Brain Nunber

藤岡 志眞子

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number.16 Lost children

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第五ロックのヒントがモニターに映し出される。

(抗甘味活性)

抗甘味活性とは甘みを感じにくくする効果である。
菊本と梅田に甘い蜜を吸わせるな、という事か?思い通りにいかないようにするためのヒントなら、ヒントや数式を残すはずがない。意味がわからない…。

「抗甘味活性成分は何に含まれる物なのでしょう?」

「ジジフィン…か?含有量が多いのは、ナツメヤシじゃなかったか?」

「ナツメヤシ…棗?」

ベースに滞在している奏と、ヒント開示のタイミングでやってきたリウがタイムロスを防ぐため、ヒントだけを開示し考察する。ある人物に注目した。

「棗がヒントなのか?」

「棗とブレインナンバーと何か関係があるんでしょうか?」

「いや、考えられないな。そもそもこのミッションに参加できたのが不思議なくらいだ。」

「…ですよね。名前が同じなだけで、関係はないかと僕も思います。」

「抗甘味活性…わからん。」

「…棗は、今どんなミッションについているんですかね?」

「え、えーっと…ロサ製薬の、スパイ…じゃなかったか?」

「スパイ?パスワード解除を目論む人達をですか?」

「いや、スパイをするほどあっちはデータを集めちゃいない。ブレインナンバーとは関係のないスパイだ。」

「…何でしょう?」

「メンバーの遂行ミッションの内容は話さない、聞かないが鉄則だからな。まぁ、ロサ製薬に行ってるって言ったのは棗だが。」

「棗らしいですね、おしゃべりですからね。」

「それで失敗に繋がらないのが不思議だ。」

「…心配です。」



ロサ製薬社長の梅田の邸宅に棗はいた。
大学生に扮しロサ製薬のMR(営業)に付いて回って仕事を体験する、という名目で取引のある大病院にスパイに行っているのだが、梅田社長の奥様になぜか呼ばれた。
バレたのか…?しかし、ミッション内容は新開発製薬の契約内容など、バレてもそんなに怒られない内容だ…。
ただ、おしゃべりがしたいだけなのかも?

「本日はお招きいただきありがとうございます。」

「うちの会社のインターンなんですってね。どう?うちの社風は。」

「はい、とっても働きやすくて…先輩方も優しいので毎日充実してます。」

「でも慣れない事だらけで疲れてるでしょ?良かったら私のハーブで作ったハーブティー飲んでいかれない?リラックスできるわよ。」

やっぱり。
奥様のハーブティー好きは社内でも有名だ。
製薬会社の社長夫人なのにオーガニック主観の人で、野菜や果物、植物からの栄養、効能を重視していると聞く。体調が悪くなると病院ではなく漢方や自作のサプリメント的なもので誤魔化している、とも聞いていた。

「ありがとうございます、いただきます。」

梅田社長の奥様はほんわかした雰囲気で、白を基調としたお城のような邸宅は奥様によく合っていた。
広々としたキッチンからハーブティーを持ってくる。ティーポットがふたつに、ティーカップがふたつ、ケーキの載った皿がふたつある。

「ジャスミンティーはお好き?」

「うちの庭で育ててるジャスミンでいつも作っていてね。でも今回は黄色いジャスミンで作ってみたのよ。今日初めて淹れてみるのだけれど…お口に合うかしら?」

ティーカップに注がれるジャスミンティーからは強く甘い香りがする。

「いい香り…」

「でしょ?」

奥様が注ぐもうひとつのティーポットからはあまり香りが感じられない。ジャスミンティーの香りが強いためだろうか。

「そちらのハーブティーにはどんな効能があるんですか?」

「これはね…私、恥ずかしながら糖尿病予備軍で。でも、皆さんと同じ物が食べたいじゃない?だから糖尿病に良いと聞いて、ティータイムにいただくようにしているの。甘く感じなくなる点が難点だけど…あなたはジャスミンティーをいただいて?ケーキが甘くなくなってしまうから。」

甘く感じなくなる…?

「何のハーブティーなんですか?」

「蓬莱青カズラってご存知かしら?」

「…いえ。あの、いただいてもよろしいですか?」

「…甘い物が苦手なの?」

「いえ、本当に甘く感じなくなるのかと思って…」

「面白い子ね。では、どうぞ。」

自分のティーカップを棗に勧める。
まず、ケーキを一口食べる。そしてお茶を飲んだ。味は、身体に良さそうな味。
それからまた一口ケーキを食べる。
んー、あまりよく分からない。
私の表情を見て奥様が苦笑いをする。

「私舌がバカだから…あ、ジャスミンティーいただきます。」

甘い香りのジャスミンティーを一口飲む。
すると口に広がっていた甘味が消えた。
あれ?

