星狩る人

仙崎 楓

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男が壁ドンされても…

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叶多が指紋認証でマンションの入り口のロックを解除すると、寒くて暗い外とは全くの別空間が目の前に広がった。
舞踏会でも開けそうなほどきらびやかで明るいエントランス。
天井からは繊細な造りのシャンデリア光をまとって揺らめいている。
床はピカピカの大理石で、地上の世界を映し出している。

 オレがキョロキョロと見回しているうちに叶多はさっさとエレベーターのボタンを押していた。
間もなくエレベーターの到着音がして、扉が開かれた。
「あの、」
 叶多がオレのほうを振り返って、エレベーターに乗るように促した。
エレベーターの中には大きな鏡があって、エントランスの眩い光を反射させて、前に立つ叶多をキラキラと輝かせた。
自宅のエレベーター前でここまで絵になるとは。
さすが芸能人と高級マンションは違うな。
「エレベーター来ましたけど」
「分かってるよ」
オレは偉そうに答えると、叶多を追い越して先にエレベーターに乗り込んだ。
叶多とすれ違った瞬間、ふわっと甘い香りが鼻をかすめた。

 何だろう、香水じゃない。
 高いシャンプーの香りか?
 いや、それだけじゃない。
きっと、作り物とは違う、その人自身が作り出す匂いだ。
そして、タバコのにおいも微かにまじっていた。
オレの脳裏にはあのオヤジの笑う姿が目に浮かんでいた。



叶多の部屋の鍵も指紋認証になっていて、叶多がパネルに手を触れると、カチャリと鍵の開く音がした。
「どうぞ」
 叶多はドアを開いて、オレを先に家に入れた。
広い大理石の玄関を抜けると、真っ直ぐに通路が伸びていて、両側にいくつかドアがある。
廊下を抜けると、これまただだっ広いリビングが待ち構えていた。
オレの暮らす一部屋のアパートよりも広いリビングなのに、家具は大きなソファひとつしかなく、寂しいくらい小ざっぱりしている。
備え付けのキッチンのカウンターに置かれているわずかな生活用品はシンプルだけどセンスのいいものばかりだ。
けど、部屋の角に沿って床にポンと置かれた黒い金庫だけが違う雰囲気を放っていた。
この中に献金の証拠が入っているのかもしれない。
直感でオレはそう感じた。

ドン!

突然何か大きな物体がオレに向かって飛んできて、オレは背中から壁に激突した。
「い、って…」
 一体、何が起こったんだ?
思わず閉じていた目を開けた次の瞬間、オレは自分の目の前に叶多の顔があることに気がついた。
オレの顔の横には叶多の腕があって、いわゆる「壁ドン」の状態になっている。
え、一体これはどういう…。
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