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まさかのキス写真
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カシャ!
人通りのほとんどない薄暗い夜道に、オレのカメラのシャッター音が響いた。
よーし、今日こそ売れるゴシップをガッツリ激写してやるぜ。
カメラの調子もバッチリ………。
「…ぶっ、ぶぇっくし!」
オレは豪快にくしゃみをして、ブルブルと震えあがった。
寒い。
中古で買ったダウンコートはぺたんとくたびれていて、それほどあったかくもない。
これでも今にも底をつきそうな貯金をはたいて奮発して買ったんだけど。
極寒の寒空の下、防寒の役割を果たしているとは到底言えなかった。
「にゃあ」
毛の長い野良猫が寄ってきて、オレの足元に頭をすりよせた。
「お前も寒いんだな」
オレはカメラから片手を離して猫の頭を撫でた。
猫はオレの手に頭をすり寄せて、何か言いたげにオレのほうを見上げている。
「・・・腹減ってるのか?
よし、ちょっと待てよ」
オレはコートのポケットから菓子パンを取り出した。
「半分こしようぜ」
その途端、猫はパッと飛び上がり、オレの手から菓子パンを袋ごと奪いとった。
そしてパンを口にくわえて細い路地のほうへ走り出した。
「あ!
オレの飯!」
猫は路地の奥まで逃げ込むとこちらを振り返ってニヤリと笑った(ようにオレには見えた)。
・・・嘘だろ。
あれ、オレの晩ごはんなんだぞ。
もうオレの財布にはパン一個買う小銭すら残っていなかった。
食事抜きで真冬に張り込みという状況にめげそうになる。
いつまでこんな事しなきゃいけないんだろう。
うつむいた拍子にカメラに視線を落とす。
大学に行かずに映像学校に進みたいと言ったオレに両親が買ってくれた大事なカメラ。
端にはSORAの文字が印字されている。
神原 空。オレの名前。
名前が空だから、なのかな。
子どものときから星空が好きだった。
いつも上を見れば目の前に星はあるけど、同じ星空に出会えることって二度とない。
目に焼きつけるだけじゃ満足できなかった。
ずっと一緒にいたいと思う星空が無数にあった。
だからオレは星空を写真におさめるようになった。
うちはめちゃくちゃ裕福というわけでもなかったから、高級カメラに加えて学費の高い専門学校に行かせてもらうのは結構気が引けた。
しかもオレは男三兄弟の長男だから、できるだけ学費や下宿代は自分がバイトで稼いで通うことにした。
ジリ貧だったけど、好きなことができるのは楽しくて仕方がなかった。
応援してくれる家族もいたからくじけたりしなかった。
星の写真を撮って活躍するプロのカメラマンになりたくて、頑張ってきたんだ。
そうだ。
頑張ってきたのは、こんな仕事をするためじゃない。
どんだけ最悪な気分でも、朝はやって来る。
だったら立ち上がるしかないじゃないか。
次に出会えるチャンスのために。
車が近づいてくる音がして、オレははっと我にかえった。
向こうの角から黒塗りの高級車が現れた。
来た。
オレはかじかんだ手に力を込めてカメラを構え直した。
今日こそ何週間も狙ってたスクープを撮ってやる。
それも今大人気の若手俳優のスキャンダルとくれば、大金が一発で手に入るに違いない。
あと少し頑張れ、オレ。
そうすればこんな仕事とはオサラバできるんだ。
運転手がさっと運転席から降りて後部座席のドアを開くと、今をときめく芸能界の星が颯爽と降り立った。
