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友弥の嘘
あいつは呼吸するように嘘をつく。
高校2年の夏休み。珍しくバイトに遅刻した。
母親は朝が早い。いつも僕が起きる時間には家を出ている。
父親は自宅で仕事をしていて、書斎に籠るとしばらく出てこない。もちろん兄弟達は昼まで寝ている。
起きたらバイトの時間の15分前だった。
どんなに自転車飛ばしても、20分はかかる。
しまった。
とりあえず、僕はあいつに電話した。
「友弥?今日ちょっと遅刻する。リーダーに言っといて。後で僕からも連絡するから」
「オッケー」
5分くらいしてリーダーからメッセージがきた。
「大丈夫ですか?竹内君から聞きました。落ち着いたらでいいので待っています」
なんのことだ?まぁいいや。
とりあえず準備を済ませて、バイトに向かった。
30分ほど遅れてバイト先に着いた。
「井上君。大丈夫なの?もっとついててあげたら良かったのに。お大事にってお伝えくださいね」
「あ、はい。大丈夫です。ご心配をおかけしました」
何が大丈夫なんだろう?と思ったけど、とりあえず話を合わせてそう言った。
「じゃあ3番スクリーンの清掃からお願い…竹内君達いるから」
と言われて3番に入ると、ゴミを集めている友弥がいた。
僕は小声で聞いた。
「友弥。リーダーになんて言ったの」
「ん?和真のお母さんが職場で転んでしまって、病院連れて行ってからくるみたいです。親父さんは今出張中で家にいないから、少し遅れるかもと連絡がありましたって。そう言った」
「それでか…お大事にとお伝えくださいって言われてびっくりした」
「でも怒られずに済んだだろ?」
「でも嘘は…いつかバレそうで怖いよ」
「じゃあ訂正してくる!井上君はただ寝坊しただけでしたーって」
「やめて。今更」
「じゃあ1つ貸しね?」
「…あぁ。うん」
友弥とはこのバイトを始めた時に知り合った。
僕より先にバイトをしていた友弥は、僕が入った時の教育係だった。
たぶん性格は真逆。友弥は社交的で明るくて、良く言えば、おおらかで要領が良いタイプ。悪く言えばいい加減で無神経。
僕は自分で言うのもなんだけど、真面目だけど人見知りタイプ。趣味は映画鑑賞と絵を描くこと。友達とカラオケとかもたまに行くけど、あんまり上手くないから、本当に限られた人としか行けない小心者。
僕らは仲良くなれたのが奇跡なくらい、真反対にいる。
自分に無いものを持ってるあいつが、少し羨ましくてずっと見ていた。たぶんそれが間違いだったのかな。
気付いたら友達以上の気持ちを持ってしまっていた。
大学に入ってもあいつは変わらなかった。
入学してからは、友弥と友弥の中学からの友達の桜井学と地方から受験してきた厚木啓治と僕の4人でつるんでいた。
「ない…やばい」
鞄をひっくり返して、友弥が何かを探していると学が聞いた。
「何がないの?」
「Bluetoothのイヤホン」
「彼女にもらったってやつ?」
「そ」
「なんでヤバいの」
と僕が聞いた。
「たぶん彼女んちに置いてきた…」
「彼女にもらったイヤホンなら、別に彼女んちにあってもいいんじゃない?」
と啓治が言った。
「正確に言えば、彼女Aにもらったやつを、彼女Bの家に忘れてきた。まあいいか」
「クズだな」
3人でハモった。
その時、友弥の電話が鳴った。
「はい。え、今日ですか?今日は田舎から祖母が出て来るので、迎えを頼まれてるんですよ。和真なら空いてると思います。聞いときましょうか?…わかりました。お疲れ様ですー」
と言って電話を切った。
「何?」
と僕が聞くと、
「今日彼女とデートなんだわー。でもバイト入ってって言われてさ。和真なら空いてるって言ってみたんだけど、どう?」
「僕も予定あるんだけど」
また僕をいいように使って…
「頼むよー。昔のバイトの貸し、チャラにするからさー」
「わかったよ。でもそんなものすでにチャラになって、なんならお釣りくるくらい、お前の嘘に付き合ってやってるけどな!」
「サンキュー!じゃあ店長に言っとくー!あ。ちなみに今日のデートは彼女Aの方ね!」
「知らん!どっちでもいいわ!」
「じゃ、そろそろ行くわ」
「お疲れー」
と啓治が手を振っている。
「なー。なんでお前らまた同じバイトなの?絶対被害被るのわかるのに」
と学が言った。
僕たちは大学生になってから、映画館のバイトをやめて、ダイニングバーでバイトを始めた。
そん時あいつは僕に言った。
「お前と一緒がいいんだよ。だからおんなじとこバイト行こうよ」
その言葉に何かを期待したのかな。
「時給いいとこあるって誘われたから…」
「それ、絶対都合よく使われるやつじゃん」
「そだね。そうかなって思ったけど、なんかついて行ってしまった。バカだね…自分でも思うよ」
「…じゃあ俺もデートだから行くわ」
と学も帰っていった。
「少しでも一緒にいたかった?だからついていった?」
と学が去ったあと、啓治が言った。
「あーそうかもしれない。気付いてた?」
「うん。なんとなく」
「あいつらには言わないで」
「うん」
「ありがとね」
ある日、友弥に映画に誘われた。
「今週の金曜日の夜、映画行こう?」
「うん。ちょうど見たかったやつだ!」
「そりゃ良かった」
嬉しかった。
当日、待ち合わせ場所に行くと、友弥が電話で揉めている。
「だから、友達と映画行くって言ったろ?…本当に友達なんだって…いや、前から約束してたから…」