「奥様、こちらが蓬莱青カズラのお茶では、ないのですか…?」

「え?どういうこと?」

奥様にティーカップを渡す。お茶を一口飲んだ後、ケーキを食べた。

「あら、本当だわ。黄色いジャスミンは蓬莱青カズラより抗甘味活性化成分が強いのかしら?」

抗甘味活性化、成分…?
さすが製薬会社の社長夫人。

「後で夫に聞いてみるわね。私もジャスミンティーをいただこうかしら。ティーカップ、新しいのを用意するわね。」

ケーキを食べながら、ジャスミンティーをお互い二杯ほど飲んだ。
しかし、少しずつ具合が悪くなり、食べ終わる頃には動悸が激しくなり冷や汗が止まらない。奥様も必死に隠しているようだったが、とうとう倒れてしまった。
私は急いで玲子さんに電話をし、意識が朦朧とする中状況を報告した。電話を切って隣りで倒れる奥様に目を向ける。するとリビングに男性が入ってきた。

(助けて!)

私に近づき何かを言っているが、聞き取れない。
(お、奥様を、奥様を助けてください!)

言葉にならない訴えを必死に伝えた。ほんの少ししか話さなかったが、奥様はとても良い人で、とても楽しかった。私のお母さんのような感じ…お母さんも優しくて、いつも楽しそうだった。
そんな想い出を思い出していたら喉に掛かる強い圧迫に突然襲われた。

(お母さん…)

涙が流れる。毒と呼吸困難で意識が遠退く。

(……お母さん。)

瞬間、暗転した。





「梅田さん、お庭で育てられていたジャスミンでお茶を作られ、それを飲んだと言っていましたが、その植物は本当にジャスミンでしたか?」

「はい。甘い香りが強くて、とてもきれいな黄色い花をつけていましたが…。」

目を覚ました奥様が医師の質問に答える。医師の横で玲子も一緒に話を聞く。奥様は玲子を見た。

「あの、どちら様でしょう?」

「申し遅れました、私は一緒にお茶を飲んでいた、彼女の大学の者です。一緒に詳細を聞かせていただきますね。」

挨拶を終えたふたりを見た後、医師は話を続ける。

「おそらく、その植物はカロライナジャスミンと言って、名前にジャスミンとありますが全く別物になります。カロライナジャスミンは、猛毒植物なんですよ。」

「も、猛毒…?」

「二杯も飲んで助かったことは幸運です。お茶を飲んだ瞬間、何か変わったインパクトはありませんでしたか?」

「…甘味が、なくなった…?」

「ふだんから蓬莱青カズラのお茶を飲んでいたから気にはならなかったのでしょうが、ふつうならそれが気になって飲むのを止めるところなんです。カロライナジャスミンにも抗甘味活性化成分はありますが、ゲルセミシンという毒もあります。触っても毒による症例報告がありますので、用心するのなら抜いてしまった方がよろしいかと。」

玲子が話に割って入る。

「梅田さん、カロライナジャスミンはお家を建てられた時からあったのですか?他のハーブやジャスミンと混ざったりなどはなかったのですか?」

「…あのジャスミンは、裏庭に植えていたのでジャスミンと混ざったり、他の植物の中に落ちるなどはありませんでした。それと、あれは小皆教授にいただいた物なの。家を建てて暫くしてから…その、お祝いで。私がガーデニングを好きだった事を知っていて贈って下さったのだけれど……毒があったなんて。」

小皆教授…梅田夫妻に、お祝い?

「あの、一緒にお茶を飲んだ女の子は…?だ、大丈夫なのかしら?」

「上原(偽名)ですね、大丈夫です。ご心配いりません。」

「良かった…申し訳ないことをしたわ。回復したら、お詫びさせていただきたいと伝えて下さるかしら。」

「わかりました、梅田さんも充分に休まれて下さい。」

お辞儀をし、病室を出る。
携帯電話が鳴る。急いで通話ブースに行く。

「今まだ病院なの。車の手配はできた?棗を乗せてすぐに行ってちょうだい。私は梅田邸の庭に行ってくるから。」

梅田邸のカロライナジャスミンにヒントがあるはず。着いてすぐスコップで根を掘る。
あった。
根の部分にタグが付けられている。QRコードが印字されているが劣化で読み取れるかどうか危うい。
携帯電話で読み込んでみる。ギリギリいけた。
画面にいつもの如く数字が並ぶ。すぐにベースのパソコンに送信した。
携帯電話が鳴る。リウからだ。

「今ヒントを送ったわ。…棗?」

「ナツメヤシに抗甘味活性化成分があるから、関わっていたのかと。」

「抗甘味活性化成分…。ナツメヤシにもあったわね、でも違ったわ。カロライナジャスミンだった。でも、棗という考察は間違いなかったみたい。実際、棗がいた梅田邸にヒントがあったし。棗はカロライナジャスミンの毒にやられたわ。」

「やられた?大丈夫なのか?」

「毒は、大丈夫だった。」

毒、は…?

「…死んだのか?」

「…棗は、小皆教授に接触して殺された可能性がある。」

棗の首に残っていた指の跡。左手中指あたりに指輪をはめていた形跡がある。私がプレゼントした指輪だ。
指輪には表面にふたつ石が付いていたが、重みで内側にいってしまったんだろう。
棗の首には赤いふたつの裂傷が刻まれていた。

携帯電話で本社研究室のパソコンにメールを送った。

( BNC.05 Brain number.7 
Natsume   / Die)






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