一瞬で周りの空気がぱっと明るくなったみたいだった。
彼は真夜中だというのに漆黒のサングラスをかけて、細身の黒いレザージャケットを身に纏っている。
それらを着こなす様はファンでなくともカリスマ性を感じてしまう。
南 叶多。
ドラマに出演して間もないうちに、端正な容姿と高い演技力が話題となって大ブレイク。トーク番組にはほとんど出演しないので素顔はあまり知られていないが、数少ない雑誌の記事などによると、性格は至って自由奔放。
何事にも捕らわれずに自由に輝いていたい。
これが彼のモットーだとか。
スクープを撮るために出没ポイントを調べるうちに、マニアのように詳しくなってしまった。
車の窓ガラスが開いて、中年のオヤジが顔を覗かせた。
叶多に何やら話しかけている。
。
テレビでもちょくちょく見かける大物政治家で、政治に興味のないオレでも知っているくらいだ。
そしてこのオヤジときたら、叶多を芸能界との橋渡しとして利用して、金を集めているらしい。
オレが今狙っているのは、この黒い関係を世間に露見させることのできる証拠写真。
写真が撮れて高く売れれば、パパラッチなんか辞められる。
・・・正直、人を売って金儲けをすることに後ろめたさを感じてる。
けど、それでもオレにはまだ諦められない夢があるんだ。
二人はずっと話し込んでいたけど、顔をしかめた叶多が車に背を向けてマンションの入り口に向かいはじめた。
やっと二人の密会に遭遇したっていうのに、収穫なしかとオレが思いかけたその時、車の中から伸びてきた手が叶多の手首をつかんだ。
振り返った叶多は思いきり腕を引っ張られて危うく窓に突っ込みそうになった。
オレは、ぎゅっと脇をしめた。
カシャシャ。
何が起きてもいいようにシャッターをきり続ける。
叶多が車の窓に突っ込むギリギリ手前で足を踏ん張ったところに大門は顔を近づけそして…、
キスをしたんだ!
こ、この二人、実はそういう関係だったのか!?
これじゃあ、社会問題を暴くというよりただのゴシップじゃないか。
見てはいけないものを見てしまった気がして、オレの心臓はバクバクと音を立てている。
撮っていいのか困惑しながらもシャッターボタンから指は離さず、震えを止めようと両手に力を込めた。
献金に関するものが出てくる可能性はゼロじゃないから。
けれどオレの予想とは裏腹に、叶多は車に手を突くと、大門から逃れるように離れた。
大門は満足げな笑みを浮かべたまま、奴を乗せた車は夜の街に姿をくらませていった。
人通りのほとんどない薄暗い夜道に、オレのカメラのシャッター音が響いた。
よーし、今日こそ売れるゴシップをガッツリ激写してやるぜ。
カメラの調子もバッチリ………。
「…ぶっ、ぶぇっくし!」
オレは豪快にくしゃみをして、ブルブルと震えあがった。
寒い。
中古で買ったダウンコートはぺたんとくたびれていて、それほどあったかくもない。
これでも今にも底をつきそうな貯金をはたいて奮発して買ったんだけど。
極寒の寒空の下、防寒の役割を果たしているとは到底言えなかった。
「にゃあ」
毛の長い野良猫が寄ってきて、オレの足元に頭をすりよせた。
「お前も寒いんだな」
オレはカメラから片手を離して猫の頭を撫でた。
猫はオレの手に頭をすり寄せて、何か言いたげにオレのほうを見上げている。
「・・・腹減ってるのか?
よし、ちょっと待てよ」
オレはコートのポケットから菓子パンを取り出した。
「半分こしようぜ」
その途端、猫はパッと飛び上がり、オレの手から菓子パンを袋ごと奪いとった。
そしてパンを口にくわえて細い路地のほうへ走り出した。
「あ!
