街コン!〜十日之菊〜

SHIZU

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月に叢雲、花に風

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3か月くらいして、明石たちが警察に逮捕された。
明石たちが飲んでいたという怪しい薬。
警察が捜査中の違法な薬だったらしい。
最近若い人の間で流行っていると話していた。
とてもハイになるんだと。
幸い、俺たちには飲まされた形跡がなかった。
警察が押収したスマホの中に、あの夜の出来事を録画したデータも残っていて、薬と強姦の両方の罪で立件されれば、実刑は免れないということだった。


その連絡を聞いた時、俺は亮の家にいた。
「もう大丈夫なのか?」
「大丈夫。変な薬も盛られてなかったし…検査も陰性だった」
「検査?」
 「俺、散々弄ばれただろ?変な病気とかもらってて、亮にうつしたりしたら大変だと思って、もう一回検査受けたんだ」
「そっか…」
「なぁ…キスして」
「え…うん」
と言うと亮はそっと俺に口づけた。
「怖かった。でもお前と先輩が、また助けてくれた。本当、ありがとう…」
俺は亮の眼を見て言った。
亮は俺をベッドに寝かせて、
「ごめんな。もっと早くなんとかできれば…」
と言っておでこにキスをする。
時間はかかるかもしれない…
でもこうやってまた亮といられたら、忘れられると思った。
「なぁ、俺の全部、お前で満たしてよ。体も心も記憶も全部…」
「いいのか?俺で…」
「何言ってんの?」
「なんでもない…」
いつもより亮は激しかった。
俺の体や心の中から、あいつらを追い出そうとするみたいに…


夏が終わり、秋が過ぎ、世の中はクリスマスモード一色だった。
イブは金曜日だし、亮の家で優子先輩と森田先輩も呼んでパーティーをしようってことになった。
森田先輩には久しぶりに会うな。
当日、亮の家に着いた時、優子先輩から電話があった。
「先輩!どうしたんですか?もう亮の家に着きましたよ」
「ごめ…なさい」
「どうしたんですか?」
「話したいことがあるの。森田君のこと。2人で会える?」
先輩の様子がおかしい。
「森田先輩がどうしたんですか?すぐ行きますから、俺の家の前で待っててください!」
電話を切って説明しようと亮の顔を見ると、何かを察知したのか亮が言った。
「行って!」
「…わかった。ちょっと待ってて」

家に戻ると、扉の前に先輩が立っていた。
「ごめんなさい。ごめんなさい…」
「何がですか?とりあえず寒いんで中入りましょ?」
とりあえず先輩を中に案内し、ホットコーヒーを淹れた。
「どうぞ。何があったんですか?」
先輩は震えながら話し始めた。
「最初に蒼があの男に襲われた時、コーヒーに睡眠薬入れられたって言ってたでしょ?あれ…渡したの森田君らしいの…」
「え?」
「あの事件のことは、当時、私と亮しか知らなかった。でも拉致されて襲われた時、最初の事件のことも知ったらしくて…当時、制作活動が上手くいかなくて、眠れない日々が続いてたんだって…で、病院で強めの睡眠薬を処方してもらってたって。明石に、俺もストレス溜まって眠れないって言われて、何錠か渡したらしいの。それを蒼を含む、何人かの子に使ったって、警察で話してたって」
「…」
「本当にごめんなさい。それに蒼に気があることも、なんとなく感じてたって。まさかそんなことするとまでは思わなかったって言ってたけど…」
「それ、優子先輩が謝ることじゃないし、森田先輩だって知らずに渡したんでしょ?森田先輩にも罪はないですよ」
「最初それを打ち明けられた時、私もこの人は悪くないって思ったんだけど、やっぱり受け入れられなくて…」
「もしかして、別れたんですか?」
「……」
先輩は無言で頷いた。
「そんな…だって、それは本当に先輩たちのせいじゃないのに…」
「だって、あんなに蒼は苦しんだのに…」
「でも2回目は全く関係ないですよ?」
「でも1回目がなければ2回目もなかったかも…」
先輩はこっちが苦しくなるほど泣いていた。
「先輩……こっち向いて」
俺は先輩の眼を見つめて、キスをした。
そして驚いている先輩を抱きしめる。
「蒼。どうして?」
「いいんだ…先輩。今はこうさせて…落ち着くまで、側にいますから」
俺はどうしたかったんだろう。
この時何を思っていたのか、もう思い出せない。
安心させたかったのかな。
ただ体が勝手に動いた。
肩を抱いて隣にいるだけで、俺は幸せだった。
震えて泣いていた先輩は、そのまま眠ってしまった。
俺はメッセージを送った。
「亮、ごめん。今日は戻れない。明日の朝帰る」
「わかった」
とだけ返事がきた。


