家に帰ると推しがいます。

9.再会

6

「イオくん」

　総司の甘い声が、イオの鼓膜を震わせる。互いの顔が近づき、イオは静かに目を閉じた。
　そして、総司の唇が、イオの唇に触れる。先日のキスは一瞬だったが、それよりも長く、二人は唇を重ねた。

（今、総司さんとキスしてる……）

　イオはようやく嬉しさを実感した。唇から伝わる総司の温かさに、胸がいっぱいになった。
　部屋は静かに、二人だけの時を刻む。ようやく唇が離れ、イオは無意識に止めていた息を大きく吐いた。そして目を開くと、頭を抱えている総司が視界に入ってきた。思わずイオは首を傾げる。

「総司さん……？」
「俺はなんてことを……」

　甘い雰囲気から一転して、総司は跳ねるようにして立ち上がった。慌ててスーツを探り、ポケットから財布を取り出す。

「俺ごときがイオくんにキスしてごめんね。話すだけでもいいのに、キスなんておこがましい！せめてお金払うよ！払わせて！！じゃないと、俺がいたたまれない！」

　両想いからのキスに、総司は取り乱した。久しぶりの総司のオタクムーブに、イオは驚くが、すっかり慣れたものだ。

「総司さん」
「欲望のままにキスした俺を殴ってくれ！」
「総司さん、落ち着いてください」
「落ち着いてるよ！」

　全然落ち着いていない総司に、イオはため息を一つ吐き、立ち上がった。そして、総司に近づいて、真正面から身体を寄せる。突然のイオの行動に、総司は手から財布を落とし、身体を強張らせた。それをいいことに、今度はイオから総司にキスをする。ちゅっと音が鳴った一瞬のキスに、総司は混乱し、ぱちぱちとまばたきをした。

「今、キス……？イオくんから……？」
「はい。落ち着きました？」
「たぶん……？」

　混乱の最中にいる総司を見て、イオは思わず頬がゆるんだ。イオからこぼれた自然な笑みに、総司ははたと我に返る。

「ごめん、うん、もう大丈夫。落ち着いたよ」
「本当ですか？」
「うん」
「じゃあ、もう一回、総司さんからキスしてください」

　いたずらな笑みを浮かべて言い放ったイオに、総司は観念した。
　イオの身体をそっと抱きしめる。細身のイオの身体は、総司の腕の中にすっぽりとおさまる。総司がイオの頬に手を添え、キスをしようと顔を近づけた。その瞬間、部屋のドアが勢いよく開き、声が飛んできた。

「あれ？」

　ドアを開けたのは、ミナミだった。抱き合っていた総司とイオは、慌てて身体を離れさせる。不自然に距離をとる二人を見て、ミナミはニヤリと笑った。

「なに？まだヤッてないの？」
「「ミナミ！」」

　総司とイオの声が重なり、部屋に響く。確信犯であるミナミは、ニヤニヤと笑みを浮かべたままだ。

「イオ、別にいつまでもいてもいいけど、いつでも出てっていいからな」

　それだけ言うと、ひらひらと手を振り、ミナミは部屋のドアを閉めた。
　部屋は、また二人だけになる。嵐のように現れ去っていったミナミに、二人は顔を見合わせ、どちらからともなく笑いを吹きだした。