君と二人の自分

ともとも

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夕日が登る橋の上で・・・・

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学校の誰もいない静かな教室。
授業が終わり、部活や帰宅のために生徒達出て行って教室には僕一人がうつ伏せで机の上に寝ていた。

大きく手を上げて体を伸ばす。
「ああ、もう学校は終わっているのか・・・・」
絶望に支配されていてまだ意識が朦朧としている。

「祐介君・・・・・」
そんな時、横から声が聞こえた。

きょろきょろといろいろな方向に目を動かしながら青ざめた顔をしている君が立っていた。

もう誰も信じることができないほど心が病んでいたので、自然と僕は目線を逸らした。

「あの・・・・  朝は何も話せなくてごめんなさい・・・・・・」
「いや、いいよ別に気にしてないから・・」
初めてあった時のようにお互いが小さな声で話す。

「それと、遊園地でのこともごめんなさい・・・」
「うん、大丈夫。なんとも思ってないから・・・・」

「私が行きたいって言ったばかりにこんなことになってしまって・・・」
「ああ、うん・・・・」
無関心に適当に返す。

「本当にごめんなさい!」

「ごめん、もうやめてくれない? さっきからなんなの? 何? そうやってさぁ、表面では謝っていて、どうせ心の中では最低って思ってるんでしょ。
僕にそういう態度とってあいつらみたいに面白がってんの?」

「そ、そういうのじゃなくて・・・」
「じゃあ何? 僕でもわかるよ。確かに、男女構わずに殴り倒したからさ」

「最低なんて思ってません・・・・   だってあれはもう一人の祐介君が・・・」
「アハハハハ、出たよもう一人の祐介。初めて僕に話しかけたのもそれだったよね。どうせ、もう一人の僕が目的だったんでしょ。もう分かってるよ」
「ち、違います。そんなこと・・・・」
「ああ、もう!」
怒鳴るわけではないが、君にも怒りをぶつけてしまっていた。
そしてだんだんイラついてすこし声が怖くなる。

「どうせ僕はもう一人だよ。今はもう、話さないで。ていうか、関わらないで・・・・・もうほっといてよ!」

すこし最後の言葉だけヒートアップして怒鳴ってしまった。

「あ・・・・ごめん。すこし言いすぎた・・・・・」
「ごめんね・・・・!」
君はその一言だけ言うと駆けて行ってしまった。
一粒の涙が床にポチャッと落ちた気がした。

「はぁー」
僕はやっと一人になれたことで大きなため息をついていた。
この時、やっと心が落ち着けた。
でもなぜか罪悪感だけは消えない。

またうつ伏せになろうとすると「自分ノート」が目に入った。

「ふっ、あいつ、何か書いているかな・・・・・」
自分に呆れるように軽く笑う。

全ての元凶である義人がどんなメッセージを書いたのか気になって、思わず見ようとしてしまう。

体では、義人に対して激しい怒りと憎悪があったが、心の中ではすこしあいつに期待していたのかもしれない。

カサカサに乾いた紙をめくる。

「すまなかった。 
あの時の俺、どうかしてた。
気付いたらおもわず殴ってて男女構わず暴力を振ってしまった。
本当にすいませんでした。」

一応、素直に謝られたが僕の怒りは全然収まらなかった。

「でも、後悔はしていない。」

「はぁ?」
思わず声を出してしまった。
怒りがだんだんと湧いてくる。

「ふざけるな!? 僕に迷惑をかけて、友達にも見捨てられて、どんだけ辛い思いをしてると思ってんだ!」
机を全力で殴って怒りを爆発させる。

「どんだけ、どんだけ苦しい思いをしているか!」
息を荒げながらもう一度机を殴る。
しかし、次の言葉を見て固まる。

「もし、交代しなかったらお前はどうやってたんだ?」

その質問をされて、あの時のことを思い出す。

僕は男三人組に投げ倒されて、何もできなかった。一度、倒されただけで三人の高校生に圧倒されて立つこともできなかった。
たぶん、あのまま義人と交代しなかったら雪菜さんの財布は盗られていた。もしかしたらもっと酷いことをされていたかもしれない・・・・・

そこまで考えると頭を抱えてしまう。

ああ、僕はなんてことをしてしまったんだ。自分は何もできなかったくせに義人と君に怒りをぶつけてしまった。

思い出してみるとさっき話していた時、僕は君の方を一度も見なかった。目を合わせず、ずっと下を向いていた。
いや、見ることができなかったんだろうな。
君を見る勇気が僕にはなかった。
余裕がなかったんだろうな・・・・

どんな顔していたんだろう・・・
考えるだけで胸が苦しくなった。しかもあんなに酷いことを言ってしまった。

頭が真っ白になる・・・

しかしそれを救うようにメッセージはまだ続いていた。

「どうせ、お前のことだから俺以外にも雪菜とかに怒りをぶつけてんじゃねぇのか?」

ドンピシャに当たっていてすこし笑ってしまう。

「俺に、怒りをぶつけるのは別にいい。
まぁすこし悲しくなるけどな(笑笑)
もし、俺の言っている通りになったら謝ってこい。

あの子も繊細なところがあるからな。
あっ、これはあくまで予想な!」

いつも通りの冗談まじりのメッセージを見て安心する。
いつのまにか、怒りや憎悪などの黒い感情は光によって浄化されたように消えていた。

「よし! ここまで見たらもうやることはわかるよな!
覚悟が決まったなら行ってこい!」

義人が後ろから背中を押すように僕はそこまで見ると走っていた。

こけそうになりながらも君に会うために走った。
とても大切な人に応援されながら君のもとへ向かう。
もう僕はこれだけで幸せな気分になっていた。

君と二人の自分。
その関係はとても大切な僕の宝物だった。

下駄箱へ行き、すぐに靴に履き直す。どこにいるかわからない。それでも僕は我武者羅に走る。

まずは校内を探す。よく君と歩いた場所、一度も行ったことがない場所、明るく僕達には眩しいくてすこし苦手だった場所、静かでとても話しやすかった場所。
ありとあらゆるところを探したが君はいない。