と会話の途中で僕に気付いた。
「電話代わるから待って」
といって僕にスマホを渡した。出てというジェスチャーをしたから、渋々電話を代わった。
「もしもし…あぁそうです。大学の…そうですね…はい、じゃあ」
と言って電話を切った。
「納得してた?」
「うん。一応」
「なんか彼女Aが他の女と行くんだろってしつこくて」
「日頃の行いが悪いから、仕方ないんじゃない?」
「なんだとー」
と言ってほっぺを軽くつねってきた。
「いたい」
と言った僕の顔を見て、
「おまえよく見ると可愛いな。女の子なら彼女Cにしたいとこだけど。残念」
嘘つけ。そんなこと微塵も思ってないくせに。
僕は何度も心の中で望んだけど、隣にいる僕はただの友達。
いつまで経ってもただの友達。もう3年以上経つのか。
そろそろ終わらせるべきかもな…
「あ、大丈夫です。間に合ってます」
「何が間に合ってるだよ。彼女いないじゃん」
「でも想ってる人はいるから」
だけど少し気付いて欲しい。そんな気もした。
「そうなんだ。付き合わないの?告白は?」
「うん。告白はしない。片想いなのわかってるから。もうそろそろ潮時かと思ってるし。気持ち整理できたら諦めるから」
「えー。もったいない」
このままだと、誰?とか聞かれそうだから、やっぱまずいと思って話を戻した。
「そーいやなんで映画に僕を誘ったの?彼女と行けばよかったのに。これ、ラブストーリーでしょ。彼女と見るにはちょうどいいんじゃないの?」
「話の内容にはあんまり興味ないから」
「じゃあなんで?」
「ここ。見てみ?」
と友弥が指差した先には、友弥の好きなアーティストの名前があった。
「映画音楽、この人がやってるって知って、映画館で聴きたいと思ってたんだ。彼女と観たら、映画のストーリーがどうとかって話になるだろ?お前ならそんな煩わしさないから」
そっか。そらそーだよな。
特別な意味なんてあるわけない。それがたとえラブストーリーだろうが、ホラーだろうが関係ない。
僕とラブストーリーを見たところで、そのあと愛について語り合うわけないんだから。
映画を見たあと、友弥は満足して帰って行った。
1人で街を歩いていると、
「あれ?和真君?」
誰かに声をかけられた。
「え?三枝さん?」
映画館でバイトしていた時一緒だった、同級生の三枝由香が立っていた。家もわりと近いから、当時は一緒に帰ることもあった。
「久しぶり!こんなとこで1人で何してるの?」
「あー、さっきまで友弥と映画見てたけど、映画見たらあいつ満足して帰ってしまった」
「デートで恋人見送らないなんてひどいね…友弥君も」
「デートって…」
「じゃあ飲みに行かない?」
「あれ、三枝さんてまだ19じゃなかった?」
「実は私、今日で20歳になりましたー!」
「え?今日が誕生日なの?」
「そうなのー。あ、ずっと思ってたけど、呼び方、由香でいいよ。今日、誕生日なんだけど、彼氏とは別れたとこだし、友達はバイトだし、家で家族とご飯ってのも、なんかつまんないと思ってたとこだったから、ちょうど良かったよ!飲みに付き合って?」
「僕でいいの?」
「いいよ!一緒にバイトしてた時、和真君のこと、ちょっと気になってたし」
マジか。
「じゃあ今、僕がバイトしてるとこ行く?ダイニングバーだから」
「え?行くー!」
店に着くと店長が話しかけてきた。
「今日はデートだったからバイト休みだったのか!金曜日の夜で忙しいのになー」
「すみません。でもデートじゃないですよ。たまたま近くで友達に会ったんです」
と話をしてお酒と軽い食事を注文した。
30分くらいした頃、店の入り口が開いて、友弥が1人で入ってきた。
僕達に気付いた友弥は、僕の隣に座って、
「何してんの?こんなとこでー。てか由香!久しぶりだねー」
と言った。
「本当!誕生日に友達2人に偶然会うとは思わなかったよー」
「え?今日誕生日?お祝いしよー」
と3人で酒を飲むことになった。
帰りは僕が送っていくってことで、店の前で友弥と解散した。
「楽しかったー!」
「それは良かった」
「また飲みに行こ!」
「そだね」
「連絡先変わってないよね?」
「うん。そのままだよ」
「じゃあまた連絡する!」
と言って別れた。
月曜日、いつも4人で集まっている場所に行くと、ニヤつく友弥と学がいた。啓治はなんとも言えない顔をしてる。
「好きな子いるんだって?」
と学が僕に言った。友弥のおしゃべり。
「由香だろ?あの感じ見て思ったー」
「違うよ」
「えーでも、映画館でバイトしてたときも、2人なんかいい感じだったし」
「あの時は、ちょっといいなって由香は思ってくれてたみたいだけど、僕は別に…」
「だったらいいじゃん!告白しないって言ってたけど、した方がいいんじゃない?絶対上手くいくやつだし!」
「…」
「まあいいじゃん?そんなことより、今日デートじゃないの?」
と啓治が言った。
「今日は彼女Cとダーツ行くのさ。な?」
と僕に聞いてきた。
「誰が彼女Cだ。そうだ、学と啓治も行く?」
「俺、バイトだわー」
と学が言った。
「僕、空いてる」
と啓治は言う。
「じゃあ今日は3人で行こー」
と友弥が言った。
友弥がトイレに行っている間、啓治が小声で聞いてきた。
「どうするの?この先」
「どうもしないよ。ずっとこのまま友達でいるしかないよ」
「ふーん。いいのそれで?」
「いいよ。僕はどうせ、冗談の中でしか彼女Cにだってなれないんだし」
「その彼女Cって何?」
