Brain Nunber

藤岡 志眞子

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number.25 花庭 陽一

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「お母様…大変申し訳難いのですが花庭君のためでもあります、一度心療科…精神科への受診をお勧めします。」

小学一年の一学期終わり、親子面談で私は病院の受診を勧められた。
他の子との考え方、行動の差が異常であると言われたのだ。幼少期の時点では子供の多様性、個性、成長段階にみられるものと判断されていたものが、集団生活になって異常と名前を変えた。
かんたんな算数を間違える、絵を描かせれば空を青に塗らない、集合の号令をかけられても単独行動をする…などであった。他者との交流でも指摘箇所があり、相手が傷つくであろう言葉を口にする、自分がされて嫌なことを平気でする、担任の注意を素直に聞かないなど、これから大人になるに当たり(生き辛くなる)と、アドバイスをされた母親はすぐに心療科に私を連れて行った。
聞いたことのある病名を告げられ、よくわからない薬を処方されて飲み続けた。周りの大人は、

「随分大人しくなったわね。」

「落ち着いたわね。」

「みんなと足並み揃ってきたわね。」

と、口を揃えて言った。
みんなと同じが良いことなのだろうか。疑問に思いながらも喜んでくれるのなら、と通院を続けた。
しかし、ある日同級生から(苦情)を言われた。

「おまえの母ちゃんがうちに来たよ。」

「え?」

「おまえんち、宗教入ってんの?おまえの母ちゃんがおれのママに宗教入らないかって来たんだよ、気持ち悪いんだよ。」

教室内がざわつく。事実、私の家は宗教に入っていた。しかし、誰にも迷惑はかけていないし、入りたくないのであれば断ればいいではないか。
それから私は疎外されるようになり、同じく母親も学校の父母会に出席しなくなっていった。
何が悪いのか。海外だったらふつうじゃないのか…ふつうって、何なんだ?
それをきっかけに私は通院をやめた。薬もやめた。友達はできずいつもひとりであったが不幸とは思わなかった。遊ばない分時間があったので勉強に没頭できたし、そのお陰で有名私立中学に進学できた。
その学校は様々な生徒が在籍しており、小学校と比べ宗教に入っている生徒もいて差別もなかった。授業も個性を重視しているカリキュラムで興味のある分野、得意な分野と選んで授業を受けることができた。
窮屈さを感じる事なく中学生活を過ごし、更に上を目指そうと難関高校の受験に挑戦した。見事合格し進学したが、その学校は小学校に似た(協調性)を重視する学校であった。
同じ思いはしたくない、と、宗教を隠し、みんなと同じ話題、同じ考えを共有するよう努め、将来の夢もひとつの答えしか導き出せない(数学者)という道を選択した。
しかし、違和感は拭い切れない。今のままで良いのだろうか。生き辛さが日に日に増していく。
数学者の道ではなく大学は医学部にした。医者なら多少の独創性は許されるだろうと安易な考えで進学したがそんなことはなかった。
皆同じように勉強し、同じ道を辿って医者になった教授の教えを学ぶ。独創性なんて少しも必要なかった。
なら、私が今までずっと悩まされていた個性、多様性、それらを生み出す脳についての研究をしよう。そう思い脳の研究に没頭した。
生かせば人生が変わる、世の中は変わる、そんな人間がこれからは邪険にされず敬われる時代になるはず。
でも、実際はかんたんにはいかなかった。反対意見が多過ぎるのだ。ほとんどの人は過半数の意見に左右されてしまう。いくら異論を唱えても話さえ聞いてくれない。
人間はそもそも知識が自分よりあって、自分より上の立場の人間の意見に納得し従ってしまう傾向にある。そこには、違うと思っても周りの人間はそう言っているのだからそうなのだろうと自分を納得させ、自分の意見を殺してしまう。
そのうち自分は情けない、他の人と違って恥ずかしい、怖いとなってしまう。実際私がそうなってしまった。
このままだと、結局私は一生誰にも認められず、幸せな人生は歩めない。
そう思っていた時、ならば全員を納得させようとするからいけないのだ、と閃いた。同じように悩んでいる者に手を差し伸べる治療を。自由な思考と行動を活かしつつ、他の者と浮くことはない治療。そして、将来それらが認められ始めたらどこまでも伸ばせる治療はできないだろうか?
その発想で生まれたのがブレインナンバーであった。
皆が受け入れやすいようにと、初段階はアーティストやアスリートなどを対象にした。固定概念やストレスからくるパフォーマンスへの影響を減らすものである。
それから発明家や政治家へ、考えや理想など多くの者達の意見を取り入れつつ新たな発想を引き出すものへ。そして、最終的には争いの要因になる個人の考えの柔軟な受け入れを目標とした。
しかし、梅田と菊本は最後の話だけを掻い摘み、(洗脳)と方向を変えてしまった。
それでは私の苦しみの根源を作るだけのものになってしまう。しかし、大人になると子供の時より自由は効かなくなる。悔しさだけが残った。
確かに人類皆同じ考えであれば偏見、争いはなくなる。しかし、新しいものは生まれなくなる。遺伝子組み換えのように、全く同じものが作られ安定した内容になるが、自然に生まれたもののように突飛に、びっくりするようなものは生まれない。
安定した、代わり映えのない世の中にするか、悲しい結果も伴うが嬉しく歓び合う世の中にするか。
これは、一部の人間が決めて良い題材では、ない。

絵菜が消えたことにより、ブレインナンバーのロック解除は止まってしまったようだ。タイムリミットまで一年半となったが、私としてはもう、どうでもいい。どうせ赤居は失敗作だ。私がいない状況で何もせず放置してしまったがため、脳の活性化は見込めるも、兵器としての成長は望めそうにない。
ロックを解除してもしなくても結果は同じ、タンクが開いて内容物が社内に充満して皆ラリって死ぬだけだ。
梅田も菊本もどうにでもなってしまえ。リリー・ファーマシーのサプリメントに密かに加えたBrain  numberもそんなに効果は出ないだろうし、今頃玲子が気付いて処理している頃だろう。
ただ、最後に、絵菜の能力だけは結果を見てからにしたかった…。
絵菜の能力が発揮されたら、世界は平和になるはず。絵菜の持つ能力が全ての人に備わっていたのなら、どんなに良い世界になるのだろう…。

花庭 陽一、または小皆 要士郎は、Brain  numberの成分凝縮薬を掌いっぱい、服薬した。
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