朝目覚めた先輩に
「先輩たちのせいじゃないから気にしないでください」
と伝えた。
「…うん」
「今から一緒に亮のところ行きます?」
「今日はいい…」
と言って自宅に帰って行った。
俺は亮の家に向い、インターホンを押す。
「はい」
と言って鍵を開けてくれた。
亮のスマホから、聞いたことない歌が流れている。

"…友達なんて思ってない。
あなたが去るなら、私に出来ることは1つだけ。
あの人の元に向かう後ろ姿を、ただ見つめること。
だから、お願い。振り向かないでよ。
大好きな笑顔はもう見せないで。
最後に優しさなんていらないから。
今はあなたを忘れる時間が欲しいだけ…"

「何この曲?誰の?女の子の目線だけど、歌ってるの男?」
亮は背中から俺を抱きしめた。
「どうした?1日会えなかっただけで、そんなに寂しくなったのか?昨日は戻れなくてごめんな?」
「何処にいた?」
「ずっと先輩と家に居たよ。先輩寝てしまったから、放ってはおけなくて…」
「何してた?」
「話してた。森田先輩のこと。色々あって別れちゃったんだって」
「色々って?」
「…どうしたんだよ。何かあった?」
「何かあったのは、俺じゃなくて蒼だろ?」
「どういう意味?」
「先輩と何かあったんだろ?」
「何もないよ」
俺がそう言うと同時に、亮は俺をベッドに押し倒した。
「ちょっと、亮!?」
「お前は誰にも渡さない…!」
「やっ…!」
こんな亮は初めてだった。
「な…んでっ!ぁんっ…亮…やだ…激しすぎるよ…」
「蒼は俺のだ。俺だけの…」
俺は気付いた。
この時、いや、もしかしたら今までずっと、亮が俺から追い出そうとしていたのは、明石たちじゃなくて、優子先輩なんだと。
俺の気持ちに気付いていたんだ。そう確信した。

亮は俺を狂ったように、愛し続けた。
もう何が何だかわからなくなりそうになった時、俺は無意識に呟いた。
「亮、ごめん…な」
俺がそう言った途端、亮が俺から離れる。
「蒼、ごめん。俺、どうかしてた。本当にごめん…」
「…俺こそ…ごめん。昨日帰って来れなくて。いいよ。お前の気が済むまで抱いてくれて…」
「違うんだ。蒼は悪くない…」
「ううん。お前を不安にさせた。そうだろ?」
「違う…違うんだ…」
亮は泣きながらそう言った。
「大丈夫。今日はずっと側にいるよ」
「蒼…お前のせいじゃない。俺が悪いんだ。俺たち……別れよう…」
「は?そんなイブに一緒に居られなかったくらいで…」
「違う。そうじゃない。俺、お前と居ると、自分が自分じゃなくなる…」
「どういうこと?」
「蒼が明石たちに拉致された時、俺、お前の眼を見て……」
「うん。そうだね。でも仕方ないよ。条件反射だろ」
「だけど自信がないんだ。お前の眼を見たからだって、俺もそう思ったけど、でももしかしたら、犯されてるお前を見て、興奮したのかもって思ったら、罪悪感が押し寄せてきて…」
「だとしてもお前を嫌いになったりしないよ?これからもそばに…」
「それだけじゃない。あの日、お前は俺を守るために、明石たちの要求を受け入れた。俺が守りたかったのに、何も出来なかった。それどころか、1番最低な形でお前に守ってもらった。それが何より辛かった…こんなんじゃ、お前のそばにいる意味なんてない…」
亮の涙は、まだまだ止まりそうにない。
「……」
「あの日、逃げる前に明石が言ったんだ。蒼はノンケだぞ。同情で始まった、体だけの付き合いなんて、いつまでもつかなー?せいぜい捨てられないように頑張れよって」
「同情なんかじゃないよ。俺はお前のこと大切に思ってるよ」
「恩返しとか、大切とか、俺が欲しいのはそんな言葉じゃない。ただ一言、愛してると言って欲しかった。俺が何回も好きだとか愛してるって言っても、お前から同じ言葉、聞いたことないよ…」
「言わなくても、伝わってるって思ってたから…」
「きっとそうじゃない。お前は言わなかったんじゃないよ。言えなかったんだ。蒼の1番は俺じゃないから」
「……」
何も言えなかった。
「それは最初から気付いてた。だけどずっとそばにいれば、いつか1番になれると思ってた。でもきっとこの先、どんなに待っても、無理なんだって思ったんだ。このまま側にいたら、俺はお前のこと、今日みたいに、心も体も壊れるまで求めてしまう…」
「…いいよ。壊れるまで求めてよ。壊してしまえば、ずっと亮のものになるよ?だから一緒に居てよ」
「俺、来年の4月からドイツに留学しようと思ってるんだ。賞獲ってから教授に勧められて、世界のアートに触れるのもいいんじゃないかって言われた」
「待って。1人で決めたの?俺は?一緒に来いって言ってくれないんだな?」
「…1人で行くよ」
「逃げるのか?」
「そうだよ。逃げるんだ」
「お前はずるいよ…」
俺は亮の眼を見てから、手を握り、顔を引き寄せて、最後にキスをした。
「本当にこれで終わりなのか?」
亮はその問いかけに、小さく頷いた。
「そうか。わかった。見送りには行くから、日程決まったら教えて…」
俺は亮に背を向けたまま、そう呟いた。
玄関を出る時、後ろで一言、
「ずるいのはお前だよ」
と震える亮の声が聞こえた。


