家に帰ると推しがいます。

5.変化

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　TwinMeteorが解散してからは、歌やダンスのレッスン、ライブや特典会もなく、SNSの更新を意識することもない。イオにとってアイドルであることは、自らを肯定される実感を得られると同時に、頑張らなければならないというプレッシャーもあった。そこから解放されたことで、ストレスは軽減した。
　それに、総司はミナミとは違い、家事に協力的であり、積極的に家事に参加してくれる。残念ながら戦力にはならないことが多いが、手伝うという気持ちがあるだけで、イオは嬉しかった。
　さらに、総司はイオに優しかった。挙動が変なときは多々あるが、それ以外は常識人で、至極普通のサラリーマンだ。ただ、イオが近づくと総司は逃げるように離れていくし、あからさまに慌てる。それがおもしろくて、イオはたまに揶揄うように総司に近づくこともあった。一種の戯れだ。なんならアイドルをやっていた時のほうが、接触が多いほどだ。
　しかし、イオには、ずっと不安が付きまとっていた。

（いつまで俺に優しくしてくれるんだろう……）

　アイドルをやめてから、そろそろ一ヶ月が経とうとしている。
　早々に愛想をつかされると思っていたが、総司は変わらずに優しい。部屋の主を差し置いて、イオがベッドで寝ているし、生活費のほとんどを総司が負担している。一人で暮らすより不便や不都合があるに関わらず、嫌な顔一つしない。それがイオにとっては、不思議だった。

（総司さんって、俺のことをどう思ってるんだろう。迷惑とか邪魔とか思ってないのかな）

　お人好し以上の総司の行動に、イオは不気味ささえ感じる。後々、金銭を要求されたり、監禁に至るかもしれない。犯罪に巻き込まれてしまうかもしれない。イオの脳内に次々と嫌な想像が浮かぶが、総司がそんなことはしないという確信もあった。

（逆に、俺は総司さんのこと、どう思ってるんだろう）

　ふと、イオは疑問に思った。
　真摯で熱心なファン。それ以上に、特別という実感はあった。解散を知らされた時、一番最初に思い浮かんだのは総司だ。その理由について深く考えたことはなかった。

（総司さんは、優しくて、真摯で、いつも俺のこと応援してくれて……。俺は、総司さんを……）

　イオが思考に集中しかけた時、目的の駅に着いたとアナウンスが耳に飛び込んでくる。我に返ったイオは、人波をかきわけて、電車から降りたのだった。