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number.26 様々な、母親
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(手を当てれば良い。)
モムと暮らしていた時にもらった最後の手紙にそう書かれていた。自分の両頬に手を当てる。もしかして…。
モムが料理をしていた時、包丁で指を切ったことがあった。
「エナ、手を、手を貸してちょうだい。」
切り傷を握る。すると血が止まり傷口が塞がる。自然なことだと思っていた。他にも風邪を引いたり、痛みが出たところに手を当てるとモムは元気になった。
修復力向上。モムは知っていたのだろうか?
私がこちらに来てすぐモムは病院で死んでしまった。お医者さんにも治せない病気を患っていたのだろう。でも、私が手を当てていたから一緒にいた時は大丈夫だったということなのだろうか?
自分の手を見る。
ブレインナンバーを作った小皆教授とは、私と何の関係があるのだろうか。会ったことはないし、何も知らない。でも、小皆教授は私を知っている。
数式に書かれたメッセージ。計画内容を読んで私はショックで計算を途中でやめた。しかし、同じメッセージはリセットされても再び現れる。私に伝えてどうしろというのか?
第六ロックの解除をするため、奏と地下室に降りた。開始して計算を進めていくとメッセージが現れ始めた。
(エナの力で救える命はたくさんある。)
(苦しい思いをする人が減る。)
(手術や薬はいらない。)
私に医者になれというのか?と思ったが…違う。
(手を当てれば、良い。)
この言葉、前にも…。
視界がぼやける、頭が痛い。身体が熱くなって関節が軋む。
意識が飛んで記憶が消えた。修復力、嫌な思い出も全てリセットするのだろうか。
(ルクシュク・ロンノン)
(ナツメ・ロンノン)
ルクシュクの姪っ子。ルクシュクに連れられてグラジオラスにやってきた。彼女は戦時下に生まれて出生届が出されていなかった。両親は亡くなっていてどうにかして欲しいとルクシュクに頼まれた。ここで生きていけるようにする代わりに、ルクシュクには任務に就いてもらった。任務先から頻繁に彼女を心配する手紙、メールが送られてきた。
(大丈夫、元気に暮らしているよ。)
(私をお母さんだと思っているの。寂しがっていないかしら。)
(大丈夫、問題ないよ。)
(あの子は良い子、幸せになって欲しいだけなの。)
(大丈夫、幸せに暮らしているよ。)
(エナをそちらにやったわ。あの子をこちらに連れてきてくれないかしら、時間がないの。)
(大丈夫、君のいる病院にお見舞いに行かせるよ。住所を送って。)
(やっぱり、いい。私が死んだら、あの子はひとりだわ。)
(大丈夫、彼女には姉弟ができたから。その子と一緒に行かせるよ。)
(弟?どういうこと?)
(ケイというんだ。彼女にいちばんに懐いている施設の子だよ。)
(ケイはどんな子なの?)
(私の友人の子なんだ。でも友人は知らない。母親が隠していて産んだ後亡くなってしまってね。友人の子として生まれていたら、今頃社長の息子として育っていたんだろうな。)
(菊本さんの子供なの?)