「友弥が、僕が女なら彼女Cにしたのにって言ってた」
「そうか。でも辛くない?」
「仕方ないよ」
しばらくしたある日、由香からメッセージが届いた。
「今日飲みに行かない?」
「いいよ。明日休みだし、課題終わったし」
そのやりとりを友弥が覗き込んでいた。
「えー!デート?いいねぇ。俺も行っちゃおうかなー?」
「お前、今日バイトだろ?」
「そうだったー!えー?じゃあ店に来てよー」
「こないだも行ったもん」
「いいじゃん!由香に聞いてみて!」
「もう…」
と言いつつ、僕は由香にメッセージを送った。
とりあえず、待ち合わせはバイト先にして、軽く飲んで、飲み足りなかったら、また別の店に行こうってことになった。
帰り。
「30分くらい遅れるから中で待ってて」
と由香にメッセージを送った。
「了解!」
と返事が来た。
「ちょっとー。友弥のせいで、由香のこと待たすことになったじゃん」
「だって同じとこに向かうんだから、一緒に行ったっていいだろ?予定では間に合うはずだったんだよ。それなのに教授が、これ、帰る前によろしく!とか言うからー」
と2人で歩いて店に向かった。
店に着くと、
「じゃあ…頑張れよ!」
とウィンクして、裏口の方へ走っていった。
「何を頑張るんだ…」
僕は中に入り、由香を見つけると、
「待たせてごめん」
と言って向かいの席に座った。
「大丈夫」
「てか、ごめんね。また同じ店なんて」
「そんなことないよ!ここ美味しかったから。1回友達も連れてきたんだー。どっちかが居たらサービスしてもらおうと思ったのに、2人ともいないんだもん」
「連絡くれたら良かったのに。友弥も携帯変わってないから、前と同じだし…あ。でも友達って女の子?」
「うん。大学の友達と3人で来た。どうして?」
「いや、だったら友弥いない時でよかったかなって。あのプレイボーイに、大事な友達引っかかったら可哀想かなって。そう思っただけ」
「あーありそう!映画館のバイトの時も、私以外の子、みんな1回は付き合ったって言ってたもん」
と笑いながら言った。
そういえば、どうして由香は友弥と付き合わなかったんだろう。あのバイトメンバーの中では、1番友弥のタイプだと思ってたのに。
そんな時、友弥が酒と料理を持って来た。
「2人、いい感じじゃん」
「そうだろ?だから邪魔すんなよ?」
「しないよぉーだ」
「じゃ、早く戻んなよ」
と僕は言いながら、あっちいけというジェスチャーをした。
僕は友弥に会った時、気になっていたことを聞いてみた。
「友弥はさ。映画館でバイトしてた時、由香以外の女子には全員、手を出したんでしょ?」
ホットコーヒーを飲んでいた友弥がむせている。
「言い方よ…手を出したなんて人聞きの悪い…仲良くさせて頂いてた、ね?」
「うん。でも由香と付き合わなかったのは何で?1番友弥のタイプじゃない?」
「ん?んー。本当に好きだったから…とかだったりして」
「そうなんだ。意外と本気で好きな人にはガツガツ行けないんだ?」
「かもね」
聞かなきゃ良かった。あんなにプレイボーイな友弥が、本気な子にはそんなに慎重になるなんて知らなかったな。
軽い冗談で、彼女Cにしたいくらいだ、なんて言えちゃう僕は、やっぱり友達以上にはなれないんだろう。
それから何度か由香と飲みに行った。
付き合うとかどうとかってのは別として、友弥以外の人と話すことが出来てホッとしていた。
こうやって時間をかけていけば、きっと忘れられる。
由香は映画館でバイトをしていた時、僕のことを少し気になっていたと言ってくれた。
だけど再会してから、特に好きだとかは言われてない。
そういうことは男から言うものだと思っていて、待っているのかもしれない。それとも、もうなんとも思ってなくて、ただの友達として考えてくれているのだろうか。
そんなことを考えていたある日。あいつが僕を呼び出した。
喫茶店の4人がけの席。友弥は僕を隣に座らせる。
「何?話って?」
「ちょっと会ってほしい人がいるんだ」
「誰?」
「もうすぐ来るから待って」
と友弥が言った直後、女の人が現れた。
「何?友達連れて別れ話?」
は?誰?この人。てか別れ話?聞いてない。しかも僕と何の関係が…
「友達じゃない。好きな人ができた。こいつと付き合いたいって思ってる。だから別れて欲しい」
「は?」
「最初はただの友達だったんだけど、今はもうこいつ以外考えられなくてさ」
と友弥は隣にいた僕の方を見ながら言う。それを見ていた彼女は、立ち上がると、僕たちに水をかけて、
「気持ち悪!最低!」
と言って出ていった。
呆然としている僕の横で、
「あ。耳に水入った。最悪」
と言いながら、おしぼりで耳を拭きつつ友弥が言った。
「なにこれ?」
「ごめん。和真にまでかけることないのにな」
と言いながらおしぼりで、今度は僕の顔を軽く拭いている。
「だから何なの?」
「見た通りだよ」
「え…?ちょっとわかんない」
「おめでとう!繰り上げ当選。彼女Bがいなくなったので、彼女Cのあなたが俺の1番になりました!」
「僕が?」
「そうです!今の心境は?」
まさかこんな日が来るなんて思ってなかった。
「えっと、嬉しい…かな。僕も好きだし」
思わずそう言ってしまった。
「そうか。親友よ!俺も大好きだ!嘘に付き合ってくれてありがとな!この後ほんとは彼女Dと約束してたけど、こんなんじゃ行っても怪しいだけだし、なんかそんな気分じゃなくなったし、このまま2人でデートするか!」
嘘?何が嘘?どっから?どこまで?
