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4.同棲
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しおりを挟む(正直、惹かれてる)
元々イオの造形を愛でていたため、見た目は申し分ない。それに家事はできて、気を配ることができる。総司にとって、百点満点の一億点だ。
(こんな感情って、推しに向ける感情じゃないよな……。でも、イオくんだって悪い。なんか距離近いし、薄着でうろうろしてるし、こんな俺に優しいし……)
半ば八つ当たりだが、それには理由があった。
イオの部屋着は、薄手の半袖と膝上丈のズボンというラフな格好だからだ。 初めてその部屋着を見た総司は、思わず視線がくぎ付けになった。
(イオくんは細身だからなんでも似合っちゃうんだ……、じゃなくて、腕と足が見えすぎてる!!肌の露出が多い!)
TwinMeteorのステージ衣装は、きっちりと着込まれたものが多く、露出したとしても、前腕や足首までだった。それ以上を見たいという気持ちは、当時の総司は微塵も抱かなかった。しかし、目の前に晒されれば、気持ちは揺らぐ。
イオは総司の気持ちなど知らずに、その格好のまま、部屋の中をうろうろした後、リビングのローテーブルの前に座った。それは総司から、人ひとりぶん離れた距離だ。
惜しみなく晒されたイオの腕と足。そして、白く、艶やかで、きめ細かい肌が、総司の視界に入ってくる。総司はテレビでニュースを見ていたが、意識は完全にイオに向いていた。イオが足を動かすと、ちらりと太ももが見え、総司の鼓動はどっと跳ねた。
(うわ、見ちゃだめだ……)
唐突に推しの素肌を見せられ、総司の顔はかぁっと熱くなる。
総司は、少し座る位置をずらし、イオから距離を取る。そして、ただ心頭滅却するために、テレビ画面を見つめていた。
もっと警戒心を持って欲しいが、それを伝えると、総司がイオをそういう目で見ていると言っているようなものだ。イオには平穏で安全に日々を暮らして欲しい。総司はただひたすらに我慢するのみだ。
(俺が我慢すれば済むんだけど、でも……。今朝だって……)
総司はため息を吐いた。
今朝、総司が出勤する時、玄関で「総司さん」と呼び止められた。深夜から早朝までバイトをしていたイオは、今から眠ることもあって、眠そうな顔をしていた。
「ネクタイ、歪んでます」
「そう?あとで、結び直すよ」
「それなら、俺が……」
イオは総司の対面に移動する。玄関で二人向かい合う体勢になった。イオが総司に近づき、その細い指がネクタイに絡まる。距離の近さに、総司は思わず後退する。
「もう、動かないでくださいよ」
「っ、ごめん」
イオの拗ねたような上目遣いに、総司は頬がゆるむ。そして、イオが慣れた手つきでネクタイを結び直すのを見下ろしていた。
(なんだ、この幸せな時間……!!推しにネクタイを結んでもらって……?!距離が近い!イオくんのつむじが近い!)
ハンズアップをするに至らなかったが、総司は心の中で降参していた。
「はい、できました」
ぽんっと軽く総司の胸あたりを叩き、イオは満足げな笑みを見せた。眠そうで、いつもよりぽやんとした表情が滲む笑みに、総司は胸を撃ち抜かれる。
(か、かわいすぎる~~!!こんな無防備な表情は反則だ!!)
「ありがとう」
総司はそれだけ言うのが精一杯だった。にやける頬を制御するのが難しく、とにかく早くこの空間から脱したくて、急いで靴を履く。
「いってらっしゃい」
イオの声を無視するわけにはいかず、軽く振り返り「うん、いってきます」とだけ残す。
(新婚ならキスしてる流れだ……)
不毛で疚しい妄想をすぐにシャットダウンした総司は、煩悩を振り払うように、最寄り駅までダッシュしたのだった。
「はぁ……」
総司の口から、大きなため息が溢れた。先ほどからため息ばかり吐いている。
(イオくんは全然悪くない。悪いのは俺だ。あの部屋から出ていって、山に修行にでも行こうか……)
総司が修行を検討していると「永田、電話」と遠くから声が飛んでくる。聞き慣れた上司の声に反射的に「はい」と返事をして、急いでソファから身体を起こす。立ち上がると、思考を仕事へと切り替えた。
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