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number.28 失
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リウと然が久しぶりに顔を合わせた。場所はグラジオラス養護施設の訓練場。
懐かしい、楽しかった記憶は一切ないがここで過ごした時のことは一生忘れないだろう。夏草が一面に生い茂り、遠くには陽炎が立ち昇っている。
「自分の過去を知って捻くれたのかよ。」
「捻くれてたのが直ったんだよ。」
「は。」
リウは研究室の個人データを見て過去の記憶を思い出した。しかし、データの内容とは違った。戻った自分の記憶をさらうべく、当てずっぽうでいろいろと調べたらしい。
すると、住んでいた家の近くに(花庭)という家があった。その家は近所付き合いがほとんどなく、どんな人が住んでいたのかもあまり知られていなかった。しかしリウは、その花庭の家の者と交流があった。リウの話によると花庭はマイナーな宗教信者で、仕事はふつうのサラリーマンと聞いていた。リウが知っている限り、おじさんとおばさん、息子らしい人と家族三人が住んでいた。
父親と母親が死んで花庭の者に助けてもらい、一年くらい住まわせてもらっていた。その時、その家に蓮原がいた、と。
「蓮原?…なんで?」
「花庭のおじさんの、その息子が小皆教授だったんだよ。」
蓮原と小皆教授は付き合ってたんだっけ。
「玲子は、その時腹がデカかった。」
「…絵菜か?」
「多分な。玲子の腹が萎んで子供がどこに行ったのかはわからなかったが、玲子が子供と一緒にいたことはない。暫くして久々に来た玲子に連れられて、俺はグラジオラスに行ったんだ。それからはボロボロになるまで訓練ばっかりさせられて、不味い飯食わされて…記憶が戻って思い出すことなんて、そんなことばっかりだよ。」
「その記憶が消されて…上書きされていたのか。」
「あぁ。おまえと同じPlan.2のな。」
「誕生日パーティなんてやったことねぇよ。」
「俺だってポチなんて犬、飼った覚えねぇよ。」
笑える。同じ記憶なのに、記憶にない記憶。
「で、なんで絵菜の居場所を教えてくれたんだ?」
「…産まれる前の絵菜、腹の外から見てたしな。触ったり、声掛けたりしてたんだよ。男に生まれて来いとかな…。俺、ひとりっ子だったからさ、兄弟が欲しかったんだよ。なのに両親(りょうおや)が死んじゃうし…。誰だかわからない女の腹の子楽しみにしてたのに、会えなかったからさ。」
「…気持ち悪いな、リウ、どうした?」
「然、最初は違和感半端ねぇけど、だんだんむず痒いのも減ってくぜ?」
「…このままでいいよ。」
Brain numberの効果がなくなると、人間はこうも変わるのだろうか…一言一言が痒くて痒くてたまらない。
「絵菜を助ければいいんだろ。」
「…ついでに奏も。」
「…ついでに絵菜のガキも。」
話はまとまった。実行は、明日。
(ローザガーデンホテル 3804)
「絵菜、大気汚染の数値が良くなったから、外に遊びに行かないか?」
「外に出られるの?」
急いで窓のカーテンを開け外を見る。…いつもと変わらない。変わらずきれいな街並みがよく見える。
「数値の話であって目には見えないんだよ、大丈夫。さあ、行こう?」
大気汚染なんて嘘っぱち。テレビに流れるニュースも嘘っぱち。夫婦なのも嘘っぱち。
僕もやっとリアルな生活に戻れる。絵菜とさよならをする。
「奏、外に出たら何ができるの?」
「そうだな、何だってできるよ。買い物も好きな物も食べられるし。」
医療施設に送られるんだよ。
「一緒にいろんなところに行けるの?」
「うん、海にも山にも…どこか行きたいところある?」
僕は海外、絵菜は病室から出られなくなるんだよ。
「私は…奏と一緒にいられるなら、どこでもいいよ。」
いられないんだよ。
「なら、この部屋でもいいじゃないか。」
「いいよ。」
僕も、いいよ。
「奏、いなくならないでね…?」
「いなくならないよ…?」
記憶からもいなくなるんだよ。
