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ピアノ
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六月の下旬、この頃になると高校最後の大会やコンクールなどで運動も文化部も賑わう。
先日、翔ちゃんの大会が終わりほっと一息ついていると今度は優のピアノのコンクールがあった。
ここまで連続でイベントが続くとさすがにめんどくさいと思うが、友達を応援するためなら張り切って応援に行く自分がいる。
優はコンクールが近くなって休み時間にずっと楽譜を見ている。それに合わせて手の指を動かしていて、このコンクールに全てをかけるよう練習している。
その姿はとても誇らしい。
ほのぼのとその姿を見ながら翔ちゃんと話す。
「やっぱ応援するには静かに見守る方がいいよな」
「うん、集中している優に話しかけたら逆に怒られてしまうからね・・・・」
「私は話しかけてもらっても嬉しいと思うな。友達と話していると溜まっているストレスも発散できるし」
「・・・・・ああ、えっとなんでここで見ているの?」
サッカーを見に行った四人で話している。
なぜか雪菜さんの席で輪になって集まっていた。
真ん中にいることによって人見知りの雪菜さんは恥ずかしがって俯く。
「うーん、難しいな・・・・」
四人、頭を抱えて悩む。
まだ、完全に友達とは言えないがそれでも、サッカーを観に行ってから二人が翔ちゃんと仲良くなった。
「確か本番って今週の土曜だったよね!」
「えっ! 今週の土曜だったの? ああ、私、予定を作ってしまったから行けないよ。見たかったなー、優君のピアノ」
「ああそうなんだ。残念だね・・・・」
「俺はもちろん大丈夫だ。今週は試合で頑張ったからって休みがもらえたぜ。やっと優のピアノが見に行けるな」
「そっか、それは良かった」
「私は見に行きたいです・・・ タダで美しい音が聞けるなんてとてもいいじゃないですか!」
積極的に雪菜さんが参加しようとした。
珍しいことでみんなが驚いた。
「フフフ、雪菜ちゃんもしかして音楽好き?」
「あっ、いえ。そう言うわけではなくて・・・・・」
なんだかいつもと違う雪菜さんが見れた。
「じゃあ、何かな? もしかして誰かとデートできて嬉しいとか・・・・・」
「ち、違います!」
顔を真っ赤にしながら否定していた。
めっちゃ怒ってるように見える・・・・
結局、優のピアノコンクールには翔ちゃん、雪菜さん、僕の三人が行くこととなった。
清水さんは聞きたかったなと言いながら席へ戻っていった。
それに合わせて僕達も解散した。
コンクール当日
優はいろいろと手続きなどをするため早めに家を出ていた。
そして会場の入り口が今日の集合場所だ。
なぜか早く起きてしまって僕は集合時間の三十分前くらいに来ていた。
早すぎたなと思いながら行ってみると意外にも人だかりができていた。
それでも翔ちゃんと雪菜さんはまだきていなかった。
早く来すぎたからな・・・・
近くのベンチに座った。
まだ開きもしていないのに本当にたくさんの人がいた。
家族連れの人や若い人に年配の方。
ピアノには年齢に関係なく誰でも楽しめるんだなと思う。
しばらく待っていると、翔ちゃんが明るく挨拶して来た。
「おはよう、お前も早いな! ハハハ」
「翔ちゃんこそ!」
翔ちゃんが来たのは集合二十分前だった。
「やっぱ、祐介も早く起きてしまったのか?」
「うん、その通りだよ。心の中でうずうずしてたからかな・・・・」
「フッ、同じだな」
しばらく雑談をしていると五分前に雪菜さんが来た。
その姿を見て二人とも固まって開いた口が塞がらなかった。
「え・・・・・・」
「どうしたの・・・・眼鏡は・・・・」
「ええっと・・・ イメチェンかな・・・」
彼女はいつもつけている眼鏡をとっていた。
眼鏡の時とは違って少し明るくなったように見える。
短い髪にもよく似合っていた。通りかかったら二度見してしまうくらいとても整った容貌だ。それに着ている水色のワンピースともマッチしている。
