君と二人の自分

ともとも

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新たな始まり

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正面には見覚えのない天井。
夢の中のように真っ白な空間にいるようだ。
でも横を見ると改めて病院と自覚する。
しっかり窓があって机や棚もある。

「うううあ」
うっすらと目を開ける。鼻には管がつけてありその他にも点滴やら本格的な病院道具が体中についていた。

うわ、これガチのやつだ。

初めての入院にすこし怖くなる。
起きた時は神経がすこし麻痺していたのかどこも痛くなかったが、意識がしっかりすると同時に痛みが増してくる。

体中が痛いな・・・・・

起き上がろうとしたがすこしでも動かすとどこかが痛くなる。

それでも頑張って上半身を起き上がらせる。

入院するというのは大変ということがわかった。
普段やっていた動作がここまでできないとは・・・・・

外を見ると太陽が照っていてとても明るくかった。
そして、さまざまなところにひっついている管のようなものが気持ち悪くて外の景色を集中して見れない。

ほんと気持ち悪いなこの管。

負傷したところを治してもらう身であるが文句がどんどん出てくる。

しばらくぼっとしているとドアが開いた。

バサッ

花束が落ちる音が聞こえる。
入ってきたのは、雪菜さんだった。

「祐介君・・・・・ 祐介君!」
唐突に、飛び付いてきた雪菜さんの抱擁に
「ぐへぇ!」と思わず悲鳴を上げてしまう。

すぐ近くには短く切ってあるショートヘアーでストレートな黒髪が揺れる。
これが正常な時ならとんでもない喜びの声をあげるところだが、その力強い抱擁は傷にちょうど痛み、叫び声になる。

「い、痛いよ! ごめん、ちょっと・・・・
今はそういうのは痛いからぁぁぁ!」

大きな声で叫んでみたが、その言葉は全然、
君の耳に届かない。

そのまま顔を疼くませて、ずっと嘆いていた。
「祐介君祐介君、祐介君! 生きてる、生きててくれた! 祐介君!」
「ああぁぁぁぁぁぁ!? 痛い!」
ジェットコースターから落ちた時と同じくらい大声で絶叫していた。


「ああ、ごめんなさいごめんなさい! 本当にすいません!」
君の気持ちが落ち着くと、何度も何度も頭を下げて僕に謝ってくれた。

「アハハ、痛かったけど大丈夫だよ・・・」
「すいませんすいません!」
許そうとしてもまだ謝り続ける。

どうしたらいいのかな、この状況・・・・

しばらく謝り続けると近くにあるパイプ椅子に座る。

「ごめん、お見舞いに来てもらっていきなりなんだけど、僕って今どんな状態か聞いてたりする・・・・?」

起きて何よりも自分の状態が知りたかった。
目覚めたとしても急にまた倒れて死んでしまうや、違う病気にもかかっていたなど、目覚めてからめちゃくちゃ心配性になっている。

全てが初めてだからこそ、こんだけ心配するのかな・・・・・

「ああ、えっと祐介君の容態だよね・・・・」

そこから、雪菜さんは淡々と事務的に同じトーンで話し始めた。

「祐介君は、さっきまで意識不明の重体だったんです」
「え!」
それを聞いて思わず、すっとんきょうな声を出してしまう。
本当に危なかったんだ。
今、生きていることに命の尊さを感じる。

「ああ、ごめん。話を続けて」
「あの、とても大変な状態なんですけど、お医者さんは目覚めたら、命の危機はないとおっしゃっていました。だから心配しなくても大丈夫です!」
「そっか・・・・ よかった!」
「はい・・・・・」

話が終わると静かになった。
お互いに俯きながら何かを言おうとする。

すこし間ができる。
そして、
「ごめんなさい!」
腰をこくりと曲げてお互いに深く頭を下げた。

顔を上げた時には君はまだ頭を下げ続けていた。
そして頭を上げた時に目を見開いていた。

「ど、どうして裕介君が謝るんですか?」
「えっと・・・・・雪菜さんに酷いことを言ってしまったからかね・・・」
「そんな裕介君のせいじゃありません。あれは自分でやってしまって・・・・・」
首を横に振って否定してくれた。でも君は浮かない顔をしている。

やっぱり、まだ心の中ではすこし怯えているのかな・・・・・
そう思わせるように縮こまっていた。

暗いトーンで君は話し始める。
「いくら許してもらえても、自分を許すことはできません!」
「ど、どうして?」
「だって、祐介君は私の恩人なんですよ!」
泣きそうな勢いで大きな声が響く。

「あ、あえ・・・・えっと・・・・」
「恩人」というとても嬉しい言葉を言ってもらって頭の中がパニックになる。

挙動不審のようにキョロキョロと体を動かして、顔が赤くなる。

それでも、君が真面目に話す姿を見ると僕も冷静になった。

「私は剛君の償いのためにずっと一人で過ごしていて、これからも一人でずっと寂しく暮らすと思ってました。たぶんそれが私への罰だろうと・・・・
そんな真っ暗な人生の中、祐介君は一筋の光のように助けてくれました。
私に友達を作ってくれて、いつもそばにいてくれた。
どこへ行く? 
と言って笑顔を向けてくれる。幸せになれないと思っていた私に数え切れないくらいの喜びと楽しみをくれました。
それによって私の心は救われたんです!」