亮は優子先輩には、俺たちが別れたこと、自分がドイツへ留学することを伝えたみたいだ。
大晦日の日。先輩が訪ねてきた。
「蒼…あの…亮から聞いた。別れたの?亮は留学もするって…」
「そうなんだ。あいつには才能もあるし、海外で勉強するのもいいんじゃないかな。そこ座ってくださいね」
俺はあったかいココアを出して言った。
「もしかして、私のせい?」
「違うよ。全部俺のせい。だから気にしないでください」
「でも…」
「じゃあ1つだけ、お願い聞いてください」
「何?」
俺は黙ったまま、先輩を引き寄せて、強く抱きしめた。
「蒼…」
先輩は俺の背中をさすってくれた。
この時、俺は全部壊せば良かったかな。
このまま眼を見て、キスをして、ベッドに雪崩れ込めば、この先もっと違う関係でいられたかな。
先輩の1番になれたのかも。
だけど、そんなこと、出来るわけない。
先輩の罪悪感を利用して、掴み取ったポジションなんて、すぐにダメになる。
「ありがとうございます!パワーチャージ出来ました!今日は大晦日ですよ!飲みましょ!」
俺はまだあなたの後輩でいるべきなんだ。


亮が旅立つ日。俺と優子先輩は、空港に見送りに行った。
「亮。体気をつけてね。日本食が恋しくなったら送るから言ってね?たまには連絡してよ?」
「お母さんみたいだな」
「やめてよ。お姉さんと言って!」
俺たちのこのやりとりを見て、亮は笑っていた。
「じゃあ、私あっちにいるから…」
と気を利かせて2人にしてくれた。

「亮、ごめんな。俺、本当にお前のこと、大切に思ってたんだ。でも一緒にいても、ずっと不安な気持ちにさせてたんだな…」
「俺もごめん。結局お前のこと守れなくて。ずっと一緒にいるっていう約束も守れなかった…」
「最後に、お願い聞いてくれないか?」
「うん。いいよ」
「ハグさせて」
と言って抱きついた。
俺たちは人目も憚らず、抱き合っていた。
亮が震えている。
また泣いてるな。
「亮。最後に聞いてもいい?」
「何?」
「亮は俺と居て、少しでも幸せだったかな?」
「………うん。この上なく…」
「この上なくか…ありがとう」
俺はそう呟くと、亮から離れた。
「じゃあ頑張れよ!」
「うん。お前もな!」
俺はあいつの背中が見えなくなるまで見つめていた。
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