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第39話 馬小屋トーク

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 ミレスに呼ばれた俺、ヤツはついてこいと言うのでついていくと何故か馬小屋に来た。
 人を呼ぶにしてももう少しなんとかならなかったのかとツッコミたくなるがまあいいか。

 体育館裏に女子に呼ばれた的な変なことを期待してしまうムードもない。まあ女ヤンキーに呼び出しくらったらほぼ告白じゃなくて暴言かぶん殴られるかの二択だった世代だから何も期待なんてしないけどな。

「それでなんの用なんだ?」
「……なあ、なんでこんな事してんだ?」

「は?」
「いやっ……今回のオーク共の事だよ。レックスは百パー関係ないだろう? それなのになんで…」

 まあその通りだ。少なくともミレスとミレスの彼氏に関しては俺は全く関係ない、そして別にコイツの為にって理由でここまでせこせこ働いてる訳でもない。

「そりゃあ確かにな、けどオークの問題はカルカトの存亡に関わる大事だ。流石に知らんふりも出来ないだろう、今回はたまたまお前から話を聞いてたんで俺が最初に声を上げただけさ」

「たまたまってそれにしてはやたらと働いてない?」
「言い出しっぺだからな、それに俺の考えた作戦って色々準備する必要があるのさ」

 とくに劇くさ丸薬の大量製造だ、材料はカルカトでも用意出来るが作るのは人力だから大変だ。筋肉痛にも効果のある黒い丸薬もまた作っては他にも劇くさ丸薬を調合してくれてるカルカトの調合師に渡したりもしてる。

「そもそも今回の作戦が成功したとしてどこまでオークを無力化出来るかは完全に出たとこ勝負だ。そっから先は総力戦なんだぜ、お前のゴールトランクってヤツの実力にも期待してるぞ」

「!」

 なんでもミレスはこのカルカトでは片手で数える中に入る程に強い冒険者らしい、確かにあのゴツい大剣を片手でブンブン振り回してる姿は完全に無双ゲーのそれだった。完全に雑魚を千体以上倒して真のなんたら無双だとか褒められそうな気配あったわ。

 そんなミレスが敗走したオークの軍団相手にこれから喧嘩を売る、俺の立てたアホみたいな作戦で……それを考えると腰が引けてくる、しかしここで日和れば死人が大量に出る。

 その事実が俺の足を動かすのだ。決して巨乳ヤンキーの巨乳に魅了されて都合よく動く働きアントマンをしてる訳じゃないんだよ。

 するとミレスは馬小屋に立てかけていた大剣を(そんな所に置いとくなよ、盗まれたらどうすんだよこの女ヤンキー)手にした。

「ハッ! そこまで言われたらアタシも黙ってる訳にはいかないね、あのクソオーク共を一匹残らずこの『覇道雷轟《はどうらいごう》』の錆にしてやるよ!」

「おうっそのいきで頼むぜ」
 ファンタジーゲームに出て来そうな両刃の大剣につける名前じゃねぇよそれ。まあ良いんだけどさ。

 吹っ切れたミレスは大剣をバンバン振り回しながら馬小屋を後にした。
(お主も口が上手いのぉ~~)

 ちょっとビックリした、ここ数日、と言うか人の瞳の中に勝手に入り込んだ豚小屋の魔女がいきなり頭の中に声を響かせてきた。

「アンタもいきなりだな。こっちは忙しくてその存在を半分忘れかけていたぞ」
(相変わらず失礼なヤツじゃ、アレか? 親の教育は悪かったのかの?)

「そこは否定出来ないが……今はんな事はどうでも良いんだよ。それよりもオークの事だ、ぶっちゃけ総力戦で勝ち目はあるか?」

(あの大軍を見たであろう? 国が軍隊を動かせばともかく小さな街の冒険者が集まったレベルでアレをどうにかするとか無謀じゃな)

「お前、クソガキ神とも交流があったんだよな? なら何かあのオーク達の弱点とか知らないのかよ」

(オークの弱点はアホだと言う事と食べ物があれば戦いの最中でも手を出さずにはいられない程に食い意地がはっている事ぐらいじゃ、それくらいは既にお主も知っておろう)

「ならお前の何かファンタジーな能力とかでオークを殲滅出来たりしないのかよ」

(そんな力が戻っておればお主の瞳の中で休息など取ることもないわ。我にはオーク相手に何か出来るとか期待するでないぞ~)

 使えねぇな~~コイツ。
 たくよ、しかし何時までも馬小屋でトークしてる場合じゃなかったな。俺も忙しいんだよ。

 ミレスもいなくなったので俺も馬小屋を後にした。
 そして遂にオークとの決戦の朝を迎えた。
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