は目的の町にいる。

入ると嫌な視線を人々から向けられた。
昔に指名手配のようにバラされたからな……

仲間がいるからそこまで苦しくないけど。


僕の横では、セクアナが目を輝かせている。

「早い! 本当にソラさん、しっかりしているね! 的確に近くの任務の指示を出して、すごいよ!」

ミーティアに見ながら、セクアナはソラを褒め称えていた。

結構仲良くなっている二人に心がすこしモヤモヤする自分がいた。
しっかり者同士、だからこそ余計に気に触る。

じっとセクアナを見ていると、
「ん? どうしたの? 町に着いたら次は宿だよ、色々あって疲れたから休もう……」

セクアナは嘆息しながら、肩を落としてとぼとぼと歩いて行く。

サナとマネトは例外として、言われてみれば僕も結構疲れていた。
王城生活もあり、体が鈍っているのだと思う。

僕もセクアナの後ろについて行った。


安い宿の予約を取ると、それぞれ部屋に入って休んだ。


といっても僕はすぐに休めなかった。

途中、サナから強烈なドアのノックが訪れる。 

「なぁ、トモヤトモヤ! 早く任務に行かないか! 私、楽しみだ!」

その元気な声に誰かが反応したのか、外から大きくドアが開く音がする。

「サナ! やめてぇぇ! というか、やめろぉぉぉ! 俺、任務行きたくない!
死ぬじゃん、死んじゃうじゃんか!
誰か危なかったら、止めてくれるわけじゃないんだろ!
モンスター、凶暴、ダメ、絶対!」

「マネト、男が何を言っている!
もっとしっかりしろ!」

マネトが泣き言を言う光景がドアの向こうで広がっている気がする。

ゆっくりしたいのに飛んだ邪魔が入った。

二人の体力、底知れないな……

ちゃんと自分も鍛えないといけないと、自覚した。
でも休むことは大事。

だから、明日から頑張ろう。

ダメな人間の考え方だな……


うるさいのでドア越しの二人の会話に入ろうとする。

「あの……休みたいのでお静かに……」

「トモヤ! お前はどっちの味方なのだ!」
「俺の味方だよな? 俺、お前を信じてるよ……」

サナの威圧的な声と、マネトの震える声が聞こえる。

「なんかめんどくさい状況になってないかな……」

「さあ、早くモンスターを倒すのだ!」
「俺を選んでくれよ……」

めんどくさい、だからこそ中立の立場で、
「任務には行きたいけど、今日は休みたいな!」

「なんだ、その曖昧な答えは……」
「休みたいのなら、俺の意見じゃ……でも任務には行きたいって……」

バン!

「二人とも、他のお客様に迷惑になってるの……任務は明日、静かにしましょう……
常識は守りらないとね、わかったなら静かに部屋に戻って……」

セクアナの怖い声が聞こえた。
ドアを開けなくてもどんな顔をしているかわかる……

「ご、ごめん……お、おお俺、部屋に戻るよ……」
「ああ、静かにしないとな……」

飼い主に怒られた犬のように、二人は小さくなって部屋に戻った。


巨大な猛獣の討伐は明日となった。


次の日、四人は最低限の荷物を持ち、任務遂行のために深い森へ入る。

町の近くには大森林がある。
人間にとっては住みにくい土地だ。
それに比べて動物にとっては生きやすい場所。
だからこそ、異例として巨大な猛獣に進化することだってあり得る。

