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number.27 足並み揃えて、発進
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(::陽性)
絵菜が妊娠した。
まだ詳しい検査をしていないので状態はわからないが、トイレに設置された尿検査の結果では陽性と出た。
これから梅田さんの経営する医療施設に移して経過観察を行う予定だ。
さよなら、が来た。
僕はその後ロサ製薬海外支部に行き、そこでスパイの職務に就く。僕にはそれしかできない、それしかやってこなかった。自由にしろと言われても一般的な職務には順応できないのはわかっていた。
何も変わらない。変わったのは、意識だ。
可哀想という感情、愛おしいという感情を実感するようになってしまった。これで今までのようなミッションもこなせない。
絵菜が医療施設に送られる、可哀想だ。絵菜は身体的損傷のケアに特化しているが、精神的なものからくる症状には全くの無抵抗と梅田さんから聞いた。ストレスを感じるとダイレクトに身体にきてしまう。そのため人のいない山奥に住んでいたのだろう。
それなのに知ってる者がひとりもいない施設に行く。もしかしたら記憶が戻ってパニックになって体調不良を起こすかもしれない。子供も絵菜も駄目になるかもしれない。
絵菜は相変わらずのんびりテレビを観ている。何も知らずに。
ふと、チップを取り出した際の傷に触れる。傷になってまだそんなに経っていないのに傷口は完全に塞がり、うっすらケロイドがみられる程度。
…絵菜の力か。医者も薬もいらない、か。
ロサ製薬も潰れるな。
(梅田邸)
「私の逮捕状はまだみたいだな。」
「何言ってるの?警察なんかそもそも動いてないじゃない。」
退院した梅田夫人は呆れたように夫に言った。
絵菜の妊娠は知っている。そこまで赤居 美島に執着している夫にも呆れていたが、絵菜の父親はあの小皆教授。後々使えるかもしれない人材だ、とっておいて損はないだろう。
「いつ絵菜を病院に隔離するの?」
「早いうちにとは思っている。ホテルから少し距離があるから警戒して輸送しないと。」
「ヘリでも使ったら?」
「ヘリか。ドクターヘリだったら怪しまれないかもしれないな。」
絵菜の輸送は二日後に決まった。奏はその後すぐに空港から海外へ向かう予定。これでいい、これでよし。
(リリーグループ 本社 会議室)
蓮原が然を呼んだ。弟の不祥事とリウの脱走の件での対策を話し合うためだ。
「奏はおそらく絵菜と一緒にロサ製薬に匿われている。何をさせられているかはわからないけど、こちらとして都合の良いこととは思えないわ。然の顔は奏と一緒…奏に扮して、とも考えたんだけど、作戦を考えてる時間がないの。今回の件でロサ製薬側に顔が割れてなくて上手く立ち回れるのは、」
「リウですか。」
「えぇ。」
「まだ見つかりませんか。」
「リウもチップを取っていてね。でも、そんなに遠くには行っていないはずなの。」
そう言ってパソコンのメールボックスを開く。
「フリーアカウントからなんだけど、多分リウよ。」
(エナ、ソウ ローザガーデンホテル3804)
「なぜ…?」
「後ろめたくなったのか、他に目的があるのか。とにかく絵菜と奏の居場所はわかったの。でもずっと同じ場所にいるとは考えにくい、そろそろ移動すると思うわ。」
「移動先に心当たりなどは、」
別のメールを開き、然に見せる。
(エナ妊娠。近日桜丘病院ヘ輸送、)
「…妊娠?」
「梅田社長は赤居 美島への執着心がある、遺伝子を継ぐ子供が欲しかったのね。でもそれだけではなさそうなのよ…。」
「赤居 美島の遺伝子…?絵菜の母親は蓮原さんですよね。」
「然、あなた達兄弟の母親よ。」
「……え。」
ブレインナンバーに入っている000008が、母親…?
