家に帰ると推しがいます。

えつこ

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10.後日

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 晴れて両想いが発覚した総司とイオは、付き合うこととなり、再び総司の部屋で同棲をすることになった。
 イオは寝室で、総司はリビングで寝るのは変わらず、イオがバイトに精を出すのも変わらない。変わったのは二人の距離感だった。以前よりは距離は近くなり、触れ合うことはしばしば。キスをするのは、まだ恥ずかしさがあるものの、事あるごとに唇を重ねた。

 ミナミのでき婚について、総司は本人から経緯を聞いた。
 相手は幼馴染であること、でき婚とは言うものの夫婦で将来を考えていること、事務所にはアイドルを辞めることを予め相談していたが受け入れられなかったこと、ミナミは自動車整備工場での仕事が決まっていること、などだ。総司が想像していた何倍も、ミナミは将来と奥さんと子供のことを考えていたことを知り、総司はミナミに謝罪した。

「ミナミ、ごめん。勝手に辞めたと思ってたから、怒鳴ったりして……。ミナミがそんなに考えていたなんて……」

 ミナミの実家のリビングに、ミナミと総司、そしてイオはいた。リビングテーブルの上には、コーヒーカップとお菓子が置かれている。
 総司とイオは、たまにミナミの家へと遊びに行くようになった。やはり赤ちゃんは可愛いもので、ミナミに会うためと言うよりも、赤ちゃんの顔を見るためと言ったほうが正しい。
 今その子供は、ミナミの奥さんと両親とで、散歩に連れ出されていた。いつも子供の泣き声が響くリビングも、今は静かだ。

「そもそも事務所が辞めさせてくれなかったから、あぁなっただけ。俺が計算高いの知ってるだろ?もっとうまく辞める予定だったのに」

 総司は「確かに」と頷いた。ミナミは相手の顔色を伺ってファンサをするタイプであることは、総司は側から見て、感じていた。

「じゃあ、俺の金持っていったのは?」

 イオの質問に、ミナミは顔を顰める。

「あれは悪かったよ。急に辞めることになって、金が足りないってなったから……。後で返すつもりだった」
「まぁ返してもらったからいいけど……」

 イオはため息を吐いた。売られたものは返ってこないが、それほど大事にしているものがなかったのが功を奏した。事態を考えれば仕方ないと、イオは割り切っている。
 その後は三人で談笑した。そうこうしているうちに、玄関が騒がしくなる。

「あ、帰ってきたんじゃない?」

 一番に立ち上がったのは、イオだった。嬉しそうに表情を綻ばせ、玄関へと駆けていく。
 残された総司とミナミは顔を見合わせて、笑いをこぼした。

「で、イオとのラブラブハッピー生活はどう?」

 ミナミはコーヒーを一口飲んでから尋ねた。その表情はニヤニヤとしている。

「ラブラブって……」

 総司は苦笑した。総司とイオの関係は、ミナミにはすぐにバレた。そして、総司は時たま、ミナミに相談に乗ってもらっている。半分揶揄われているのはわかるが、相談する相手がいないのだ。

「っていうか、ヤっただろ?」
「っ……?!」

 ミナミの言葉に、総司は心底驚いた。

(なんで知って……?!え?イオくんから聞いた……?)

 ミナミの指摘した通り、先日総司とイオは初めてセックスしたのだ。総司はその時のことを思い出して、一気に顔が熱くなる。

「そんなこと、言えるわけないだろ」
「その答えが認めてるようなもんじゃん」
「う……」

(確かに……。何も言わなきゃよかった……)

 総司が恨めしそうにミナミを睨むが、その視線は弱く、ミナミはダメージは受けていない。

「今度詳しく聞かせろよ」

 ミナミはニヤニヤと笑いながら立ち上がると、我が子を迎えるために、玄関へと歩いて行った。

(今後はミナミに相談しないでおこう)

 総司はそう決めたのだった。
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