君と二人の自分

ともとも

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遊園地

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「うわぁぁぁぁぁぁ!」
電車に乗っていると大きな観覧車が見えてみんな空いた口が塞がらない。

それ以外にも高いタワーや開園したのか軽い花火も上がっている。

電車が着くとみんな早歩きで遊園地の前まで行った。

そこで二つのグループに分かれてしまった。

「着いた・・・」
「すごいね・・・・・」
「きれい・・・・」
友達が少なくて人見知りである、僕、雪菜さん、優の反応は結構薄い。
静かに遊園地の光景を見ている。

それに対して、友達が多くて明るい清水さんと翔ちゃんは飛び跳ねて喜んでいる。

「おい! お前らみろよあの高い観覧車にジェットコースター! すごいスピードで走ってるぞ。他にもたくさんのアトラクションがあるぞ!」
「ほらほら、みんなもっとテンションあげようよ! 遊園地だよ。こんなところ滅多に来ないじゃん。さぁ早く早く!」

とても僕には眩しい二人が「早く早く」と手招きする。
彼らの声に振り回されるように僕達はできるだけ早く歩いた。

「ふぁぁぁぁ、はぁぁぁ」
遊園地に来ていきなり大きなため息をつく。二人のテンションの高さについていけなくて三人はすぐに疲れた。

「さぁ! まずはあれに乗ろうぜ!」
そう提案して翔ちゃんが指を刺す先にはジェットコースターが建っていた。

「うう」とすこし引き気味だった僕達の腕を翔ちゃんは掴んで力なく僕達はそれに並んだ。

「順番どうする?」
並んで今更考える。
ここに来ているのは五人だから一人余ってしまう。

電車は僕が譲ったから良いけどこれからずっと一人ってのもな・・・・・

と思っていると
「みんなで公平にジャンケンにしよう!」
と清水さんが提案した。

ちょうど3パターンだから二人、二人、一人に分けられる。

良いアイデアだったのでみんな賛成した。

そしてジャンケンの結果ジェットコースターは僕と清水さん、雪菜さんと優、翔ちゃんが一人になった。

ガチャン

音が鳴って柵が開く。
それと同時に十五人くらいの人がジェットコースターに乗車する。

ガヤガヤとたくさんの人が騒ぎ立てている。
そんな中、僕はプルプルと腕を震わしている。
まるで男気がない。

「フフフ、村上君、面白い! めっちゃ震えてるじゃん」
「そそそそ、そりゃ当たり前じゃん。だって怖いんだもん!」
涙目になりながら清水さんに訴えかける。

「アハハ、そっか! もやしみたいにヒョロヒョロだね!」
「そそそそ、そんないじりかたしないでよ!」
ビビりながらも怒り返す。

「それでは、準備はよろしいですか?」
「イェーイ!」
アナウンスが聞こえると同時に乗っている人が叫ぶ。

いきなりのことに、僕はおどおどしてしまう。
こういう時のノリがわからない・・・・・

自分の不甲斐ない姿に落ち込む。

そんな時、ガタッと発進し出した。

場所も一番前で余計に怖い。
しっかりとレバーを持って縮こまる。

「しし、清水さん、怖くないの?」
「ええ、私!?」
いきなり質問したせいですこし驚かれた。

「怖いよ」
何気なく言われて僕は驚く。

「フフフ、村上君。私も小さい頃は弱虫でもっと地味な子だったんだよ。小学校の頃はいつも一人で本を読んでたかな・・・・」
「えっ・・・・」
照れて頬をかきながら自分の過去を話し出した。遊園地に来て興奮しているせいか清水さんはいつもと違う顔をしている。
明るく元気な笑顔ではなくて、少し腰が曲がって弱々しい印象だ。
今とは考えられない姿に目を見開く。

「それでもね、私このままじゃダメだなって思い始めて中学生くらいから明るくなり始めたのかな・・・・  その時から、強くなるために怖いかどうかは試してからにしようって決めたんだ!」
坂を登るところに差しかかり強い風が吹く。
彼女の長い髪は大きく揺れる。
そしてそれをかき上げてまた僕の方を見る。

「村上君、今更だけどありがとうね! 君のおかげで雪菜ちゃんと、とっても仲良くなれた!」
彼女の笑顔にうん、と返事しようとしたが、
ジェットコースターが落ち始めた。

「うわぁぁぁぁ! 来た!」
「え」
恐怖が体中を襲う。

「キャァァァ、アハハハハハ!」
「うわぁぁぁぁぁぁあ! うわぁぁあ! ああ、ぎゃぁぁぁぁ!?」
彼女は手を大きく空に掲げて楽しんでいたが、僕は大粒の涙を流しながら声が枯れるほど絶叫した。