「突然のカミングアウトで驚いてるところ申し訳ないんだけど、然にリウを探して協力を仰ぐよう説得して欲しいの。お願い…。」
リウ、今いちばん会いたくない奴。リウはオレが惚れていたことを知っているのだろうか…気まずい。赤居 美島が母親だった事実より嫌悪感が半端ない。
でも棗も景もいない。オレしかいない…。
「…わかりました。リウの居場所、何か心当たりはありませんか。」
「…感、でわかるでしょ?頼んだわよ。」
感、ねぇ…。オレはリウを探しに向かった。
絵菜が妊娠した。
まだ詳しい検査をしていないので状態はわからないが、トイレに設置された尿検査の結果では陽性と出た。
これから梅田さんの経営する医療施設に移して経過観察を行う予定だ。
さよなら、が来た。
僕はその後ロサ製薬海外支部に行き、そこでスパイの職務に就く。僕にはそれしかできない、それしかやってこなかった。自由にしろと言われても一般的な職務には順応できないのはわかっていた。
何も変わらない。変わったのは、意識だ。
可哀想という感情、愛おしいという感情を実感するようになってしまった。これで今までのようなミッションもこなせない。
絵菜が医療施設に送られる、可哀想だ。絵菜は身体的損傷のケアに特化しているが、精神的なものからくる症状には全くの無抵抗と梅田さんから聞いた。ストレスを感じるとダイレクトに身体にきてしまう。そのため人のいない山奥に住んでいたのだろう。
それなのに知ってる者がひとりもいない施設に行く。もしかしたら記憶が戻ってパニックになって体調不良を起こすかもしれない。子供も絵菜も駄目になるかもしれない。
絵菜は相変わらずのんびりテレビを観ている。何も知らずに。
ふと、チップを取り出した際の傷に触れる。傷になってまだそんなに経っていないのに傷口は完全に塞がり、うっすらケロイドがみられる程度。
…絵菜の力か。医者も薬もいらない、か。
ロサ製薬も潰れるな。
(梅田邸)
「私の逮捕状はまだみたいだな。」
「何言ってるの?警察なんかそもそも動いてないじゃない。」
退院した梅田夫人は呆れたように夫に言った。
絵菜の妊娠は知っている。そこまで赤居 美島に執着している夫にも呆れていたが、絵菜の父親はあの小皆教授。後々使えるかもしれない人材だ、とっておいて損はないだろう。
「いつ絵菜を病院に隔離するの?」
「早いうちにとは思っている。ホテルから少し距離があるから警戒して輸送しないと。」
「ヘリでも使ったら?」
「ヘリか。ドクターヘリだったら怪しまれないかもしれないな。」
絵菜の輸送は二日後に決まった。奏はその後すぐに空港から海外へ向かう予定。これでいい、これでよし。
(リリーグループ 本社 会議室)
蓮原が然を呼んだ。弟の不祥事とリウの脱走の件での対策を話し合うためだ。
「奏はおそらく絵菜と一緒にロサ製薬に匿われている。何をさせられているかはわからないけど、こちらとして都合の良いこととは思えないわ。然の顔は奏と一緒…奏に扮して、とも考えたんだけど、作戦を考えてる時間がないの。今回の件でロサ製薬側に顔が割れてなくて上手く立ち回れるのは、」
「リウですか。」
「えぇ。」
「まだ見つかりませんか。」
「リウもチップを取っていてね。でも、そんなに遠くには行っていないはずなの。」
そう言ってパソコンのメールボックスを開く。
「フリーアカウントからなんだけど、多分リウよ。」
(エナ、ソウ ローザガーデンホテル3804)
「なぜ…?」
「後ろめたくなったのか、他に目的があるのか。とにかく絵菜と奏の居場所はわかったの。でもずっと同じ場所にいるとは考えにくい、そろそろ移動すると思うわ。」
「移動先に心当たりなどは、」
別のメールを開き、然に見せる。
(エナ妊娠。近日桜丘病院ヘ輸送、)
「…妊娠?」
「梅田社長は赤居 美島への執着心がある、遺伝子を継ぐ子供が欲しかったのね。でもそれだけではなさそうなのよ…。」
「赤居 美島の遺伝子…?絵菜の母親は蓮原さんですよね。」
「然、あなた達兄弟の母親よ。」
「……え。」
ブレインナンバーに入っている000008が、母親…?
「突然のカミングアウトで驚いてるところ申し訳ないんだけど、然にリウを探して協力を仰ぐよう説得して欲しいの。お願い…。」
リウ、今いちばん会いたくない奴。リウはオレが惚れていたことを知っているのだろうか…気まずい。赤居 美島が母親だった事実より嫌悪感が半端ない。
でも棗も景もいない。オレしかいない…。
「…わかりました。リウの居場所、何か心当たりはありませんか。」
「…感、でわかるでしょ?頼んだわよ。」
感、ねぇ…。オレはリウを探しに向かった。
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