少し恥じらいながら顔を赤くしている姿も可愛い。
「どうかな・・・・」
「とっ・・・・」
「すごく似合ってるよ!」
「とても似合ってる」と言いたかったが翔ちゃんに先越された。
「ほ、本当ですか? ありがとうございます」
はにかんだ笑顔を向ける。
二人で雪菜さんのイメチェンを褒めながら会場に入った。
ピアノコンクールが始まる五分前。
そんな肝心な時に僕はトイレに行ってしまった。頑張って我慢していたが無理だった。
待っている側も意外に緊張するのかな・・・・・
ってそうじゃない
「あぁぁ、こんな大事な時に何やってんだ!」
自分に怒りながら走ってトイレまで行った。すると優が苦しそうに廊下に置いてあるソファに座っていた。
「えっ! 優、こんなところで何やってるの? 早くしないとコンクール始まるよ! ほらほら」
彼の手を引っ張って控室に連れて行こうとすると、まさかの言葉が告げられた。
「僕、やっぱりコンクールやめたい・・・・」
連れて行こうと必死で気付かなかったが、優の手は震えていた。
そして冷たい。
「どうして、そんなこと言うの? 頑張ってきたんじゃないの?」
気がつくと、優は泣いていた。
緊張しすぎのせいか思うように呼吸ができず苦しんでいた。
目を見開いて驚いたが、どうにか落ち着かせようと静かに背中をさする。
とても苦しんでいるようで何も言わず、落ち着くまでそばにいた。
「フー、ありがと祐介! すこし落ち着いた」
弱々しい小さな声が聞こえる。
「話せるようになった?」
「う、うん・・・・・」
呼吸はしっかりできるようになっているが、まるで前までの雪菜さんのように落ち込んでいる。何かの闇に取り憑かれているような・・・・・
「ずっと、ずっとピアノを弾いてたら一人になるんだ。まるで海の底へ沈んでいくような・・・・・」
優はゆっくりと語り始めた。
「そんな気持ちでいつも弾いているのに周りの人は僕の苦しさを分かってくれない。
いつも頑張れ、や絶対賞を取りなさいって、そんな軽はずみなことしか言ってくれない・・・・・」
頭を抱えて涙を流しながら訴えている。
「こんなに苦しいの耐えられないよ・・・」
こんなに感情を吐き出す優は初めてだ。
僕なんかが優の気持ちを変えられるなんかわからないけど優しく語りかける。
「確かに、今まで頑張ってきた全部がたった数分で終わる。そんなの怖いし、理不尽だよね。でも、これだけは言えるよ!」
大きな声で、苦しんでいる君に言った。
「優は一人なんかじゃない!」
優の顔が上がる。
「僕が見ている。僕以外にも翔ちゃんや雪菜さんだって見ている。ピアノを弾いている時、孤独を感じたら僕達のことを思い出して。離れているけど、ずっとそばで見ているから!」
僕はまっすぐ優を見て言葉を続ける。
「それに優のピアノは凄いよ! 聞いてるとすごく元気をもらえるし、上手だし。それに弾き終わった後、みんなの歓喜に満ちた拍手を聞いたら優のことを誇らしく思うんだ。あれだけたくさんの人の心を動かすなんてとんでもない力だよ! だから自信持って!」
言い終わった時、優の涙は止まっていた。
「こんな目で暖かく見守ってるよ!」
「フフフ」
変顔をすると笑ってくれた。
「ごめん、祐介。僕のためにいろいろ迷惑かけちゃって・・・・・」
「いいよいいよ!」
「全力をぶつけるよ!」
優は駆け出して控え室に戻っていった。
「祐介・・・・君?」
後ろを振り向くと雪菜さんが立っていた。
「遅いから何をやっているのだろうっと思って・・・・・」
「ああ、ごめんね。ちょっといろいろあって。早く行かないとね!」
僕達も走って大きなホールまで行った。
ホールに入ると、静かなところでもうピアノは始まっていた。
静かに歩いて自分の席まで行く。
「おーい、遅いぞ。何やってたんだ?」
「アハハ、まぁいろいろと」
「そっか、まぁ戻って来て良かったぜ。帰ったのかと思ったぜ!」
彼の冗談に「そんなことしない」と反論する。
五組くらいピアノ演奏者が弾き終わると優の番が来た。
「ああ、えっと西山君・・・次、石川君の番だよ・・・・」
静かに雪菜さんが翔ちゃんを起こす。
