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終わり
星矢の恋
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「じゃあ俺が次話すわ」
少し暗くなった空気を変えようと、星矢は少しいつもより高い声でそう言った。
「大丈夫なの? 思い出したくないでしょ?」
と俺が言った言葉に、大丈夫と首を横に振って星矢は話し始めた。
「まぁ同期だから李音は知ってるけど、俺たちにはもう1人同期の佳奈っていう女の子がいたんだ」
ただ別れたなら吹っ切れたはずの恋かもしれない。
実らない想いほど苦しいんだと、星矢を見て思った。
「企画の方に居てね。今の俺たちみたいに3人でいつも一緒にいた」
「今その人は?」
素朴な疑問を投げかけたリオンに、切ない笑みを浮かべた星矢は
「もう居ないよ。天国に行ったんだ」
と言った。
「え…?」
固まる李音に向けて星矢は話を続けた。
「明るくて前向きで真面目な子だった。俺はそんな佳奈のことをすぐに好きになった。でも半年くらいして佳奈の様子が変わってきた」
言葉が出ないリオンと、言葉を詰まらせる星矢の代わりに俺は続きを話した。
「佳奈はストーカーにあってたんだ。同じ部署の男の先輩から。最初は食事に誘うとか、そんな程度だったらしい。でもだんだんエスカレートしていった。帰りにしつこく迫ってくる彼から逃げるため走ってる途中、佳奈はトラックに撥ねられたんだ」
今思い出してもやりきれない。星矢はもっとだろう。
「本当は亡くなる3ヶ月以上も前からストーカーにあってたのに、俺たちに何も言わなかった。俺たちに心配とか迷惑をかけたくなかったらしい。俺がもし勇気を出して佳奈に好きだと伝えていたら、俺がもし恋人という立場だったなら、佳奈は俺に相談したかもしれない。そうすれば彼女を守れたんじゃないかとずっと後悔してる」
そう話しながら星矢は静かに涙を流していた。
「それで鬱に?」
「知ってるの?その時の星矢のこと」
俺は驚いてリオンの方を見た。
「俺が話したんだよ。詳しいことは割愛して、仕事を辞めようと思ったことがあるって」
星矢はあの時、明日どうなってもおかしくないくらいの状態だった。
「あの時の俺はどうやって生きてたかな? 毎日どうやって仕事に行って、どうやって呼吸して、どうやって生きてたかな? 起きてから寝るまで、ずっとすごく弱く首を絞められているような感覚だったのは覚えてる。足はずっと誰かに引っ張られているように重くてさ」
膝の上で震えている手を必死に止めようとしている星矢の手を俺は握った。
その俺の手を握り返して、星矢が言った。
「もう無理だなって思って…みんなが帰った暗いオフィスで退職願を書こうとしてたら李音が来て、"お前が辞めるなら俺も辞める"って言ったんだ。前に話したな」
リオンは無言で頷いた。
「李音にはどれだけ感謝しても足りない。あれからずっとお前は俺のそばにいてくれたな」
「あんな姿見たら、1人には出来ないよ……」
「ずっと今みたいに手を握ってくれてたことが、たまらなく嬉しくて全部吐き出した。好きだとも言えなかったし、そばにいても何も出来なかった。佳奈の苦しみに気付いてやれなかった俺は、この先生きる意味も価値もないと思った。そしたら李音が言ってくれた。星矢は人をちゃんと幸せにしてるって。だって俺はお前がいてくれて幸せだからって」
泣いてる俺たちをリオンが優しく纏めて包み込む。
背中をさすりながら、
「俺もお前らと会えて幸せだよ」
と言った。
少し暗くなった空気を変えようと、星矢は少しいつもより高い声でそう言った。
「大丈夫なの? 思い出したくないでしょ?」
と俺が言った言葉に、大丈夫と首を横に振って星矢は話し始めた。
「まぁ同期だから李音は知ってるけど、俺たちにはもう1人同期の佳奈っていう女の子がいたんだ」
ただ別れたなら吹っ切れたはずの恋かもしれない。
実らない想いほど苦しいんだと、星矢を見て思った。
「企画の方に居てね。今の俺たちみたいに3人でいつも一緒にいた」
「今その人は?」
素朴な疑問を投げかけたリオンに、切ない笑みを浮かべた星矢は
「もう居ないよ。天国に行ったんだ」
と言った。
「え…?」
固まる李音に向けて星矢は話を続けた。
「明るくて前向きで真面目な子だった。俺はそんな佳奈のことをすぐに好きになった。でも半年くらいして佳奈の様子が変わってきた」
言葉が出ないリオンと、言葉を詰まらせる星矢の代わりに俺は続きを話した。
「佳奈はストーカーにあってたんだ。同じ部署の男の先輩から。最初は食事に誘うとか、そんな程度だったらしい。でもだんだんエスカレートしていった。帰りにしつこく迫ってくる彼から逃げるため走ってる途中、佳奈はトラックに撥ねられたんだ」
今思い出してもやりきれない。星矢はもっとだろう。
「本当は亡くなる3ヶ月以上も前からストーカーにあってたのに、俺たちに何も言わなかった。俺たちに心配とか迷惑をかけたくなかったらしい。俺がもし勇気を出して佳奈に好きだと伝えていたら、俺がもし恋人という立場だったなら、佳奈は俺に相談したかもしれない。そうすれば彼女を守れたんじゃないかとずっと後悔してる」
そう話しながら星矢は静かに涙を流していた。
「それで鬱に?」
「知ってるの?その時の星矢のこと」
俺は驚いてリオンの方を見た。
「俺が話したんだよ。詳しいことは割愛して、仕事を辞めようと思ったことがあるって」
星矢はあの時、明日どうなってもおかしくないくらいの状態だった。
「あの時の俺はどうやって生きてたかな? 毎日どうやって仕事に行って、どうやって呼吸して、どうやって生きてたかな? 起きてから寝るまで、ずっとすごく弱く首を絞められているような感覚だったのは覚えてる。足はずっと誰かに引っ張られているように重くてさ」
膝の上で震えている手を必死に止めようとしている星矢の手を俺は握った。
その俺の手を握り返して、星矢が言った。
「もう無理だなって思って…みんなが帰った暗いオフィスで退職願を書こうとしてたら李音が来て、"お前が辞めるなら俺も辞める"って言ったんだ。前に話したな」
リオンは無言で頷いた。
「李音にはどれだけ感謝しても足りない。あれからずっとお前は俺のそばにいてくれたな」
「あんな姿見たら、1人には出来ないよ……」
「ずっと今みたいに手を握ってくれてたことが、たまらなく嬉しくて全部吐き出した。好きだとも言えなかったし、そばにいても何も出来なかった。佳奈の苦しみに気付いてやれなかった俺は、この先生きる意味も価値もないと思った。そしたら李音が言ってくれた。星矢は人をちゃんと幸せにしてるって。だって俺はお前がいてくれて幸せだからって」
泣いてる俺たちをリオンが優しく纏めて包み込む。
背中をさすりながら、
「俺もお前らと会えて幸せだよ」
と言った。
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