「…奏?」
「絵菜…逃げよう。」
「え?」
奏は泣いていた。泣きながら、私の話をしてくれた…お腹に赤ちゃんがいることも話してくれた。そして、私が実験に使われることも話してくれた。
「逃げよう。」
「うん。」
扉を開け、初めて部屋の外に出る。紅いカーペット敷きの一本廊下の先に扉が見える。
絵菜の手を取り奏が走る。扉の横のモニターに番号を入力する。
ガチャ
扉はエレベーターになっていて行き先は四十階、三十階、二五階、二十階、十七階、十階、五階となっていた。
奏は十七階のボタンを押した。エレベーターが動く、途端、耳が変になる。
「どこに行くの?」
「十七階の接続通路を渡ってロサ製薬本社ビルに行く。それから一階に降りて、もうひとつのエレベーターに乗り換えて地下駐車場に行くんだ。クルマに乗ってリリーグループ本社に向かう。そこまで行けば大丈夫だ。」
…いっぺんに言われてわからなかったが、奏について行けば大丈夫だろう。
十七階に到着。扉が開き、深緑色のカーペット敷きのエレベーターホールに着いた。
エレベーターはこの一機のみ。エレベーターホールからまっすぐ延びる廊下を走る。途中左に曲がり、ガラス張りの空中通路が現れた。それを渡りきるとグレーのカーペット敷きの廊下に出た。右に曲がり暫く歩くとエレベーターが三機あるエレベーターホールに着いた。
三つ全てのボタンを押して待っていると真ん中のエレベーターの扉が開いた。エレベーターに乗り一階のボタンを押す。
十五、十四、十三…モニターに映し出された数字をふたりで見つめる。どうか、一階まで止まらないでくれ。
七、六、五… ポーン。
止まった。
絵菜と手を繋いでいない方の手を腰にやる、扉が開く。
「よう。」
「…リウ?」
「降りてきたところ悪いが、ヘリポートまで上に行け。」
そう言って隣りのエレベーターに乗せられる。
「ヘリ…っていうか、なんでここにいるんだ?」
「おまえらがここにいる時から俺もここにいた。梅田が何をしていたのか知ってる…助けに来たんだよ。ってか絵菜の輸送をヘリでやるって梅田から聞いてないのか?」
「…そうだと思ってクルマで出ようと思ったんだ。」
「大丈夫だ、ヘリのパイロットは然がしめた。借りてリリーに行こう。」
「助けに来たのはリウだけか?」
「…俺だけじゃ不満か?」
「そうじゃなくて…。」
「玲子か?すげぇキレてたぞ。帰ったら説教喰らうんだな、覚悟してろよ。」
戻って、いいのか…?
「…然がヘリを飛ばすのか?」
「然は飛ばせるぞ?…暫く乗ってないと思うが。」
…大丈夫なのか。
ポーン
ヘリポート、か?
扉が開く。
「裏切り者の皆様、こんにちは。」
はい、登場。
ロサの人間三人が、ガンをこちらに向けて待っていた。
瞬間奏と絵菜はしゃがみ、リウがガンを撃つ。撃った玉が三人に命中、さすが。
ひとまずエレベーターから出る。しかし、エレベーターホールにはガンを構えた複数の人間がいた。
まずい。
奏と絵菜は非常階段に走る。ヘリポートまで二十階くらいあったが仕方ない。
階段を登る後ろでガンを撃ち合う音がする。リウひとりで大丈夫だろうか。
五階ほど登ったところで絵菜が動けなくなった。
「む、無理…。」
だろうな。運動なんて一切していなかったし…
仕方なく今いる階からエレベーターに乗れないだろうか?非常階段の出口のドアを細めに開ける。誰もいない。
絵菜を抱えエレベーターホールに出る。ボタンを押したら丁度来た。急いで乗り込みヘリポートへのボタンを押す。順調に上がりヘリポートに着いた。
ポーン
怖いくらい誰もいない。目の前にはドクターヘリが停まっていた。あれか?
絵菜を抱え直しヘリに近づく… 左腕に衝撃が走る。
絵菜が地面に落ち、奏も膝から崩れた。瞬間、銃声が鳴る。
非常階段で登ってきたリウが来た(速い)。リウを追ってロサの人間もぞくぞくとやってくる。鳴り止まない銃声。奏は急所は外れているものの三箇所撃たれていた。…やばい。
絵菜は息が上がりっぱなしで苦しそうだ。血塗れの手で絵菜に触れる…前に、絵菜の尻の辺りが真っ赤になっている。撃たれたのか?