始めはあんなに元気だったのにいつも間にか昼寝していた。
「ふ、ああああああ~~~」
背伸びをすると目をパッチリ開けた。
「いやー、すまんな。ついつい、暇で寝てしまっていたよ!」
「はぁー」
僕はため息をついて呆れる。
アナウンスが流れる。
「次は石川優さん。曲、ショパン、エチュード、作品10 第12曲 革命」
ゆっくりと歩いてきて、深い礼をする。
それと同時に拍手が巻き起こる。
さっきあんなことがあったから心配して見ていたけど、いつもの優の顔をしている。
まっすぐピアノだけを見て集中している。
ゆっくりと椅子まで行き、高さを調整する。
そしてピアノに手を置いた。
曲が始まる・・・・
凄まじく綺麗な音色がホールを包んだ。
まだ寝ぼけていた翔ちゃんも目を見開く。
たくさんの人が空気を入れ替えて優のピアノをまっすぐ見ている。
緊迫した空気の中、優はただただピアノを見ていた。
目をつぶって音色を確認したり、強調するところは力一杯に鍵盤を押す。
ほんの数分の間だったが、素晴らしいものを見してもらえた。
演奏が終わった時、客席中から大きな拍手が巻き起こる。今まで聞いた拍手の中で一番大きかった気がする。
僕は立ち上がり、誰よりも大きく拍手した。
全てのコンクールが終わり、広い受付をするところに結果が張り出される。
終わった後、すぐに優を探した。
キョロキョロと辺りを見回していると全てをやり遂げたようにとても新鮮な姿をしていた。
やり切っていい面構えになっている。
「どうだった?」
ゆっくりと僕は聞いた。
「全力を出したよ!」
「そっか・・・・」
悲しむでもなく、同情するでもなく優しく肩を叩いた。
「おっ、優!」
後ろには翔ちゃんと雪菜さんがいた。
力強く翔ちゃんは優に向かって肩を組んだ。
「お前の演奏、最高だったぞ。初めて聞いたけどお前はやっぱり凄いな! これからもまた聞かせてくれよ!」
「う、うん。これからも弾くよ!」
「と、とても感動しました。凄いですね・・・・」
「朝空さんもわざわざ来てくれてありがと!」
みんなに囲まれながら笑っている優はとても楽しそうだった。
結果、優は大賞を受賞した。
先日、翔ちゃんの大会が終わりほっと一息ついていると今度は優のピアノのコンクールがあった。
ここまで連続でイベントが続くとさすがにめんどくさいと思うが、友達を応援するためなら張り切って応援に行く自分がいる。
優はコンクールが近くなって休み時間にずっと楽譜を見ている。それに合わせて手の指を動かしていて、このコンクールに全てをかけるよう練習している。
その姿はとても誇らしい。
ほのぼのとその姿を見ながら翔ちゃんと話す。
「やっぱ応援するには静かに見守る方がいいよな」
「うん、集中している優に話しかけたら逆に怒られてしまうからね・・・・」
「私は話しかけてもらっても嬉しいと思うな。友達と話していると溜まっているストレスも発散できるし」
「・・・・・ああ、えっとなんでここで見ているの?」
サッカーを見に行った四人で話している。
なぜか雪菜さんの席で輪になって集まっていた。
真ん中にいることによって人見知りの雪菜さんは恥ずかしがって俯く。
「うーん、難しいな・・・・」
四人、頭を抱えて悩む。
まだ、完全に友達とは言えないがそれでも、サッカーを観に行ってから二人が翔ちゃんと仲良くなった。
「確か本番って今週の土曜だったよね!」
「えっ! 今週の土曜だったの? ああ、私、予定を作ってしまったから行けないよ。見たかったなー、優君のピアノ」
「ああそうなんだ。残念だね・・・・」
「俺はもちろん大丈夫だ。今週は試合で頑張ったからって休みがもらえたぜ。やっと優のピアノが見に行けるな」
「そっか、それは良かった」
「私は見に行きたいです・・・ タダで美しい音が聞けるなんてとてもいいじゃないですか!」
積極的に雪菜さんが参加しようとした。
珍しいことでみんなが驚いた。
「フフフ、雪菜ちゃんもしかして音楽好き?」
「あっ、いえ。そう言うわけではなくて・・・・・」
なんだかいつもと違う雪菜さんが見れた。