またすこし俯いて、弱々しい瞳を僕に向けながら話し続ける。

「それなのに、それなのに私は祐介君の生活を壊してしまった。
ジェットコースターの後にスマホを落とさなければ、遊園地に行きたいなんて言わなければ、こんなことにはならなかったのに・・・・・」

うっすらと瞳に滴がたまる。

「全部、全部私のせいなんです!
祐介君の人生を最悪にしてしまったし、剛君も亡くなってしまった。もう、私には生きる意味がない。
生きる価値がないんです! 
どうして、どうして祐介君が私のせいで苦しまないといけなかったんですか。私は最低な人間です!」

悲しみながら一頻り言い終わると、息を荒げた呼吸をしていた。
そして手で涙を拭くと無理に笑顔を作った。

「ご、ごめんなさい。変なこと言ってしまって・・・・・   もう、裕介君と関わるのは今日で最後にします・・・・・」

僕はまっすぐ君を見て話を聞いていた。
話終わると軽く会釈をした。

君の姿を見ていると心が苦しくなる。

僕以上に大変な人生を送っていることや、ずっと一人で生きてきたこと。想像するだけでも悲しい。

どうしたらいいかと考えながら僕も話し出す。
「えっと・・・・そんな一人で抱え込まなくってもいいと思うよ・・・」
「なんでそんな優しく接することができるんですか? 
祐介君に酷いことをしてしまったのに・・・・」

僕の反応にすこし荒げた声を出す。

「全部、自分のせいとか言っているけど遊園地のことは僕がどこかへ行かない? って誘ったから僕のせい。
それに怪我をしたことも後悔しているようだけどさ、僕は今、元気に生きているじゃん?」
「それは、そうですが・・・・・」

すこし君は戸惑っていた。

「僕、夢の中で君のことを考えていたんだ。
だから雪菜さんも僕の恩人だよ! 
君がいなかったら僕は今頃たぶん死んでいた。
ありがとう!」

「そんな、全然私は何もしていないのに恩人だなんて・・・・」
暗い顔がすこし晴れて頬を赤く染めていた。

「そうやって自分のこと掘り下げているけど君は僕の大切な人だよ。だから関わらないなんて言わないで欲しい」
「でも、私といると祐介君は不幸になった」
「うん、そうだね。でもここまで不幸になったらもう続かないと思うな」
「不幸はまだ続くと思います。変な事件に巻き込まれて冤罪になったり、借金をしたり・・・・」

あまりに君がネガティヴすぎて思わず吹き出してしまった。

すこしいつもの会話のようになった。

体が痛かったが僕は力を出してベッドから床へ立ち上がる。
「ダメです。安静にしないと!」
止めようとしてくれたが、僕の無茶に納得して、立つために手を握ってくれた。
「大丈夫?」と安心する声をかけながら補助してくれる。

「よいしよっと!」
しっかり君の手を支えにして立つ。

「なによりも君が無事でよかった!」
両手を君の手に乗せて笑顔で言う。
するとハッと君は顔を上げた。

「今まで助けてくれて、ありがとう!」
暗く俯いていた君の瞳には光が入ったように輝く。

「こ、こちらこそありがとうございます!」
いきなりのことで戸惑いながらも反応してくれる。

「それでも、やっぱり私といるのは・・・」
僕と目線を外して床を見る。

「僕ってさ、もう友達がいないじゃん? だからさ、もし罪悪感とかが残っているなら、関わらないんじゃなくて僕と一緒にいて欲しいな!」
「私なんかといるともっと不幸になるかもしれませんよ?」
「もう僕は最大の不幸を味わったからこれ以上のなんて想像できないよ。どんなことがあっても君となら乗り越えられると思う」
「私の心は弱いです。すぐに落ち込んでしまう・・・・ 」
「なんでも話を聞くよ! それでスッキリするならいいけど、もしそれでもダメならまた一緒にどこかへ行こう!」
「でも・・・・・」

また床に目を落とす。

そんな君を見て、僕はある覚悟を決めた。
君の手を強く握る

明るい日差し、そよ風が窓から入ってくる。

「僕は君が、朝空雪菜が好きだ!」

シンプルにまっすぐ向いて告白した。

気づくと君は目から溢れる涙を流していた。
握った手を離さず、君はそのまま倒れるように僕に抱きついてきた。

すこし痛い。それでも君の抱擁ですこし和らいでいく。

「ぐすん・・・・・祐介君、祐介君・・・・もう私から離れないで・・・」

子どものように泣きじゃくっていた。
僕は君のストレートに伸びている髪を優しく撫でる。

「もう絶対、に離れない! 君のそばにずっといる!」
「うん!」
君の温かい滴が僕の胸を濡らす。
すこしこそばい感覚があった。
でも君の体で僕の冷えた体を温まっていくのを感じた。

「一人にしないで、もうこんな大怪我をして心配させないで!」
「アハハハ、それはこれからの君次第かな・・・」
はにかんだ笑顔でそれに答える。

「もうしません! だから、だから!」
「よかったよかった。これからもずっとずっとよろしくね!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
君は今までずっと溜めていた涙を全部出し切るように大声で泣いた。








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