騎士調教~淫獄に堕ちた無垢の成れ果て~

ビビアン

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12・犬扱い

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リオはそれからしばらく、乳首を重点的に調教されることになった。
毎日洗濯ばさみで痛めつけられ、腫れあがったところで例の薬を塗りたくられる。そして、ペニスに関してそうであったように、乳首もまたアーネストの許可なしに触れることは禁止された。

これは自慰禁止の何倍も辛かった。あの薬は強力で、一度塗ったら綺麗に拭きとるまでずっと強烈な痒みが続く。触るな、と命じられた直後にアーネストの目の前で掻きむしってしまい、リオは久しぶりに尻が真っ赤になるまでパドルで打たれ、常に全身を拘束される羽目になった。
拘束自体は様々で、分娩台を改造したという性交用の椅子に縛り付けられることもあれば、ベッドの上で大の字になって両手両足をそれぞれベッド脚に繋がれることもある。アーネストは人に恥辱を与えながら自由を完全に奪う方法をたくさん知っていた。
その中でもリオが特に辛いのは、宙吊りだった。

「う……うぅ……」

身体中に黒い革ベルトを何本も巻かれ、それが複雑に連結しあって、リオの身体が海老反りになるように固定する。その状態で天井から吊るされて放置されるのだ。
うまいことベルトに体重が分散するため、どこか特定の部位が痛んだり血流が止まったりすることはない。だが、身動きが取れないまま宙に浮いているというのは、時が経てば経つほど肉体的な不安感に加えて精神的な苦痛が増大していく。

『何もできない』という心細さ。

胸や股間を突き出す恥ずかしさ。

特に乳首は、日毎に膨れ上がり、感度を増していった。乳輪もぷっくりと膨れ、まるで大人になりかけの少女のようになってしまっている。どんどん変わっていく自分の胸から目を背けたくても、頭がおかしくなりそうなほどの強烈な痒みを与えられているので、意識の外に追い出すことはできない。むしろここ最近のリオはずっと乳首のことばかり考えている。

「……熱い……くるしい……」

宙吊りにされているリオの真下には、触手たちが絨毯のように広がって蠢いている。万が一落下したときのための安全措置らしいが、ぬらぬらと蠢く無数の軟体が視界いっぱいに広がっていると、リオの中で少しずつ正気が失われていく。
無論、下半身にもいつも通り拡張触手が潜り込んでいて、緩やかな挿入運動を繰り返していた。

こんな状態で、リオは一晩放置されていた。

眠るなとは言われていないが、こんな状況では一睡だってできない。朦朧とした意識のほとんどを乳首の痒みが占め、残る意識は犯され続ける尻穴の方に持っていかれる。
リオは、自分がただ性的快楽と苦痛を感じるだけの、乳首と穴だけの存在になってしまったような気がした。

「……アーネスト」

どろどろにとけた顔で、ふと、調教者の名を口にする。
アーネストが来れば、この地獄から解放される。拘束を解かれ、いくつかの指示に従えば、ご褒美として乳首を弄ることが許される。アーネストの機嫌が良ければ――否、リオの出来が良ければ、ペニスだって触らせてもらえる。そうすれば、この身体はとても楽になる。

けれど、すべてはアーネストが来てから始まるのだ。
窓一つなく時間の流れがわかりづらい地下牢で、リオは苦痛に耐えながらアーネストを待つ。

この日、アーネストの来訪は明らかにいつもより遅かった。待てど暮らせど、あの扉が開いて黒衣の魔術師が姿を現すことがない。
宙吊りになったリオの中で、じわじわとした焦りが湧いてきた。

(……なぜ、来ない)

身じろぎすれば、拘束具全体がぎしりと鳴った。
少しずつでもいい。動いていれば、いつかは拘束具が外れるなり宙吊りにしている鎖が切れるなりして、床に落ちることができるだろうか。そしたら、床に乳首をこすりつけて痒みをとることができる。

半ば以上正気を失った頭に、希望の光のようなものが浮かんだ。海老反り状態で、ぎしぎしと拘束具を鳴らし、リオは無意味な抵抗を開始する。

だが、頑丈な拘束具や鎖が外れることはない。それに気付いたリオは、泣きそうな顔でがっくりとうなだれた。

(……助けて)

脳裏に浮かべるのは、大好きな異母兄たちの顔。
しかし、いつの間にか、記憶の中の彼らの細やかな顔立ちや輪郭はぼやけていた。名前は辛うじて思い出せるが、どの兄がどんな業績を立てた王子なのか、リオにどのような贈り物をくれて可愛がってくれた男なのかが判然としない。
ただ、『かつて自分を溺愛してくれた人たち』『きっとこの苦境を救ってくれる希望』という概念として、リオの心の大切な場所を占めていた。

(……兄上、さま……)


******


ようやく地下室の扉が開いた時、リオは半ば意識を失っていた。

「……ぐちゃぐちゃだな」

アーネストが呆れたように評してきて、それで初めてリオは自分が泣いていたのだとわかった。道理で視界が歪んでいると思った。

「あ……アーネスト」

「言いつけは守れたようだな。まあ、その状態じゃ、指一本動かせないだろうが」

「降ろしてくれ……降ろして、ください……。乳首が、おっぱいのさきっぽがじんじんして、ずきずきしてて、疼いて疼いて苦しいんです……」

「眠れたか?」

「……一睡も」

「眠りたいか」

リオは頷いたが、身体が欲するのは眠りだけではない。乳首の痒み、持続的に拡張されつづける尻、中途半端に勃って熱を帯びているペニス。
身体のありとあらゆるところが疼いて、頭がおかしくなりそうだった。

