君と二人の自分

ともとも

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パン

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「よっ、おはよう!」
「おはよう。今日は珍しく遅いね」
「いやいや、これは寝坊かなんかしたな。まぁ遅刻しなくてよかったな」
雑談をしていた元気な二人の声が聞こえてくる。

そんなことよりも今は休憩がしたい。
二人の挨拶を無視して自分の席へと座った。

「ふあぁぁ」
疲労した体の全体重を椅子にかけて大きく息を吐く。
ここまで全力疾走だった。この人生で一番しんどかった気がする。
心臓がバクバクと音を立てている。体が熱い、呼吸がしんどい。
意外にも走っている時じゃなくて走り終わった瞬間の方がしんどかった。
何回も何回も深呼吸をしてやっと通常通りになった。

ギリギリだったこともあり、呼吸が整う頃にチャイムが鳴った。

「はぁー、とんだ災難だったな。遅刻はしていなかったからよかったけど」
独り言を言っていると、義人の言葉を思い出した。

「デートか・・・・・」
友達になった後、さらにハードな目標を僕に突きつけてくることに頭を抱えて悩まむ。

そんな時、ふと視界の中に君が飛び込んだ。
窓側の二列僕より前の席で姿勢正しく本を読んでいた。
いつものように誰とも話さず、静かに本を読んでいる。

この話しかけづらい姿にまたも頭を抱えて悩む。

昨日、連絡先を交換して話した中ではあるがそれでもちゃんと話してまだ二日しか経っていない。
まだまだお互いがうまく話せない時期だ。

待っていてもたぶん君から話しかけることはなさそうだと思い、引かれる発言をするかもしれないけど話しかけようと決めた。

放課後、君が帰ろうとする時に呼び止めた。
朝、話そうと決意したけど結局放課後まで近づく勇気が出なかった。
まだまだ僕も成長していないことを自覚する。

「あの、すいません。一緒に途中まで帰りませんか!」
まるで告白するかのようにテンパって大きな声が出た。

まだ教室にも他のクラスメイトがいたので僕達の方をチラチラと見てくる。

昨日といい、今日といい、君を引かせることが僕は得意なようだ。

毎回失敗するな・・・・

でも君は優しく「はい」と小さな声で返事をしてくれる。
小さなことだが、なぜか感動してしまう僕がいる。


まだ部活動で校内が賑わっているなか、横に並んで帰ろうとしている。

サッカー部や野球部達の掛け声が僕の耳に入るくらい一生懸命練習している。他にも走り込みをしている陸上部やテニス部などもいる。

そんな中、僕は何をやっているんだろう。

「一緒に帰ろう」と誘ったにもかかわらず、会話がもなくただ無言で歩いている。

「み、みんな部活動、頑張っているね。そう思えば朝空さんは中学校の時は何部に入っていたの?」
空気を変えるための苦し紛れに軽い質問をする。

「わ、私はその・・・・美術部に入っていました」
「えっ! 本当? じゃあ絵を描くの上手いんじゃないですか?」
「いや、・・・その、それが・・・ いつも部員は私一人だけだったので、顧問の先生もほとんど来なくてずっと本を読んでいたんです・・・・」

「ああ、そうだったんですね。アハハハハ・・・・」
体中から冷や汗が出た。

何この悲しいエピソード!?
空気変えようと質問したけど余計重くなってくじゃん。
地雷踏んだよね。完全に僕地雷踏んだわ。

朝空さん本当ごめんなさい。嫌な過去のことを思い出させて本当ごめんなさい!