「嘘ってどういうこと?」
「Bがなかなか別れてくれなくてさ。これが1番手っ取り早いと思って。新しい相手が男だとわかれば、素直に引き下がるかなーと思ったんだよ。でも、気持ち悪い。最低。はひどいよな」
そうだよ。わかってただろ?僕のこと好きになるはずないの。友達以上にはなれないって、わかってたのに。
僕、馬鹿みたいに喜んで、僕も好きだしなんて言っちゃって、どうしようもないな。
「ほんと、酷いよ」
今、泣きそうだ。
「だよな!どこいく?先に俺の家で着替えて、飯でも行く?それかホテルでも行って、服乾くまでイチャイチャしながらまったりする?なんて…」
パシ!僕はその先の言葉を遮るように、あいつの頬をビンタした。もうそれ以上は言うな。
「酷いのは友弥だよ。もう嘘はたくさんだ…」
そう言って、コーヒー代を置いて店を出た。
それから、どうやって家まで帰ったか覚えてない。
家に帰ると、部屋にこもってずっと泣き続けた。
次の日から、僕はいつもの場所に顔を出さなくなった。
いつも僕は友弥に会うために、あの場所に行っていた。たとえ友弥が来ないかもしれなくても、もし少しでも会えるならと思ったから。でも今は顔も見たくないし、声も聞きたくなかった。
あいつからの電話やメッセージも全部無視した。
バイトはあいつのシフトが入ってない時を選んで、入れてもらうように店長にお願いした。
「ちょっと今、顔合わせたくないんで」
と言うと
「何があったのさ?ケンカ?」
と言いながら調整してくれた。
不審に思った啓治は俺に、
「なんかあった?これはもうただごとじゃないよね」
と言った。
「もう疲れた…」
僕はあの日あったことを全部話した。
「そっか。大変だったね」
「うん」
「でもちょうど良かったんじゃない?諦めるつもりだったんでしょ?」
「うん。会わなくなれば忘れられると思う」
「そうだね。それでいつか気持ちが風化して、ただの友達に戻れる日が来るかもね」
と啓治は言って、背中をぽんぽんと叩いた。
僕は課題が忙しいから、しばらくはそっちに行けないと、啓治から友弥達にメッセージを送ってもらった。
1ヶ月くらい経った頃、話があると学に呼び出された。
学は大学の近くで一人暮らしをしてる。前はよく学の家で朝まで飲んだりしていた。
アパートのインターホンを鳴らすと、
「はーい」
と言って学が玄関の扉を開けた。
「どうぞ」
と言われ、
「お邪魔します」
と中に入ると、もう一つ扉がある。
その扉を開けると、中には友弥がいた。
「なんで?」
友弥を一目見ただけでわかった。
会わない間に薄れたと思っていた気持ちが、今もまだ変わりなく僕の中にあったこと。
「ごめん。騙すつもりは無かったけど、あまりにも電話もメールも出ないから、学に手伝ってもらった」
「友弥がちゃんと話したいことあるって。聞いてあげてよ。友達なんだし。俺ちょっとコンビニ行って酒買ってくるから、ゆっくりしてて」
と学が財布と携帯だけを持って、部屋を出て行った。
僕はテーブルを挟んで、友弥の向かいに座った。
「何?」
「ごめん。俺が気を悪くさせたなら、ちゃんと謝りたいと思って」
友弥は、なんで僕が距離を置いたのか、絶対わかってない。たぶんこのままだと居心地が悪いから、仲直りしたい、ただそれだけで謝ってると思ってた。
「別に。話それだけ?なら帰るよ」
「まだ!聞いて?」
「何?」
「俺、お前のこと何も考えずに、自分勝手なことばかりしてた。今までずっと傷つけてたよな?ごめんな」
今まで見たことない表情と声だった。
「…」
「あの…Bと別れた日、冗談はやめろよー!僕を面倒に巻き込むな!って笑って返してくれると思ってた。でも、俺にビンタして、泣きながら帰って行った和真を見て、ショックだったんだ。もうあのベンチのとこにも来なくなっちゃうし。それで学に相談してやっと気付いた。お前がなんであんなに苦しそうだったのか。俺がほんとはどうしたいのか…」
「もういいよ。終わったことだから」
「俺が良くない。俺は…和真が好きなんだと思う」
僕はびっくりして、友弥の目を見た。
友弥は続けて言った。
「和真も俺のこと好きなんだろ?だからあの時あんなに…」
と友弥が言い終わる前に僕は言った。
「もういいんだよ。終わったことだって言っただろ?僕が友弥を好きだったのは昔の話。この1ヶ月でちゃんと気持ちの整理したし。お前もたぶん、なんとなく流されただけだよ。それは愛とか恋とかじゃないんだって。だからこれからは普通に友達としてよろしく!」
と笑顔で言った。どんな笑顔だったかはわからない。目は笑ってなかったかも。口元もひきつってたかな。
「でも…」
「だからCのことは忘れて、あとはDでもEでも好きなようにすればいいよ!これから由香と約束あるから、ごめんだけど帰るね」
僕は学の帰りを待たずに部屋を出た。しばらく走ったあと、空を見て歩き始めた。
上を向いて歩けば、涙がこぼれないって誰か言ってたっけ?
