家に帰ると推しがいます。

えつこ

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3.理由

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(だって、一番最初に思い浮かんだのが、総司さんだったから……)

 マネージャーから、ミナミの契約違反の話やTwin Meteor解散のことを聞いたとき、イオは真っ先にファンのことを、特段総司のことを思い出したのだ。
 イオの記憶では、いつだって総司は真摯で、いつも全力でイオを応援していた。アイドルのイオとしては、ありがたい存在だったし、人として総司に支えられていたのは事実だ。
 そんな総司に、一晩の宿をねだるのは、気が引ける。今までしてきてもらったことを思えば、イオは自分の行動が軽々しく感じた。

(……やっぱり帰ろう)

 イオは決断して、立ちあがろうと腰を上げたところで、「イオくん」と呼び止められる。真剣な顔つきの総司に、イオは思わず正座をした。

「俺に手伝えることがあれば言って。イオくんの頼みなら、何でも大丈夫だから」

 総司の申し出に、イオは目を見開く。

「っ、なんで……」

(なんで、そんなに俺に優しいんですか?)

 イオは質問を飲み込む。その答えは、イオがアイドルであり、総司の推しだからで、そんなこと自明だとイオは自嘲した。正座した膝の上で、イオは手をぎゅっと握りしめた。

(どうせ、俺がアイドルじゃなくなったら、この人は離れて行くんだ……)

 イオの胸中には諦念が浮かんだ。総司の優しい表情に、罪悪感がないわけではないが、仕方ないという気持ちの方が大きくなる。

「一晩だけ泊めてもらってもいいですか……?」

 総司の表情を伺いながら、イオは尋ねた。総司は優しい表情で固まったままだった。イオは断られてはたまらないと、慌てて「全然、廊下でも玄関でもいいので!」と付け加える。

「あ!え!うん!もちろん!もちろん大丈夫!」

 総司は数秒後に、弾かれたように反応した。総司の心の中の葛藤をイオはもちろん知る由はないが、大いに荒れていた。なんせ推しが部屋に来ただけでなく、泊まらせて欲しいと言ってきたのだ。

「なんだったら、俺が出て行くから!そう、そうだね、俺が出て行くから、イオくんはゆっくりくつろいで!」
「え、そんな……!」

 突然、総司が立ちあがり、出て行こうとしたため、イオは引き止めようとする。しかし、慣れない正座に、足がもつれてしまう。バランスを崩すように、イオは総司に縋り付いた。

「あ、わっ」
「え、ちょっ、うわっ」

 声を出したのは、イオが先だった。それに総司の声が重なる。二人はなすすべもなく、どたどたと音をさせ、リビングの真ん中に倒れ込んだ。総司が仰向けになり、イオが上に乗り掛かるような体勢になる。
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