耳から溶かして、声で愛して

えつこ

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5話

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 一週間後、俺は都内のホテルに来ていた。森田に誘われたオールナイトパーティーは断り、ホテルに来ている理由は一つ。犬飼に会えるからだった。
 メールには、特別イベントに当選したこと、会員の中から抽選で選ばれたこと、犬飼に会えることが書かれていた。
 怪しすぎる、と言うのが最初の印象だった。ネットで検索しても、イベントのことは引っかからない。他言無用の可能性が高い。いわゆるオフパコのようなイベントに、犯罪の匂いを感じなくもなかったが、好奇心が勝った。
 日時はちょうど森田に誘われたパーティーと同じで、俺は二つを天秤にかけた。しかし、すでに答えは決まっていたようなものだった。


 ビジネスホテルより、値段が少し高そうなホテルだった。清潔できらびやかなホテル、その受付で、俺は「301のタナカ」と名乗り、ルームキーを受け取り、部屋へと向かう。タナカという偽名にありがちな名前に、さらに怪しさが募るが、全ては犬飼の指示だった。
 服装の指示はなかったため、いつも通りの服装を選んだ。Tシャツとチノパンというシンプルなものだ。
 部屋は至ってシンプルな内装で、特段変わった様子はない。どうしてもダブルベッドに視線が引きつけられるので、意識的に目を逸らした。
 備え付けの丸テーブルに、何かが置いてあることに気づく。近づいて確認すると、一枚の紙と黒のアイマスクだった。紙には当選を祝うメッセージと、もうすぐ犬飼が来るからアイマスクをして待っておくように、と書いてあった。
「怪しすぎるだろ……」
 思わず呟いてしまう。拘束されてるわけでも、見張られているわけでもない。今から帰ることもできるが、俺が迷ったのは一瞬だった。
 カバンを椅子に置き、ベッドに腰掛け、アイマスクをつけた。視界は一気に暗くなる。速くなる鼓動を落ち着けるように、深呼吸して待つ。どれくらい経ったかわからないが、ドアが開く音がした。俺は驚き、肩が揺れる。
「そのまま、座っていて」
 聞き慣れた犬飼の声が、直接鼓膜を揺らした。俺は思わず息を飲む。
「こんばんは」
 犬飼が挨拶してくれたが、俺は緊張でうまく返せず、もにょもにょと口籠っただけだった。
「緊張してる?」
 俺は頷いた。犬飼の声は、音声で聞くよりも何倍も心地よく、甘く、優しい。犬飼が同じ部屋にいるという現実に、じわりと頬が熱くなり、鼓動が跳ねる。
「大丈夫、リラックスして」
犬飼の気配が近づく。今アイマスクを外せば、犬飼の顔がわかる。興味がなかったわけではないが、俺は手を膝の上に置いて、じっとしていた。
 ベッドが右側に少し沈む。隣に犬飼が座ったのだろう。俺は犬飼の次の言葉を待つしかない。
 このイベントで何をするかは知らされていないが、予測はできた。ホテルまで来て、話をして終わり、なわけがない。そして、俺は期待してしまっている。
「名前は?何て呼べばいい?」
 想像より近くで声がし、さらに耳に吐息があたり、俺は「んっ」と声を漏らしてしまう。耳からジワリと熱が広がり、首筋から全身へと一気に伝わった。反射的に身体が興奮する。
「千寿……」
 俺は名前を言うので精一杯だった。速くなる鼓動を落ち着けようと、ゆっくりと深呼吸する。
「じゃあ、千寿、ベッドに寝転んで」
 やっぱりオフパコじゃないか、という気持ちと、期待する気持ちが心の中で相反する。もしかしたら、このまま殺されて、金を奪われるかもしれないと突飛な考えも思いついた。犬飼は黙ったままだ。俺は心の天秤は、揺れ続け、ついに期待の方に完全に傾いた。俺はサンダルを脱ぎ、ベッドに寝転ぶ。ふぅと大きく息を吐き、柔らかいベッドに身体を沈め、目を閉じた。
「俺の声だけ聞いて」
 犬飼のゆっくりとした低い声が、直接鼓膜を震わせる。それだけで、背筋がぞくりとして、俺は熱い息を吐いた。
「ゆっくり、深呼吸して……、そう……、声に集中して……」
いつも聞いている音声のように、犬飼は俺に囁く。俺は指示通りに深い呼吸を続けて、身体の力を抜く。が、どうしても犬飼が近くにいることを意識してしまう。視界が遮られた状態で、犬飼の気配を探るが、わかるはずがない。
「こら、集中できてないよ」
 軽い口調で犬飼に叱られ、俺は「ごめんなさい」と小さく謝った。
「大丈夫、リラックスして、深呼吸……。身体の力を抜いて、大きく……ゆっくり……、吸って、吐いて ……」
 俺は声に集中して、深呼吸を繰り返す。犬飼の声は心地よく、身体に染み入る。
「その調子……、だんだん身体が熱くなってきて……」
 犬飼の声で身体がほぐされ、徐々に身体が温かく、さらに熱くなってくる。
「ね、千寿は俺の声だけでイケるの?」
 問われて、俺は首を横に振る。いつもオナニーをしながら聞いているので、声だけで達したことはなかった。
「じゃあ、試してみる?」



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