好きだと思うって言われて本当は嬉しかった。
でももし僕たちが友達以上の関係になったとしても、友弥にずっと愛される自信がなかった。きっと今までの彼女達の時のように、飽きられたり、すれ違ったりして、サヨナラする時がくる。
本当はもう嫌いで顔も見たくないって、突き放せたら良かった。でもそれが出来ないのが僕の弱さだ。関係をゼロにするのは嫌だった。
せめて友達でいたい。友達なら今までみたいに、嘘も許せると思う。
大丈夫。明日には、また笑っておはようって言えるように頑張るから。
友弥は今日、本当の気持ちを言った気がする。
だけど、そんな友弥に僕は嘘を言った。初めて友弥についた嘘だった。
高校2年の夏休み。珍しくバイトに遅刻した。
母親は朝が早い。いつも僕が起きる時間には家を出ている。
父親は自宅で仕事をしていて、書斎に籠るとしばらく出てこない。もちろん兄弟達は昼まで寝ている。
起きたらバイトの時間の15分前だった。
どんなに自転車飛ばしても、20分はかかる。
しまった。
とりあえず、僕はあいつに電話した。
「友弥?今日ちょっと遅刻する。リーダーに言っといて。後で僕からも連絡するから」
「オッケー」
5分くらいしてリーダーからメッセージがきた。
「大丈夫ですか?竹内君から聞きました。落ち着いたらでいいので待っています」
なんのことだ?まぁいいや。
とりあえず準備を済ませて、バイトに向かった。
30分ほど遅れてバイト先に着いた。
「井上君。大丈夫なの?もっとついててあげたら良かったのに。お大事にってお伝えくださいね」
「あ、はい。大丈夫です。ご心配をおかけしました」
何が大丈夫なんだろう?と思ったけど、とりあえず話を合わせてそう言った。
「じゃあ3番スクリーンの清掃からお願い…竹内君達いるから」
と言われて3番に入ると、ゴミを集めている友弥がいた。
僕は小声で聞いた。
「友弥。リーダーになんて言ったの」
「ん?和真のお母さんが職場で転んでしまって、病院連れて行ってからくるみたいです。親父さんは今出張中で家にいないから、少し遅れるかもと連絡がありましたって。そう言った」
「それでか…お大事にとお伝えくださいって言われてびっくりした」
「でも怒られずに済んだだろ?」
「でも嘘は…いつかバレそうで怖いよ」
「じゃあ訂正してくる!井上君はただ寝坊しただけでしたーって」
「やめて。今更」
「じゃあ1つ貸しね?」
「…あぁ。うん」
友弥とはこのバイトを始めた時に知り合った。
僕より先にバイトをしていた友弥は、僕が入った時の教育係だった。
たぶん性格は真逆。友弥は社交的で明るくて、良く言えば、おおらかで要領が良いタイプ。悪く言えばいい加減で無神経。
僕は自分で言うのもなんだけど、真面目だけど人見知りタイプ。趣味は映画鑑賞と絵を描くこと。友達とカラオケとかもたまに行くけど、あんまり上手くないから、本当に限られた人としか行けない小心者。
僕らは仲良くなれたのが奇跡なくらい、真反対にいる。
自分に無いものを持ってるあいつが、少し羨ましくてずっと見ていた。たぶんそれが間違いだったのかな。
気付いたら友達以上の気持ちを持ってしまっていた。
大学に入ってもあいつは変わらなかった。
入学してからは、友弥と友弥の中学からの友達の桜井学と地方から受験してきた厚木啓治と僕の4人でつるんでいた。
「ない…やばい」
鞄をひっくり返して、友弥が何かを探していると学が聞いた。
「何がないの?」
「Bluetoothのイヤホン」
「彼女にもらったってやつ?」
「そ」
「なんでヤバいの」
と僕が聞いた。
「たぶん彼女んちに置いてきた…」
「彼女にもらったイヤホンなら、別に彼女んちにあってもいいんじゃない?」
と啓治が言った。
「正確に言えば、彼女Aにもらったやつを、彼女Bの家に忘れてきた。まあいいか」
「クズだな」
3人でハモった。
その時、友弥の電話が鳴った。
「はい。え、今日ですか?今日は田舎から祖母が出て来るので、迎えを頼まれてるんですよ。和真なら空いてると思います。聞いときましょうか?…わかりました。お疲れ様ですー」
と言って電話を切った。
「何?」
と僕が聞くと、
「今日彼女とデートなんだわー。でもバイト入ってって言われてさ。和真なら空いてるって言ってみたんだけど、どう?」
「僕も予定あるんだけど」
また僕をいいように使って…
「頼むよー。昔のバイトの貸し、チャラにするからさー」
「わかったよ。でもそんなものすでにチャラになって、なんならお釣りくるくらい、お前の嘘に付き合ってやってるけどな!」
「サンキュー!じゃあ店長に言っとくー!あ。ちなみに今日のデートは彼女Aの方ね!」
「知らん!どっちでもいいわ!」
「じゃ、そろそろ行くわ」
「お疲れー」
と啓治が手を振っている。
「なー。なんでお前らまた同じバイトなの?絶対被害被るのわかるのに」
と学が言った。
僕たちは大学生になってから、映画館のバイトをやめて、ダイニングバーでバイトを始めた。
そん時あいつは僕に言った。
「お前と一緒がいいんだよ。だからおんなじとこバイト行こうよ」
その言葉に何かを期待したのかな。
「時給いいとこあるって誘われたから…」
「それ、絶対都合よく使われるやつじゃん」
「そだね。そうかなって思ったけど、なんかついて行ってしまった。バカだね…自分でも思うよ」
「…じゃあ俺もデートだから行くわ」
と学も帰っていった。
「少しでも一緒にいたかった?だからついていった?」
と学が去ったあと、啓治が言った。
「あーそうかもしれない。気付いてた?」
「うん。なんとなく」
「あいつらには言わないで」
「うん」
「ありがとね」