重苦しい空気が、僕を襲う。
一緒に帰るとかいいながら今の空気、地獄だな。

これは喋るとまた余計なことになりそうだから、しばらく黙っていた。

空が真っ赤になる頃、橋の上を僕達は歩いていた。

「綺麗な景色ですね」
「そうですね」
君は悲しそうな顔でこの景色を見ていた。

どうしてそんな悲しそうな顔をしているのか追求したかったが、またこじらせそうなのでやめておいた。

風によって君の髪が揺れる。

「あの、好きな食べ物はありますか?」
さっきからずっと質問責めしている気がする。
自分のコミニケーション能力に呆れてしまう。
翔ちゃんや義人が羨ましいな。
また前と同じようなことを思っているとまさかの答えが返ってきた。

「私はパンが好きです」
「パンですか・・・ パン!?」
自分と同じ食べ物が好きと言われて思わず叫んでしまった。
「そ、そうです。パンって人だけじゃなくて動物も食べれますよね。いつも一人な私でもそのパンを動物にあげることが楽しくって・・・・   あっ、もちろんちゃんと味も美味しいですよ。ふっくらとした食感に薄くついた塩の味とか甘いクリーム味とか・・・・」

「分かります! そうですよね。あのふっくらし食感。それだけでなくて、パリパリしたクロワッサンもあったり、柔らかすぎてすぐに口の中で溶けるパンもあったり。それでいて味のレパートリーも沢山あって。ご飯系のピザパン。甘いクリームパンも外せませんね。なんの味もないパンもそれはそれでふっくらとした感じを味わえて・・・・・・」

パンが好きな人があまりいなかったこともあり、仲間を見つけたことで長々とパンの魅力を語っていた。

「あっ、すいません。ついパンのことを話しすぎてしまって・・・・」
「い、いえ。その私もパンが好きなのでその気持ちはわかります」

しばらく沈黙になったが、さっきほど空気は重くなかった。むしろ軽くなった。

あ、そうだ
物静かな君だが、それでも喜んでもらえるようにある提案をした。

「近くに美味しいパン屋さんがあるからパンを買いませんか? もちろん僕がお金を払うので」
「だ、大丈夫なんですか? 前からずっと言葉に甘えてばかりで・・・ 私なんかのためにそんなことしなくても」
「大丈夫大丈夫。ずっと僕が勝手に誘っているだけですから。朝空さんこそ時間とか気にしないんですか?」
「ああ、えっと私は家でもずっと一人なので・・・・」

君は下を向いた。肩を丸くしてとても寂しそうなのが伝わった。

「それなら、早くいきましょう!」
「は、はい・・・ そうですね」

僕が明るくなったことで君は笑顔を見してくれた。でもすこし無理をしているような笑みだった。

すぐに行動を起こしてパン屋へ行った。

学校の後だったから僕は糖分を欲しがってクリームパンを買った。
君はじっくり考えて、アンパンを選んだ。

そして近くにある広場のベンチに座った。
広々とした広場の真ん中には小さな噴水もあった。

それを見ながら静かにパンの甘さに浸る。
クリームの程よい甘さが口の中を巡る。それでいてふっくらした生地もまた美味しい。

しばらくパンを食べていると匂いに釣られるように「クルッポー」と一羽のハトが寄ってきた。
そのハトを見て君は優しい顔を向けていた。そして持っていたパンの切れ端をすこし分ける。
ハトもそのちぎられたパンを軽く突いてすぐにパクリとかぶりついた。
鳥の気持ちなんてわからないけどその時は美味しそうに食べている気がした。

「鳥、美味しそうに食べてるね。楽しいですか?」
目をパチクリさせながら軽くうなずいてくれた。

静かな風が吹く。君がパンをあげているとハトが二羽、三羽と増えていき、しまいには数え切れないくらいがよって来ていた。

僕もパンをちぎり、ハトに渡していたが気づくと生地がほとんどなくなっていた。

パンを食べ終わる頃にはハトもほとんど飛び立ったていた。

最後の一羽が飛ぶのと一緒にお互いがベンチから立った。

「ごめんね、今日はいろいろ付き合ってもらって」
君は首を横に振ってくれた。
そして僕を見ると、最後に深く頭を下げてゆっくりと足を運んで帰っていった。

ムードも面白い会話もせず、ただ僕が積極的に喜んでくれそうなことを提案しただけの日だったが、この日からよくこの場所へきて少しずつ会話をするようになった。






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