「じゃあ、何かな? もしかして誰かとデートできて嬉しいとか・・・・・」
「ち、違います!」
顔を真っ赤にしながら否定していた。
めっちゃ怒ってるように見える・・・・
結局、優のピアノコンクールには翔ちゃん、雪菜さん、僕の三人が行くこととなった。
清水さんは聞きたかったなと言いながら席へ戻っていった。
それに合わせて僕達も解散した。
コンクール当日
優はいろいろと手続きなどをするため早めに家を出ていた。
そして会場の入り口が今日の集合場所だ。
なぜか早く起きてしまって僕は集合時間の三十分前くらいに来ていた。
早すぎたなと思いながら行ってみると意外にも人だかりができていた。
それでも翔ちゃんと雪菜さんはまだきていなかった。
早く来すぎたからな・・・・
近くのベンチに座った。
まだ開きもしていないのに本当にたくさんの人がいた。
家族連れの人や若い人に年配の方。
ピアノには年齢に関係なく誰でも楽しめるんだなと思う。
しばらく待っていると、翔ちゃんが明るく挨拶して来た。
「おはよう、お前も早いな! ハハハ」
「翔ちゃんこそ!」
翔ちゃんが来たのは集合二十分前だった。
「やっぱ、祐介も早く起きてしまったのか?」
「うん、その通りだよ。心の中でうずうずしてたからかな・・・・」
「フッ、同じだな」
しばらく雑談をしていると五分前に雪菜さんが来た。
その姿を見て二人とも固まって開いた口が塞がらなかった。
「え・・・・・・」
「どうしたの・・・・眼鏡は・・・・」
「ええっと・・・ イメチェンかな・・・」
彼女はいつもつけている眼鏡をとっていた。
眼鏡の時とは違って少し明るくなったように見える。
短い髪にもよく似合っていた。通りかかったら二度見してしまうくらいとても整った容貌だ。それに着ている水色のワンピースともマッチしている。
少し恥じらいながら顔を赤くしている姿も可愛い。
「どうかな・・・・」
「とっ・・・・」
「すごく似合ってるよ!」
「とても似合ってる」と言いたかったが翔ちゃんに先越された。
「ほ、本当ですか? ありがとうございます」
はにかんだ笑顔を向ける。
二人で雪菜さんのイメチェンを褒めながら会場に入った。
ピアノコンクールが始まる五分前。
そんな肝心な時に僕はトイレに行ってしまった。頑張って我慢していたが無理だった。
待っている側も意外に緊張するのかな・・・・・
ってそうじゃない
「あぁぁ、こんな大事な時に何やってんだ!」
自分に怒りながら走ってトイレまで行った。すると優が苦しそうに廊下に置いてあるソファに座っていた。
「えっ! 優、こんなところで何やってるの? 早くしないとコンクール始まるよ! ほらほら」
彼の手を引っ張って控室に連れて行こうとすると、まさかの言葉が告げられた。
「僕、やっぱりコンクールやめたい・・・・」
連れて行こうと必死で気付かなかったが、優の手は震えていた。
そして冷たい。
「どうして、そんなこと言うの? 頑張ってきたんじゃないの?」
気がつくと、優は泣いていた。
緊張しすぎのせいか思うように呼吸ができず苦しんでいた。
目を見開いて驚いたが、どうにか落ち着かせようと静かに背中をさする。
とても苦しんでいるようで何も言わず、落ち着くまでそばにいた。
「フー、ありがと祐介! すこし落ち着いた」
弱々しい小さな声が聞こえる。
「話せるようになった?」
「う、うん・・・・・」
呼吸はしっかりできるようになっているが、まるで前までの雪菜さんのように落ち込んでいる。何かの闇に取り憑かれているような・・・・・
「ずっと、ずっとピアノを弾いてたら一人になるんだ。まるで海の底へ沈んでいくような・・・・・」
優はゆっくりと語り始めた。
「そんな気持ちでいつも弾いているのに周りの人は僕の苦しさを分かってくれない。
いつも頑張れ、や絶対賞を取りなさいって、そんな軽はずみなことしか言ってくれない・・・・・」
頭を抱えて涙を流しながら訴えている。
「こんなに苦しいの耐えられないよ・・・」
こんなに感情を吐き出す優は初めてだ。
僕なんかが優の気持ちを変えられるなんかわからないけど優しく語りかける。