ある日、友弥に映画に誘われた。
「今週の金曜日の夜、映画行こう?」
「うん。ちょうど見たかったやつだ!」
「そりゃ良かった」
嬉しかった。
当日、待ち合わせ場所に行くと、友弥が電話で揉めている。
「だから、友達と映画行くって言ったろ?…本当に友達なんだって…いや、前から約束してたから…」
と会話の途中で僕に気付いた。
「電話代わるから待って」
といって僕にスマホを渡した。出てというジェスチャーをしたから、渋々電話を代わった。
「もしもし…あぁそうです。大学の…そうですね…はい、じゃあ」
と言って電話を切った。
「納得してた?」
「うん。一応」
「なんか彼女Aが他の女と行くんだろってしつこくて」
「日頃の行いが悪いから、仕方ないんじゃない?」
「なんだとー」
と言ってほっぺを軽くつねってきた。
「いたい」
と言った僕の顔を見て、
「おまえよく見ると可愛いな。女の子なら彼女Cにしたいとこだけど。残念」
嘘つけ。そんなこと微塵も思ってないくせに。
僕は何度も心の中で望んだけど、隣にいる僕はただの友達。
いつまで経ってもただの友達。もう3年以上経つのか。
そろそろ終わらせるべきかもな…
「あ、大丈夫です。間に合ってます」
「何が間に合ってるだよ。彼女いないじゃん」
「でも想ってる人はいるから」
だけど少し気付いて欲しい。そんな気もした。
「そうなんだ。付き合わないの?告白は?」
「うん。告白はしない。片想いなのわかってるから。もうそろそろ潮時かと思ってるし。気持ち整理できたら諦めるから」
「えー。もったいない」
このままだと、誰?とか聞かれそうだから、やっぱまずいと思って話を戻した。
「そーいやなんで映画に僕を誘ったの?彼女と行けばよかったのに。これ、ラブストーリーでしょ。彼女と見るにはちょうどいいんじゃないの?」
「話の内容にはあんまり興味ないから」
「じゃあなんで?」
「ここ。見てみ?」
と友弥が指差した先には、友弥の好きなアーティストの名前があった。
「映画音楽、この人がやってるって知って、映画館で聴きたいと思ってたんだ。彼女と観たら、映画のストーリーがどうとかって話になるだろ?お前ならそんな煩わしさないから」
そっか。そらそーだよな。
特別な意味なんてあるわけない。それがたとえラブストーリーだろうが、ホラーだろうが関係ない。
僕とラブストーリーを見たところで、そのあと愛について語り合うわけないんだから。
映画を見たあと、友弥は満足して帰って行った。
1人で街を歩いていると、
「あれ?和真君?」
誰かに声をかけられた。
「え?三枝さん?」
映画館でバイトしていた時一緒だった、同級生の三枝由香が立っていた。家もわりと近いから、当時は一緒に帰ることもあった。
「久しぶり!こんなとこで1人で何してるの?」
「あー、さっきまで友弥と映画見てたけど、映画見たらあいつ満足して帰ってしまった」
「デートで恋人見送らないなんてひどいね…友弥君も」
「デートって…」
「じゃあ飲みに行かない?」
「あれ、三枝さんてまだ19じゃなかった?」
「実は私、今日で20歳になりましたー!」
「え?今日が誕生日なの?」
「そうなのー。あ、ずっと思ってたけど、呼び方、由香でいいよ。今日、誕生日なんだけど、彼氏とは別れたとこだし、友達はバイトだし、家で家族とご飯ってのも、なんかつまんないと思ってたとこだったから、ちょうど良かったよ!飲みに付き合って?」
「僕でいいの?」
「いいよ!一緒にバイトしてた時、和真君のこと、ちょっと気になってたし」
マジか。
「じゃあ今、僕がバイトしてるとこ行く?ダイニングバーだから」
「え?行くー!」
店に着くと店長が話しかけてきた。
「今日はデートだったからバイト休みだったのか!金曜日の夜で忙しいのになー」
「すみません。でもデートじゃないですよ。たまたま近くで友達に会ったんです」
と話をしてお酒と軽い食事を注文した。
30分くらいした頃、店の入り口が開いて、友弥が1人で入ってきた。
僕達に気付いた友弥は、僕の隣に座って、
「何してんの?こんなとこでー。てか由香!久しぶりだねー」
と言った。
「本当!誕生日に友達2人に偶然会うとは思わなかったよー」
「え?今日誕生日?お祝いしよー」
と3人で酒を飲むことになった。
帰りは僕が送っていくってことで、店の前で友弥と解散した。
「楽しかったー!」
「それは良かった」
「また飲みに行こ!」
「そだね」
「連絡先変わってないよね?」
「うん。そのままだよ」
「じゃあまた連絡する!」
と言って別れた。
月曜日、いつも4人で集まっている場所に行くと、ニヤつく友弥と学がいた。啓治はなんとも言えない顔をしてる。
「好きな子いるんだって?」
と学が僕に言った。友弥のおしゃべり。
「由香だろ?あの感じ見て思ったー」
「違うよ」
「えーでも、映画館でバイトしてたときも、2人なんかいい感じだったし」
「あの時は、ちょっといいなって由香は思ってくれてたみたいだけど、僕は別に…」
「だったらいいじゃん!告白しないって言ってたけど、した方がいいんじゃない?絶対上手くいくやつだし!」
「…」
「まあいいじゃん?そんなことより、今日デートじゃないの?」
と啓治が言った。
「今日は彼女Cとダーツ行くのさ。な?」
と僕に聞いてきた。
「誰が彼女Cだ。そうだ、学と啓治も行く?」
「俺、バイトだわー」
と学が言った。
「僕、空いてる」
と啓治は言う。
「じゃあ今日は3人で行こー」
と友弥が言った。
友弥がトイレに行っている間、啓治が小声で聞いてきた。
「どうするの?この先」
「どうもしないよ。ずっとこのまま友達でいるしかないよ」