「――素直になって良いことだ」

淡々とした口調で呟いたアーネストが、手ずからリオの拘束を解いて床におろした。床に広がっていた触手たちは波のように退いていき、リオの尻から抜けた拡張触手がそれに合流して一つに融合した。
一方、全身の拘束具をはずされ全裸に戻ったリオは、乳首に伸びそうになる手を押さえ、アーネストの足元にうずくまった。
ここで勝手に動いては、また酷い目に遭わされる。とにかく『御褒美』を得るために、何か命令を貰わないといけない。

「……わたしは、今日は、何をすればいい?」

掠れた声で言って、アーネストを見上げた。闇色の髪、血色の瞳。冷酷な魔術師が熱を帯びない瞳でどろどろに汚れた元騎士を見下ろしてくる。

(ああ……早く、命令を)

リオは震える。身体の自由がもどり、後孔がぽっかりとあいた分、よりいっそう乳首を意識してしまうのだ。
このままでは、アーネストの目の前で乳首を弄るという、現時点では最大級の罪を犯してしまう。手が勝手に動かないように、指先に触れたものを夢中で掴んでぎゅっと握りしめた。それは、アーネストの服の裾だった。

そんなリオの様子をしばらく見ていた後、アーネストはようやく口を開いた。

「――犬だ」

リオは眉を顰めた。

「……犬?」

「今日一日のお前は人間ではない。犬だ。よく飼いならされた、大型の愛玩犬。犬がどのような生態なのかは、かつて何頭も飼っていたからわかるだろう?」

リオの脳裏に、異母兄たちから贈られた数々の高級犬の姿が浮かんだ。なつかしさで心がいっぱいになった。
そして、極度の疲労と焦らしで融解した頭は、楽になりたい一心で、アーネストの言葉を素直に受け入れてしまった。

「……わかります」

「犬が人間の言葉を喋るか?」

リオは唇を噛み、俯いた。屈辱が込み上げたが、多種多様な負荷がかかっている今のリオには、打ち震える程度の余裕すら残っていなかった。

「――わん」

「おすわり」

アーネストが淡々と告げる。リオはすぐに従った。蹲踞の姿勢をとり、両手は身体の前で床につける。
するとアーネストもしゃがみこみ、右手をすっと差し出した。

「お手」

アーネストの手に、軽く握った右手を乗せる。

「おかわり」

右手をひっこめ、左手を同じように乗せる。アーネストの手は大きくて温かい。

「伏せ」

リオは床に這いつくばった。いつもなら腰を高く掲げなければならないが、犬はそんなことはしない。ぺたりと床に伏せると、乳首の先端が床に届いた。このまま胸を床にこすりつけたい衝動に頭を持っていかれそうになったが、理性を総動員させて耐える。

「ちんちん」

一瞬だけためらい、従った。蹲踞の姿勢を取り、背筋を伸ばした。両手は軽く握って肩の高さへ。手首をくいっと曲げれば、より犬らしくなる。基本的な芸を一通り仕込まれた上質な飼い犬に。

「もっと背中を反らせろ」

言われた通りにすると、痛々しく腫れあがった胸の先端を突き出す形になる。さすがに羞恥心が苦痛を上回りはじめて、リオは顔を真っ赤にした。
次の指示はなく、しばらくその姿勢のまま観察された。胸に、股間に、アーネストの視線が突き刺さる。

やがて、アーネストがすっと両手を伸ばし、リオの乳首をつまんだ。

「あぁっ」

「鳴き方」

「わ……わんっ」

「よろしい。……順調に肥大していっているな。当初の倍以上の大きさになった。乳輪も良く膨れている」

ぐりぐりと乳首を捏ねられる。一晩中待ち望んでいた刺激に、リオは思わず人間の言葉で喘ぎそうになった。だが、喉元まで出て来た言葉を飲み込んで、犬の言葉を出しなおす。

「わ、わん。わん」

「気持ちいいか」

「わん」

「だろうな。……触られて勃起したぞ、お前」

リオのペニスが上を向き、透明な涙を流していた。
極限状態までおいつめられ、焦らされて、ようやく救われる。リオの身体はそれを『喜ばしいこと』と認識し、連動して身体の他の部位も『喜ばしいこと』に対する反応を示したのだ。
ペニスは勃起し、肛門が緩む。刺激されていないはずの前立腺すらも甘く疼いた。

アーネストはしばらくリオの乳首を捏ねた後、今度は掌を使って胸全体を揉んだ。薄っぺらい男の胸だ。女のような柔らかい厚みもなければ、鍛え上げた大胸筋もない。かつては多少あったのだが。

「……豊胸は保留だな。さすがに好みがわかれる」

「わん、わん、わん……!」

「急かすな。お前の望みくらいわかっているよ。……それにしても鳴き方がへたくそだなぁ」

呆れたように言ったアーネストだったが、鳴き方の稚拙さを咎めるつもりはないようで、鞭の代わりに乾いた布を懐から取り出した。
短い詠唱と、微かな光。リオの目の前で、乾いた布が蒸気を孕み、温かそうな湯気を昇らせる。アーネストはそれでリオの胸部に付いた塗り薬を丁寧に拭った。
リオの中で、根底に沁みついた魔術への嫌悪感が一瞬だけ頭をもたげるが、痒みが引いていく心地よさに嫌な感情はすぐさま霧散した。

「よくやった、リオ」

淡々としているが温かい誉め言葉。アーネストの手がリオの頭を撫でる。
リオは目を細めてその手を受け入れた。何事もなく終わった安堵感で、ちんちんのポーズが崩れそうになる。

「――わん」

「褒美だ」

待ち望んだ言葉。リオはぱっと顔を明るくするが、続くアーネストの言葉は予想外のものだった。

「散歩に連れて行ってやる」
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