星狩る人

仙崎 楓

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やべえ逆転しちゃった

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「オイコラ、SD出せ」
どこかから、ドスの効いた低い声が聞こえて、オレは耳を疑った。
叶多の口に合わせて誰かがアテレコしてるみたいに思えたけど、違うらしい。
うん、どうやら壁ドンなんて甘ったるいこと言ってる場合じゃないみたいだぞ。
叶多からは先ほどまでのしおらしい様子は全く消えうせている。
「まさか本気でネタもらって帰れるとか思ってたわけ?」
「お、お前、今まで猫かぶってオレを騙してたのか!?」
 さすが役者!
なんて、感心している場合じゃなかった。
怒りに満ちた顔で整った眉も唇もぐにゃりと歪ませて、オレを嘲笑っている。
オレのパパラッチの演技よりも素の叶多のほうが断然ドラマの悪役っぽい。
…正直、こわい。

「お、脅してもデータは渡さないからな!」
 オレはカメラを両手でぎゅっと抱きしめて、叶多に背を向けた。
すると叶多はその拍子にオレのダウンコートのポケットからひょいと財布を抜き取った。
「あ!
 返せよっ!」
 叶多はひょいと財布を上に持ち上げて中からオレの免許証を抜き取った。
「 。
 へえ、俺より1コ上」
ぴょんぴょんと跳ね上がって取り返そうとしたけど、叶多はオレより頭ひとつ背が高いから、かすりもしない。
「猫がオモチャ取ってるみたいだな」
 オレはううっ!と唸って叫んだ。
「もういい!
 自分と似てるかもなんて思ったオレが馬鹿だった!!
 この写真、世間にばらまいてやるっ!!」
「あー、もしばらまかれたら俺どうなるんだろうなー。
 今契約中のCMとか降板で違約金の嵐だろーなー。
 この前一億くらい請求されてる奴いたよなー」
 叶多がチラリと俺のほうを見て言った。
「請求書、そっくりそのままテメエの住所に送ってやるよ」
オレは震え上がった。
一億なんて払えるわけがない。
しかも、ちょっと待てよ。
更新前に実家から引っ越したから、免許証には実家の住所も残ってる。
パパラッチしてるなんて絶対家族に知られるわけにはいかない。
「そ、それって脅迫じゃん!
 警察に捕まるぞ?」
「お前さあ、部屋に閉じ込められててよくそんな態度とれるな」
「…閉じ込められてる?」
「気づいてないのかよ。
 気楽な奴だな」
 叶多は急に仏様のような優しい口調に変わった。
 ただし顔は鬼の形相のままで。
「ここは俺の家。
 お前はデータを渡すまで、今から俺の奴隷。」

 頭から足先までさーっと血の気が引いていくのが分かる。
 叶多はしゃがみ込んで金庫のダイヤルを回すと、金庫の扉を開けてオレの免許証をぽいと放り込んだ。
「のどから手が出るほど欲しがってる献金の証拠と一緒に置いといてやるよ」
「…何でわざわざオレに証拠の在り処を教えたりするんだよ」
「 俺がいない間に部屋の物色されても気味悪いしな。
 ここにいても絶対お前は証拠を手に入れることはできないってこと。
 じゃあな」
「え、お前出掛けるのかっ」
「俺も暇じゃねえんだよ」
「だって、さっき戻ってきたばっかりじゃんか」
「何、そんなに俺と一緒にいたいのか?」
「んなわけねえだろが!」
オレが全力で否定すると叶多は右目だけを細めて不機嫌そうな顔になった。
「そこまで言われると気に食わねえな。
奴隷だったら早く帰ってきてください、待ってますくらい言え」
「え、ヤダよ。
思ってもないのに」
「俺に楯突くと、お前の未来潰すぞ」
「やめてくれ」
怯むオレに叶多はじりじりと詰め寄ってきた。
「言え」

「………、早く、帰ってきてください………」
口にした途端、こっぱずかしくて顔が熱くなった。
 こんなセリフ、誰にも言ったことないぞ!
「何赤くなってんだよ。
 最後の一言がまだだぞ」
叶多はニヤニヤと笑っている。

くそう。
絶対おもしろがってる。
「……待ってます」
「よくできました」
 そういうと叶多はオレのほっぺたにキスをした。
「?!!?!」
 オレは思いきりすっ転んでお尻を床につけてサカサカサカ!と叶多から高速で遠ざかった。
「ご褒美。
 じゃあな」
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