咲き誇る陰で、

藤岡 志眞子

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2 薔薇のお姫様

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コルセットが嫌い、ヒールが嫌い、髪飾りが嫌い、塩漬けのアンチョビが、嫌い。
テーブルの皿にのったアンチョビのトーストにフォークをブッ刺す。

「コーラル、やめなさいお行儀が悪い。食べないのなら手を付けなければいいでしょう。」

隣りに座る姉が口うるさく言った。

「食べないのをわかっていながら出すのが変だわ。それに(手)は付けてない。刺しただけよ。」

持っていたフォークを姉の皿に投げた。ガチャンッと大きな音を立てて皿を通過し、そのまま滑って床に落ちた。

「コーラル…そんなんじゃ何処にもお嫁にいけないわよ?」

「うるさいわね。いったところでお姉様みたいに出戻ったら意味ないじゃない。(私)を受け入れてもらえるところに嫁にいくの。無理に装うことないわ。」

「あんたって…。あんたはいくら美人でもその性格じゃ百年経っても嫁の貰い手なんて現れないわよっ。」

ブスの姉は怒り狂いながら食堂を後にした。
姉は装いを解いた直後に旦那に見切られ離縁された。(薔薇)の女はキツい。それをわかってて結婚したというのに。装いを分厚くした姉も悪いが、騙される男も悪い。アンチョビと同じく面倒くさい事も嫌いだ。私は(素)でいく、(素)で嫁にいく。

十八歳手前の薔薇の娘コーラルは、二十一歳の出戻った姉パメラ(本当はパール)に嫌悪していた。離縁もそうだが、何か悪いことがあると人のせいにし、デブとからかわれると努力もせずにただ泣き喚く。
ダイエットの方法を教えても、顔が嫌いだと鏡を睨むパメラに化粧を教えても、無駄。そのくせ高価なアクセサリーやドレスは欲しがる。…もちろん似合わない。

(まさしく、豚に真珠(パール)だ。)

パメラの婚家は菊だった。失敗したというのに王家は私に菊の男を勧めてきた。信じられないし、みんなキモい奴ばっかりだった。

(姉の旦那ばっかり…笑)

三人紹介されたが全てパス。同席した母は顔を蒼くしていたが、そんなこたぁ知らん。私はイケメンで、背が高くて、引っ張って行ってくれるような金持ちの、

「コーラル。」

…嫌な声がする。空耳かな。

「コーラル!!」

とぼけた顔で振り向くと、あら、大嫌いなお父様。

「お父様、おはようございます。ご機嫌いかがですか?」

椅子から立ち上がり、ドレスの裾を摘んで片膝曲げて、よっこらしょ。挨拶してみた。

「おまえはなぁ…。はぁ。」

生まれてから今までで多分一億回くらい聞いてきた親父の溜息。はい、一億一回目~。

「…向日葵王がパーティを開く。」


は。


「見合いパーティだそうだ。開催は近日。カーラと仕立て屋に行って来なさい。間に合わなくなるぞ。」

親父がテーブルに着席し、メイドがお茶を運んでくる。アンチョビトーストとスクランブルエッグ、アールグレイを愉しみながら手元の紙切れを私に放った。

([新花実結舞踏会]…。)

「あ、あたらしばな…み、むす」

「…おまえは薔薇の娘なのに、頭もバカだし性格も最悪だ。せめて見た目だけでも良くして来い!とっとと仕立て屋へ行けー!」

怒りにまかせテーブルを拳で叩き、ティーカップがガチャンッと音を立てた。メイドが冷静に片付ける。我が家は怒鳴り声と騒音は日常茶飯事だ。菊の系統のメイドでないとやっていけないが、言われたことしかやらない菊の男はやっぱり嫌だ。

小走りで食堂を出て母のカーラとともに仕立て屋に向かう。既に行列、満員御礼。

「大丈夫よ、リンダ(パートリーダー権力強め)に話はつけてあるの。裏から入りましょう。」

牡丹出身の母は大らかでハイセンスの持ち主。母に生地を選ばせれば間違いない。
店に入り、(VIP)の部屋に通される。採寸して生地とデザインを決めた。
私らしい深紅のマーメイドドレス。背中がぱっかーん、自慢の胸元がぱっかーんなデザインにした。下品だからやめなさい、と母に言われたがシカトした。
決戦は半月後。待ってろよ、イケメン。




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