そして、校外。
君と初めて出会った橋。
最後、僕はそこだけに狙いを定めて走った。

予想通り、君はいた。真っ赤に染まった夕日を眺めている。
静かに静かに眺めていた。

まだ眼鏡が壊れて、何もしていないからこそ幻想的な姿だ。
すこし湿った夏の温かい風が吹いて君の髪が揺れる。
視界を邪魔する前髪をかき上げてまた景色を眺めている。
パンを一緒にあげた時によくいたハトが空を飛んでいる。
それを見て君は笑った。

夕日が登る橋の上で立っている君はとても輝いている。

心が温かくなった。

ゆっくりと歩きながら近づいた。

どんな顔するんだろう・・・・・・
今さっき、酷いことを言ったからたぶん嫌われただろうな。
それでもこれからも君のそばにいたい。
そう思えば二人でまだちゃんと遊んだことないよな・・・・
君とこれからも話したい。
もっと楽しんで遊びたい。

君と交わした言葉、君と過ごした日々、全てをこの景色から感じる。

ここから始まったんだな・・・・・

フフフ、気まずいな・・・・
それでも、勇気を出して話さないとな。
この思いを君に伝えないと!

歩くスピードをすこし速める。

「ゆ、雪菜さーん!」
さすがに馴れ馴れしいかな・・・
そんな後悔もしながら振り向いてくれるのを待っていたが、聞こえていなかったようだ。

もう一度、呼ぼうとする。

「雪菜・・・・」
途中で言葉が止まってしまった。
「えっ、ちょっ!」

橋から景色を見ていた君は橋の手すりに足をかけていた。
ゆっくりと両足を安全にかけて手すりの上に立つ。
そして両手を広げた。

呆然としていたが体は自然に動いてくれていた。

君は橋から飛び降りようとしている。

「何してるの・・・待って、待って・・・・
待って!」
叫びながら全力で走る。

速く手を・・・手をつかまないと落ちてしまう。
全力で全力で全力で走る。

間に合え間に合え、間に合ってくれぇぇぇ!

体中から汗が出る。真っ青な顔で必死に叫ぶ。

「雪菜さん、待って・・・雪菜!」

クルッポ・・・・

ハトの鳴き声とともに朝空雪菜は飛び降りた。

時間が止まる。

「くっ・・・・・きぃぃ・・・・・」
ぎりぎりのところで手をつかめた。

「はぁはぁはぁはぁ、うぎぃぃ」
雪菜さんの体重に負けて柵からお腹が出る。
踏ん張っていた足も片方が空中に浮く。

「なんで・・・・・どうしてここにいるんですか? 私、あなたを傷つけたのに」
「そ、そんなの関係ない・・・ぐはぁ!・・
柵を掴んで・・・・君を・・・助けないと」

「はっ、離して! 私なんか生きてる意味がない!」
「ご、こめん・・・・さっき、怒鳴ってしまって・・・・怒りに飲み込まれておかしくなっていた。ごめんなさい・・・・君を傷つけてしまった・・・本当は何も僕はできないのに・・・ヤ、ヤバイ・・・ああ!」
両足が地面から離れてしまった。
もう腕力とバランスで支えないといけない。

「あなたまで死んでしまう・・・・」
涙を流しながら訴えていた。

「だから! 一緒に生きよう!」
両手で君の手を握る。そして力を込めてみたがびくともしない。

お願いします・・・・・・・神様
もうこの先、酷いことを言いません。
どんな困難でも虐めでも陰口でも全て受け入れます。
だから、せめて朝空雪菜さんの命だけは助けてください・・・・

全身から汗が垂れる。顔からは溢れた汗は下の川へと落ちていった。
両目を瞑り全力で引き上げる。

「雪菜・・・・・」
小さな叫びを聞いてやっと柵をもってくれた。
それと同時に願いが叶ったかのように力が湧いてくる。

今だ!

「うごぉぉぉぉ! うん、があぁぁぁぁぁ!
ああああぁぁぁぁぁぁ!」
手すりのところまで、やっともってこれた。

よかった、助かった!
安心していると僕の体が前のめりになる。

「えっ・・・・・」

ゆっくりと君の顔が逆さに見えてくる。
あれ、なんで僕落ちそうになってるの?

この状況がどうなっているのか頭が追いつかなかった。

フフフ! 雪菜さん、助かったのになんでそんな必死な顔しているの?
もっと喜ばないと・・・・・

徐々に顔が離れていく。

僕は離れていくが血の気がひいた顔をしている君を安心させるために満面の笑みを向けた。

君はやっぱり美しいな・・・・・

だんだん視界が真っ白になっていく。

ドボン!

大きな水しぶきの音が綺麗な夕焼けの中、鳴り響いた。






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