「ふーん。いいのそれで?」
「いいよ。僕はどうせ、冗談の中でしか彼女Cにだってなれないんだし」
「その彼女Cって何?」
「友弥が、僕が女なら彼女Cにしたのにって言ってた」
「そうか。でも辛くない?」
「仕方ないよ」
しばらくしたある日、由香からメッセージが届いた。
「今日飲みに行かない?」
「いいよ。明日休みだし、課題終わったし」
そのやりとりを友弥が覗き込んでいた。
「えー!デート?いいねぇ。俺も行っちゃおうかなー?」
「お前、今日バイトだろ?」
「そうだったー!えー?じゃあ店に来てよー」
「こないだも行ったもん」
「いいじゃん!由香に聞いてみて!」
「もう…」
と言いつつ、僕は由香にメッセージを送った。
とりあえず、待ち合わせはバイト先にして、軽く飲んで、飲み足りなかったら、また別の店に行こうってことになった。
帰り。
「30分くらい遅れるから中で待ってて」
と由香にメッセージを送った。
「了解!」
と返事が来た。
「ちょっとー。友弥のせいで、由香のこと待たすことになったじゃん」
「だって同じとこに向かうんだから、一緒に行ったっていいだろ?予定では間に合うはずだったんだよ。それなのに教授が、これ、帰る前によろしく!とか言うからー」
と2人で歩いて店に向かった。
店に着くと、
「じゃあ…頑張れよ!」
とウィンクして、裏口の方へ走っていった。
「何を頑張るんだ…」
僕は中に入り、由香を見つけると、
「待たせてごめん」
と言って向かいの席に座った。
「大丈夫」
「てか、ごめんね。また同じ店なんて」
「そんなことないよ!ここ美味しかったから。1回友達も連れてきたんだー。どっちかが居たらサービスしてもらおうと思ったのに、2人ともいないんだもん」
「連絡くれたら良かったのに。友弥も携帯変わってないから、前と同じだし…あ。でも友達って女の子?」
「うん。大学の友達と3人で来た。どうして?」
「いや、だったら友弥いない時でよかったかなって。あのプレイボーイに、大事な友達引っかかったら可哀想かなって。そう思っただけ」
「あーありそう!映画館のバイトの時も、私以外の子、みんな1回は付き合ったって言ってたもん」
と笑いながら言った。
そういえば、どうして由香は友弥と付き合わなかったんだろう。あのバイトメンバーの中では、1番友弥のタイプだと思ってたのに。
そんな時、友弥が酒と料理を持って来た。
「2人、いい感じじゃん」
「そうだろ?だから邪魔すんなよ?」
「しないよぉーだ」
「じゃ、早く戻んなよ」
と僕は言いながら、あっちいけというジェスチャーをした。
僕は友弥に会った時、気になっていたことを聞いてみた。
「友弥はさ。映画館でバイトしてた時、由香以外の女子には全員、手を出したんでしょ?」
ホットコーヒーを飲んでいた友弥がむせている。
「言い方よ…手を出したなんて人聞きの悪い…仲良くさせて頂いてた、ね?」
「うん。でも由香と付き合わなかったのは何で?1番友弥のタイプじゃない?」
「ん?んー。本当に好きだったから…とかだったりして」
「そうなんだ。意外と本気で好きな人にはガツガツ行けないんだ?」
「かもね」
聞かなきゃ良かった。あんなにプレイボーイな友弥が、本気な子にはそんなに慎重になるなんて知らなかったな。
軽い冗談で、彼女Cにしたいくらいだ、なんて言えちゃう僕は、やっぱり友達以上にはなれないんだろう。
それから何度か由香と飲みに行った。
付き合うとかどうとかってのは別として、友弥以外の人と話すことが出来てホッとしていた。
こうやって時間をかけていけば、きっと忘れられる。
由香は映画館でバイトをしていた時、僕のことを少し気になっていたと言ってくれた。
だけど再会してから、特に好きだとかは言われてない。
そういうことは男から言うものだと思っていて、待っているのかもしれない。それとも、もうなんとも思ってなくて、ただの友達として考えてくれているのだろうか。
そんなことを考えていたある日。あいつが僕を呼び出した。
喫茶店の4人がけの席。友弥は僕を隣に座らせる。
「何?話って?」
「ちょっと会ってほしい人がいるんだ」
「誰?」
「もうすぐ来るから待って」
と友弥が言った直後、女の人が現れた。
「何?友達連れて別れ話?」
は?誰?この人。てか別れ話?聞いてない。しかも僕と何の関係が…
「友達じゃない。好きな人ができた。こいつと付き合いたいって思ってる。だから別れて欲しい」
「は?」
「最初はただの友達だったんだけど、今はもうこいつ以外考えられなくてさ」
と友弥は隣にいた僕の方を見ながら言う。それを見ていた彼女は、立ち上がると、僕たちに水をかけて、
「気持ち悪!最低!」
と言って出ていった。
呆然としている僕の横で、
「あ。耳に水入った。最悪」
と言いながら、おしぼりで耳を拭きつつ友弥が言った。
「なにこれ?」
「ごめん。和真にまでかけることないのにな」
と言いながらおしぼりで、今度は僕の顔を軽く拭いている。
「だから何なの?」
「見た通りだよ」
「え…?ちょっとわかんない」
「おめでとう!繰り上げ当選。彼女Bがいなくなったので、彼女Cのあなたが俺の1番になりました!」
「僕が?」
「そうです!今の心境は?」
まさかこんな日が来るなんて思ってなかった。
「えっと、嬉しい…かな。僕も好きだし」
思わずそう言ってしまった。
「そうか。親友よ!俺も大好きだ!嘘に付き合ってくれてありがとな!この後ほんとは彼女Dと約束してたけど、こんなんじゃ行っても怪しいだけだし、なんかそんな気分じゃなくなったし、このまま2人でデートするか!」
嘘?何が嘘?どっから?どこまで?