遊園地側からしたら嬉しい反応かもしれないが、この時は恐怖しかなかった。

終わった時、僕は鼻水を垂らしながら泣いていた。
似たもの同士なのか後ろでは腰を抜かして立てない雪菜さんがいた。
おどおどしながら手を前に出している。

終わった後、みんなから僕達のことを笑われた。
優と翔ちゃんに雪菜さんは肩を組んでもらって移動し、僕は「よしよし」と清水さんに慰めてもらった。

三人はしばらく遊んでくると言って、病人のような僕達を残してどこかへ行ってしまった。

僕達は真っ青な顔でベンチに座る。
「ゆ、雪菜さんや~そんなに真っ青な顔をしてどうしたんや~」
「いいい、いえいえ、祐介さんこそ鼻水垂らして・・・・」
軽く冗談を言って笑い合った。
絶叫しすぎて心が正常に戻らない。
しばらく黙って呼吸を整えた。

そしてまた話し出す。
「今日はよかったよ、みんな楽しんでくれて。遊園地で遊ぶのは正解だったね」
「そ、そうだね。みんな楽しそうで嬉しい!」
朝のような気まずさはなくて普通に話せた。

「腰はもう大丈夫? ちゃんと歩けるの?」
「もう私は大丈夫です。そ、それこそ祐介君の鼻水はティッシュで拭かなくたもいいの?」
「うう、そのいじりだけはもうやめてほしいな・・・・・」
「フフフフ!」

休憩しながら、雑談していると病人を置いていったひどい人達が帰ってきた。

「おーい、もう大丈夫か?」
「本当にひどいことするね。僕を置いていくなんて」
「まあまあ!」
「まさか優しいと書いて優っていう名前の人も見捨てるとはね」
すこし煽るように優を攻めたら土下座するような勢いで深く頭を下げた。

「ごめんなさーい!」
ここまで反省してくれるとは思わずすこし楽しくなる。
「おいおい、優をいじめてやるなよ」
「フフフ」

遊園地に来るのが初めての人もいるので、みんな興奮していて変な感じだった。
みんな今日はおかしい。
それでも笑顔が絶えたない幸せな時間だった。

それから、たくさんのアトラクションに乗った。
調子に乗る翔ちゃんと清水さんがコーヒーカップで回転しすぎて吐きそうになったり、
メリーゴーランドに僕と雪菜さんで乗ってまたすこし気まずくなったり、お化け屋敷に入って僕と優が出てくる時には抱き合っていてホモ疑惑が発生したり。

たくさん笑った。

ふとお土産を売っているところへ寄ると、
なんか怪しい接客に遭って人のいい雪菜さんがそれを買ってしまうこともあった。

そんな事件が起きてる時に僕は義人へのお土産を選んでいた。
義人がデートした時にパンのキーホルダーを貰ったからそのお返しに何にしたらいいか悩む。
一人で考えても何も思いつかなかったので、二重人格のことを知っている雪菜さんに相談した。
「うーん、剛、いや、もう一人の祐介君へのプレゼントか・・・・ あれがいんじゃないかな・・・・」
人差し指を向けた先には「漢」と書いてある黒いTシャツがあった。

それを見て、
「ああ、それはいい」
と納得した。乱暴で問題児な、まぁそれは結構昔だけど・・・・それでもあいつにぴったりなTシャツだった。
自分が着ることになるかもしれないけどそこは我慢した。

そろそろ夕方になり空が赤くなる頃、僕達は休憩所で一息ついていた。

「ああ、どうしよう・・・・」
休憩の時も楽しく話していた時に雪菜さんの困った声が聞こえた。

「どうしたの雪菜ちゃん? 何かあった?」
横に座っていた清水さんが心配する。

「ああ、えっと。スマホをどこかで落としちゃったみたい・・・・」
「えっ、あちゃー」
おでこに手を当ててオーバーリアクションを取る。

「どうしたらいいだろう・・・」
男三人で話していたが、横から「スマホを落とした」と聞こえて僕達も相談する。

「一度、落とし物カウンターに行って、聞いてみたらいんじゃないか?」
「うん、それがいいと僕も思う!」
「そうだよね。じゃあ、僕が入場門ら辺まで行ってカウンターの人に聞いてくるよ。四人ともここで待ってて!」
一人で行こうとしたら服の袖を掴まれた。

「あの、私のスマホなので私が行きます」
「いいよ、僕一人で。清水さんともっと楽しんできなよ!」
断って一人で行こうともう一度試みるも、君は着いて行こうとした。

結局二人で行くことになった。

しかしこの時はまだ、この後に起こる悲劇を知る由もなかった・・・・・



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