町の人や生態系を壊さないためにも、今回の任務は依頼された。


その森の中では、二人が怯え、一人がウキウキしている。

それを横目で見ながら、僕は先頭を歩いていた。

四人の編成はこうだ。

僕が前衛職でモンスターの足止めと討伐。

サナは後衛で二人のボディーガード。

マネトとセクアナは背後からの援護と範囲攻撃。

表向きではこうだ。

裏では、二人、サナに守られたいだけじゃ……
戦闘は僕とサナだけな気がするし……


気がかりな気持ちの中、
「トモヤトモヤ、あれ見て! すごい綺麗な川だよ!」

怖がりながらも、マネトは森の散策を楽しんでいた。
任務だと言うのに楽しむ。

こちらの方が僕たちらしくていいね。

マネトの声に釣られて僕たちも混ざった。
「本当だ! 綺麗だね、サナ!」

「ああ、あれだけ透明度の高い水なら、水浴びでもしたいな! 
……そろそろ、私に引っ付くのをやめてもらいたいのだが、セクアナ……」

「嫌です……」
「……そうか」

それだけでなく、その泉には小さなモンスターも生息していた。

「キュッ、キュキュキュッ!」

手の平サイズの綿毛のような生物がプカプカと宙を浮いていた。

そんな可愛い生き物にサナは我慢できるはずもなく……

「なっ! か、可愛いぞ……し、しかもこんなにたくさんの、綿毛ちゃんが!」
一人の少女が雷に撃たれたかのように全身を震わせていた。

頬を赤くしながらセクアナを振り解いて、泉の方へ猛ダッシュする。

「にゅふふ! 綿毛ちゃん、綿毛ちゃん!」

二匹ほどの手に抱えると、キラキラした目で綿毛を見て、顔を綻ばせたり、気持ちいい感触を顔に引っ付けて感じたりと色々していた。

「確かに柔らかくて可愛いね、なんて言う生物か知らないけど……」
「うわぁ、すごいモフモフ! こんな大森林だと、魔法帝の知らない生物もいるんだ!」

僕とセクアナも近づいてすこし遊んだ。

マネトは直接触れず、細い枝を持ってツンツンと触っていた。
マネトらしい、可愛がり方だった。

にこりと無邪気に笑いながら。


そんな、癒される雰囲気もマネトの一言で引き締まる。

「ひっ……嫌な気配をあっちから感じる……」

それぞれ、顔が深刻になる。

「そっか……こんな楽しいことばかりじゃないよね……じゃあ、行かなくちゃだね……」

セクアナの言葉を聞いて、大袈裟にマネトは顔をぶんぶんと横に振る。
涙目になって、本当に嫌そうだった。

露骨に嫌そうな二人。
サナは二人の言葉を気にせず、まだ可愛がっていた。

だから二人を説得する気持ちをこめて、
「ほとんど戦うのは僕なんでしょ? 
なら、安心して! 必ず二人の元へは行かせないから!」

胸を張って言う僕に、二人はついてきてくれた。


ドシ、ドシ!

大きな足音とともに奴は現れる。

依頼された巨大モンスターの正体。

それは十メートル級の漆黒の毛を纏わせた猪だった。
巨大な角を鼻から生えており、刀で切れるかも分からないほど頑丈そうな皮膚。

セクアナは脳裏にいつかのトラウマが思い出される。

「い、猪か……」

一瞬、体が硬直するセクアナ。

「ど、どどうたの、セクアナ?
昔、何か、猪の猛獣と嫌な思い出でもあったの!」 

今にも大声で叫びそうなマネトが、体を震わせながら聞く。

セクアナより怯えているマネトを見て、セクアナの心はすこし落ちいたようだ。

「まぁ、色々とね……でも今回はみんな強くなったし、仲間も増えたから安心だよ!」

「そっか……そうだよね!
今日は絶好調のサナに、魔法帝に鍛えてもらったトモヤと最高の仲間がいるからね!」

「うん、その通り! だから、トモヤ! あの猪に向かって特大の魔法をぶっけちゃって!」
「………」

人差し指を立てて、司令官のように命令するが反応なし……

「トモヤ……? いない!?」
「え……ええ! な、ななら、サナ! 
俺たちを助けてぇぇぇ!」

し~~~~ん……


「そう思えば、トモヤは方向音痴だったような……」
「サナってあの、可愛い動物から離れられたのかな? もしかしてずっとあそこにいたりして……」


二人は硬直して全身から大量の汗が流れる。



「おーーい、サナ! マネト! セクアナ!
みんなどこにいるの! 返事して!」

僕は見知らぬ深い森で迷子になっていた。



「はっ! はあ! この表情も、この色もどれも可愛い! どれを持って帰ろうか……いや、もういっそのことみんな私が育てても……フフフフフ!」

サナはデレデレしながら動物を可愛がっていた。

マネトが言った依頼の猛獣が現れたという話など聞いていなかった。



「最近、やけに方向を間違わずに進んでいると思っていたのに……ちょっと感動していたのに……
なのに、どうして……どうして今日に限ってタイミングよく迷子になっているの!?」

「はああぁぁぁぁ!? 二人の頭どうなってんだよ! いいご身分だなぁ! 任務に俺たちを駆り出しておいて、二人は呑気に森の散策だとぉぉぉ!
ふざけんじゃねぇぞ!
俺がどれだけ怖い思いして、ここに立ってるのか、わかってんのかゴラァ!
何、見事にサボってんだよ!
一発、ぶん殴ってやる、オラ!
今すぐ出てこい!」

「マネトさん……あんまり大きい声を出すと……」
「セクアナ、今は黙ってて!
俺は! 俺は、猛烈……に……怒って……」

横を向いていた猪は、二人の大声で気がつき、こちらにのそのそと歩み寄っていた。

一時停止すると、猪は前足をブンブンと音を立てて、地面を掘る。

まるで何かに突撃するように……

「あれ……これって俺たち突撃されるやつ……?」
「マネトさん……ほら、さっきの勢いで、あの猛獣に一発入れちゃいましょ……て、コラ逃げないで! 私をひとりにしないで!」

「嫌だよ、無理だよ、不可能だよ!
あんな巨大なやつに一発入れる前に俺の拳が潰れちゃう!」

マネトの逃げる後ろにセクアナも追う。
どちらも足は元から速いのですぐに距離は稼げた。

「グオォォォォォオオオオ!」

だけど強化種は一味違う。
二人を超える速さで猛獣は突進する。


すこし前では、涙でひどい顔になった二人が逃げる。


「ギャァァァァァァアアアアアアア!」
またいつものように大きな叫び声が響いた。

「助けてぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


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