「確かに、今まで頑張ってきた全部がたった数分で終わる。そんなの怖いし、理不尽だよね。でも、これだけは言えるよ!」
大きな声で、苦しんでいる君に言った。
「優は一人なんかじゃない!」
優の顔が上がる。
「僕が見ている。僕以外にも翔ちゃんや雪菜さんだって見ている。ピアノを弾いている時、孤独を感じたら僕達のことを思い出して。離れているけど、ずっとそばで見ているから!」
僕はまっすぐ優を見て言葉を続ける。
「それに優のピアノは凄いよ! 聞いてるとすごく元気をもらえるし、上手だし。それに弾き終わった後、みんなの歓喜に満ちた拍手を聞いたら優のことを誇らしく思うんだ。あれだけたくさんの人の心を動かすなんてとんでもない力だよ! だから自信持って!」
言い終わった時、優の涙は止まっていた。
「こんな目で暖かく見守ってるよ!」
「フフフ」
変顔をすると笑ってくれた。
「ごめん、祐介。僕のためにいろいろ迷惑かけちゃって・・・・・」
「いいよいいよ!」
「全力をぶつけるよ!」
優は駆け出して控え室に戻っていった。
「祐介・・・・君?」
後ろを振り向くと雪菜さんが立っていた。
「遅いから何をやっているのだろうっと思って・・・・・」
「ああ、ごめんね。ちょっといろいろあって。早く行かないとね!」
僕達も走って大きなホールまで行った。
ホールに入ると、静かなところでもうピアノは始まっていた。
静かに歩いて自分の席まで行く。
「おーい、遅いぞ。何やってたんだ?」
「アハハ、まぁいろいろと」
「そっか、まぁ戻って来て良かったぜ。帰ったのかと思ったぜ!」
彼の冗談に「そんなことしない」と反論する。
五組くらいピアノ演奏者が弾き終わると優の番が来た。
「ああ、えっと西山君・・・次、石川君の番だよ・・・・」
静かに雪菜さんが翔ちゃんを起こす。
始めはあんなに元気だったのにいつも間にか昼寝していた。
「ふ、ああああああ~~~」
背伸びをすると目をパッチリ開けた。
「いやー、すまんな。ついつい、暇で寝てしまっていたよ!」
「はぁー」
僕はため息をついて呆れる。
アナウンスが流れる。
「次は石川優さん。曲、ショパン、エチュード、作品10 第12曲 革命」
ゆっくりと歩いてきて、深い礼をする。
それと同時に拍手が巻き起こる。
さっきあんなことがあったから心配して見ていたけど、いつもの優の顔をしている。
まっすぐピアノだけを見て集中している。
ゆっくりと椅子まで行き、高さを調整する。
そしてピアノに手を置いた。
曲が始まる・・・・
凄まじく綺麗な音色がホールを包んだ。
まだ寝ぼけていた翔ちゃんも目を見開く。
たくさんの人が空気を入れ替えて優のピアノをまっすぐ見ている。
緊迫した空気の中、優はただただピアノを見ていた。
目をつぶって音色を確認したり、強調するところは力一杯に鍵盤を押す。
ほんの数分の間だったが、素晴らしいものを見してもらえた。
演奏が終わった時、客席中から大きな拍手が巻き起こる。今まで聞いた拍手の中で一番大きかった気がする。
僕は立ち上がり、誰よりも大きく拍手した。
全てのコンクールが終わり、広い受付をするところに結果が張り出される。
終わった後、すぐに優を探した。
キョロキョロと辺りを見回していると全てをやり遂げたようにとても新鮮な姿をしていた。
やり切っていい面構えになっている。
「どうだった?」
ゆっくりと僕は聞いた。
「全力を出したよ!」
「そっか・・・・」
悲しむでもなく、同情するでもなく優しく肩を叩いた。
「おっ、優!」
後ろには翔ちゃんと雪菜さんがいた。
力強く翔ちゃんは優に向かって肩を組んだ。
「お前の演奏、最高だったぞ。初めて聞いたけどお前はやっぱり凄いな! これからもまた聞かせてくれよ!」
「う、うん。これからも弾くよ!」
「と、とても感動しました。凄いですね・・・・」
「朝空さんもわざわざ来てくれてありがと!」
みんなに囲まれながら笑っている優はとても楽しそうだった。
結果、優は大賞を受賞した。
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