オレの飯!」
猫は路地の奥まで逃げ込むとこちらを振り返ってニヤリと笑った(ようにオレには見えた)。
・・・嘘だろ。
あれ、オレの晩ごはんなんだぞ。
もうオレの財布にはパン一個買う小銭すら残っていなかった。
食事抜きで真冬に張り込みという状況にめげそうになる。
いつまでこんな事しなきゃいけないんだろう。
うつむいた拍子にカメラに視線を落とす。
大学に行かずに映像学校に進みたいと言ったオレに両親が買ってくれた大事なカメラ。
端にはSORAの文字が印字されている。
神原 空。オレの名前。
名前が空だから、なのかな。
子どものときから星空が好きだった。
いつも上を見れば目の前に星はあるけど、同じ星空に出会えることって二度とない。
目に焼きつけるだけじゃ満足できなかった。
ずっと一緒にいたいと思う星空が無数にあった。
だからオレは星空を写真におさめるようになった。
うちはめちゃくちゃ裕福というわけでもなかったから、高級カメラに加えて学費の高い専門学校に行かせてもらうのは結構気が引けた。
しかもオレは男三兄弟の長男だから、できるだけ学費や下宿代は自分がバイトで稼いで通うことにした。
ジリ貧だったけど、好きなことができるのは楽しくて仕方がなかった。
応援してくれる家族もいたからくじけたりしなかった。
星の写真を撮って活躍するプロのカメラマンになりたくて、頑張ってきたんだ。
そうだ。
頑張ってきたのは、こんな仕事をするためじゃない。
どんだけ最悪な気分でも、朝はやって来る。
だったら立ち上がるしかないじゃないか。
次に出会えるチャンスのために。
車が近づいてくる音がして、オレははっと我にかえった。
向こうの角から黒塗りの高級車が現れた。
来た。
オレはかじかんだ手に力を込めてカメラを構え直した。
今日こそ何週間も狙ってたスクープを撮ってやる。
それも今大人気の若手俳優のスキャンダルとくれば、大金が一発で手に入るに違いない。
あと少し頑張れ、オレ。
そうすればこんな仕事とはオサラバできるんだ。
運転手がさっと運転席から降りて後部座席のドアを開くと、今をときめく芸能界の星が颯爽と降り立った。
一瞬で周りの空気がぱっと明るくなったみたいだった。
彼は真夜中だというのに漆黒のサングラスをかけて、細身の黒いレザージャケットを身に纏っている。
それらを着こなす様はファンでなくともカリスマ性を感じてしまう。
南 叶多。
ドラマに出演して間もないうちに、端正な容姿と高い演技力が話題となって大ブレイク。トーク番組にはほとんど出演しないので素顔はあまり知られていないが、数少ない雑誌の記事などによると、性格は至って自由奔放。
何事にも捕らわれずに自由に輝いていたい。
これが彼のモットーだとか。
スクープを撮るために出没ポイントを調べるうちに、マニアのように詳しくなってしまった。
車の窓ガラスが開いて、中年のオヤジが顔を覗かせた。
叶多に何やら話しかけている。
。
テレビでもちょくちょく見かける大物政治家で、政治に興味のないオレでも知っているくらいだ。
そしてこのオヤジときたら、叶多を芸能界との橋渡しとして利用して、金を集めているらしい。
オレが今狙っているのは、この黒い関係を世間に露見させることのできる証拠写真。
写真が撮れて高く売れれば、パパラッチなんか辞められる。
・・・正直、人を売って金儲けをすることに後ろめたさを感じてる。
けど、それでもオレにはまだ諦められない夢があるんだ。
二人はずっと話し込んでいたけど、顔をしかめた叶多が車に背を向けてマンションの入り口に向かいはじめた。
やっと二人の密会に遭遇したっていうのに、収穫なしかとオレが思いかけたその時、車の中から伸びてきた手が叶多の手首をつかんだ。
振り返った叶多は思いきり腕を引っ張られて危うく窓に突っ込みそうになった。
オレは、ぎゅっと脇をしめた。
カシャシャ。
何が起きてもいいようにシャッターをきり続ける。
叶多が車の窓に突っ込むギリギリ手前で足を踏ん張ったところに大門は顔を近づけそして…、
キスをしたんだ!
こ、この二人、実はそういう関係だったのか!?
これじゃあ、社会問題を暴くというよりただのゴシップじゃないか。
見てはいけないものを見てしまった気がして、オレの心臓はバクバクと音を立てている。
撮っていいのか困惑しながらもシャッターボタンから指は離さず、震えを止めようと両手に力を込めた。
献金に関するものが出てくる可能性はゼロじゃないから。
けれどオレの予想とは裏腹に、叶多は車に手を突くと、大門から逃れるように離れた。
大門は満足げな笑みを浮かべたまま、奴を乗せた車は夜の街に姿をくらませていった。
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