「奏、動けるなら早く絵菜をヘリに、」
「絵菜が撃たれた、血が、」
「え?生きてるか?」
呼吸はしている。腰を撃たれたのか?確認してみたが撃たれてはいない…。
「子供が…」
「え?」
撃たれたわけではなかった。
「と、とにかくヘリに、ヘリに行け!」
「リウが連れてってくれ、」
「は?」
奏を見ると左腕、左腿、右肩を撃たれていた。絵菜を抱えられない。
ロサの人間がへばっている。息のある奴がインカムで応援を呼んでいる。
リウが絵菜を抱えヘリに走る。リウも左脇を撃たれていたが痛みは感じなかった。
「リウ!早く乗れ!奏、早く、走れ!」
操縦席の然が叫ぶ。リウと絵菜がヘリに乗り込む。プロペラが回り始めた。離陸の準備はできている、あとは奏だけ。
「リウ、最後に聞きたいことがある、」
奏がよたよたと歩きながら叫んだ。
「いいから早く来い!」
「リウは…初恋はいつだった?」
………は?
「何言ってんだよ!?くだらないこと言ってないで早く、」
「いつだった?!」
「お、おまえとおんなじくらいっ」
「…そうか、僕は、絵菜が初恋の人なん、だよ…遅く、ないよ、ね?」
「あぁ、そうだな。初恋のヤツならちゃんと助けてやれよ、早く…来いーっ、」
パンッ
奏のこめかみに赤い飛沫が見えた。
動きが止まり、倒れた。
「時間がない、離陸するぞ。」
ドアを閉めロックを掛ける。エンジン全開にしてヘリは離陸した。小さくなるヘリポートには赤い染みが見える。染みの真ん中には奏が倒れていた。
「最後の質問、意味わかんねぇな。」
然が言う。
「初恋か…然は、十歳くらいか。」
「なんだよそれ。」
「俺が好きだったんだろ。」
「…知ってたのかよ。」
「今も、か?」
「違うね。」
「兄貴の方が早かったみたいだな。」
奏の初恋相手は今、然の初恋相手の膝を枕に眠っている。
懐かしい、楽しかった記憶は一切ないがここで過ごした時のことは一生忘れないだろう。夏草が一面に生い茂り、遠くには陽炎が立ち昇っている。
「自分の過去を知って捻くれたのかよ。」
「捻くれてたのが直ったんだよ。」
「は。」
リウは研究室の個人データを見て過去の記憶を思い出した。しかし、データの内容とは違った。戻った自分の記憶をさらうべく、当てずっぽうでいろいろと調べたらしい。
すると、住んでいた家の近くに(花庭)という家があった。その家は近所付き合いがほとんどなく、どんな人が住んでいたのかもあまり知られていなかった。しかしリウは、その花庭の家の者と交流があった。リウの話によると花庭はマイナーな宗教信者で、仕事はふつうのサラリーマンと聞いていた。リウが知っている限り、おじさんとおばさん、息子らしい人と家族三人が住んでいた。
父親と母親が死んで花庭の者に助けてもらい、一年くらい住まわせてもらっていた。その時、その家に蓮原がいた、と。
「蓮原?…なんで?」
「花庭のおじさんの、その息子が小皆教授だったんだよ。」
蓮原と小皆教授は付き合ってたんだっけ。
「玲子は、その時腹がデカかった。」
「…絵菜か?」
「多分な。玲子の腹が萎んで子供がどこに行ったのかはわからなかったが、玲子が子供と一緒にいたことはない。暫くして久々に来た玲子に連れられて、俺はグラジオラスに行ったんだ。それからはボロボロになるまで訓練ばっかりさせられて、不味い飯食わされて…記憶が戻って思い出すことなんて、そんなことばっかりだよ。」
「その記憶が消されて…上書きされていたのか。」
「あぁ。おまえと同じPlan.2のな。」
「誕生日パーティなんてやったことねぇよ。」
「俺だってポチなんて犬、飼った覚えねぇよ。」
笑える。同じ記憶なのに、記憶にない記憶。
「で、なんで絵菜の居場所を教えてくれたんだ?」
「…産まれる前の絵菜、腹の外から見てたしな。触ったり、声掛けたりしてたんだよ。男に生まれて来いとかな…。俺、ひとりっ子だったからさ、兄弟が欲しかったんだよ。なのに両親(りょうおや)が死んじゃうし…。誰だかわからない女の腹の子楽しみにしてたのに、会えなかったからさ。」