「嘘ってどういうこと?」
「Bがなかなか別れてくれなくてさ。これが1番手っ取り早いと思って。新しい相手が男だとわかれば、素直に引き下がるかなーと思ったんだよ。でも、気持ち悪い。最低。はひどいよな」
そうだよ。わかってただろ?僕のこと好きになるはずないの。友達以上にはなれないって、わかってたのに。
僕、馬鹿みたいに喜んで、僕も好きだしなんて言っちゃって、どうしようもないな。
「ほんと、酷いよ」
今、泣きそうだ。
「だよな!どこいく?先に俺の家で着替えて、飯でも行く?それかホテルでも行って、服乾くまでイチャイチャしながらまったりする?なんて…」
パシ!僕はその先の言葉を遮るように、あいつの頬をビンタした。もうそれ以上は言うな。
「酷いのは友弥だよ。もう嘘はたくさんだ…」
そう言って、コーヒー代を置いて店を出た。
それから、どうやって家まで帰ったか覚えてない。
家に帰ると、部屋にこもってずっと泣き続けた。
次の日から、僕はいつもの場所に顔を出さなくなった。
いつも僕は友弥に会うために、あの場所に行っていた。たとえ友弥が来ないかもしれなくても、もし少しでも会えるならと思ったから。でも今は顔も見たくないし、声も聞きたくなかった。
あいつからの電話やメッセージも全部無視した。
バイトはあいつのシフトが入ってない時を選んで、入れてもらうように店長にお願いした。
「ちょっと今、顔合わせたくないんで」
と言うと
「何があったのさ?ケンカ?」
と言いながら調整してくれた。
不審に思った啓治は俺に、
「なんかあった?これはもうただごとじゃないよね」
と言った。
「もう疲れた…」
僕はあの日あったことを全部話した。
「そっか。大変だったね」
「うん」
「でもちょうど良かったんじゃない?諦めるつもりだったんでしょ?」
「うん。会わなくなれば忘れられると思う」
「そうだね。それでいつか気持ちが風化して、ただの友達に戻れる日が来るかもね」
と啓治は言って、背中をぽんぽんと叩いた。
僕は課題が忙しいから、しばらくはそっちに行けないと、啓治から友弥達にメッセージを送ってもらった。
1ヶ月くらい経った頃、話があると学に呼び出された。
学は大学の近くで一人暮らしをしてる。前はよく学の家で朝まで飲んだりしていた。
アパートのインターホンを鳴らすと、
「はーい」
と言って学が玄関の扉を開けた。
「どうぞ」
と言われ、
「お邪魔します」
と中に入ると、もう一つ扉がある。
その扉を開けると、中には友弥がいた。
「なんで?」
友弥を一目見ただけでわかった。
会わない間に薄れたと思っていた気持ちが、今もまだ変わりなく僕の中にあったこと。
「ごめん。騙すつもりは無かったけど、あまりにも電話もメールも出ないから、学に手伝ってもらった」
「友弥がちゃんと話したいことあるって。聞いてあげてよ。友達なんだし。俺ちょっとコンビニ行って酒買ってくるから、ゆっくりしてて」
と学が財布と携帯だけを持って、部屋を出て行った。
僕はテーブルを挟んで、友弥の向かいに座った。
「何?」
「ごめん。俺が気を悪くさせたなら、ちゃんと謝りたいと思って」
友弥は、なんで僕が距離を置いたのか、絶対わかってない。たぶんこのままだと居心地が悪いから、仲直りしたい、ただそれだけで謝ってると思ってた。
「別に。話それだけ?なら帰るよ」
「まだ!聞いて?」
「何?」
「俺、お前のこと何も考えずに、自分勝手なことばかりしてた。今までずっと傷つけてたよな?ごめんな」
今まで見たことない表情と声だった。
「…」
「あの…Bと別れた日、冗談はやめろよー!僕を面倒に巻き込むな!って笑って返してくれると思ってた。でも、俺にビンタして、泣きながら帰って行った和真を見て、ショックだったんだ。もうあのベンチのとこにも来なくなっちゃうし。それで学に相談してやっと気付いた。お前がなんであんなに苦しそうだったのか。俺がほんとはどうしたいのか…」
「もういいよ。終わったことだから」
「俺が良くない。俺は…和真が好きなんだと思う」
僕はびっくりして、友弥の目を見た。
友弥は続けて言った。
「和真も俺のこと好きなんだろ?だからあの時あんなに…」
と友弥が言い終わる前に僕は言った。
「もういいんだよ。終わったことだって言っただろ?僕が友弥を好きだったのは昔の話。この1ヶ月でちゃんと気持ちの整理したし。お前もたぶん、なんとなく流されただけだよ。それは愛とか恋とかじゃないんだって。だからこれからは普通に友達としてよろしく!」
と笑顔で言った。どんな笑顔だったかはわからない。目は笑ってなかったかも。口元もひきつってたかな。
「でも…」
「だからCのことは忘れて、あとはDでもEでも好きなようにすればいいよ!これから由香と約束あるから、ごめんだけど帰るね」
僕は学の帰りを待たずに部屋を出た。しばらく走ったあと、空を見て歩き始めた。
上を向いて歩けば、涙がこぼれないって誰か言ってたっけ?
好きだと思うって言われて本当は嬉しかった。
でももし僕たちが友達以上の関係になったとしても、友弥にずっと愛される自信がなかった。きっと今までの彼女達の時のように、飽きられたり、すれ違ったりして、サヨナラする時がくる。
本当はもう嫌いで顔も見たくないって、突き放せたら良かった。でもそれが出来ないのが僕の弱さだ。関係をゼロにするのは嫌だった。
せめて友達でいたい。友達なら今までみたいに、嘘も許せると思う。
大丈夫。明日には、また笑っておはようって言えるように頑張るから。
友弥は今日、本当の気持ちを言った気がする。
だけど、そんな友弥に僕は嘘を言った。初めて友弥についた嘘だった。
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