家に帰ると推しがいます。

2.邂逅

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「あーー……」

　総司は無意味に声を出す。幸い車内には総司一人しかいないため、体裁を保つ必要はない。

（無理だ……。もうイオくんに会えない……？信じられない。こんなことなら、もっと感謝を伝えておけばよかった。もっとお金を使っておけばよかった。俺はイオくんき何もできない。何も返せてない……。俺はイオくんに救われたのに……）

感じるのは後悔ばかりだ。

　ふいに、手の中でスマホが震えた。のそのそと画面を確認すると、七海からリプが飛んできていた。

「生きてますか？大丈夫ですか？」

　七海も辛いだろうに、気遣ってくれることが身に沁みた。

「生きてます。無理です」

　総司は正直に返信した。さすがに取り繕う元気はなかった。
　しばらく放心状態だった総司だが、はたと我に帰る。仕事をしなければいけない。アポイントを取っているため、遅刻するわけにはいかなかった。
　総司は社畜根性を発揮して、車から降り、クリニックの建物へと向かった。




　通い慣れた営業先だった。地域に根付いた個人経営のクリニックで、親から子、またその子へと代々受け継がれている。患者は老若男女問わずで、在宅医療にも力を入れていた。

「なるほど、そういう違いがあるのか」

　医院長である五十代の男性は、総司の説明に大きく頷いた。他社製品との違いが知りたいと依頼があったため、総司は資料を用意してきたのだ。

「君の説明はわかりやすくて助かるよ」

　笑顔の医院長に、総司も笑顔を作る。頬が引き攣るのを感じて、うまく笑えている自信がなかった。

「君は優秀だし、しっかりしてるし、うちの息子にも見習わせたいよ」
「息子さんも順調じゃないですか」

　確か、医学部に進学した息子がいたはずだ。総司は以前の会話を思い出す。

「長男はいいんだけどね。次男は好きなことばかりして、遊んでるよ」

　どうやら次男の出来は良くないようだ。その後に続いた次男の愚痴を、総司は上の空で聞いていた。

「ありがとう、また頼むよ」
「はい、こちらこそ、お時間いただきありがとうございました」

　総司はお礼を言い、速やかにクリニックを後にした。
　いつもならアポなしで得意先を回るが、そんなに気分にはなれなかった。会社に戻り、無心で報告書を書き、帰路に着く。
　這う這うの体で、部屋にたどり着いた総司は、玄関に倒れ込んだ。静かな部屋に帰ってくると、寂しさが一気に襲いかかる。

（もうイオくんに会えないなんて……）

　じわりと涙が溢れて、視界がぼやける。胸が苦しく、頭が重い。寂しい。辛い。悲しい。総司の内側では負の感情が湧きあがり続ける。
　しばらく倒れこんでいた総司は、大きくため息をついた。このままここで倒れているわけにはいかないとはわかっている。気晴らしでもしないと、明日から生きていける気がしない。しかし、最近はもっぱらTwinMeteorに没頭していたため、気分転換に何をすればいいかわからなかった。

『とりあえず飲んで、楽しくなって、忘れるのが一番！』

　会社の先輩や同僚は事あるごとにそう言っていたことを思い出す。総司は家で飲むことは少なく、飲むならもっぱら外で飲むタイプだ。家に酒のストックはない。

「コンビニ行こう……」

　今はそれしか縋るものが思いつかない。総司はゆっくりと起き上がり、財布とスマホを持ち、コンビニへと向かった。