「…気持ち悪いな、リウ、どうした?」
「然、最初は違和感半端ねぇけど、だんだんむず痒いのも減ってくぜ?」
「…このままでいいよ。」
Brain numberの効果がなくなると、人間はこうも変わるのだろうか…一言一言が痒くて痒くてたまらない。
「絵菜を助ければいいんだろ。」
「…ついでに奏も。」
「…ついでに絵菜のガキも。」
話はまとまった。実行は、明日。
(ローザガーデンホテル 3804)
「絵菜、大気汚染の数値が良くなったから、外に遊びに行かないか?」
「外に出られるの?」
急いで窓のカーテンを開け外を見る。…いつもと変わらない。変わらずきれいな街並みがよく見える。
「数値の話であって目には見えないんだよ、大丈夫。さあ、行こう?」
大気汚染なんて嘘っぱち。テレビに流れるニュースも嘘っぱち。夫婦なのも嘘っぱち。
僕もやっとリアルな生活に戻れる。絵菜とさよならをする。
「奏、外に出たら何ができるの?」
「そうだな、何だってできるよ。買い物も好きな物も食べられるし。」
医療施設に送られるんだよ。
「一緒にいろんなところに行けるの?」
「うん、海にも山にも…どこか行きたいところある?」
僕は海外、絵菜は病室から出られなくなるんだよ。
「私は…奏と一緒にいられるなら、どこでもいいよ。」
いられないんだよ。
「なら、この部屋でもいいじゃないか。」
「いいよ。」
僕も、いいよ。
「奏、いなくならないでね…?」
「いなくならないよ…?」
記憶からもいなくなるんだよ。
「…奏?」
「絵菜…逃げよう。」
「え?」
奏は泣いていた。泣きながら、私の話をしてくれた…お腹に赤ちゃんがいることも話してくれた。そして、私が実験に使われることも話してくれた。
「逃げよう。」
「うん。」
扉を開け、初めて部屋の外に出る。紅いカーペット敷きの一本廊下の先に扉が見える。
絵菜の手を取り奏が走る。扉の横のモニターに番号を入力する。
ガチャ
扉はエレベーターになっていて行き先は四十階、三十階、二五階、二十階、十七階、十階、五階となっていた。
奏は十七階のボタンを押した。エレベーターが動く、途端、耳が変になる。
「どこに行くの?」
「十七階の接続通路を渡ってロサ製薬本社ビルに行く。それから一階に降りて、もうひとつのエレベーターに乗り換えて地下駐車場に行くんだ。クルマに乗ってリリーグループ本社に向かう。そこまで行けば大丈夫だ。」
…いっぺんに言われてわからなかったが、奏について行けば大丈夫だろう。
十七階に到着。扉が開き、深緑色のカーペット敷きのエレベーターホールに着いた。
エレベーターはこの一機のみ。エレベーターホールからまっすぐ延びる廊下を走る。途中左に曲がり、ガラス張りの空中通路が現れた。それを渡りきるとグレーのカーペット敷きの廊下に出た。右に曲がり暫く歩くとエレベーターが三機あるエレベーターホールに着いた。
三つ全てのボタンを押して待っていると真ん中のエレベーターの扉が開いた。エレベーターに乗り一階のボタンを押す。
十五、十四、十三…モニターに映し出された数字をふたりで見つめる。どうか、一階まで止まらないでくれ。
七、六、五… ポーン。
止まった。
絵菜と手を繋いでいない方の手を腰にやる、扉が開く。
「よう。」
「…リウ?」
「降りてきたところ悪いが、ヘリポートまで上に行け。」
そう言って隣りのエレベーターに乗せられる。
「ヘリ…っていうか、なんでここにいるんだ?」
「おまえらがここにいる時から俺もここにいた。梅田が何をしていたのか知ってる…助けに来たんだよ。ってか絵菜の輸送をヘリでやるって梅田から聞いてないのか?」
「…そうだと思ってクルマで出ようと思ったんだ。」
「大丈夫だ、ヘリのパイロットは然がしめた。借りてリリーに行こう。」
「助けに来たのはリウだけか?」
「…俺だけじゃ不満か?」
「そうじゃなくて…。」
「玲子か?すげぇキレてたぞ。帰ったら説教喰らうんだな、覚悟してろよ。」
戻って、いいのか…?
