Brain Nunber

藤岡 志眞子

文字の大きさ
27 / 33

number.27 足並み揃えて、発進

しおりを挟む
(::陽性)

絵菜が妊娠した。
まだ詳しい検査をしていないので状態はわからないが、トイレに設置された尿検査の結果では陽性と出た。
これから梅田さんの経営する医療施設に移して経過観察を行う予定だ。
さよなら、が来た。
僕はその後ロサ製薬海外支部に行き、そこでスパイの職務に就く。僕にはそれしかできない、それしかやってこなかった。自由にしろと言われても一般的な職務には順応できないのはわかっていた。
何も変わらない。変わったのは、意識だ。
可哀想という感情、愛おしいという感情を実感するようになってしまった。これで今までのようなミッションもこなせない。
絵菜が医療施設に送られる、可哀想だ。絵菜は身体的損傷のケアに特化しているが、精神的なものからくる症状には全くの無抵抗と梅田さんから聞いた。ストレスを感じるとダイレクトに身体にきてしまう。そのため人のいない山奥に住んでいたのだろう。
それなのに知ってる者がひとりもいない施設に行く。もしかしたら記憶が戻ってパニックになって体調不良を起こすかもしれない。子供も絵菜も駄目になるかもしれない。
絵菜は相変わらずのんびりテレビを観ている。何も知らずに。
ふと、チップを取り出した際の傷に触れる。傷になってまだそんなに経っていないのに傷口は完全に塞がり、うっすらケロイドがみられる程度。
…絵菜の力か。医者も薬もいらない、か。
ロサ製薬も潰れるな。



(梅田邸)

「私の逮捕状はまだみたいだな。」

「何言ってるの?警察なんかそもそも動いてないじゃない。」

退院した梅田夫人は呆れたように夫に言った。
絵菜の妊娠は知っている。そこまで赤居 美島に執着している夫にも呆れていたが、絵菜の父親はあの小皆教授。後々使えるかもしれない人材だ、とっておいて損はないだろう。

「いつ絵菜を病院に隔離するの?」

「早いうちにとは思っている。ホテルから少し距離があるから警戒して輸送しないと。」

「ヘリでも使ったら?」

「ヘリか。ドクターヘリだったら怪しまれないかもしれないな。」

絵菜の輸送は二日後に決まった。奏はその後すぐに空港から海外へ向かう予定。これでいい、これでよし。


(リリーグループ 本社 会議室)

蓮原が然を呼んだ。弟の不祥事とリウの脱走の件での対策を話し合うためだ。

「奏はおそらく絵菜と一緒にロサ製薬に匿われている。何をさせられているかはわからないけど、こちらとして都合の良いこととは思えないわ。然の顔は奏と一緒…奏に扮して、とも考えたんだけど、作戦を考えてる時間がないの。今回の件でロサ製薬側に顔が割れてなくて上手く立ち回れるのは、」

「リウですか。」

「えぇ。」

「まだ見つかりませんか。」

「リウもチップを取っていてね。でも、そんなに遠くには行っていないはずなの。」

そう言ってパソコンのメールボックスを開く。

「フリーアカウントからなんだけど、多分リウよ。」

(エナ、ソウ ローザガーデンホテル3804)

「なぜ…?」

「後ろめたくなったのか、他に目的があるのか。とにかく絵菜と奏の居場所はわかったの。でもずっと同じ場所にいるとは考えにくい、そろそろ移動すると思うわ。」

「移動先に心当たりなどは、」

別のメールを開き、然に見せる。

(エナ妊娠。近日桜丘病院ヘ輸送、)

「…妊娠?」

「梅田社長は赤居 美島への執着心がある、遺伝子を継ぐ子供が欲しかったのね。でもそれだけではなさそうなのよ…。」

「赤居 美島の遺伝子…?絵菜の母親は蓮原さんですよね。」

「然、あなた達兄弟の母親よ。」

「……え。」

ブレインナンバーに入っている000008が、母親…?

「突然のカミングアウトで驚いてるところ申し訳ないんだけど、然にリウを探して協力を仰ぐよう説得して欲しいの。お願い…。」

リウ、今いちばん会いたくない奴。リウはオレが惚れていたことを知っているのだろうか…気まずい。赤居 美島が母親だった事実より嫌悪感が半端ない。
でも棗も景もいない。オレしかいない…。

「…わかりました。リウの居場所、何か心当たりはありませんか。」

「…感、でわかるでしょ?頼んだわよ。」

感、ねぇ…。オレはリウを探しに向かった。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

不思議なショートストーリーたち

フジーニー
ミステリー
さくっと読める短編集 電車内の暇つぶしに、寝る前のお供に、毎日の楽しみに。

処理中です...