(違う。とにかく良い子だよ。引っ込み思案で照れ屋だけど、とても可愛いんだ。)
(会いたいわ、早く会わせて。)
(わかった。君は治療を頑張って。お金を送るよ。)
彼女達に会う前にルクシュクは死んだ。そして姉弟も死んでしまった。きっと今は一緒に暮らしているだろう。
前回健康診断で引っかかった箇所の経過観察に婦人科に訪れた。痛みも出血もないから大丈夫だろう。
「蓮原さん、今こちらに写っているのが前回のエコー写真です。で、こちらが今回。」
…大きくなっている。
「お痛みはありませんか?」
「いえ、全く。」
「早い段階で処置しなければいけません。放置しますと、子宮全摘出になる可能性があります。すぐにでも手術を、」
「いえ、結構です。」
「え、」
今手術などしている時間はない。
「今お痛みがなくても、今後…明日にでも強い痛みが出る可能性があります。強い炎症反応が出た場合、迅速な処置ができないこともあるのです。今がチャンスなんですよ。」
私ひとり死んでもどうってことはない。絵菜もいなくなり、小皆教授も未だ見つからない。これで私がいなくなったら…いなくなる前にどうにかしなくてはいけない。
「大丈夫です。ありがとうございました。」
「ち、ちょっと、」
話の途中で診察室を出た。
自宅の書斎から、大学生の時に受けた婦人科検診の結果が出てきた。そこには、子宮内に小さな影がみてとれる、と書かれていた。
絵菜を産む前。しかし、私は無事に絵菜を産んでその後の体調不良はなかった。そう、風邪さえも引かなかった。
きっと、ブレインナンバーの追加プログラムが効いていたのだと思う。絵菜の妊娠期間中におそらくタンクに入りプログラミングされ、お腹にいた絵菜にも顕著に影響が出た。絵菜の腎臓欠損は先天的なものではなかった。小皆教授のコレクションの中に、ホルマリン漬けの小さな臓器があった。
取り出した後経過を見ていたのだろう。手術跡、傷口はきれいに治ったが、腎臓の再生成は上手くいかなかったようだ。
そして私も、プログラミングのお陰でお産の影響は全くなく、子宮の異物も消えたのだと思う。
しかし時間が経つにつれて、プログラミングの効果は徐々に薄れて体調の変化が著しく出てきた。年齢や仕事の量のせいもあるだろうが、今回病状が悪化したのをみると絵菜も離れ私の修復力も消えてきた、といったところだろう。
医者要らず、だな。
もし、この能力が全人類に備わったとしたら…。喜び歓喜する者はたくさんいるだろう。しかし、人口は増え続け大きな問題も多数出てくるはず。
考え方の統一など無駄なくらいの人口爆発に繋がる。殺し合いも頻繁に起こるだろう…。
絵菜が(兵器)、間違いではない。
モムと暮らしていた時にもらった最後の手紙にそう書かれていた。自分の両頬に手を当てる。もしかして…。
モムが料理をしていた時、包丁で指を切ったことがあった。
「エナ、手を、手を貸してちょうだい。」
切り傷を握る。すると血が止まり傷口が塞がる。自然なことだと思っていた。他にも風邪を引いたり、痛みが出たところに手を当てるとモムは元気になった。
修復力向上。モムは知っていたのだろうか?
私がこちらに来てすぐモムは病院で死んでしまった。お医者さんにも治せない病気を患っていたのだろう。でも、私が手を当てていたから一緒にいた時は大丈夫だったということなのだろうか?
自分の手を見る。
ブレインナンバーを作った小皆教授とは、私と何の関係があるのだろうか。会ったことはないし、何も知らない。でも、小皆教授は私を知っている。
数式に書かれたメッセージ。計画内容を読んで私はショックで計算を途中でやめた。しかし、同じメッセージはリセットされても再び現れる。私に伝えてどうしろというのか?
第六ロックの解除をするため、奏と地下室に降りた。開始して計算を進めていくとメッセージが現れ始めた。
(エナの力で救える命はたくさんある。)
(苦しい思いをする人が減る。)
(手術や薬はいらない。)
私に医者になれというのか?と思ったが…違う。
(手を当てれば、良い。)
この言葉、前にも…。
視界がぼやける、頭が痛い。身体が熱くなって関節が軋む。
意識が飛んで記憶が消えた。修復力、嫌な思い出も全てリセットするのだろうか。
(ルクシュク・ロンノン)
(ナツメ・ロンノン)
ルクシュクの姪っ子。ルクシュクに連れられてグラジオラスにやってきた。彼女は戦時下に生まれて出生届が出されていなかった。両親は亡くなっていてどうにかして欲しいとルクシュクに頼まれた。ここで生きていけるようにする代わりに、ルクシュクには任務に就いてもらった。任務先から頻繁に彼女を心配する手紙、メールが送られてきた。
(大丈夫、元気に暮らしているよ。)
(私をお母さんだと思っているの。寂しがっていないかしら。)
(大丈夫、問題ないよ。)
(あの子は良い子、幸せになって欲しいだけなの。)
(大丈夫、幸せに暮らしているよ。)
(エナをそちらにやったわ。あの子をこちらに連れてきてくれないかしら、時間がないの。)
(大丈夫、君のいる病院にお見舞いに行かせるよ。住所を送って。)
(やっぱり、いい。私が死んだら、あの子はひとりだわ。)
(大丈夫、彼女には姉弟ができたから。その子と一緒に行かせるよ。)
(弟?どういうこと?)