「…然がヘリを飛ばすのか?」
「然は飛ばせるぞ?…暫く乗ってないと思うが。」
…大丈夫なのか。
ポーン
ヘリポート、か?
扉が開く。
「裏切り者の皆様、こんにちは。」
はい、登場。
ロサの人間三人が、ガンをこちらに向けて待っていた。
瞬間奏と絵菜はしゃがみ、リウがガンを撃つ。撃った玉が三人に命中、さすが。
ひとまずエレベーターから出る。しかし、エレベーターホールにはガンを構えた複数の人間がいた。
まずい。
奏と絵菜は非常階段に走る。ヘリポートまで二十階くらいあったが仕方ない。
階段を登る後ろでガンを撃ち合う音がする。リウひとりで大丈夫だろうか。
五階ほど登ったところで絵菜が動けなくなった。
「む、無理…。」
だろうな。運動なんて一切していなかったし…
仕方なく今いる階からエレベーターに乗れないだろうか?非常階段の出口のドアを細めに開ける。誰もいない。
絵菜を抱えエレベーターホールに出る。ボタンを押したら丁度来た。急いで乗り込みヘリポートへのボタンを押す。順調に上がりヘリポートに着いた。
ポーン
怖いくらい誰もいない。目の前にはドクターヘリが停まっていた。あれか?
絵菜を抱え直しヘリに近づく… 左腕に衝撃が走る。
絵菜が地面に落ち、奏も膝から崩れた。瞬間、銃声が鳴る。
非常階段で登ってきたリウが来た(速い)。リウを追ってロサの人間もぞくぞくとやってくる。鳴り止まない銃声。奏は急所は外れているものの三箇所撃たれていた。…やばい。
絵菜は息が上がりっぱなしで苦しそうだ。血塗れの手で絵菜に触れる…前に、絵菜の尻の辺りが真っ赤になっている。撃たれたのか?
「奏、動けるなら早く絵菜をヘリに、」
「絵菜が撃たれた、血が、」
「え?生きてるか?」
呼吸はしている。腰を撃たれたのか?確認してみたが撃たれてはいない…。
「子供が…」
「え?」
撃たれたわけではなかった。
「と、とにかくヘリに、ヘリに行け!」
「リウが連れてってくれ、」
「は?」
奏を見ると左腕、左腿、右肩を撃たれていた。絵菜を抱えられない。
ロサの人間がへばっている。息のある奴がインカムで応援を呼んでいる。
リウが絵菜を抱えヘリに走る。リウも左脇を撃たれていたが痛みは感じなかった。
「リウ!早く乗れ!奏、早く、走れ!」
操縦席の然が叫ぶ。リウと絵菜がヘリに乗り込む。プロペラが回り始めた。離陸の準備はできている、あとは奏だけ。
「リウ、最後に聞きたいことがある、」
奏がよたよたと歩きながら叫んだ。
「いいから早く来い!」
「リウは…初恋はいつだった?」
………は?
「何言ってんだよ!?くだらないこと言ってないで早く、」
「いつだった?!」
「お、おまえとおんなじくらいっ」
「…そうか、僕は、絵菜が初恋の人なん、だよ…遅く、ないよ、ね?」
「あぁ、そうだな。初恋のヤツならちゃんと助けてやれよ、早く…来いーっ、」
パンッ
奏のこめかみに赤い飛沫が見えた。
動きが止まり、倒れた。
「時間がない、離陸するぞ。」
ドアを閉めロックを掛ける。エンジン全開にしてヘリは離陸した。小さくなるヘリポートには赤い染みが見える。染みの真ん中には奏が倒れていた。
「最後の質問、意味わかんねぇな。」
然が言う。
「初恋か…然は、十歳くらいか。」
「なんだよそれ。」
「俺が好きだったんだろ。」
「…知ってたのかよ。」
「今も、か?」
「違うね。」
「兄貴の方が早かったみたいだな。」
奏の初恋相手は今、然の初恋相手の膝を枕に眠っている。
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