(ケイというんだ。彼女にいちばんに懐いている施設の子だよ。)
(ケイはどんな子なの?)
(私の友人の子なんだ。でも友人は知らない。母親が隠していて産んだ後亡くなってしまってね。友人の子として生まれていたら、今頃社長の息子として育っていたんだろうな。)
(菊本さんの子供なの?)
(違う。とにかく良い子だよ。引っ込み思案で照れ屋だけど、とても可愛いんだ。)
(会いたいわ、早く会わせて。)
(わかった。君は治療を頑張って。お金を送るよ。)
彼女達に会う前にルクシュクは死んだ。そして姉弟も死んでしまった。きっと今は一緒に暮らしているだろう。
前回健康診断で引っかかった箇所の経過観察に婦人科に訪れた。痛みも出血もないから大丈夫だろう。
「蓮原さん、今こちらに写っているのが前回のエコー写真です。で、こちらが今回。」
…大きくなっている。
「お痛みはありませんか?」
「いえ、全く。」
「早い段階で処置しなければいけません。放置しますと、子宮全摘出になる可能性があります。すぐにでも手術を、」
「いえ、結構です。」
「え、」
今手術などしている時間はない。
「今お痛みがなくても、今後…明日にでも強い痛みが出る可能性があります。強い炎症反応が出た場合、迅速な処置ができないこともあるのです。今がチャンスなんですよ。」
私ひとり死んでもどうってことはない。絵菜もいなくなり、小皆教授も未だ見つからない。これで私がいなくなったら…いなくなる前にどうにかしなくてはいけない。
「大丈夫です。ありがとうございました。」
「ち、ちょっと、」
話の途中で診察室を出た。
自宅の書斎から、大学生の時に受けた婦人科検診の結果が出てきた。そこには、子宮内に小さな影がみてとれる、と書かれていた。
絵菜を産む前。しかし、私は無事に絵菜を産んでその後の体調不良はなかった。そう、風邪さえも引かなかった。
きっと、ブレインナンバーの追加プログラムが効いていたのだと思う。絵菜の妊娠期間中におそらくタンクに入りプログラミングされ、お腹にいた絵菜にも顕著に影響が出た。絵菜の腎臓欠損は先天的なものではなかった。小皆教授のコレクションの中に、ホルマリン漬けの小さな臓器があった。
取り出した後経過を見ていたのだろう。手術跡、傷口はきれいに治ったが、腎臓の再生成は上手くいかなかったようだ。
そして私も、プログラミングのお陰でお産の影響は全くなく、子宮の異物も消えたのだと思う。
しかし時間が経つにつれて、プログラミングの効果は徐々に薄れて体調の変化が著しく出てきた。年齢や仕事の量のせいもあるだろうが、今回病状が悪化したのをみると絵菜も離れ私の修復力も消えてきた、といったところだろう。
医者要らず、だな。
もし、この能力が全人類に備わったとしたら…。喜び歓喜する者はたくさんいるだろう。しかし、人口は増え続け大きな問題も多数出てくるはず。
考え方の統一など無駄なくらいの人口爆発に繋がる。殺し合いも頻繁に起こるだろう…。
絵菜が(兵器)、間違いではない。
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